■7、純白の塔
真っ白くそびえ立つ1本の塔、高さは20mほど、建物は、約10階建てくらいか。
周囲からは、[魔女の塔]として知られている有名な場所であった。
「ごめんください。」
あおいが声をかけてみる。
[ギィーッ]っと扉が開かれる音と共に、若い女性の声がした。
「ようこそお越し下さいました。どうぞ中へお入り下さい。」
赤髪のメイド風のかっこの女性に、塔の中へ通される。
中に入ると、3階程が吹き抜けの大ホールになっていた。その中央には大きな階段、その階段は、途中から左右2又に分かれるような形になっていた。見上げれば、天井から巨大なシャンデリアがぶら下がっており、その巨大さは圧巻だった。塔の1階部分を抜ければ、すぐに中庭へと続いているのが見えた。
中庭は、ガラス張りの温室のような場所になっているようで、オシャレな噴水と、バラ園のようなアーチ状の花の門がいくつもある。手が行き届いた美しい庭だった。
「うわー!あお、見て見て、あの照明器具、凄い大きさだよ!」
レンは見た目にそぐわないはしゃぎよう…仕方ないか。ついこないだまで子供だったし。
「うむ、確かに素晴らしい。庭が特に素敵じゃないか。」
クーデリアは意外にもこういった感じのものが好きなようだ。
「2人ともあまり声を上げてはしゃぐなよ。」
「奥の研究室でご主人様がお待ちになられております。こちらへどうぞ。」
前を先導しているメイドが催促する。
「あ、はい。ほら行くぞ、2人とも。」
「承知した。」
「はい。」
研究室は、塔の5階にあり、そこの扉の前まで案内された。
[コンコンッ]と2回ノックしてメイドが中の様子を伺う。
「お客様をお連れしました。」
「どうぞ、中へお通ししなさい。」
どこかで聞いた事のある声が中から響いた。
「かしこまりました。お客様、どうぞ中へお入り下さい。」
「お邪魔します。」
円形の部屋の中は、研究室というより、書斎と言った方がしっくりくる。かなり広かった。本棚に囲まれ、古そうな本がビッシリ並べられている。その部屋の中央は、階段を3段ほど上がる、ロフト構造となっていた。
下のフロアには、本棚がずらりと並べられており、簡易図書館といった感じになっている。中二階には、大きめの机が中央に置かれて、周囲によくわからない機械のような物や、骨格標本、お洒落なオブジェが飾られている。その中央の机に、この塔の主と思われし人物が座っていた。
「どうも初めまして。霧嶋 あおいと申します。」
姿が見えたので、さっそく挨拶をする。
レンとクーデリアから聞いた情報じゃ、相当の年寄りだと想像していたから予想外に二度見してしまった。その部屋に存在している女性は、30代、へたすれば20代くらいの妖艶な美女にしか見えなかったからだ。
小さい丸眼鏡をかけており、髪は緑色で、後ろでまとめて小さく上にあげていた。服装は、スリットが大きく入ったスカートに、ピチピチのジャケット、そこから豊満な胸が溢れそうになっていた。
「ふふふっ!初めまして…かしらね。うん、初めまして。私はイレーネス・マキャベリと申します。」
「レンだよ。」
「私は、クーデリア・ウェインズだ。以後、お見知りおきを。」
「みなさんも、どうぞよろしくお願いしますわ。」
「挨拶が済んだ所で、早速質問なんだけど…。あなたが、あの猫の本体?でいいんだよな?」
「ふふ‥そうですわ。あの猫は、私。」
「呼ばれたからここまで来たけど‥。まぁ、たいそうな建物じゃないか。」
「お気に召しましたか?私は、あの中庭がお気に入りですのよ。」
「確かにセンスはいい。気に入った。でも、わざわざ建物を自慢するためだけに呼んだって訳じゃないよな?」
「ええ、あの時に申し上げましたとおり、私の手伝いをして頂きたいのです。」
「そう‥それだ。イレーネスさん、あんたの手伝いって奴、俺は何をすればいい?」
