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第六話 ハーフダークエルフ(前編)

 怯えたような表情の少女に、俺はリラックスするように促し、名前と年齢を尋ねた。


「……名前はユア、十六歳です……あの……私、一体、何をされるんでしょうか?」


 と、彼女は声を震わせながら聞いて来た……本当に怖がっている。


「単なる健康診断だよ。治療が必要な病気になっていないかどうか、調べるんだ」


 俺は笑顔で、つとめて優しく語った。


「けんこう……しんだん? ……その後、どうなるんですか?」


「……その後? えっ……その後って何?」


「えっ……デルボルト様から、何か伺っていないんですか?」


 ここで意外な人物名が出たので、俺はちょっと驚いた。


「デルボルト先生を知っているのかい? って、魔族なら当たり前か……」


「……あの、でも、実は……私は魔族になったばかりで……」


「……へっ?」


 魔族になったばかり? まるで俺みたいだな、と思ったが、俺自身が魔族で無かったことを話すのは危険かもしれない。


 とりあえず、そんなに怖がらなくていいから、となだめて、「たぶれっと」に名前、年齢を記入し、「でじかめ」という機械で彼女を撮影し、「送信」ボタンを押した。

 近くの「ぷりんたー」から、検診方法が記された紙が出てくる。


族名:ハーフエルフ  種名:ハーフダークエルフ

名前:ユア 年齢:16歳

性別:女性


 ハーフダークエルフ!

