■5、遭遇
次の目標も決まり、旅の準備に入る。
当面の食料と水の用意だけだが、どれくらいの距離があるのかわからない。日持ちするように魚を干物して保存が効くようにする為、数日かけて用意する事に。
レンは裸足だったので、丈夫そうな木の皮と葉っぱを使い、靴のような物を作る。すぐにボロボロになりそうだが裸足よりはましだろう。
「レン、歩きづらくないか?」
「うん…足に付けるの初めてで変な感覚だけど、大丈夫。」
「とりあえず準備しようと思った物は揃ったし、出発しようと思う。」
洞窟を出て、山にむかって歩き出す。道中はやはり、見た事もない生き物ばかり目に入ってきた。数歩歩けば、何か新種をみつける程度に生き物が存在していた。兎っぽいが、角があったり。ダンゴムシだが巨大だったり。こちらを発見しても襲ってこず、敵意はなさそうだったので、そのまま通り過ぎていった。
崖向こうの森では、全くといって見なかった生物がこんなにもいた事に驚いていた。
「もうちょっとでこの森も抜けれそうだ…。」
「あお、早く来ないとおいてくよー。ふふふっ。」
レンは、疲れた様子は特に見せず楽しそうにしている。現在、山の中腹あたり、もう少し先に行けば、木もまばらになって山肌が見える。高い所では、高い木が生えないのはここでも同じらしい。遠くを見渡せる場所に来た。
「うわー!やっぱ眺め最高だなぁ…。見渡す限りの自然、あの山よりこっちの方が高いんだな。」
崖向こうの森の中にそびえ立つ山をみた。
「今回は、頂上に行く必要もない。手っ取り早く向こう側に行ける道を探そう。」
山の反対側へは、時間こそかかったが、問題なく辿り着けた。反対側も、広範囲が森で覆われており、その先には平原らしき場所が微かに見える。周囲を見渡し、目標となる物を探そうとしていた。その時…。
「!?」
かなり下にある森の入口付近から、何かが飛んできた。普段のあおいなら、気付く事もなく直撃する程の速さ。それを片手で掴んで止めた。
「あぶないなぁ…。なんだこれ、矢か?…思ったより遅くて助かったけど。」
手に掴まれていた矢の矢じりは、金属ではあったが、文化レベルがあまり高い物ではなかった。ひと目でそうだとわかる代物だった。
先ほどの矢の手づかみは、達人の域にまで達していれば、避けるも掴むも不可能ではないが、通常の人の反応速度では不可能な早さだった…。あおいは、自分がその速度に反応出来ていたことに気づかない。
「おい!誰だか知らんがいきなり何すんだ!」
あおいは、急な攻撃に声を上げた。
「あ!…そういや言葉が違うんだったな。そもそも言葉を使う奴かもわかんないし…くそっ!」
森の中に複数の何かが動く気配がある…。レンを追っているという奴らなのか?