「端的に申し上げますと‥。ある場所に行って、そこの調査をしてきて頂きたいのです。」
「ある場所?」
「あおい様とレン様は、すでに既知の場所ですよ。別名を[帰らずの森]という、入ったが最後、その森に囚われ帰ってこられないという噂がある場所になります。」
「‥俺とレンが知っている場所?そんな大層な場所があるのか…。」
「はい。お二人が出会われた森といえば、ご理解頂けますか?」
「ん?‥なんで俺とレンが出会った場所を知ってるんだ?」
「ふふっ私は魔女…大抵のことは知ってますわ。」
「で、その魔女さんがこんななんの取り柄もない俺に何をさせたい?」
「……。」
イレーネスは何かを考え黙り込んだ‥。そして‥。
「少々、お待ち頂けますか?」
そう言って、ロフトから階下の本棚の方へ歩いて行った。そして、ある本棚の中の内の一冊をもって戻ってきた。
「先ほどの質問に答える前に、知っておいて頂かなければならない事があります。今から少しだけ、この世界の事を話させて頂きます。おそらく、これから話す内容は信じられないものかもしれません。‥ですが聞いて下さい。」
持ってきた本を広げて話し出す。
「これは、とても古い話です。この世界に最初に落とされた種族、神族と呼ばれる種族がいます。私達では想像もできないほど絶大な力と知識を持っていた彼らは、この世界の記録を残していました。この本はそれらを解析し写したものとなります。」
そう言ってイレーネスは、以下の伝説を話し出す。
世界は最初ひとつだけだった。
世界にはこの時まだ何も存在していなかった。
ながい時の流れの中で世界は少しづつ変化していきました。
いつしか世界の中には生命と呼べるモノが誕生していました。
その命は少しづつ増えはじめ、あらゆる形へと進化していきました。
世界はまだひとつだった。
その世界の中に息づく命はお互いに競い合い、時には奪い合いながらも共生し、コミュニティを形成していきました。
世界は、その様子をただ傍観するだけでした。
ある時、世界に自我と呼べるようなものが生まれてしまった。
自分の中にあるコミュニティを傍観するうちに自分の状況に気がついてしまったのです。
世界はひとつだけだと。
世界は自身の中のコミュニティには参加できません。
ある時、寂しいという感情が芽生え、その感情が限界を迎えた時、世界がふたつに分かれました。
世界はふたつになりました。
今までひとつだった世界は、別の世界とのコミュニケーションの方法など知りませんでした。
そして、そのまま限界を迎える度に世界が再び分かれていきました。
世界は『12個』に分かれていました。
無理やりに増えた世界には限界がありました。
世界は、やがてお互いの膨張する力によって潰し合い崩壊の危機へと向かっていました。
そのまま我々神族の世界は崩壊をむかえる事になりました。
そしてそんな時、最初の世界のある生命が崩壊する世界に気づき、押しつぶし合う世界を支えようとしたのです。
その生命は、崩壊する運命だった世界を奇跡の力で癒し、膨張し続ける世界を繋ぎ止めました。
そして、12個の世界の中心に、世界の『狭間』という形態をとって存在する事になりました。
世界は、仮初めの安定を取り戻したのです。そして時だけが過ぎて行き
1の世界は消滅、2の世界は妖精族、3の世界は魔族、4の世界は人族、5の世界は天族、6の世界は鬼族
7の世界は獣族、8の世界は幽族、9の世界は水族、10の世界は暗族、11の世界は光族、12の世界は龍族
それぞれがそれぞれの世界で繁栄していきました。
「そして‥。信じられないかもしれませんが、今、私達がいる、この世界こそが、この昔話に出てくる12個の世界の中心となる『世界の狭間』と呼ばれる場所になります。」
「え!」
「な!?」
あおいとクーデリアが声を出した。レンは、黙って聞いている。
