(3)このアジトなんなの!?
「じめじめじめじめじめ」
「小夜ちゃん、何をブツブツ言っているケロ?」
「ブツブツじゃないジメジメっつってんの!!!!」
今私はゴブムラの親分がいるアジトに来ている。
ゴブムラはすごく快適で素晴らしい空間だと言っていた。
だが到着して蓋を開ければ何だこれ!
いや、ゴブリンだしあんまり期待はしてなかったんですけど。
モンスターの住家なんて期待してなかったんですけどぉ!
「なんなのよこれただの洞窟じゃない! どこが快適で素晴らしいのよ!!!」
そう、アジトはただの洞窟。
暗いし蒸し暑いしだるいし握りこぶし!
怒りがふつふつわいてくる。
すごいジメジメとしていて、所々にコケやキノコが生えている。
菌類の巣窟。
こいつ等の主食だろうか。
こんな場所にいて大丈夫なのだろうか。
「もうやだー。帰りたーい」
そう言って地面にへたり込む。
「小夜ちゃん、そう言っても帰る方法が分からないケロよ! 何とかゴブリン達から情報を引き出して帰る手段を探すケロ! 僕だってこんなジメジメした所嫌だケロ!」
両生類のクセに湿気が嫌なのかよ。
こいつなんなんだ。
こいつさえいなければ私はヲタク姿にされるだけで済んだのに!
いや、それはそれで嫌だけど。
「デガラシ、そこ、危ない。そのキノコ、ゲバゲバキノコ。人間触る、太る。一気に太る」
「出涸らしじゃないっつってんでしょー!! 何度言ったら覚えんのよ! 五十嵐よ! い・が・ら・し! まだピチピチの女子高生よ!! 干からびたババアみたいな呼び方すんな!!! 大体なんで苗字で呼ぶのよ! 覚えられないなら名前で呼べ名前で!! って、え?」
キノコ?
自分が手をついた場所を見る。
見ると、もう少しで手が触れそうな所に、いかにも毒キノコですって言っているようなまだら模様のキノコが生えていた。
太る!? 触ると太るですって!?
太った自分の姿が頭の中をよぎる。
頭に浮かぶのは、なぜか地味なヲタクの格好をしたデブの自分。
「ひぃ! ってかなんでヲタクの格好してんのよ!!」
思わす声を上げて手をその場からどける。
「な、何を言っているケロ? 元々おかしいけど、とうとう気が触れて……」
ベチーン!
地面に投げつけた両生類がゲバゲバキノコに直撃する。
太らない。
両生類は大丈夫なようだ。
いや、ちょっと待て。
キノコはいいとして今のゴブムラの言葉!
『人間触る』ですって!?
ってことは、やっぱりこの世界にも人間がいるのね!?
3話にして未だに一人も普通の人間と出会えてないから、もう希望がないものだと思っていたわ!
そう、今の所この物語に登場している普通の人間は私だけ!
おしとやかで可愛くて助けたくなるような美少女は私だけなの!
それを聞いたら少し元気が出てきたわ!
何とかしてイケメ……人間に出会うのよ!
ガッツポーズをとりながらも、周りにいるゴブリンと両生類を見ると元気が少し剥ぎ取られる。
「い、行くわよ。ゴブムラ、親分のいる所まで後どれくらいなの?」
「もうすぐ。そこの角曲がる、川渡る、すぐアルネ」
今なんか語尾変だったぞ。
まぁいいわ。
聞いた感じはすぐに辿り着きそうね。
気を取り直して行くっきゃない!
◆◆◆◆◆◆
結構歩かされた。
角を曲がってから水路までが長かった。
「しんど……」
「小夜ちゃん、頑張るケロ!」
ゲロちゃんは飛んでるから楽そうでいいわよね……。
しかし、洞窟の川が見えると見える雰囲気が少し変わってきた。
川を挟んで向こう側の壁の色が違う。
所々青くほんのり光っていて幻想的な雰囲気を醸し出している。
よくファンタジーな話で見る、光るコケか何かだろうか。
「この先、ボスいる」
川には木で出来た簡素な橋が掛けられている。
頑丈そうではあるが、所々コケが生えており、渡るには滑らないように気をつけたほうがよさそうだ。
決してフラグではない。
私は滑らない。
絶対にだ!!!!
…………。
「ぎゃあああああああがぼごぼがぼぐえ」
そして今、私は川に流されている。
思ったより流れが速い。
なぜ、たかがゴブリンの親分に会う為にこんな目に合わなきゃいけないわけ!?
こんな暗い洞窟にある川に流されるなんて怖くてたまらないわ!
一体どこに流されてしまうの!?
…………。
そしてしばらく流されて、私は今、ゴブムラとゲロちゃんによって陸に引き上げられている。
水をたらふく飲んでしまった。
お腹がたぷたぷだ。
生きているのも奇跡じゃないだろうか。
これも魔法少女の力なのか?
「この川、洞窟の中ぐるぐるしてる。流される、元の場所戻れる。川底の穴入る、そこ地獄の入り口」
ああ、流れるプールみたいな……。
って、さらっとこいつ怖い事を言ったわね今……。
「小夜ちゃんよかったケロ! 流された時は確実に死んだと思ったケロ! 助けに行こうかと思ったけど、死んだと思ったから行かなかったケロ!」
ビチャーン!!
むんずと憎たらしい顔を鷲掴みにし、川へとダイブさせる。
投げたゲロちゃんが川を流れて行った。
「ゲゲゲロブグボゲロゲロー!」
カエルのクセに泳げないのかよ……。
とりあえず戻ってくるまで待つしかなかった。
全く無駄な時間を過ごさせてくれたものだわ。