「レン、あそこにいるのってまさか…お前を?」
「わからない…。でも、レンを追いかけてきた人達の可能性はあると思う。」
「まだ奴らは今のレンが自分達が追いかけてたレンと同一だとは気づいてないはずだ。」
その言葉が出るくらい、レンの外見は変化していた。
「相手は、ここら辺を縄張りにする盗賊の類の可能性もある。その場合、離れればしつこくは追ってこないかもしれない。」
「だから、一度、ここから離れて大回りで森を抜けるのがいいかも。」
「この下…、黒い感情を持った人でいっぱい…。」
「そんなのわかるのか?まぁ矢を飛ばしてきた時点で友好的な奴らって事はないだろうが。」
「レンなら誰もいない場所わかる…。こっち…。」
「頼もしいな。相手は複数いるのはわかるけど、どれだけいるのかわからない。慎重に行こう。」
レンが頷いて答える。
下の森まではまだ距離があり、降りる道は、通りやすさを選ばなければいくつも選択肢があった。一旦、下から見える場所を離れ、道なき道から下を目指した。太陽の位置から向かうべき方向はわかっていたが、潜伏している奴らは思っているより多かった。
「そっちはダメ。…怖い人たちがいる。真っ直ぐこっちに。」
「その力…。レンは、それを使ってずっと逃げてきてたんだな…。」
「うん…。あの森で動けなくなるまでは一度も捕まらなかったんだよ。この感覚のおかげ。」
森に入ってしばらくレンについていった。見事に誰にも遭遇しなかった。
「止まって…。」
レンが、急に立ち止まって言う。
「少し離れてるけど。…囲まれてる。向こうは気づいてないけど、どっちに向かってもどこかでぶつかっちゃう…。」
「こいつらは、何者なんだ…?こうまでして何を探してる。」
「このまま戻ってもこの包囲を抜けれないと思う…。一箇所だけ気配が少ない場所があるけど、あお、どうしよう?」
「気配が少ない場所って…人が少ないって事だよな?」
「…たぶん2.3人だと思う。そこならなんとかすれば抜けれるかも。」
(3人程度ならやりようによっては何とかなるかも。)
「よし、その場所に案内してくれ。その後は、出来るだけ見つからないようにそこを抜けよう。」
「うん。」
森の中、河沿いの一角に森が開けた場所があり、そこにたどり着いた。他の場所には約十数名ずつ転々と気配があったが、この場所だけは3名程だという。
「いた…。あの騎士風の奴らを出し抜けばいいって事か。……にしても…なんだあれ。この時代に剣と鎧?…何かの冗談か?」
向こうはこちらにはまだ気づいていないが、遠目にも腕に自信があるという風格があった。3人とも身につけているものは高級そうな武具である。
「本来なら、このまま暗くなるまで待つのがセオリーなんだろうけど…。まだ日が浅い、このまま待って、下手に他の奴らが集まってきたらまずいし、すぐにでも突破しよう。」
「うん、そうだね。でもあの人達、すごく強そうだし慎重に行こう。」
「ちょっと素通りするだけだし…、気づかれても何もされないかもしれない。普通に歩いて向こう側に行こうか。」
「…わかったわ。」
そういってレンの手を握り、森から少しづつ歩き出す。1歩、2歩と歩みを進める。…向こうは気づいていない。あとちょっとで反対の森に入れるという所で…。
「危ない!?」
突然ナイフが飛んでくる。すんでのところであおいが掴む。
「クソッ!やっぱ素通りさせてはくれないか…。レン走るぞ。」
「うん!」
後ろの方で何かを叫ぶ男の声がした。複数の気配が動く、おそらくここにいた奴らが追ってきているのだろう。必死に走る。走る。
「はぁ…はぁ…。レン、奴らは来てるか?」
「…うん。2人は、後ろから追って来てるみたい…。後一人はわからない。」
もう少し先に行けば、森を抜けるという時、
「あお…、すごい速度で一人、向こうから来る。」
レンが指をさした方向は、今自分達が向かっている方向だった…。挟まれた。
「はぁ…はぁ…。前からくる奴を倒すしかないか。」
「あお…。」
先ほど掴んだナイフを握り締める。後ろからの2人はまだ来ない。
そして、前方から人影が姿を見せた。
