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第二話 闇の医師

 発端は、三週間ほど前の、ある事件だった。


 目が覚めると、俺は狭いベッドの上に寝かされていた。


  起きあがろうとしたが、手枷・足枷で拘束されていて、ろくに身動きすることもできない。

 見上げた天井はいつもの見慣れた木製のものではなく、灰褐色で、無機質な印象を受ける。


 部屋を見渡すと、全体的に薄暗く、狭い。

 そして、なにやら見たこともないような機械が、右手側の壁を占拠していた。


 今、自分がどういう状況なのか、まるで見当がつかない。

 

「目が覚めたか、小僧!」


 突然、部屋全体に大きく、恐ろしげな声が響いた。

 

 俺は驚き、飛び起きようとしたが、手枷によってそれが妨げられ、激痛を感じて体がベッドに叩きつけられ、思わずうめいた。


「無駄だ……おまえはもう助からぬ。あきらめろ」

 

 正体不明の声の主は、絶望的な言葉を投げつけてきた。

 

 俺は恐怖におののいた。

 全身がガクガクと震え、汗が止まらない。


「……では、処分する前に尋問するとしようか。先に行っておくが、俺には一切嘘は通用せぬ。もし本当のことを素直に話さなかった場合、苦痛をともなった罰を受けることとなる。どのみち助からぬのだ、苦しまぬ方がよかろう」


 相変わらず、声の主は空恐ろしいことを言ってきた。

 俺はただ、震えることしかできない。


「では、まずおまえの名前と年齢を答えよ」


「……は、はい……俺……いや、僕の名前はタクト、十六歳ですっ!」


「……十六、か。まだ本当に小僧だな。では、次の質問だ。おまえはあの森で、何をしていた?」


「森……あ、えっと、狩人の二人に誘われて、魔獣狩りの手伝いをしていました」


「……それでおまえは、あの森が魔族のテリトリーだと知っていたのか?」


「……ま、魔族の!? そんな、あの場所は人間族のテリトリーだって言っていたのに……」


 俺の汗の量は、さらに多くなった。


「……その二人の狩人とは、親交は深かったのか?」


「いえ、良い金稼ぎがあるからって誘われて、二日ぐらい一緒に旅をしてあの場所につれて行かれたんです……」


「……そして魔物を狩っている途中で俺に見つかり、その二人はトカゲのしっぽを切るようにおまえだけを残してまんまと逃げた、というわけか……密猟者も巧妙になってきているな。対策を考えねば……」


 ……ひょっとして俺、だまされていた?


「しかし、知らなかったとしても、魔族のテリトリーで密猟の手助けをしていたおまえの罪は小さくない。罰を受けねばならぬ。そもそも、魔物狩りは危険な仕事だと分かっていたはずだ。それほど金が欲しかったのか? 何に使うつもりだったのだ?」


「はい、あの……妹が病気になって、それで薬が必要で……でもそれが高くて、俺の肉体労働だけじゃ到底足りなくて……」


「なんだと!? ……ふむ、嘘は言っていないようだな。病気の妹、か……」


 そこで少し、間が空いた。

 そしてそれは俺にとって、とてつもなく長い時間に感じた。


 ふっと、体の側に何かの気配を感じて、その方向に顔を向けて、全身にぞわっと鳥肌が立つのを感じた。


 すぐ側に立っていたのは、ローブをまとった壮年の男だった。

 がっしりとした体格で、頭の両側には、細く鋭利な角が生えている。

 鋭い目は青い光を放っていて、一見して人間でないことが分かる。

 悪魔。

 その表現がぴったりと当てはまる容姿だった。


「……タクト、おまえに二つの道を与えよう。一つは、このまま俺に殺され、解剖される道。もう一つは、俺に忠誠を誓い、俺の配下として生き延びる道だ」


「は、配下? ……それって、何をするんですか?」


「なあに、心配することはない。俺の本来の仕事は、魔族の治療をする医師だ。最近では早期に病気を見つける『健康診断』も行っているが、忙しくて手が回らなくなってきている。そこでその仕事をおまえに手伝ってもらいたいのだ」


「……魔族の……健康診断?」


「ああ。それなりの賃金も支払うし、週に一度の休みも与えよう。悪い話ではなかろう?」


「……えっと……命を助けてもらった上に、仕事までもらえるのですか?」


「そのとおりだ。ただし……」


 もったいぶった言い方に、思わずゴクリと唾を飲む。


「おまえの肉体を改造し、魔族となってもらう」


「……なっ……僕が、魔族に?」


「そうだ。魔族を検診するのが人間では都合が悪いだろう? おまえは魔族に生まれ変わって、魔族のために尽くすのだ」


「そ、そんな……」


「嫌なら、『死』あるのみだ」


 いきなりそんな究極の二択を迫られても……。


「妹の薬代が必要なのだろう?」


 その言葉が、決め手となってしまった。


「分かりました……あなたの配下になります」


「うむ。ではタクトよ、しばし眠れ……」


 その言葉を最後に、俺は再び意識を失った。


 ――次に起きたときは、前回より幾分柔らかいベッドの上だった。


 天井は白く、部屋全体も明るかった。

 それほど広くはないが、椅子と机もあり、落ち着いた雰囲気だった。


 あの仰々しい機械も存在せず、そして悪魔の姿もなかった。


 ――あれは、夢だったのか。

 だとすれば、俺は今、どこにいて、どんな状況なのかーー。


 ふと、部屋の奥に、全身が写る鏡が置かれているのが目に入った。


 そしてその前に立ち、そこに写った俺の姿を見て、俺は驚きで大きく目を見開いた。


 ……これが……俺?


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