「もう知る術はありませんが、この12の世界の内、1の世界と同様にすでに崩壊して存在がなくなってしまった世界があるようなのです。」
「私は、元々は、3の世界、魔族世界の住人でした。魔族は、緑の髪をし、総じて魔法を操るのを得意としています。」
「まさか‥その話が本当なら俺は、その4の世界から来たと?」
「ええ、そうなります。この12個の世界は、昔から何度も定期的に崩壊と修復を繰り返しています。崩壊のタイミングで、隣接する2つの世界に災害が発生します。その災害に巻き込まれた時に、運良く生き残った者のみがこの世界へと迷い込んでしまうのです。」
「そんな‥。」
「信じられん話だ‥。」
「……。」
「私は、‥本当に長い時をこの狭間世界で生きてきました。‥最初の数百年は、あおい様、あなたのようにこの世界の何処かに、必ず元の場所につながる場所があるのだと信じて探し続けておりました。しかし、何も見つけられませんでした。その数百年で、私と同じ境遇の方達を何人も見つけましたが、誰もが[なぜ、この場所に来てしまったのか、この世界がどうなっているのか]すら知らない、考えようとする者もいませんでした。私は、いつしかこの世界を調査する事を始めました。先程お伝えした昔話は、私が1000年かけてやっと辿り着いた、この世界の記録です。…1000年かけてやっと自分の状況が把握できただけ、‥です。」
「1000年‥。だめだ、話が壮大すぎて頭がついていかん。」
「1000年!?‥あなたは、不死なのか?」
「いえ‥!そうでしたね、人族は、100年ほどしか生きられないのでしたね。‥私は魔族、魔族は総じて長命です。しかし、いつかは死にます。約2000年程でしょうか。私は、見た目ほど若くはないのですよ‥ふふっ。」
「そうなのか‥。」
「俺やあんたは、別の世界から来たとしてもだ。‥レンやクーデリアは?」
「クーデリア様は、この世界で生を受けた、この世界で生まれた命でしょう。髪の色と体格からすると、2の世界の妖精族のエルフの血が濃いのかと。その血の筋を辿っていけば、何処かで、こちらの世界に迷い込んだ方に行き着くはずです。」
「レン様は……。私の方から伝えるのはやめておきましょう。」
レンを見る。何故か思いつめたような顔。‥何か違うのか?俺達と‥。
「……。」
「レン?お前は‥。‥‥いや、今はいい話せるようになったら話してくれ。」
レンの表情を見て詳しく聞くのはやめた。その言葉にレンがゆっくりと頷く。
「さて、混乱されているとは思いますが、話を続けさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ。俺とレンが出会った場所を、何故あんたが知っている。」
「あの場所が、最近、異世界への空間が開かれた場所だからです。そこを調査をしておりました。そしてあなた方を見つけたのです。」
「悪いが俺は、その時、常に周りを警戒していた。あんたみたいな美女がいたら見落とすわけないんだが‥。」
「あら‥ふふふっ。美女ですか。でも残念、私自身は、その場におりませんでした。」
「代わりに獣人の方に依頼して、魔法で探索する所を確認させて頂いておりました。」
「そして、あの森に入った獣人がどうなったのかは、あおい様はご存知ですわよね?」
「‥!?‥まさか、あれはお前が襲わせたのか?」
「いいえ!彼ら獣人は、あの森に入るまではちゃんと理性を持ち、言葉を交わす、普通の方だったのですよ。それが、あの森の魔素の影響を受けて、理性をなくし、見るもの全てに襲いかかるようになってしまったのです。」
「…え!それじゃ俺は?‥俺は、あの森に入っても何ともなかった‥。なんでだ?」
「それはわかりかねます。しかし、あおい様には、あの場所のあの魔素に対する抵抗があるようでしたので、このように調査の手伝いを願ったわけです。」