姿を見せたのは、一人の少女だった。
歳は18〜20といったところか、若そうだ…。髪は肩くらいまでの金髪のセミロング、軽装の鎧、装飾の施された長剣、動きから相当場馴れしてるようだ。
少女が、剣をあおいとレンに突きつけて言葉を発する。
「あどのみなん」
「あかましか ほなどんなくす とうふぃあのどひかす」
「レン、あいつなんて言ってんだ?」
「何者だ?さっきナイフを掴んだのはどっちか?って言ってる。」
さっきの場所にいた3人のうちの一人みたいだ。どうやって先回りしたのか…。
「俺達は、ただの遭難者。近くの町に向かっている。あとナイフを掴んだのは俺だって伝えて。」
レンが頷く。
「あどんなくすたげらかふふぃあん くいにちゃもぬかきちゃ あやさなぬおそなだた」
「はははっ!あかてもとをふぃあながまあしかくおす あにおゆうた」
笑いながら、少女が剣を構える。
「なんだなんだ?レン、あいつなんか剣を構えたけど、何て言ったんだ?」
「…彼女は、さっきナイフを止めたあおと戦いたいみたい。」
「うそだろ!やる気かよ。」
「はぁーーー!!」
叫びとともに彼女がつっこんでくる。
「レン、危ないから少し離れて。」
彼女の凄まじい速さの斬撃をすんでのところでしゃがんでかわす。あおいの後ろにあった木が、豆腐でも切ったかのように斬られて倒れる。
「うわっ!?なんて威力してやがるんだ。」
「持ってる武器でまともに受けてたら、真っ二つだったな。」
初撃をかわされ、少し驚いている様子の少女が、何やら呟いている。自分の今の攻撃が、かわされるとは思ってもいなかったのだろうか。
「うそろか うそろか うそろか」
少女があおいを睨みつける。
「はぁあああーー!!」
彼女が、再度叫びながら突っ込んでくる。
突っ込んでくる途中、ナイフを投げる動作をいれた。
あおいが、飛んでくるナイフに気づいて、弾く。同時に少女は、目の前で剣を振り下ろす。あおいは上体を逸らし、剣の軌道から外れようとする。少しだけ体をかすったが、軽傷ですんだ。しかし、次の瞬間、少女からの体当たりを受けて怯む。さらに蹴られて後方に飛ばされる。あおいは、地面に倒れこんだ。そこに少女が、なおも追撃の為、飛び込んできた。あおいは、体を転がし追撃を逃れようとした。しかし、少女の剣が肩に突き刺さる。
「ぐぅ…。うわぁあああ。」
痛みに声が上がる。
少女が、剣を再び振り上げようとしたタイミングで、あおいが少女を蹴り飛ばす。少女は、空中に飛ばされながら、上体を直して着地。あおいに蹴られたお腹を押さえている。
「う……いてぇ。」
あおいの肩からは、赤いものが吹き出している。あの一瞬で、あれだけの攻撃をしてきた少女はすごい。そして、それを致命傷にしなかったあおいも異常だった。あおいは、もちろんこういった戦いの経験は皆無だったし、そういった訓練を受けていたわけではなかった。自分でも不思議な感覚でそれらをいなしていたのだ。
「…あお。」
泣きそうな声で、レンが名前を呼ぶ。
少女は、痛みで体制を立て直せずにいる。そこにあおいが掴みかかった。少女は、速さはあったが、力はなかった。掴みかかってしまえば、力のない女性では、振りほどく事ができなかった。そのまま剣をもつ片手を封じ、もう一方の手も抑えた。上手く気絶させる方法があればよかったが、あおいは、その方法を知らない。勢いよく腹部に打撃を入れてみる。少女が痛がるだけで気絶はしないようだ。
「うっ…えさな!」
少女が何かを言っている。
「レン…、こっちに来て彼女の武器を全部とってくれ。後、俺の荷物から…。」
後ろから追ってきているはずの2人は、まだ来ていないが、もたもたしていたら補足されてしまうだろう。今は、捕まえている少女を無力化させる方法が思いつかなかった。
仕方なく一緒に連れていく事にした。自分の服を脱ぎ、それを少女の後ろ手に組んだ両腕に縛る。抵抗はされたが、問題なく拘束できそうだ。
「レン、コイツの武器を持ってくれ。早くここを離れよう。」
「うん、その子はどうするの?」
