電信柱のある風景
第一章 神様のいないお正月
買い物袋をぶらぶらさせて坂を下りてきたこうじの目に、電信柱をのぼっていくコート姿のおじさんが目に入った。
「今日は夕焼け日和か……」
こうじがそう心の中でつぶやいたのも、このサラリーマン風のおじさんが電信柱にやって来る日は、決まって見事な夕焼け空になるからだ。
こうじはこっそりこのおじさんを『夕焼けおじさん』と、呼んでいる。
まるで電柱に負ぶさった赤子のような、そんな後ろ姿を見上げながら下宿のある路地へと曲がろうとしたその時、こうじの身体に誰かがドンッとぶつかった。
尻餅をついて転んだのは、ほっぺが真っ赤な女の子だった。
その女の子は、アルバイトの時間に遅れないようにと、坂をにらみながら必死に駆けてきたので、坂の途中のこうじにはまったく気づかなかったのだ。
彼女の名前は、山形りんご。
りんごは、この春、都内の専門学校に合格し、上京してきた。
そして、学校が終わるといつも、坂の上のスーパーでアルバイトをしている。
昨日、店長さんに、十ヶ月の無遅刻無欠勤をほめて頂いたばかりだった。
だから余計に慌てていたのだ。
「ごめんなさい」と、ぺこぺこ何度も頭を下げて、彼女は立ち上がった。
「そっちこそ、大丈夫?」
「はい、ぜんぜん……」と、そう言いかけて、彼女は首を傾げた。
何だか風景がへんてこりんだ。
どうやら、コンタクトレンズを片方落としてしまったようだ。
一ヶ月のアルバイト代をコツコツためて、買ったばかりの大事な大事なコンタクト。
アスファルトにしゃがみこみ、必死に探し始めたりんごの様子に、こうじもようやく気がついた。
「コンタクト?」
りんごは、もう、半分泣きべそを浮かべて頷いた。
「だいじょうぶ、安心しな。ぜったい見つけてあげるから」
その時りんごは、こうじの足元にキラリとひかるものをみつけた。
しかし彼女が手を伸ばしたその時に、無常にもこうじの草履がそれを踏んづけてしまった。
何も気づかぬこうじは、はりきって探し始めている。
そして草履の跡には、粉々になったコンタクト……。
りんごは、泣き出しそうになりながらも、それをこっそり拾い集めてポッケに入れた。
「ぜったいに出てくるから、安心しな」
こうじに励まされ、りんごは、見つかるはずのないコンタクトを探し続けていた。
頭の中では、「どうしよう、困った、どうしよう」と、困ったねずみが駆け回っているようだった。
やがて夕日が辺りを紅く染め始めた。
アルバイトの時間もとっくに過ぎている。
でも、こうじはまったくあきらめる様子もなく、「どこだ、どこだ」と、元気に地面をはいずり回っている。
しかし、そんなこうじの様子を見ていると、りんごは何だか不思議な気持ちになってきた。
胸がツーンと痛くなって、すっぱいものがこみ上げて……、それは初めて経験する感動だった。
そして何故だか涙があふれてきた。
その時、涙と一緒に、もう片方のコンタクトがポトリと彼女の手の上に落ちてきた。
りんごはにっこり微笑むと、それをこうじの足元にそっと転がした。
しばらくして、こうじが歓声を上げた。
「出てきた、出てきた。」
彼女は黙って、その声のほうに顔を向けた。
「何だ、泣いちゃってたの。言っただろ、大丈夫だって。」
ニコニコと微笑んだ、りんごのほっぺは、夕日を浴びて真っ赤に燃えていた。
ナヲミが、撮影の仕事を終え、テレビ局を出た時には、もうすっかり夜になっていた。でも、今夜だけは、まっすぐ家に帰る気にならない。
というのも、今日、初めての写真集の出版が決まったのだ。
それは、彼女がモデルを始めた時からの夢だった。
ただひとつだけ、不安なことがある。
相手のカメラマンさんの要望で、鼻を少し整形しなければいけないという話なのだ。
事務所の社長は、「この世界の常識、常識」と、笑っていたけれど、ナヲミは嫌だった。
だって、彼女は自分の顔が大好きだから……。
写真集が決まったことを、真っ先にひろしに知らせたかった。
でも、整形の話が言いづらく、それで、自然と足は二人の共通の友達である、こうじの家に向かっていた。
だんだん坂のはずれにある彼のアパートの窓灯りが見えた。
「よかった、留守じゃないみたい」
二階の突き当たりの、彼の部屋の前まで行くと、夕餉の匂いが漂っていた。
「いいにおい。こうじ、カップめん以外にも作れたんだ……」
ノックをすると、こうじが驚いたような顔を出した。
「珍しいな、ナオミが来てくれるなんて。それにしても、また今日は一段と綺麗だな」
こうじは思ったことを何でもそのまま口にする。
だから、決してお世辞じゃないだろうその言葉には、ナヲミも素直に喜べる。
「オレンジのワンピースか、素敵だね。まあ、とにかく入りなよ」