「‥いろいろ聞かされて何が何だか混乱している。…答える前に一度整理がしたい。」
いろいろな突拍子のない情報を聞かされ、頭の中がゴチャゴチャになっていた。冷静になって考えられように少し時間をもらう事にした。
いっぱいいっぱいで、これ以上何かを言われても何も入りそうになかったからだ。
「では、答えは、後ほど伺うという事で‥。時間も時間ですし、食事の用意をさせますね。お客様方には、部屋をご用意しましょう。」
そういって、イレーネスが手を2回[パンパンッ]と叩く
研究室の入口が開き、メイドが1人入ってきた。
「ご主人様、お呼びでしょうか?」
「フィル、こちらの方々を客室へ、そして夕餉の用意を。」
「はい、かしこまりました。」
フィルと呼ばれた赤毛のメイドが、こちらに一礼して近づく。
「お客様方、客室の方へご案内致します。こちらへどうぞ。」
「ああ、よろしくお願いします。」
あおいが答える。
塔は、円柱の巨大な建物と、3階部分から下が、コの字型に広がる構造をしていた。その中央には、中庭がある。その建物の左側の3階部分に案内される。1階は、玄関ホールと調理場、パーティ用の大部屋が、いくつかあるようだ。2階は、確認できていない。3階部分が、客間となっている。
その内の隣り合わせになっている、3つの部屋を1人1室づつ借りれた。
「こちらへ、この部屋で問題がなければ、お使い下さい。」
「ああ、ありがとう。‥うん、問題なさそう。」
「では、夕餉の準備が出来次第、お呼び致します。それまでは、ごゆっくりとおくつろぎ下さい。」
「助かる。それと、時間があるようなら、少し塔内を見て回りたいんだけど、問題はありますか?」
「全ての場所をご自由に、とは参りませんが、鍵のかかっていない場所であれば、好きに回って頂いても問題ありません。‥では、失礼致します。」
そう言って、フィルは、他の2人の案内をするために出ていった。
「豪勢なベッド、高そうな家具、窓の外には壮大な景色、さすが異世界といった所か‥。」
先程聞いたイレーネスの話‥。あおいは、半分は信じながらも、まだ受け止められずにいた。
「災害に巻き込まれて生き残った者だけ、こっちに来る‥か‥。」
その言葉に、同じ飛行機に乗っていた、ゆいや先輩の安否への不安が重く伸し掛かっていた。
暫くして、[コンコンッ]とドアがノックされる。
ドアに手をかけ、開ける。
「あお、この塔、自由にまわってもいいって聞いたよ。一緒に行こ!」
先程まで暗かったレンが、元気になっていた。
おそらく、空元気だろうが、あおいを元気づけるために呼びに来たのだ。
「答えの出ない考えに暗くなるより、気分転換した方がいいよな。よし、行こう。」
部屋を出る。部屋の入口側の廊下は、全て、内側の中庭を見下ろせる構図になっていて、部屋から出て、すぐ中庭に誰かがいるのが見えた。
「おーい!クーデリア、今から、あおと塔を見て回るよ。一緒にどうかな?」
「ああ、そうだな‥。付き合おう。」
「じゃあ、そっちに降りてくね。」
レンは、手を振った後にあおいの腕にしがみついてきた。
1階に降りて、中庭に入る。
噴水からは、勢いよく上がる水の音がする。そこには10m程の大きさの池があった。その中には、熱帯魚のような色鮮やかな魚が泳いでいる。その傍らには、白いテーブルと椅子、おそらく、ここでティータイムにでも興じるのであろう。石畳の道に沿って均等に並ぶ、アーチ状に咲く花の門。その花を見て、目を輝かせている金髪の女性。
「クーデリアは、そうやっていると絵になるなぁ‥。」
「な‥何を言ってるんだ。それより、何処から回るんだ。」
顔を真っ赤にして近づいてきた。
「じゃあ、1階から順に見て行こうか。」
玄関ホールから右側に入る。