「ここに放置して行きたい…。けど後ろの2人と合流されて、また囲まれると厄介だ、このまま連れて行こう。」
殺されそうになっていたが、殺す事は最初から頭になかった。
「わかったわ。」
「後ろから追いかけてきてる2人は、今どの辺りかわかるか?」
「うーん…。向こう側にいる。こっちに近づいて来てる。でもまだ見つかってないみたい。」
「よし、あっちの平原にでると直ぐに見つかるから、森の淵に沿って移動しよう。」
「んぐ…ん…んー。」
捕縛した少女には、猿轡のように木をくわえさせ、包帯を巻きつけて声が出せないようにしておいた。少女を担いで移動する為、移動速度は遅くなる。その分慎重に移動をしていく。
「あっちいのこだ おりしゅきしゃのと」
遠くの方で、男が声を上げているのが聞こえる。レンの能力によって見つからないように移動できたため、気配が遠のいていくのを確かめられた。
「うっ…はぁ、はぁ。」
肩の傷から血が流れて、だんだん感覚がなくなっていく。少女と戦闘した場所から少し離れた場所に、隠れるにはうって付けのくぼみを発見した。そこでしばらく潜む。
捕縛した少女も、最初こそ暴れたが、暴れる度に押さえつけていると、だんだん抵抗せず歩いてくれるようになっていた。
「あお…。痛そう…。」
肩を見つめてレンが触れる。
「ちょっと血が出すぎたかも。左手の力が入らない…。」
レンが、あおいの肩に触れたまま目を閉じて何かを呟いた。少しだけ手が光っている気がした。すると肩の痛みが、ふっとなくなった。あおいの左手に感覚が戻ってくる。
「…!?レン、今何をしたの?」
左肩を見てみる。
流れ出した血はそのままだが、それ以上に流れ出す様子はない。
痛みもない。動かしてみる…傷が完全に塞がっていた。
「…!?ん…ん…!」
拘束された少女も、びっくりしているように目を見開いている。
「レンが、傷を治したよ。」
「なおした…って…。」
「治癒魔法って言われる力なんだけど、レンにはそれがあるの。」
「魔法…。びっくりしたけど助かった。レンありがとう」
いきなり魔法と言われて、何もわからなくなって考えるのをやめた。
「うん。あおの為だもん、あれくらいなら大丈夫。」
傷が癒えたならこの場に潜む意味もない。少し休憩した後、その場を離れた。レンの探知能力、癒しの魔法…、この子は特別な何かを秘めていた。
ある程度進んだ後、平原に道のようなものが出てきた。通常ならこの道を通って街に向かうのだろう。方向はあってる…。しかし、捕縛した少女をつれて、他の人の往来がありそうな道を行くのはリスクがあった。
どれくらいの規模で発展している街かはわからないが、街への門や税関のようなものがある可能性もある。拘束している少女の仲間が居る可能性もあるため、道から外れて進む事にした。
「レン…、気配はわかるか?」
「うん。近くにはいない。けど、森の方ではいろいろ動き回ってるみたい。こっち側は大丈夫そう。」
平原といっても、背の高い草むらや大きな岩が転々とあり、隠れながら進むのには十分であった為、隠れながら道に沿って進んでいった。
街の近くに到着する頃には日が落ちていたが、日中どうどうと歩ける状態じゃなかったので都合はよかった。
街は、石畳の道路で舗装されており、所々に、街灯がわりに松明が掲げられていた。夜でも活動ができる程度の光源はあった。レンガ、石などで組まれた壁の建物や、木製の建物が立ち並ぶ、まさに中世のヨーロッパの街並みという感じだった。
その街の様子を見るだけで、ここは日本でもアジアの国でもない事がはっきりとわかった。
「街に入る前に、こいつから情報を聞き出せるだけ聞き出しておこうと思う。レン、協力してくれないか。」
街から少し離れた場所に、人の気配がない小屋があったので、一旦そこに入った。中は、荷物置き場だろうか、農機具などが並べられている。
「お!これは使える…。持ち主には悪いが、少し貰っていくよ。」
そう言って、棚にあったロープと布に手を伸ばす。目の前にいる少女の手と足をロープで縛り直し、建物の柱に縛り付ける。少女の手に巻きつけていた自分の服を回収し、着直した。