「それよりも、先に彼女を紹介してよ」
ナヲミは、いたずらっぽく微笑みながら、そう言った。
というのも、こうじの陰に隠れるように、ほっぺの真っ赤な女の子が立っていたからだ。
「恋人できたんだ。やったじゃん」
「ちがうよ、バカだな。そんなわけないだろ」
「照れない、照れない」
「ホントだよ。勝手に飯つくりに来ているだけさ。それに恋人ならもっとましなのを選ぶよ」
照れ隠しのつもりだろうが、あまりの口の悪さに、ナヲミはこうじと取り合うことをやめ、直接りんごに話しかけた。
「わたし、神原ナヲミ。あなたは?」
真っ赤になってうつむいていたりんごだったが、蚊のなくような声でボソッと自分の名を言った。
「夕飯まだだろ。食べていきなよ」
こうじにそう言われた時、ナオミはやって来た要件を思い出した。
「あっ、いや、いいの。ちょっと報告に来ただけだから」
「なに?」
「あのね、今度私の写真集が出ることになったんだ」
こうじの顔は、見る見るうちに、盤面の笑みに変わった。
「うわー、すごいじゃん。おめでとう。やっ
たじゃん。それで、ひろしにはもう言ったの?
あいつ、喜んだだろうなー」
ナヲミは少し言い出しにくそうにしていたが、思い切って口を開いた。
「ひろしにはまだ言ってないんだ。というの
もね、写真集出すのに条件があるの。
うん、整形することになるんだ。ちょっとだけなんだけどね。」
ナヲミは早口で続けた。
「そのこと、何だかひろしには言いにくくっ
て……。それで、こうじから伝えてくれると
ありがたいんだけど……」
「それはいいけど。でも、どうして整形なんかしなきゃいけないの?」
「カメラマンにも好みがあるみたい。この世界の常識よ。じゃあ、お願いね。」
ナヲミはそれだけ伝えると、逃げ出すように背中を向けた。
「て、ことなんだ」
ピーナッツを頬張りながら、こうじは話を続けた。
「おれは、何だかあんまり賛成しないな。だ
って、そもそも整形しなきゃいけないところ
なんて、どこにもないしさ。まあ、あの世界
じゃ常識なんだけど」
ひろしは、ただニコニコしながらこうじの話を聞いていた。
彼にとっては整形手術の話など、どうでもよかった。
ナヲミの夢がかなった、ただそのことが嬉しかった。
そんなひろしの様子に、こうじもようやく安心したようだ。
「でも、ひろしはいいよな。あんなに綺麗な
彼女がいるんだもん。
それに比べて俺のなんかさ……。
なあ、この前、会ってみてどう思った?率直
に言ってくれよ」
「りんごちゃんだろ?すごくいい子だと思うよ」
「性格より顔だよ。あーあ、あのほっぺが田舎くさいんだよな……」
ひろしは微笑みながら、黙って聞いていた。
言葉とは裏腹に、すっかりこうじが、彼女を愛していることがよく解る。
「まあいいか。それより、飯、食ってくだろ?」
「いいのか?」
ひろしの問いには答えないで、こうじは身体を乗り出してきた。
「土曜日は、いつもつくってもらってんだ。
彼女、料理の腕だけはたいしたもんなんだよ
な。なあ、そう思うだろ?」
ひろしは、笑って頷いた。
指定された病院への道を、ナオミはトボトボと歩いていた。
そして、ショーウィンドーの前を通るたび、ナヲミは自分の顔を映してみた。
手術日の当日になっても、まだ心が決まらないでいた。
「夢のため、夢のため」と、あれだけ何度も言い聞かせたのに……。
腕時計を見ると、病院との約束の時間までには、まだ一時間もあった。
「そうだ、もう一度、自分の顔で、ひろしに会っておこう」
彼女は大慌てで来た道を引き返していった。
ノックを何度してみても返事がない。
でも、中からは、小さく音楽が聞こえてくる。
ナヲミは持っている合鍵で、そっとドアを開けてみた。
「なんだ、やっぱり、いたんだ」
ひろしは、一心不乱に版画板に向かっていた。
「あっ、ごめん、ぜんぜん気づかなかった」
「版画をしている時はいつもそうだよね」
そう言いながら、広げた新聞紙の上の版画板に彼女が目をやると、そこには、徳利とお銚子を手にした、たくさんの神様が描かれていた。
ナヲミは、ひろしの版画が大好きだ。
そして、出来上がった作品について、彼が話してくれる物語を聞くことも、何よりの楽しみだった。
照れくさそうに頭を掻いていたひろしだったが、いつものようにつぶやくように話し始めた。
「神様のいないお正月って題なんだけど……。
お正月になると、みんな初詣に行って、神様に色んなお願いをするだろ。受験生だったら合格祈願とかさ。でも、毎年毎年、神様もたいへんなんだよね。
それで、神さまみんなが集まって、今年はひとつボイコットしちゃおうかってことになったんだ」
「へえー、それで酒盛りを始めちゃったんだ。あっ、この神さま、見たことがあるよ」