そこは、大きめのダイニングテーブルと背の高い椅子、壁には、暖炉と大きな絵画がかけられている。広めのダイニングルームと言った所か。そこから通じる先には、調理場へと続く廊下があり、突き当たりには、地下倉庫へと続く階段と、パントリー(食料倉庫)となっていた。
調理場では、忙しそうに数人の使用人が料理を準備していた。邪魔をするといけないので足早に2階へ上がった。そこでメイドと出会う。
「お客様、こちらの建物は、我ら使用人の部屋と倉庫となっております。必要であればご案内しますが‥。」
「ああ、そうなんですか、少し時間があるようなので適当に見て回っていた所です。」
「左様ですか、何かありましたら何なりと、お申し付け下さい。では、失礼します」
「こっちは、使用人の部屋だけみたいだね。左側に行ってみるか‥。」
玄関ホールに戻り、左側の建物へ。
左側には、1階はパーティ用と思われる大きな部屋が2つ、現在は、何もない。そして、大きな浴室があった。中に入ると、大理石のようなツルツルの床、壁もおしゃれな石で模様が施されている。まだ湯は入っていなかったが、気持ちよさそうな作りをしていた。
次の部屋に行こうとして扉に手をかける。
[ガチャガチャ]‥浴槽の隣の部屋は、鍵が掛かっているようだった。
建物左側の2階は、3階と変わらず客間だった。
塔の上の5階以上の階は、イレーネスの私室があるという事で、メイドに止められた。ちなみに4階は、ミーティングルームのようになっていた。おそらく、謁見や会議などに使われるのだろう。
「うーん、なかなか見所のあるいい所だな。」
「うん‥綺麗なとこ、レンすごく気に入ったよ。」
空が、だんだんと色あせていく頃、メイドのフィルが呼びに来た。
「こちらにおいででしたか、夕餉の準備が完了しました。こちらへどうぞ。」
「はい、いろいろ歩き回ってすみません。」
「いえ、お気になさらずに。」
玄関ホールの右側のダイニングへと案内された。
先ほどの何もないテーブルではなく、テーブルに食器が並べられ燭台に火が灯されていた。
「お客様、お好きな席にどうぞ。」
既にイレーネスは、席についていた。
イレーネスの席の近くに、3人分と思わしき食器が並べられていた。それぞれが、その食器のある席に腰掛ける。席に座る際、メイドが椅子を補助してくれるみたいだ。慣れねえ‥。
「皆様、我が屋敷は、いかがでしたか?一通り見て回られたと伺いましたが。」
「ええ、素敵な場所でした。」
「趣味がいい、気に入りましたよ。」
「レンも!」
「それは良かった。ここにいるメイドや使用人は、ほとんどが異世界からの流民で、少しでもいい環境をと、ずっと使えてくれています。」
「そうですか。‥みんなあなたに感謝しているのでしょうね。俺自身、こっちに来た時、レンに会ってなかったら、何もできずに、孤独で押しつぶされてたでしょうから。…レンには感謝してます。」
「あお‥私も感謝でいっぱいだよ。今こうして一緒にいられる事が、すっごくうれしいの。」
席に着くと、次々に食事が運び込まれてきて、盛大にもてなされた。見た事がないような料理の数々。恐る恐る食べていたが、それもこれもうまい!この世界に来て、初めて満腹になった気がした。
「そういえば、ここは結構、何でも揃ってるみたいですが、街から遠いじゃないですか?補給とかはどうされているんですか?」
「簡単な物は、馬車でダラティアまで行って買ってきます。遠くに行く場合は、魔獣に乗って行く場合もありますが、大きい物や特別な物を仕入れる際は、飛空機を使います。」
「飛空機ですか?名前からして、空を飛ぶ乗り物ですか?」
「ええ、あまりこの世界に数はないですが、その内の1機を所持しております。」
「こちらの飛行機は、数が少ないんですか。」
「ええ、その技術自体が極秘とされていて、作れる職人が、ほとんどいないのです。必然的に数が増えないのですよ。あおい様の元いた世界では、珍しい物ではないのですか?」