「落ち着いた所で…レン、まず、こいつがあの森にいた目的を聞き出して欲しい。」
「わかった。聞いてみるね。」
レンの返事を聞いた後、柱に縛り付けた少女の口から包帯を取る。
「ごほっ…ごほっ…。いろむする すこすおけだむしいあっちあらましか」
少女は、むせながら睨みつける。少しだけ水を飲ませてやる。
「えあまのにしゃたわ、れん。あへあまのなたな?」
レンが、少女に向かって質問を開始する。
「えあまのにしゃたわ?うおらぢいあーま。しゃたわ、くーでりあ。くーでりあ・うぇいんず なでぃしか[ねいけす]うおんおだ。」
あおいにはわからない言葉で少女が素直に答え出す。
「くーでりあえていか…あてぃらをそんえずそちなたなあひちゃちしゃたわ あひけつこめなたな」
「いけつこもにしゃたわ?はは、おとかてりしゃ。おとこねだまちしぇまたらきおゆたごことおにっちょす。」
「あひけつこまちいのこさ?うおしぇどにあなへでかわちいのこさあだた?」
「うらいぇていしょうおらぢい…あことかんおさだんあん。あちかぎじしんなぢしかがれれわ。おちぬおゆれあまくすとぅのがろーど。」
「のがろーど…。」
神妙な顔をしてレンが呟くが、あおいには何なのかわからない。
「レン、こいつは何て言ってるんだ?何かわかったのか?」
「うん…。彼女の名前は、クーデリア・ウェインズ。騎士団の団長。団員でノガロードを捕獲するためにあの森を包囲していたみたい。」
「…ノガロード?なんだそれ?」
「世界で唯一の存在…。」
「世界で唯一って。」
「詳しくは、私も知らないの…。」
レンは頭を抱えて大きく首を振った。
「あだんなん…うりえちしゃなほうぃな ねだぼときあならかをにみあらきっかさ。」
クーデリアが割って入ってきた。しかし、その言葉は無視して話をする。
「こいつらの目的が、俺達じゃなかったのなら、これ以上拘束しておく意味もないんだよな?開放した瞬間、襲ってこなければ、だけど…。これ以上、俺達を追わないって約束するなら、明日、解放するって、こいつに伝えてくれるか?」
「わかったわ。」
「くーでりああらにあなをうおじえろか うさみしゅおひあけどこか?」
「うあかたとつすたいおゆすたひしゃたわ いあべるしねったか」
「クーデリアが、勝手にしろって。」
「それって、もう俺達を追わないって事でいいのか?」
「うん…、多分そういう事だと思うよ。」
何とも歯切れの悪い答えだったが、ここは納得しておこう。
クーデリアとの話し合いが済んだので、ひと安心といったところか。
「クーデリアを攫ってきてしまっているから、明日には騎士団員が、街に溢れかえる可能性もある。夜の内に街に行っておくか。」
先ほど見つけた布を被り、マント替わりにして、レンの目立つ髪の毛を隠すように羽織らせる。あおいも同じように被り、街に向かって歩く。クーデリアはしっかりと縛ってあるので問題ないだろう。
街には、門らしい門はあったが、門番はいなかった。門には、街の名前らしき文字が書いた看板があった。
「レン、あの看板なんて書いてあるかわかるか?」
「ごめんなさい。言葉はわかるけど、文字はわからないの…。」
「そっか。まぁ仕方ない。」
街は、夜でも所々で賑わっていた。騎士団の奴らが居るかもと、最初、警戒していたが、その心配は杞憂だった。すこし街中を散策した後、市場のような場所に向かった。レンが話をしてくれ、この街の名前が[辺境の街ダラティア]だとわかった。まずは、クーデリアから奪った武器を金に換えようと武具を扱っている所に持っていく。流石に飾りのついた長剣は足がつきそうだったので出さなかったが、投げナイフ10本セットは良い物だったらしく、金貨10枚で買いとってくれた。相場はよくわからなかったが、値がついたので迷わず売り払った。
その足で、レンの革の靴、上着、腰巻、下着などなど買い揃えた。やっとレンにもまともな服が揃えられた。
あおいも、目立たないよう現地の人と変わらないような服装と、フードのついたマント、革の手袋をそれぞれ2セットと、日用品や食料を買い揃えた。出費は、全部合わせても金貨1枚以内で済んだ。