「学業の神さまの菅原道真さん。そう天神さまだね。
天神さまと、この隣の文殊さまとは、さっきからずっと二人でぼやいてるんだ。
『みんな絵馬に志望校を書けば合格すると思ってるんだから始末におけない。
手を貸さなきゃ失敗するし、そうなったら今度は親が出てきて、あそこはご利益ないですよなんて、あっという間に広めよる』
『定数枠があるんだから、みんなを合格させることなど出来るわけがないんじゃ。
毎年この時期が来ると、ノイローゼになりそうじゃわい』
ってネ」
ナヲミは、子供のように目を輝かせて
聞いている。
「他には、どんな話をしているの?」
「そうだな……、これは何処の世界も同じな
んだけど、『昔はよかったなー』って話が一番
多いかな」
そこで、ひろしはまた神様の声真似をして
話し始めた。
「『今は正月か、何か願い事が出来た時しかや
って来ない。それも、こうしてくれ、ああし
てくればっかりじゃ。その点、昔の人間はよ
かった。毎日、来てくれたもんじゃよ。
それも、お願いなんかひとつもなくって、た
だその日の報告と感謝を伝えてくれたもんじ
ゃった。
いつから、人間はこんなに図々しくなったんだろうなー』ってね」
ナヲミのおかしそうに笑う顔を見て、ひろしもホッとした表情を浮かべた。
「こうじから聞いたよ、おめでとう。確か、今日が手術日だったよね」
ナヲミは鼻を少しつまんでつぶやいた。
「ここの形を少し変えるだけなの」
「そうなんだ。でも、鼻が一センチ低くなっても、高くなっても、ナヲミちゃんはナヲミちゃんだもんね」
ナヲミはその言葉で、いっぺんに安心したようだ。
「じゃあ、時間ないから、行くね。ありがとう」
「頑張って」
出て行く彼女を、ひろしは優しい目で見送った。
ひろしは、版画板に込めた昨夜からの願いが、神様に届いたような気持ちになっていた。
第二章 オレンジのワンピース
「ねえ、顔の皮をはぎとるっていう整形外科医の噂、知ってる?」
「ああ、聞いた、聞いた。この近くの病院な
んでしょ?おっかないわよねー」
大きなデパートの一階の洋服品売り場で、さっきから店の女の子たちが、おしゃべりに夢中になっている。
と、その時、彼女たちは、真っ赤なほっぺの女の子が、おどおどとした目で、店の中を覗きこんでいるのに気がついた。
「あっ、いらっしゃい。どうぞ」
店員に呼びかけられ、りんごはおずおずと中に入ってきた。
こんな立派な洋服売り場に来るなんて、りんごは初めての経験だ。
「何をお探しですか?」
真っ赤のほっぺをいつも以上に赤くして、彼女が指差したその先には、オレンジのワンピースが掛けられてあった。
「あっ、こちらですね。さあ、どうぞ、試着
なさって下さい」
りんごは試着室の中に入ってからも、まだドキドキしていた。
まさか自分が着てみることになるなんて、思いもしなかった。
このワンピースは、いつかナヲミが着ていたものとそっくりだったので、店の前を通りがかった時に偶然目に入ったのだ。そしてふと、あの日こうじが言った「オレンジのワンピース、素敵だな」って言葉を思い出しただけだった。
外では、店の女たちがまたおしゃべりをはじめていた。
「ねえ、今の子見た。いかにも田舎者って感じ。今時、あんな子もめずらしいわね」
「それに何、オレンジのワンピース、似合うと思ってんのかしら。あっ、出てきたわよ。ふき出しちゃダメよ」
りんごのもとに駆け寄ると、店員はワザとらしく目を丸くした。
「あーら、素敵。とってもお似合いだわ」
りんごは、驚いて店員の顔を見た。と言うのも、自分では泣き出したくなるくらいに似合ってないと思っていたからだ。
「ほんと、花が咲いたみたい」
もうひとりの店員も、作り笑いを浮かべながら近寄って来た。
りんごは、もう一度、鏡の中の自分に目をやった。
どう見たって滑稽にしか思えないけれど……。
しかし、プロの店員さん二人から褒められると、何だか嬉しくなってくる。
それに、もしかしたら、りんごが思うほど悪くはないのかもしれない。
店員さんから値段を聞いて、りんごは飛び上がりそうになった。なんと、アルバイト代の三ヶ月分もする。
どうやって断ろう……。着替えながら、彼女は、そればっかりを考えていた。
あーあ、なんで試着なんてしちゃったんだろう……。
「お支払いは、カードでしょうか?現金でしょうか?」
「いえ、そのー、やっぱり……」
「あっ、ローンですね。じゃあ、こちらにサインをして下さい」
「いえ…、ちょっと…」
その時、店員の目が、キラリと光った。
「私たちが、こんなにお勧めしているんです
から。信用してくださるでしょ?」
りんごは、泣き出しそうになりながら頷いた。
家に帰ってから何度も鏡に映してみるうちに、不思議なもので、りんごもそのワンピースが、結構似合っているような気になってきた。