「そうですね、一般人がみんな所持してるっていう程ではないですが、大きな組織が、大量に保持していて、費用は掛かりますが、世界のあらゆる国へ繋いでくれます。大半の人は、一生に1,2度は利用するという程度ですが。使う人は、ほぼ毎日ですね。」
「それは素晴らしい。そういえば前に出会った、4の世界の人も技術の発展が目覚しいと言っていましたわね。」
「前‥?俺と同じ世界の人がいたんですか?」
「そうですね‥。あれは、今から600年ほど前です。私もこの世界の調査をしてある程度の事が分かりかけていた時でした。あなたと同じ、黒髪に黒い瞳の方々と出会いました。彼らは、私と出会う前からその土地にいたようで、その土地の人々から神として崇められていました。」
「神‥ですか。」
「ええ、どういった経緯か、詳しくはわかりかねますが、彼らには、それぞれ特別な力があったようです。当時の文献にはこうあります。」
アケイヤの森に空飛ぶ鉄塊にのり、炎につつまれし神が降り立った。
その髪は黒く、瞳も黒く、悪魔の類かと思われるほどの容姿。
その神は、神の言葉を操り、何もなかったその地をつぎつぎと発展させていった。
神が人の姿とよく似た姿をしているが、それぞれに特殊な能力を秘めていた。
ある神はその声をすべてに届けた。
ある神は音の速さで大地を駆けた。
ある神は鉄の精霊を操り、大岩を砕き、地形を変えた。
ある神は無機物から生命を生み出した。
「ははっ。‥文献の内容を聞く限り、同じ人間とは思えないな‥。」
「そうですね、しかし、所詮は記録、実際とは多少異なっている場合がほとんどです。私は、実際にお会いしましたけれど、神と呼ばれるようなすごい印象はうけませんでしたもの。」
「ただし、彼らが残した物は、大きですわ。たった50年程で、何もない土地に大きな街を作り上げたのですから。」
「はぁ、‥それってそんなに凄い事なんですか?」
「ただ、人が住む場所を造るというだけですと、誰にでも出来ます。しかし、街を造るとなると、話は別なのです。‥まず人。‥その土地に住む者はもちろん、他の土地から来てもらわないといけません。それは、数人程度ではなく、数百人単位で、その為には、彼らがその土地に来る理由を用意しなければなりません。さらに言えば、その理由が、その場所にあると広めなければなりません。
人が集まるようになれば、後は、少しづつ大きくなっていくのですが、ある程度大きくなった街は、その分、食料や住居など、あらゆる物の消費量が膨大に増えます。ですので、そうなる前に土地整備、農地の開拓などをしっかりとしておく必要があるのです。しっかりと統制された集団ならば、何も問題はないでしょうが、彼らは、言葉も違う。いわば[よそ者]です‥。
今、話した少しの事だけでも、とても苦労したでしょう‥。そんな条件の中、それらを達成できる者はほとんどいないでしょう。それを短い期間でとなると‥。神と呼ばれていても不思議ではないのかもしれません‥。」
「‥同じ世界の人が作った街か、一度行ってみたいな。」
「そうですね。私の依頼を完遂して頂いた後、希望されるのなら送ってさしあげましょう。」
「ああ、頼む。」
「その時は、私も同行させてもらおう。」
「もちろん、レンも行くよ。あおとレンは、ずっと一緒だもん。」
話をしている間、気づかない内にテーブルの上はすっかりと綺麗に片付けられていた。いつの間にか、自分達の前には、食後の紅茶の様な飲み物が出されていた。飲んでみる。
ハーブティのいい香りだった。
「ご主人様、湯浴みのご用意が完了しました。」
メイドのフィルが伝えに来た。
「さぁ、聞きたい事はまだあると思われますが、入浴してさっぱりしましょう。レン様、クーデリア様、私とご一緒して頂けますか?」
「湯浴みか‥、もちろん、喜んで。」
