(5)光り輝くマッスルボディー、なんなの!?
「ぎゃああああああああああああ!!」
走る。とにかく走る。
どこまでも続く広大な森の中をひた走る。
私の背後から追いかけてくるのは巨大なキモイドラゴン。
黒炎を撒き散らしながら私を攻撃してくる。
変身は出来たのだが、私の経験不足や敵の耐性もあってか、こちらの攻撃がなかなか有効打にならない。
「なんで魔法少女なのに私は空飛べないのよ!!??」
「魔法少女は様々な試練や苦境を乗り越えてパワーアップしていくものケロ。最初から全能力開放していたら面白くないケロよ」
横でドヤ顔しながら一緒に逃げるゲロちゃんが自慢げに語る。
むかつく顔しやがって、後で延髄蹴りいれてやるううう!!
「これ試練でしょ!!! 苦境でしょ!!!! これがそうじゃないならなんなの!?」
「一度やられて色々なイベントをこなしてからパワーアップするケロよ。そう、パワーアップには愛と勇気と希望が必要ケロよ! 僕はプゥリンテンでそう教えてもらったケロ」
ドラゴンが上空へ戻っていく。
夜空に輝く星々が陰になりドラゴンの移動経路は分かるものの、暗すぎて見えづらい。
しかし、私が追いかけられているという事は、私は魔物としてドラゴンに認識されているという事なの!?
「ぜぇぜぇ……そんなどこぞのマジカルなプリンセスみたいなのはどうでもいいのよ……イベントとかそんなのどうでもいいからさっさと使えるようにしなさいよ!!死んじゃったら元も子もないでしょ!!」
「仕方ないケロねぇ。小夜ちゃんはせっかちなんだ・か・らっ、ケロッ♪」
そう言ってウインクをするクソガエル。
ドラゴンの前にこいつを血祭りに上げたいが、そう言うわけにも行かない。
ベチン!
「ゲコォ!」
先が蝿叩き状に変形したステッキを思いっきり振り下ろすとゲロちゃんが地面にめり込んだ。
あ、ついつい手が出てしまった。
「こ、こんな魔法知らないケロ……」
「さっさとしなさい!!!」
地面から抜け出しよろよろと浮き上がるゲロちゃん。
見た目の割りに頑丈な奴だ。
「そ、そのブレスレットのハートの右側にある星ボタンを押すケロ……それで飛べるようになるケロ……」
「そんな簡単なのだったらさっさと教えなさいよ!!」
ブレスレットには星の模様がいくつかついている。
ブレスレットの右!
これね!
ボタンをポチッと押す。
「あ! それは!! 僕から見て右ケロよ!」
え?
何言ってんのこいつ。
普通自分から見て右っしょ。
という事は私は逆の星ボタンを押したわけ?
何が起こるの?
何のボタンなの?
すると、全身の筋肉がピクピクと躍動している感じがしてきた。
盛り上がる筋肉、伸びる身長。
「それは筋肉少女小夜ちゃんになるボタンケロ!」
なんじゃそりゃああああーーーーーー!!!
考えるまもなく自身がみるみるとマッスルボディーになっていく。
若干サイズは大きくなっているものの、ピチピチになる魔法少女衣装。
ステッキは光と共にその形を変形させ、メリケンサックとなり私の拳におさまる。
「魔法では太刀打ちできない敵が現れてどうする事も出来なくなる苦境が訪れた時に開放するパワーアップだケロ!」
「そう言う時は新しい仲間が出てきて協力してとかでしょうが!!!なんでマッスルボディーなのよ!」
ズギュウウウウウウン!
いつもと同じ感じで突っ込んだつもりが、言葉もなく風を切り空の彼方へ吹っ飛んでいくゲロちゃん。
すごいパワーだわ!!!
いける、いける気がするわ!!!
足に力を込める。
大地を蹴り、大空へ……!
それは私の想像を超える跳躍力であった。
空を旋回するドラゴンの目の前まで到達する。
その姿を見たドラゴンは明らかに動揺しているようだ。
先ほどまでとは違う妙な唸り声を上げている。
「グルルルウル……」
ドラゴンが腕を振りかざし爪を振るう。
しかし、空を蹴りすかさずかわす私!
かっこいい!
「甘いわね……学校の近くにある喫茶店のワラビモチシラタマミルクティーより甘いわ。この私にたてついた事を後悔させてあげる……! 今の私は――貴様より……強い!!」
カッと眼を見開きポーズを決める。
魔法少女とはかけ離れてきている気もするけど気にしない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
謎の効果音と共にドラゴンの背中に着地すると拳に力を込める。
光り輝く魔法のメリケンサック。
魔力が拳に集まってくるのが分かるわ!
いける、この拳ならこのドラゴンの硬そうな鱗も粉砕できそうな気がする!
「いくわよ……滅殺、金剛 爆・裂・拳!!!」
思いつきの適当な必殺技名を叫びながら足元にあるドラゴンの背中に一撃を叩き込む。
ミシミシと音を立てひび割れていくドラゴンの鱗。
拳から流れる魔力が光となりドラゴンを包み込んでいく。
「グギャアアアアアアアアア!」
叫び声をあげるドラゴン。
効いている。
間違いなく効いている。
もう一発打ち込めば!
「でエエエえええええりゃああああああ!!」
ひび割れた同じ箇所に再び拳を振り下ろす。
音を立てて砕けるドラゴンの鱗。
「ギャアアアアアアアア!!」
断末魔の叫び声を上げ、ドラゴンは力なく地上へと向かって落ち始めた。
勝ち。
私の勝ちだわ。
何この達成感。
今までの雑魚モンスターと違って達成感があるわ。
後は地面に激突する前にドラゴンから離れなければ……!
ぼんっ
え?
妙な音と共に自身の体から煙が出たかと思うと、視点が少し下に落ちた。
自分の手足を見る。
「いやああああああああああ!!! 変身解けてるうううううううう!! どうすんのこれええええ!!」
いやいやいや、ちょっと待て、こういうお馬鹿なギャグ作品だと落ちても人型の穴あけて地面にめり込むだけで済むっしょ!
いや、地面にめり込むのはゲロちゃんの役目だから!
それに痛いのは嫌だわ!
そしてふわっとする感覚。
どこも掴んでいなかったせいか、私の体がドラゴンから離れていく。
重いドラゴンの体の方が速く落ちてしまっているせいだ。
そして夜風に流され、軽い私だけ別の方角へ……。
私の一生はこんな見知らぬ土地で終わるのか……。