とんでもない散財をしちゃったけれど、そんな後悔も、こうじの驚く顔を思い浮かべると、いっぺんに消えていくようだ。
それに、土曜日の今夜は、彼の家で一緒にご飯を食べる日だ。
「よし、この格好で行っちゃおう」
そう決めると、りんごは何だかウキウキと、妙にはしゃいだ気分になってきた。
「一週間、まったく連絡がないんだ。電話をしても、いつも留守だし……」
ひろしは、心配そうに顔を曇らせている。
「きっと、写真集の撮影に入ったんだよ。あ
あいうのって、外国か何処か遠くに行ってや
るんだろ?」
こうじの言葉に、ひろしはただ力なく頷いているだけだ。
永い沈黙のあと、こうじがまた、不安そうな声で小さくつぶやいた。
「手術、うまくいかなかったのかな?」
ひろしも、実はそのことをずっと心配していたのだ。
もしそうだったら、ナヲミはきっと傷ついたに違いない。
ひろしは、それを思うと、たまらなく悲しくなってきた。
ナヲミが綺麗なのは、本当に綺麗なのはその心なんだ。
それなのに、彼女もそのことに気づかないでいる……。
「なあ、今夜も、飯、食ってくだろ?」
「いや、今日は帰るよ。ナヲミからいつ連絡が入るかわからないしな」
精一杯の明るい顔を浮かべると、ひろしは
立ち上がって行った。
ひろしと入れ違うように、ノックの音がし
た。りんごに違いない。彼女は時間には正確
だから。
ドアを開けると、そこには、色鮮やかなオ
レンジのワンピースに身を包んだりんごが、
恥ずかしそうに立っていた。
暫く、ただ呆然と眺めていたこうじだった
が、りんごの、思いつめたような表情を見て
いるうちに、さっきまでの暗い気持ちがどこかへ吹き飛んで、たまらなく愉快な気持ちになってきた。
そしていつしか大声で笑い出していた。
いつものように後片付けを終えて、彼女が
帰って行ってから、急にこうじは気になり始
めた。今夜のりんごは、何だかどこか、元気
のない様子だったから……。
何度か電話を掛けてみたけれど、いっこうにつながらない。
そのうちに、雨が降ってきた。
「あいつ、傘を持ってなかったよな……」
こうじはそのことを思い出すと、傘を手に
して飛び出していった。
「あんなに、笑わなくったっていいのに……」
怒った顔で歩いているりんごだったが、心
の中は、悲しくなるばかりだ。
そして彼女は、こうじと出会った頃のことを思い出していた。
必死にコンタクトを探す彼。スーパーでもらったお野菜を手にして、初めて家を訪れた時のこと。
「せっかくもらっても、料理はまったく出来ないんだ」と言う彼に、「じゃあ、わたしが作ります」と……。
よくもまあ、あんなことが言えたものだ。今、思い出しても顔が赤くなる。
こうじと出会って、りんごの心の中には花が咲いた。
そして毎日が夢の中にいるようだった。
人を愛する喜びを、彼女は初めて知ったのだ。
りんごはいつも心の中で誓っていた。
「決して愛されようなんて思わないでおこう。
愛させてもらえるだけで、こんなに幸せなん
だから……」
りんごは、人を好きになるってことが、と
っても自分勝手な感情だと思っていた。
相手の気持ちや都合なんて考えもしないのだから。
でも、こうじはそんな勝手な気持ちを許してくれたんだ。
それなのに、私はいつからこんなに図々しくなってしまっていたんだろう。
りんごは、今度は自分に腹を立ってきた。そして、ようやく今夜の自分の態度を反省し始めていた。
と、その時、彼女は初めて、自分の後ろを
つけてくる足音に気がついた。
ちょうど人通りの少ない、ただでさえ、ちょっとおっかない場所にいた。
りんごが足を速めると、その足音も足早になって追いかけてくる。
心臓がドキドキと、警笛の早鐘打ち出した。
街灯に照らされた『痴漢出没、注意』と書かれた看板を目にした時、りんごは思わず駆け出していた。
いきなり後ろからとびつかれ、りんごはアスファルトの上に転がった。
恐怖で頭の中は真っ白になり、叫びたくても声も出ない。
りんごは、もう無我夢中で抵抗していた。
彼女のひじがあたったのか、鼻を抑えてのけぞった男の顔が、恐怖で見開いたりんごの目に初めて映った。
男も暫くりんごの顔を眺めていた。
「なんだ、ブスじゃねえか」
そうはき捨てるように言うと、男はりんごから離れた。
「ブスだったら、ブスらしい格好しろよな。畜生、ああ、痛えな」
男は地面にペッとつばを吐くと、そのまま立ち去って行った。
まだ、心臓は破裂しそうな勢いで打っている。
ワンピースは引き裂かれていた。そして、知らない間に雨が降っていた。
足がガクガクと震えて、りんごはまだ、立ち上がることすら出来ないでいた。
その時、遠くに人影が見えた。
こうじだ!!