「ゆあみ?って何をするの?」
「汗を洗い、身を清め、一緒に湯に浸かる。体を温めるのだ、気持ちいいぞ。」
「おー!気持ちいいの好き。あお、一緒にユアミしよ。」
「え‥!男は、一緒じゃまずいって…。」
「そうだ‥。レンよ。湯浴みは、裸と裸の付き合いなのだ。あまり異性と共に入るものではないぞ。」
「裸と裸‥。」
レンの顔が赤くなった。
「な、‥レン恥ずかしいだろ。ほら、先に入って来い。」
「うん。‥わかった。イレーネス、クーデリア行こ。」
あおいは、彼女達を見送って、自分の部屋へ戻る。
黒猫の言ったとおり、この塔に来てから。自分の知りたかった事の半分がわかった。肝心のゆいや先輩の手がかりはないが、自分が置かれている状況は理解した。
イレーネスが、1000年以上探して、未だに元の世界に帰る方法が見つかっていない様だし、元の世界に帰る事は、ほとんど諦めるしかなかった。
言葉は、この腕輪のおかげで何とかなったし、一緒にいてくれる仲間もできた。
あっちに帰る理由も、今はただ漠然としたものだった‥。なら、帰る方法を探し続けて何もできずに死ぬより、この世界で精一杯生きたと言えるようにしよう。
「まずは、依頼をチャッチャと終わらせて、人の作った街を見に行こう。そして、この世界を見て回りたい。」
「この世界にきて、今までやってきた事と大して変わらないか。‥はは。」
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一方、大浴場についた3人
[ザバーーッ]
「ふぅー。」
「はぁーー。」
「レン、こんなに大きくてあったかい池は、はじめて。」
「レン様、これは、池ではなくてお風呂というのですよ。」
「はぁー。私も湯浴みは久しぶり‥。いい温度だ」
「うん、すごく気持ちいいかも。」
「こらこら、浴槽内で泳ぐものではありませんよ。」
「あーっ!‥イレーネスのはお湯に浮いてるね。‥どうしたらそんな風になるの?」
「あら、レン様は、胸が大きくなりたいのですか?」
「うーん、どうだろ。」
「レンよ。あおいは、胸が大きい方が好きかもしれないぞ。イレーネスを見る時、鼻の下が伸びていたからな。」
「あおは、大きい方が好きなの?」
「そうですわね。殿方は大抵の方は、大きめを好むと言われてますわね。‥例外で小さくないと愛せない方もいるようですが。」
「ドワーフ族の女性は、みんな小ぶりで、そういった趣味の輩にアイドル視されているとか。」
「しかし、あおい様は、大きさで女性をみるような方には見えませんわ。ご心配なさらず。」
「うん。」
「そうだな、あいつは、‥男の中でも紳士だ。そんな所が、私は‥(ぶくぶくぶく)ぶはっ」
「あはは、クーデリア真っ赤っかだよ。」
「あらあら、お湯の温度が熱すぎましたか?あまり浸かりすぎると上せてしまいますよ。」
「ち、ちがっ!これは‥。」
「ふふふっ。」
「あはは。」
浴室からは、女性のはしゃぐ声が響く。
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あおいは、いつの間にか、自分の部屋のベッドで寝てしまっていたようだ。お腹いっぱいになれば、眠くなる。人の体は、何故かそうなっている。たらふく食べて横になっていると、そりゃ寝ちゃうよね。
「う、、ううん。」
「・・エ・・マ・・」
寝ぼけているあおいの耳に、何かが聞こえてきた。
部屋の中を見回す。月明かりだけが差し込む薄暗い部屋、誰もいない‥。
「気のせいか‥。」
「レン達は、まだ風呂だろうし…。」
寝てはいたが、まだ、そんなに時間が経っていないという事は感じていた。
「女の子は、お風呂好きだし、まぁ、早めに出てくる事はないか。」
もう一度ベッドに横なる。
「・・コエ・・コ・テイ・・カ」
「やっぱり聞こえる‥。」
