(7)このご馳走なんなの!?
「でろーん、でろーん」
「小夜ちゃん何を言っているケロ?」
「今、私の目の前に置かれている料理の効果音を代弁してあげてんのよ!!!!」
そう、私の目の前に置かれている料理。
料理といっていいのだろうか。
大きな葉っぱのさらに乗せられたデロデロに所々溶けかかっている肉に、木のコップに入れられた紫色の液体。
「デガラシ、食わないのか? こんな上等な肉滅多に食えんぞ」
横ではゴブリンの親分が、それはもうおいしそうにデロデロ肉に齧り付いている。
アジトの前の広場でキャンプファイヤーをしながら、ちょっとした祭り状態になっている。
よっぽどあのドラゴンに困らされていたのだろう。
キャンプファイヤーの火で焼かれる肉からはいい匂いが漂ってはいるものの、見た目がこれである。
とてもじゃないが食べる気が起こらない。
「小夜ちゃん! 意外とこの肉いけるケロよ!」
ゲロちゃんはその肉を口にほおばり、おいしそうに食べている。
いや、私は知っているぞ。
カエルは口に入れば何でもいいんだろ……?
私のジト目をよそに、ゲロちゃんはバクバクとほおばっていく。
一体この小さな体のどこに入って行ってるんだ?
改めて目の前に肉を見る。
私はこれが何の肉か知っている。
さっき倒したブラックボーンドラゴンとやらの肉だ。
ここに戻る途中で見たのだ。
地面に激突してお亡くなりになった……アンデッドだから私が倒す前からお亡くなりにはなってるんだけど、それに群がっているモンスターたちを。
その中にゴブリンたちもいた。
「アンデッドの肉なんて食えるかー!! ゾンビよゾンビ! ゾンビの肉よ!? トンビやバンビの肉ならまだ食うけど、ゾンビよゾンビ!! ゾ・ン・ビ・だ・よ!!! 腐ってんじゃねーよよ! ゾンビだよ! 右から見ても左から見てもゾンビ肉だよ! イッツゾンビ! ザッツゾンビ! 二度見してもゾンビ! ただのドラゴンの肉なら興味本位で食べて見たい気持ちもあるかもしれないけど、アンデッドよ!? 私のお腹はデリケートなの!! ゾンビの肉はバリケード! ソンビは通さない! こんなん食えるか!!」
「小夜ちゃん、あんまり大声出してたらお腹すくケロよ。それに残したらもったいないケロ」
チッチッチと、指を振りながらむかつく顔をする両生類。
「もう腹減ってんだよ。戦う前から腹減ってんだよ。てめぇが無駄に歩かせたから腹減ってんだよ。じゃあテメェがこれ全部食えよ」
ぐいぐいとデロデロ肉を口に押し込むと、じたばたして苦しそうな顔をしている。
いい気味だ。
「アジトに来る前にウサギみたいなイノシシの肉食べてたケロ! 小夜ちゃんは大食いだケロ! そのうち貧乳デブになるケr……!」
ズガン!
わたわたと騒いでいた両生類が沈黙する。
振り下ろした裏拳がゲロちゃんの頭頂部に直撃した。
「余計な事言ったら殴るわよ?」
「も、もう殴ってるケロ……」
それはそうとお腹はすいた。
さっき肉を食べたと言ってもアレだけ動いたのだ。
辺りを見回しても、この肉以外のものを食べているゴブリンはいない。
やっぱ私はこの世界ではやってけないかも……。
「何だ人間もどき。この肉は口に合わないのか? なら別のものを用意させよう」
おやびん!
さすがおやびん!
気が利くじゃない!
ってか、人間もどきって何よ!
私は人間!
まごうことなき人間よ!!
でも、でもでもでもでも!
「え、別のものがあるんだったら是非!! お腹はすいてるのよ!」
私のその言葉を聞くと親分はわけの分からない言語で他のゴブリンに命令を出す。
すると、湯気の立つ肉ではないものが運ばれてきた。
やった、これで腹を満たせる!
…………。
そこに置かれたのは焼かれたキノコ。
いかにも食べるなって語りかけてきそうなまだら模様のキノコ。
私はこれを知っている。
「これゲバゲーバ! ゲバゲーーーバだろ!! 人間触ったら太る奴だろ!!! え?コラ! 私を太らせて食べようっての!? この小鬼どもが!!!」
「なんだ、これも駄目なのか。このキノコうまいんだがな」
そう言うと、再び親分が他のゴブリンに命令を出した。
今度は何が運ばれてくるの?
もう、喉もからからよ。
運ばれてきたのは50センチはあろうバナナの房であった。
無言で一つもぎ取り皮をむいてみる。
バナナだ。
でかいけどバナナだ。
「それは、森に住むブタ猿をおびき寄せて捕まえる時に使う果実だ。俺達は食わない代物だが、それなら食えるか? これが駄目だったら今は他に何もない。ちなみに置いてある飲み物は森ブドウの絞り汁だ。うまいぞ」
一口分身を折って口に放り込んで見る。
そして租借する。
バナナだ。
「うん……」
ブタ猿の餌というのが引っかかるが、空いた腹に染み渡る。
これほどうまいバナナは初めてだった。