目の悪いりんごだけれど、こうじだけは、どんなに遠くに離れていても良く見える。
りんごは、あわてて自動販売機の陰に身を隠した。
心臓のドキドキドキドキなる音が、彼に聞こえるんじゃないかと気がきでない。
でも、りんごの願いが叶ったのか、叶わなかったのか、こうじは彼女を見つ出すことなく、やって来た道を引き返して行った。
こうじが去ったあと、突然に、堰を切ったように涙があふれてきた。
拭いても拭いても、涙がとまらない。
そしてりんごは、身体中ガクガクと震わして、いつしか大声あげて泣きだしていた。
第三章 包帯の向こう側
ナヲミがこっそりと入ってきたことに、気
がついていた。
こんな遅い時間に、それに、いつもと様子が
違う。
ひろしが振り返ろうとした時、ナヲミが悲
鳴をあげた。
「ふりむかないで!!」
ひろしが頷くと、ナヲミは、ゆっくりと、ひろしのすぐ後ろまで近づいてきた。
「お願いだから、ふりむかないって約束して」
「約束する」
その言葉に安心した、彼女のため息が聞こ
えた。
「あっ、新作ね。今度はどんなお話?」
いつもの彼女にもどった様子に、ひろしも
安堵した。
「世界マリアッチ大会。今年はその会場に石
神井公園団地が選ばれてね……」
ひろしは、熱心に聞いているナヲミを背中
に感じながら、ゆっくりと話し始めた。
「観客はニーニョ、ニーニャにペロとガト、そう、子供たちと、犬と猫だけのお祭りな
んだ。
いつも優勝するのは、アミーゴ・カラベラっ
ていう骸骨のチームなんだけど、どうやった
ら勝てるだろうって、いま、一番に到着した
タコス・セニョールズのおじさんたちが作戦
会議を開いているところなんだ」
「骸骨チームってそんなに強いの?」
「強いよ。とにかく彼らほど楽しく演奏でき
るチームは他にいないからね」
「そうなんだ。それで、どんな作戦考えてる
の?」
「最初はやっぱり、楽しい気持ちで負けちゃ
いけないって考えて、最近あった楽しい話を
みんなで出し合っていたんだ。でも、出てく
る話はいつのまにか悲しいものばかりになっ
ちゃて……、誰かが死んだとか、会社が倒産
しちゃったとか……。とにかく生きてるあい
だは、悲しいことから逃げられないからね」
「じゃあ、やっぱり骸骨さんチームには勝て
ないの?」
「楽しさでは、どうやったってかなわないだ
ろうな。
しかし、ずっと作戦会議を見ていたひとりの
少年が、『楽しさで敵わないなら、悲しさで対
抗したらどうなの』って、ちょうど今、提案
したところなんだ」
ナヲミが目を輝かせていることが、ひろし
には解る。
「作品は、いつ出来上がるの?」
「あと、二、三日もすれば完成するよ」
ナヲミはそれを聞くと、黙り込んでしまっ
た。
それからの長い沈黙の間、ひろしはずっと
彼女が話し出すのを待っていた。
「お別れを言いに来たの。あっ、手術は大成
功よ。だけど……」
「ナヲミ、まだ気がつかないの?」
ひろしは、背中越しの彼女に、そっと呼び
かけた。
「ナヲミの一番綺麗なところは、その心なん
だよ。
みんなが容姿だけしか見ないから、ナヲミま
で勘違いしちゃってるんだ。
ぼくは、ナヲミの顔がまったく違っていたって、好きな気持ちはぜんぜん変わらないよ」
「そんなこと、信じられない」
「じゃあ、証明するよ」
「どうやって?」
ひろしがいきなり振り返ると、ナオミは叫
び声をあげて顔を被おうとした。
しかし、その両手をひろしはしっかりと握り
しめていた。
「さあ、顔を上げて」