何を言っているのかは聞こえないが、誰かの声をはっきり聞いた。
部屋の窓の外を見る。薄暗いが‥誰かが居るようには見えない。
「何処にいる!」
「・・ヲサ・・テ・タ」
声は聞こえるが、何処からというのがぼんやりしている。
部屋の外に出て、声の出処を探す。廊下には誰もいない。ランプ内のロウソクの付いた火が廊下に規則正しく配置され、周囲を照らしている。
階下に向かって、中庭の方を見る。誰もいない‥。
「使用人の声だったのかな…?」
そう思って部屋に戻ろうとすると。
「アナ・・マッテイル・・」
塔の奥の方から、頭に響くような声がはっきり聞こえた。声のする方へ行ってみる。こっちは、浴室がある方じゃないか…。やましい考えは全くなかったが、慎重に声が聞こえた方向へ歩きだす。
浴室の前では、女性が何やらはしゃいでるような声が微かに聞こえる。
「楽しそうだな。‥でも、さっきの声とは明らか違う‥。」
周囲を見る。さらに奥へ進む。
「あれ?…ここって。」
昼間に見た時には、鍵が掛かっていた扉だった。その扉の前に付いた時に、また声がした。
「・・・エガキコエル・・ミツケタ」
「ここに誰かいるのか?」
扉に手をかける。[キィー]という錆びた金属音と共に扉が開いた。
「あ‥開いちゃった。でも、隣の浴槽では女性陣が無防備な姿で風呂に入っているんだ。不審者がいたら事だ。‥確かめよう。」
扉の向こう側は、下に続く螺旋階段のようになっていた。
「地下室?かな。」
廊下に置いてあったランプをつかみ、慎重に下に降りていく。どれくらい降りただろう…。2階か3階か、ただ回転して降りているから長く感じるだけなのか‥。そして、階段の終わりが見えた。階段の一番下には、重そうな扉があった。
力いっぱいその扉を押して、やっと通れるくらいの隙間ができた。
扉の先は、石造りの通路がずっと続いている。先は見えない。
回転して降り続けたせいか、方向感覚が狂っている。どっちに続いている通路なのかわからない。
通路を進む。ただ、まっすぐに続いているように感じる。
「こんなに地下からあの声が聞こえたようには思えないが‥。どうする。戻るか。」
「ア・・コシ・・スコシ・」
やはり直接頭に響くような声。もう少し?とでも言いたげであった。ここで戻るのは、なしだ。警戒しながら足を進める。通路を進むと、途中、途中で個室のような場所があった。鋼鉄でできた扉。中は何もない。
「まるで牢屋にでも使っていたような場所だな‥。」
さらに進む。同じような部屋が続く中、変わった場所に出た。
「お‥!ここは、他と違うんだな。武器庫か何かか?」
武器や鎧が置かれている部屋があった。だが、誰もいない。特に変わった様子もない。
「一体、この通路は、何処まで続いてるんだろう?‥塔の敷地から、だいぶ離れた距離じゃないか?」
「ん?ここは祭壇?教会とはちょっと違うよな?」
通路の突き当たりに、少し広めの空間に大きな祭壇のような物があった。薄暗いから何があるのかよく見えないが、神殿のような雰囲気があった。祭壇に近づいて行く。すると、祭壇の上に何かが飾られているのが見えた。
「光ってるのか‥。」
祭壇の上に、仄かに光を放つ細身の剣が飾られていた。
その剣は、目立った特徴はなく、埃をだいぶ被っている。長い時間、そこにあったと思わせるような状態だった。その剣が仄かに光っている。
「キミヲサガシテタ」
剣を見ていた時、ふたたび頭の中に声が響いた。
「俺を探してただって?」
「サアケイヤクヲシレンヲ」
「契約?試練?なんだそれ‥。」
「フサワシイモノカドウカシレンデ、テヲマエニ」
「おい、何を言ってやがる。手を前に?だと‥。」
仄かに光る剣が宙に浮かび上がり、勢いよくあおいに向かって飛んできた。
驚いて手を出す。剣が、あおいの手に触れた途端、より強く発光し、何も見えなくなる。
…やがて光が収まった。