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人懐こい声と、優しそうな目つき。イケメンではないし、ぽっちゃり体型の男。
悪い人ではないな、と直感で感じた。でも今日は最悪な日。ずっとずっと、最悪な日。
だったら変わった人と話したところで変わらないと思い、私は答えた。
「どうも。考え事をしていたら道を間違えちゃって。おじさん、お悩み屋さん?」
「晴海通りに迷い込むなんて、悩みでもあるのかい?そう、悩み屋さんだよ。お見知り置きを。」
男、悩み屋はそう言うと、丁寧に頭を下げた。笑っちゃうでしょ?ほんと変な日。
もう少し話してみたくなった私は、悩みを売ってみようと思った。
「悩み、聞いてくれますか?こんな偶然知り合えた人に話すようなことではないとは思うんだけど…。」
「ううん、そんなことはないよ。おじさんに悩みを話してみなさい。聞いてからじゃないと値段はつけれないんだけどね。お名前、聞いてもいい?」
「人が聞いたら、大した悩みではないかもしれないんですが…。私はノリカっていいます。実は私、2年前から好きな人がいまして…」
そう言いかけた時、悩み屋さんは目の前に手のひらを出し、私にストップをかけてきた。
「ノリカさん。悩みを話す時は、敬語とかそういうのいらないからね。砕けた感じで、自分から悩みを引き剥がすみたいに素直になって話してね。」
「あ…はい…じゃなくて、わかった。ありがとうね悩み屋さん。2年前から片想いの好きな人が居たの。
だけれど、ついこの前…1週間前くらいかな?その彼、私の親友の事が好きだって言ってたという噂を聞いたの。
もうショックで…。ごめんなさいね、ありきたりな悩みで。」