必死でうつむいて、顔を背けていたナヲミ
だったが、ひろしの優しい声に誘われるよう
に、恐る恐る、ゆっくりとその顔を上げた。
そして彼女の目の前には、いつもと変わらな
い優しいひろしの目があった。
彼女はじっとその眼を覗き込んだ。
そこには最初、化け物のような自分が映っ
ていた。でも、ひろしの優しい眼の色が、
それらすべて洗い流していってくれるのが、はっきりと見えた。
ナヲミの心がようやく静まるのを待って、こうじがささやいた。
「おかえり。待ってたよ」
ナヲミの眼からぽろぽろと真珠のような涙が零れてきた。
今、初めて、ひろしの本当の愛に気がついた。
もう、悲しいことは全てなくなっていた。
りんごは、トボトボとこうじの家に向かっ
て歩いていた。
昨夜は遅くまで、電話が鳴っていた。きっと
こうじだったに違いない。
心配かけてしまった事をとにかくは謝らない
と……。
そう思ってやって来たけれど、今日は何だか
心がシュンと元気をなくして弾まない。
いつも、こうじの家に向かうときは、ただ嬉しくて、まるでスキップをしているような
足取りになるのに、どうしてだろう。
今日は、会うことさえも、辛く思えてくる。
もうこのまま、一生会えなくっても構わない。その方が辛くない。
そんな風にさえ思えてしまうのだ。
その時、突然、誰かに肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、そこには、とっても親切そうなおじさんが、微笑みながら立っていた。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
りんごは、自分でも理解出来ない、この不
思議な気持ちを、相談してみることにした。
彼女がすっかり話し終えるのを待って、お
じさんはようやく口を開いた。
「お嬢ちゃんは、初めて自意識を覚えたんだ
ね」
「自意識ですか?」
「そう、自意識という心の病気さ。気がつか
ないでいられるなら、それが一番だ。
自意識なんて、つまらない感情だからね。
でも、一度、知ってしまったら、もう、そい
つからは逃れることが出来やしない、やっか
いなやつなんだよ。
あっ、そうそう、自己紹介をするのを、すっかり忘れていたね」
おじさんはそう言うと、背広の内ポケット
から何枚かの名刺を取り出した。
「えーっと、どれを渡そうかな。色んなことをやっているからね。
ある時はカメラマンだし、ある時は心理カウンセラー、そしてまたある時は、整形外科医でもあるんだよ。
そうだな、じゃあ、これにしよう」
りんごが受け取った名刺には『闇野美容整形外科病院 院長 闇野闇夫』と書かれてあった。
「どの職業もみんな根っこ同じなんだよ。仕
事相手は、いつもその自意識さ。
お嬢ちゃんのかかった、その病気も、なんと
か解決しないといけないね」
りんごは、ただ熱心に、そのおじさんの話を聞いていた。
「でも、心配しなくてもいいよ。簡単なことさ。その自意識を、ただ満たしてやればいいだけなんだ。
さっきのお話を伺っていると、どうやら原因は恋のようだね。
ただ愛しているだけでよかった。それがいつからか芽生えた自意識のせいで、愛されるようになりたいって気持ちに変わってしまった。そうだったね?」
りんごは、小さく頷いた。
「愛される自分になりたい。愛される資格が
欲しい。
その自意識を満たすためには、どうすればい
いのかな?どういう努力が一番近道だろう?
お化粧をすること?綺麗なお洋服を着るこ
と?