 その種名を見て、俺は驚愕した。


 ハーフエルフは、あの物語とかで登場するエルフ族と、人間族両方の血を引く希有な存在だ。

 俺はハーフエルフはもちろん、エルフすら空想上の存在だと思っていたのだが……。


 しかも、『ダーク』がつくと言うことは……これはもう、超が付くほどレアな存在のはず。

 ……いやいや、ここは魔族検診クリニック。どんな種族が健康診断を受けに来てもおかしくはない。


「……なるほど、君は人間とダークエルフ族の娘なんだね。でもそれって、魔族なのかな?」


 と、冗談っぽく声をかけたのだが……彼女は、びくっと肩を上げて驚き、そして涙を浮かべて震えだした。


 ……やばい、緊張をほぐすために言ったつもりの言葉が、余計に彼女を怖がらせてしまったようだ。

 もう一度、そんなに怖がらなくていいから、と励まして、診断を開始した。


 それにしても……本当にかわいい女の子だ。

 獣人族のミコもなかなかの美少女だが、子供っぽくて、どちらかというと「可愛らしい」感じだ。

 しかしこの子は、十六歳という微妙な年齢で……俺とあまり変わらないので、なんというか、ドキドキするような、異性として意識してしまう年頃だ。


 そんな彼女に、まずは検査着に着替えてもらう。

 ピンクのガウンのようなそれは、脱ぎ着しやすく、診察に便利だ。

 下半身は下着だけで、上は検査着だけになるように指示した。


 更衣室で着替え、出て来た彼女を見て、またトクン、と鼓動が高まった。

 良く日焼けしたような小麦色の肌に、ピンクの検査着がよく似合う。

 多少怯えてはいるが、綺麗な黒髪、整った顔立ちは、単調な服の柄によって引き立てられ、より一層美しく見えた。


 まず、身長と体重を測る。

 身長は百五十五センチ、体重は四十二キロ。

 ちょっと痩せているかな……いや、ハーフエルフとしては『標準的』らしい。


 ちなみに、検査着の重さはあらかじめ計算に入っている。

 体温は三十六度で、これは人間とあまり変わらない。

 聴力、視力検査では、少なくとも俺よりずっといい結果が出た。

 しかし、ここでもハーフエルフとしては『標準的』だ。

 エルフも同じぐらいが標準らしく、そう言う意味では、人間なんかよりずっと感覚が優れた種族、ということになる。


 この頃になると、大分彼女もリラックスして、表情が緩んできた。

 なんか、もっと酷いことをされると思っていたみたいで、


「大丈夫だよ、少なくとも俺は悪人じゃないから」


と言うと、


「見た目ちょっと怖いですけど、優しいんですね」


 と、少しだけ笑ってくれた。


「俺って、そんなに怖い?」


「……えっと……青く光る眼って、初めて見ましたから……」


「君も、そうじゃないか」


「……私は、その……実は……ううん、何でもないです……」


 と、また少し落ち込んでしまった。

 何があったのだろう……。


 次に、血液検査だ。

 血を少し抜く、という言葉を聞いて、また彼女は怯えた。


「あの……どのぐらい抜くんですか? コップ一杯ぐらい?」


「いいや、ほら、この容器分だよ。先に細い針が付いているだろう? これで吸い出すんだ」


「……怖い……」


 どうやら彼女、健康診断、とりわけ血液検査は本当に初めてのようだ。

 俺の説明の仕方も悪かったか……。


「大丈夫だよ、ちょっとだけちくっとするけど、ミツバチに刺されるのより全然痛くないから」


 と、良いのか悪いのか自分でもよく分からない例えを言って、彼女の腕を『あるこーる』という液に浸した綿で拭いてから、注射針を差し込んだ。


「……っ」


 ほんの少しだけ顔をゆがめた彼女だが、目を瞑って堪えてくれている。


「……はい、終了。そんなに痛くなかっただろう?」


「……え、もう終わり?」


 ユアは、なんか拍子抜けのような表情で、俺の顔を見て、また笑った。

 うん、やっぱり笑顔の方がかわいい。


 この後、『れんとげん』の撮影。

 ここも検査着を着たままでOKなので、なんにも問題はない。


 あと、腹部の『ちょうおんぱ』検査。

 これは、お腹を出して、下半身も上半身も、見えてしまうギリギリまでずらして、しかも彼女からすれば見たことのない道具を、ぬるぬるの液体を付けて押しつけられるので、恥ずかしがり、怖がってもいたが……苦痛を伴うわけではなく、少しくすぐったい程度だったはずなので、最後の方はリラックスしていた。


 しかし、次の『しんでんず』が問題で……。


「えっと、次の検査は、心臓の鼓動を測るんだけど……」


「……心臓、ですか!?」


 ちょっとその言葉の響きに怯えるユア。


「あ、いや、そんなに怖くないよ。ほら、脈をとるのと同じ。ただ、そのためにこういう小さな吸盤を、腕とか、足とか、お腹とか、胸につけるんだ。痛くもかゆくもないし、数分で終わるよ」


 俺の言葉を聞いて、彼女はほっと息をはいた。


「……ただ、そのために、検査着は脱いで、上半身は裸で、下半身は下着だけになってもらわないといけないんだけど……」


「……えっ……あの……脱ぐんですか?」


「ああ……」


 見る間に、彼女の顔が赤くなるのが分かった。


「……はい、分かりました。検査、ですもんね……」


 最初の頃とは違って、怖がるのではなく、照れたような笑みを浮かべて、ユアはゆっくりと検査着を脱いで、カゴの中に入れた。


 ――俺の心臓の方が、ヤバイぐらい高鳴るのが分かった。


 初めて見る、年頃の女の子の裸。

 小麦色で、整った形の美しい胸。

 これは検査で、俺は検査員なんだから、変な気持ちを持ってはいけない……そう思っていたし、できると思っていたが……やっぱ無理。自分の顔が熱くなるのを感じてしまった……。


「あの……えっと、ここに横になればいいんでしょうか?」


 彼女は彼女で、そんな俺の様子を気にする余裕もないようで、赤くなりながらそう質問してきたので、


「ああ、それでいいよ。すぐ終わるからね」


 と、俺は冷静を装って指示を出した。


 ベットに横たわる、下半身に白い下着を纏っただけの、十六歳の美少女。

 俺は十八歳の健全な男子で、年頃の女子の裸にまだ慣れていないのだから、気分が高まるのは仕方無いが、変な気を起こすことだけは、信頼してくれている彼女のためにも絶対にあってはならない。


『じぇる』というのを塗った小さな吸盤を、彼女の体のあちこち……腕や、お腹や、胸元や、太ももにつけていく。


 そのたびに、彼女はひやっとした感触に、ちょっとだけ身をよじる。

 それがまた、なんていうか、ものすごく可愛くて……。


 この検査を無事やり過ごしても、この後、聴診、そして触診と、裸の検査は続いていく。

 ある意味、今までで一番長く、堪える時間になるかもしれない――。

次回に続きます。


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