女神兵器-ゴッデスウェポン-
もしかしたら連載中のお話に繋がったり繋がらないかもしれないお話です。
キンコーン
とある売れない小説家の元に突然の女の来客があった。
その女性は小説家の男に「実は君にいい小説のネタを提供しに来たんだ♪」と半ば強引に彼のせまっ苦しい四畳半のアパートの部屋にあがりこんでしまう。
「こう暑いと冷たいサイダーでも飲みたいもんだ⋯ん?水しかないって?ああ、気の利いたものが出てくるような予見は無かったさ。」
と、差し出された氷水を1口。
「さて、単刀直入に行こうか。私はあらゆる世界を司る女神様だ。いやぁ、いいリアクションだね。まるで母親に淫猥な本を見つけられた時のようだ。」
「で、その女神様が何しに来たって?ボクは今までたくさんの世界を創り出しどのような結末を迎えてきたかをまさに星の数ほど見つめてきたのさ。」
ふむ、はやりのネット小説のようだといった男のリアクションを見た自称女神はさらに続ける。
「そして変化が止まってしまったような映画は見ていてもつまらないだろう?だから私はデウス・エクス・マキナを世界に落とすんだ。女神兵器という名の変革をね。」
そう言って彼女はスーツの胸の谷間から黒塗りのタブレットを取り出し、それを何気なく小説家に手渡すと画面がつく。
「ソレは私からの贈り物だよ。兵器は兵器が選んだ人間の手に渡ると様々な形に姿を変える、それこそ千差万別さ。」
画面には様々な聖剣や邪剣といった様々な武器の映像のスライドショーが映っていた。
「そして選ばれし者は例外無く不老不死に人並外れた戦闘能力を持つのさ。どんなに傷つけられようと死ななくなる⋯ちょっとした例を見せようか?」
と女神が言い、指を軽く鳴らす。途端に端末には外国の小さな村といった風景が映っていた。
「それはこの日本とは異なる世界で兵器を手にした、結婚を間近に控えていた一人の女性のお話だ。」
「貧困と戦争に窮していた寒村に住まう彼女の武器は聖剣だった。」
風景はガラリと変わり、戦場に立つ彼女はまさに戦女神のような風体となっていた。
「女性は自国にの軍勢にとって⋯そうだな、君がわかりやすいように言えば救国の聖女ジャンヌ・ダルクのようなね。勢いづいた国軍は敵国を見事討ち滅ぼしたのさ、、、だが良かったのはそこまで。王様は欲深い人間だったんだ。」
ありそうではあるが興味深いといった顔の小説家はメモを手に取る。
「王様は彼女の婚約者を城に監禁すると【聖女】を勝手の効くワンマンアーミーにしようとにじり寄ったんだ。貴重な戦力を失いたくはないからね。だがそれは叶わなかった。」
二口目の氷水で喉を潤した女神は続ける。
「婚約者の彼が女性に自由になれと舌を噛み千切って自害してしまったのさ、、、どうでもいいけどなんで悲劇を語ってるのに君は嬉々として筆を走らせてるんだい。」
物書きという者の性なのだろう、どこの世界でもこの人種と来たら⋯。
「ご多分に漏れず女性は深く悲しみ、哀しみぬいた先で激しく激昂したのさ。聖剣はそれに応えると王様を、家臣を、城に居合わせた者達を、王国にいた人々を尽く鏖にしてみせた。そして女性は一つ願ってしまった、『愛しい彼のいないこんな世界など滅んでしまえ』と。」
画面に次に映ったものは世界が砕けていく地獄絵図だった。
女神兵器は女性の一途な想いを吸い上げると地の底まで一振で抉り、文字通り世界を切り刻み、磨り潰し、その一切を破壊し尽くしたのだった⋯。
「そうしてその世界を終わらせてしまった兵器は私の手に戻ってきた。彼女にとって幸いだったのは兵器による自殺だけが所有者に死をもたらす唯一の方法だったことだ、、、名前?忘れてしまったよ、終わった物語にあまり興味はないからね。」
小説家は息を飲み、女神は氷水を飲み干した。
「以上がわかりやすい【失敗例】だ。兵器の説明にもなっただろう、あーほかにもあるけど長ったらしいから割愛するぞ?」
「成功例?私が世界に兵器を落として有り続けた例は1000回やって1回あればいいほうだね。それもこうしてる今も戦い続ける狂戦士が徘徊する世界としてだけど。」
そしておもむろに椅子から立ち上がる女神。
「それではまた会おう小説家くん。100年くらい経ったらまた来るからそれまでくらいは頑張りたまえよ?⋯なに?そんなに生きられるわけないだろって?不老不死なんだからそれくらいあっという間さ。」
素っ頓狂な声を上げる小説家を見てケラケラと笑う女神。
「当然だろ?君の手に女神兵器は既にあるんだから。クーリングオフは無いよ♪」
手元のタブレット端末⋯だったモノは女神を一回り小さくしたような女性を模したなにかに変わっていた。
その場に膝をつく小説家とそれをニヤニヤと見つめる影。
「まあまあ、君は独創性だけは他の人間より優れてそうだからしっかり頑張りたまえ⋯たまえ⋯タマエ⋯。」
そのまま存在を薄くしたかのようにその場から消えていく女神。
クフフフフ、今度はどんな物語になるのか楽しみだなァ。
―そして100年後―
小説家の元に前触れなく現れた女神は開口一番に「どうしてこうなった。」とつぶやいたのであった。
世界はそれなりに技術が進歩していたものの特に代わり映えはせず。だが、彼女の千里眼には戦争や紛争、国家間の争いなどといったものは全く無くなってしまったように見えた。
「君、何をしたんだい???たしかに君はあの頃のままの姿だから兵器は手放したりはしてないんだろうけど、それよりなにより⋯」
「なぜ世界中に女神兵器がたくさんあるんだ?君にはあの一つだけしか渡してないじゃないか!」
叫ぶ女神と小説家の座るテーブルにキンキンに冷えたサイダーを持ってくる身重の女性。女神より女神らしい笑顔で男とにっこり微笑み合うと小説家の横にちょこんと座った。
「女神様お久しぶりです、私がわかりませんか?」
「⋯小説家くんの奥さん?⋯え、なんで⋯君は女神兵器じゃないか???」
「彼はですね、あれから深く考え込んだ後に会って1日もしない私に『嫁になってくれ』とプロポーズしてくれたんですよ!もう嬉しくって嬉しくって♡戦うことしか知らなかった私に彼は愛を教えてくれたんです。」
「君、マジで兵器なのか?⋯⋯なんてことを⋯⋯いや、実に面白い!!今まで君みたいな願いを兵器に祈った馬鹿がいただろうか、いやいない!倒置法!」
深く愛しあった小説家と兵器の彼女のハーフたちは世界中に散らばると争いという争いを止めるべくうごいているとのことだ。
その後、あまりに子供たちを気に入った女神は何人か連れて別の世界へテコ入れに向かったという。
兵器の末裔たちは今や女神の手によりあらゆる世界に降り立ち世界を救うため活躍している。
子供たちが女神兵器なんて名前から救世主なんて名前に変わり、成功例しか生み出さなくなるのは更に先のお話だ。中には魔族なんて呼ばれた者もいるかもしれない。
おしまい。
かもしれない。