フフッ、もう気がついてるね。
そう、何よりも前に、まず、それが似合うお
顔にならなきゃいけないよね。
それに、こう言っちゃあ何だけど、お嬢ちゃんのせっかくの綺麗な心に、そのお顔はあまりにも似合わないね」
りんごは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「愛される自分になりたい。愛される資格が
欲しい。その為に綺麗になりたい。綺麗にな
るのは彼の為。彼の為なら、どんな努力も惜
しまない」
おじさんの声はだんだんと大きくなって、
最後は叫び声のように変わっていった。
「たった三十分で、その夢は叶うんだよ」
「でも……」
「綺麗になるのは彼の為、彼の為なら、どん
な努力も惜しまない」
おじさんは、さっきの言葉をまた大声で繰
り返した。
りんごは、この闇野氏の話の内容が、矛盾
していることに、まったく気づくことが出来
ないでいた。
自分の為の自意識なんて捨て去るのが一番の解決方法なのに、闇野氏は彼氏の為という、まったく矛盾した対象を持ち出して、りんごがもっとも陥りやすい罠をかけたのだ。
そう、そのマスクが欲しいばかりに……。
おじさんは優しい声でささやきながらりんごの手を引いた。
「彼氏の為に、努力を惜しんじゃいけないよ。さあ」
りんごは、ナヲミのことを思い出していた。
「あんなに綺麗な人でも努力をしているんだ。そうだ、私も頑張らないと……」
病院のベットに寝かされて、麻酔が少しずつ効いてくる間に、りんごは故郷の夢を見た。心配そうに笑っているお父さん、お母さん。
「ごめんなさい」
そう呟いたりんごの目から、一筋の涙が流れ落ちていた。
「ひろしよりも、よっぽど上手いんじゃない
か。ナヲミ、版画の才能あるよ」
こうじは、感心しながらナヲミの作品を眺
めていた。
「そうあからさまに言うなよ。でも、俺もそ
う思うんだ」
ひろしは、悔しそうに顔をしかめせて見せ
た。
ナヲミは、ただクスクス笑いながら、そんな
二人の様子を眺めていたが、突然、思い出し
たように、心配事を口にした。
「昨日、顔中に包帯を巻いた女の人を見かけたんだけど、あれ、りんごちゃんじゃなかったかな……」
こうじは、豆鉄砲をくらったような顔を、ナヲミに向けた。
「勘違いだったらいいんだけど、ほら、私が
こんなことになったでしょ、だから心配にな
っちゃって……。
ねえ、もしよ、もし、りんごちゃんが、私み
たいなことになっちゃってたら、こうじ、ど
うする?」
こうじは、笑いながら答えた。
「俺は、あいつの顔にほれたんじゃないから、
その点は心配いらないよ」
ナヲミはそれを聞いてホッとした。
「今夜は彼女が料理を作ってくれる日じゃな
かったっけ?」
「今日、土曜日だっけ?」
「白々しいぞ」
ひろしにすっかり見破られ、こうじは照れくさそうに頭をかきながら立ち上がった。
「じゃあ、まあ、そういうことだから」
「また、今度、ご馳走になりに行くよ」
「彼女によろしくね」
見送る二人に、こうじは背中を向けたまま、
手を振った。
ノックの小さな音。さっきからずっとその
音を待ちかねていたこうじは、飛び出すよう
にドアを開けた。
彼の目の先には、顔中を包帯でぐるぐるまき
にしたりんごが、ポツンと立っていた。
ナヲミの口にした危惧は、現実のものとなっ
てしまったのだ。
一瞬、言葉をなくして慄然と立ち尽くして
いたこうじだったが、精一杯の平静を装って、
りんごを招き入れた。
「どうしたんだよ、その包帯。闇野って病院
だろ?」
「……」
「畜生、ひどいことしやがるな。あっ、でも、
俺は平気だからな、安心していいよ」
「……」
「ホントだって。そうだ、包帯とってみなよ」
「……」
りんごは、何も答えない。
こうじがその包帯を解き始めても、彼女は何
の抵抗もせず、ただ黙ってじっと立っている
だけだった。
そして、その包帯の向こうには、まるで理科
室の実験人形のような、いやそれよりもずっ
と生々しく、おぞましい、真っ赤にただれた
顔があった。
いや、それは顔とも呼べないかもしれない。
ただ二つの目、そして鼻のあたりにも小さな
穴がふたつ。横に裂けているのが口だろう…
…。
こうじは必死にその顔を見ていたが、思わず吐き気をもよおして、口を抑えてトイレに走った。
「悪い、もう平気だ。よし、もう大丈夫」
そう言いながら戻ってきたときには、りん
ごはもういなかった。
「しまったなー、ナヲミの顔をもう少し、し
っかり見せてもらっとけばよかったな」
こうじは、泣きそうな顔でつぶやいた。
第四章 夕焼けおじさん
電話は、こうじからだった。
「そういう訳で、傷つけちゃったみたいなん
だ。彼女が心配だから、頼むな」
「わかった、すぐに行ってみるよ。でも、そっちの件は、警察に任せておいたほうがいいんじゃないか?」
「いや、あいつの為に、罪滅ぼしのひとつもしなければ、迎えになんて行けないよ。
じゃあ、頼むな」
そう言い残して、電話は切れた。
「何か、お化け屋敷みたいだな」
塀の上によじ登り、広い屋敷を見渡しなが
ら、こうじはつぶやいた。
蔦の絡まった古い大きな建物の中で、ひとつ
だけ明かりのついた部屋があった。
その窓を目指して忍び足で歩き出した時、こ
うじは、あまりの驚きで、思わず叫び声をあ
げそうになった。
というのも、彼の足元で尻尾を振っている犬
の顔が、まぎれもなく人間のそれだったから
だ。
動悸がおさまるのを待って、こうじが窓か
らこっそり中を覗いてみると、白衣を着た男
がひとり、何かをしきりにつぶやきながら、大きなガラス容器を覗き込んでいた。
容器の中までは、男の背中が隠しているので、
見ることが出来なかった。
こうじは中の様子を探るため、聞き耳を立ててみた。
「あー、ナヲミちゃん、いっつも綺麗でちゅ
ね。ナヲミちゃんは何のお顔になりたいでち
ゅか?お馬さん?グフッ、嫌でちゅよね、お
馬さんなんてね。えっ、いいんでちゅか?お
馬さんでちゅよ?グフッ。
あれ、りんごちゃんもいたんでちゅか。いつ
見ても、かわいいほっぺでちゅねえ。
どうちたんでちゅか?えっ?お猿さんにちて
って?いいんでちゅか?お猿さんでちゅよ?
