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第三話 スライム(前編)

 肉体改造をされてから、一週間が過ぎた。

 俺の主となった魔族の医師、デルボルトの指導を受け、一通りの検診手法を身につけた。


 最初の一日はデルボルトと一緒に検診を行ったが、彼は診断や治療に専念したいということで、この検診施設そのものが、丸ごと俺にまかされることになった。


 いくらなんでも無茶だと思ったが……高度に「機械化」されたこの施設、慣れればなんとか俺一人でも使いこなせるようになってきた。


 一日に訪れる魔族の人数は、だいたい四、五人。

 一人一、二時間ほどで検診は終了する。


 最初はおっかなびっくりだったが、改造された俺の姿を見て、彼らも俺が魔族だと疑っていないようだった。


 改造された後、初めて自分の姿を鏡で見たとき、愕然としたものだった。

 

 全体的な容姿そのものは、たいして変化がない。

 ただ、目が、青く光っている。


 瞳だけが青いのではない。

 人間でいう白目までもが、淡いブルーの光を放っているのだ。


 目をきつく閉じたとしても、また、何かで目を覆っても、この光は漏れ出る。

 それを見るだけで、自分がまともな人間でないことが分かってしまう。

 また、魔族にとっては自分達の同胞だと認識できてしまうらしい。


 こうなってはもう、人間の世界には帰れない。


 デルボルトの配慮により、出紙を出すことは許されたので、十三歳になる妹には、泊まり込みの仕事に就いたことの便りを出した。


 病気とは言っても、今のところずっと寝たきりになるほどの重症ではないので、生活にそれほど不便はないはずだ。


 そしてこの日、午前の部の最後に現れたのは、これまでの魔族とは全く異なる姿をしていた。


 ぶよぶよとゼリー状で半透明の、大きなクッションほどの生き物。

 スライム……本で知識だけはあった魔物だ。


 ただ、人間だった頃に伝え聞いていたものよりはずいぶんと大きい。


 俺はスライムは魔獣だと思っていたのだが、この検診施設を訪れるということは、それなりの知能を持つ魔族、ということになる。


 ちなみに、魔獣と魔族の違いは、前者が獣並の知能しかなく、その容姿も獣や巨大な昆虫に近いものであるのに対して、後者は姿が人間に近く、知能も人間と同等あるいはそれ以上であることだと聞かされている。

 

 そういう意味では、このスライムは判断に迷う。

 ほかに、亜人族や妖精族といった種族も存在するが、スライムはこれらとも違っていた。


 話が通じるかどうか分からないが、とりあえず名前と年齢を聞いてみた。


 すると、名前はなく、年齢も分からない、という答えが返ってきた。


 といっても、相手はプルプルと震えているだけなのだが、どういうわけか意志疎通ができてしまう。

 この青く光る目に改造されてから、あらゆる魔物と問題なく会話ができている。そういう魔法をかけているのだという。

 

「たぶれっと」という薄い板の、検診者の名前と年齢欄に「不明」と記入し、「でじかめ」という機械でスライムを撮影し、「送信」ボタンを押す。


 すると、近くの「ぷりんたー」という機械から、検診方法が記された紙が出てくる。


 これらの不思議な機械は、「カガク」という名の文明が進んだ異世界からデルボルトが導入し、独自に改良を加えたものだという。


 そしてその検診用紙に書かれていた検診者の特徴は、


族名:魔族  種名:スライム

名前:(不明) 年齢:(不明)

性別:雌雄同体


スライム種の特徴:

 半透明で、ぶよぶよしたゼリー状の肉体を持つ。

 体液は強酸性・有毒で有る場合が多いが、個体差が大きい。


 発生した時点では魔獣に分類されるが、長期間生き延びたものには知性が生まれ、他の魔族と意思疎通が可能になった段階で魔族と認識される。


 一定以上のレベルに達すると魔力を持つようになり、魔族の名に恥じぬ戦闘能力を有する。

 中には、皮膜を金属に変化させて大幅に防御力を上げたり、魔族最高の素早さを身につけたりする場合もある。


 最上級に進化すると、災厄級の恐るべき戦闘能力を有する場合すらあると言われている。

 物理的な攻撃を加えられてもダメージを受けない個体も多いが、レベルの低い者は総じて火に弱い。

 最弱レベルから最強レベルまで、非常に差の激しい種である。

 

「ふんふん、なるほど……スライムって強いのもいるんだな……」


 と呟くと、この個体はぷるぷると揺れて反応した。

 どうやら、自分のことを「強い」と言われたと思ったらしく、喜んでいるようだ。


 さて、検診開始。


 人間に似た体型の魔族(例:オークやゴブリンなど)であれば検査着に着替えてもらうのだが、元々衣服を纏っていないので省略。


 身長と体重は計測することになっているので、それらが同時に測定できる機械に乗ってもらう。

 すると……おお! ミョーンと体高が伸びるではないか!

 なんか人間が身長を高く見せるために背伸びしているみたいだ。


 この結果、体重は二十キロ、身長は一メートル二十センチとなった。

 ちなみに、キロとかセンチという単位も、文明の進んだ異世界のものだという。


 体温は、脇の下に挟むタイプが使用できないので、表面に接触させるものを使用。

 その結果、約28度という、他の魔族よりかなり低い温度がでたが、スライムの場合これが普通なのだという。

 ちなみに「度」という単位も異世界のもので、水が凍り始めるのが0度、沸騰するのが100度となっている。


 スライムのどこに目や耳があるのかよく分からないが、視力検査と聴力検査も実施、視力はあまり良くないが聴力は体の表面全体で音を感じるらしく、俺よりも良好な結果となった。


 あとちょっと厄介だったのが体液検査だ。

「注射器」という道具で体液を採取するのだが、スライムのそれは強酸性で有毒。

 マニュアルに従い、丈夫な手袋をはめて『金の針』を使った注射器で、おっかなびっくりなんとか採取成功。


 こんなとき、だれかスライムの体を押さえてくれる助手がいてくれたら助かるんだけど……。

 それが可愛い看護師さんだったらなおいいのに、と考えたところで、目を魔物のそれに改造された段階で、恋愛なんて一生不可能になったという事実を思い出して、気分が暗くなってしまう。


 このあと、「れんとげん」の撮影。

 当然、他の魔族とは骨格そのものが違う……というか、骨なんてある?

 なんか、「核」と呼ばれている部分がぼんやりと映ってはいるが……。

 当然、俺の知識では病気かどうか何て分からない。

 超音波検診では、これまたなんかよく分からない画像がいっぱい撮れた。

 まったく意味不明、これはもうそのままデルボルトに送信して判定してもらうしかない。


 この後、まだまだ内科診療と心療内科の検査が続く。


 この二つ、どう違うのかというと、内科診療は聴診器とか使った検査で、心療内科は悩み事などを聞いて「心の病」になっていないかの検査だ。


 でも、スライムの悩みなんて俺が聞いて、はたして理解できるのか?

 忙しすぎる、難しすぎる、孤独過ぎる。

 俺の心の方が病んでしまいそうだ。


 ああ、本当に一緒に楽しく仕事ができるパートナー、欲しい……。

※彼の願いか叶うのは、もうちょっとだけ先になりそうです。

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