ほんとにしちゃいますからね。グフフッ。」
ぞっとするようなその笑い声に、こうじは、
耳を被いたくなった。
その時、それまで頬擦りしていたガラス容
器を、男は高々と持ち上げた。
すると初めて、その容器の中がこうじの目に
映った。なんとそこには、まぎれもない二つ
の顔、そう、ナヲミとりんごの顔が、ぷかぷ
かと浮かんでいた。
それを目にした途端、こうじの全身に、怒
りの力がみなぎってきた。
「畜生、ひどいことしやがって、もう許さね
え」
ようやくに裏口を見つけると、こうじは建
物の中へと忍び込んでいった。
そしてあの部屋の扉の鍵穴から中を覗き込んでみた。
大きな容器の中には、ナオミと、そして真っ赤なほっぺにりんごが、頼りなさげに浮かんでいる。こうじは手にしたバットを強く握り締めた。
しかし、さっきまでいた男が見当たらない。
「覗きが趣味とは困ったもんですね」
こうじの背後で、いきなり声がした。
驚いて振り返ると、そこには、あの白衣の男が立っていた。
「グフッ。秘密を知っちゃったからには、可哀想だけど、消えてもらうしかないね」
闇野の手には、拳銃が握られていた。
扉の向こう、そう、すぐそこにりんごちゃんの顔があるというのに……。
「言い残すことがあったら、一応、聞いておくよ」
こうじは結局、何も出来なかった自分が悔しくて、歯をくいしばった。
そして、その直後、耳の奥で銃声の音を聞いた。
「ああ、もう一度、ももちゃんの手料理が食べたかったな…」
遠のいてゆく意識の中で、あの夕餉の光景が瞼の向こうに浮かんで、消えた。
よしお、ナヲミ、りんごの三人は、その頃、病院の入り口までたどり着いていた。
銃声を聞いた途端、りんごは放心したように座り込んでしまった。
「手は傷つけてないか?」
「大丈夫です。」
「よし、よくやった。まだこいつにはやってもらわなきゃいけない大事な仕事が残ってるからな。」
二人の私服警官が、安堵の表情を浮かべて
立っていた。
闇野の手にあった拳銃は、彼らの手で見事に
打ち落とされていたのだ。
「その青年は大丈夫か?」
「気絶しているようですが、大事はありませ
ん」
「ゆっくり寝かせといてあげよう。彼が闇野
の関心を集めていてくれていたおかげで、う
まくいったようなものだ」
手錠をはめられた、闇野はうずくまって泣
いていた。
「もう、いたずらはちまちぇんから、ゆるち
て下ちゃい。みんなの顔も、もとどおりにも
どちまちゅ」
「あたりまえだ。とにかく、まずは、自分の
手で罪を償え。逮捕はそれからだ。
君、被害者たちに連絡して、急ぎここに集ま
ってもらってくれ」
「はい」
ニッコリ微笑むと、若い方の警官は飛び出
していった。
「ねえ、りんごちゃん、もしよかったら、わたしの顔にする?」
それは思わぬ提案だった。りんごは驚いて、隣のベットのナヲミを見た。
「りんごちゃんが好きに決めていいからね」
待合室では、まだこうじがスヤスヤ眠っていた。
「今夜は鍋か……。何鍋かな?ムニャムニャ
ムニャ……」
彼の暢気な寝言を聞いて、ひろしは思わず
微笑んだ。
「いい夢見てるな。きっとお腹がすいたんだ
な」
その時、ひろしのお腹も「グッー」と鳴っ
た。
りんごがだんだん坂を下りてきたとき、電信柱の上に、夕焼けおじさんがいるのが見えた。
日が沈むまでには、まだ少し時間がありそうだ。
坂の途中に腰を下ろして空を見上げた彼女を、電信柱の上のおじさんが振り返った。そし、優しい声で呼びかけた。
「お嬢ちゃん、まるで別人のように綺麗になったね」
りんごは、嬉しそうにニッコリ微笑んだ。
真っ赤な太陽がビルの谷間へと落ちていき、ゆっくりと空が焼けはじめた。
オレンジに輝く雲。空が朱色から桃色、そして藍色に変わるまで、りんごはじっと西の空を眺めていた。
えっ?彼女のほっぺ?
もちろん、いつものように、真っ赤に輝いていましたよ。