売ったナイフセットが、いかに高級な物だったのかが伺えた。
一通り買い物を終えた後、クーデリアを捕らえている小屋へと戻った。
「レン、俺は少し外で待ってるから、先に入って、買った服に着替えなよ。」
そう言って、荷物を渡して外で待つ。月が大きい…。そういえば遭難してから月なんて見てなかったな。少し経過して扉が開かれる。
「あお、着替え終わったよ。せっかく買ってきたしご飯にしよう。」
「おう、そうしようか。」
中に戻ると、先ほど買い揃えた服に着替えたレンを見た。青い髪に、体のラインがしっかりとわかる動きやすそうな服装だ。胸の部分だけを隠す感じで、紐を首と背中を通して固定されている胸当て、スリットの入った腰巻、踊り子風の白と黒の2トーンの服に、革のブーツと手袋、とても似合っている。やはり、レンはスタイルがいい。素直な感想が自然と口から出た
「その服、似合ってるじゃん。」
「ふふふっ…ありがと。」
顔を赤くしてレンがそういう。
「明日は、日が昇る前にはここを出発した方がいいな。クーデリアとはここでお別れだ。」
そう言って部屋の隅で横になる。そこにレンが飛び込んできた。
「うわ!お前なぁ…。服が新しくなったからってはしゃぎすぎだ。」
「ふふふっ。だってちゃんとした服着るの初めてなんだもん。」
「初めてって…。それでよく着方がわかったな。」
「あー!最初は、適当につけてたんだけど…。クーデリアが違う違うって教えてくれたの。下着も履いてるよ。」
そう言って下の服をまくり上げようとする。
「やめなさい。…そっか、俺は話せないからあいつの事よくわからんが、案外いい奴なのかもな。いきなり襲ってこなければ、だけど。」
クーデリアを見る。大人しく寝入っているように見える。こうやってると可愛い女の子って感じに見えるんだが…。
「そういえば、さっき着替えてる時、クーデリアが、あの飾りの剣だけは返してくれって言ってたよ、あれだけは大事な物だからって…。」
「剣か…、返したとたんブスリじゃ割に合わないからなぁ。レンは、あいつの事どう思う?返しても問題ないと思うか?」
「クーデリアと話していて、黒い感情が全くなかったの。こっちを攻撃しようとか、何か悪い事しようとしてる人って、そういう感情があるんだけど、それがあの子にはなかったし、私は大丈夫だと思うよ。」
「よし、まぁ、レンがそう言うなら大丈夫だろ。大事な物っていうくらいだし、返さなかったらその方が逆に襲われかねないしな。」
今日の一日だけでもいろいろあったし、疲れからか、気を抜いたとたん。あおいは、眠気に襲われた。
そのまま夢の中へ。
以下が、現地の言葉でレンとクーデリアが話していた内容です。
訳:レン「ただの遭難者です。近くの街に向かっている。ナイフを掴んだのは彼。」
訳:クーデリア「はははっ!そうかやはり貴様があのナイフを止めたか。では手合わせ願おうか。」
訳:クーデリア「ごほ・・ごほ・・貴様ら、いったいいつまで私を拘束するつもりだ。」
訳:レン「私の名前は、レン。あなたの名前は?」
訳:クーデリア「私の名前?まぁいいだろう。私はクーデリア。クーデリア・ウェインズ 騎士団[赤炎]の団長だ。」
訳:レン「クーデリア聞いて・・私たちはあなたに突然襲われた。あなたの目的が知りたいの。」
訳:クーデリア「私の目的だと?・・はは知れたこと。そっちの男が強そうだから腕試しをしたまでよ。まぁ負けて捕まったわけだが。」
訳:レン「では、あそこにいた目的は?ただあそこに理由もなくいたわけではないんでしょう?」
訳:クーデリア「何だそんなことか・・いいだろう教えてやろう。あの森にいた理由は、我らの騎士団に上から指示が来たからだ。ドラゴンを包囲して捕まえるようにとな。」
訳:レン「ドラゴン・・。」
訳:クーデリア「何だ・・さっきから意味のわからん言葉を使っているが何を話している。」
訳:レン「クーデリアこれ以上私たちを追わないなら、明日には開放してもいいっていってるわ、どうなの?」
訳:クーデリア「私は強いやつと戦いたいだけだ、勝手にすればよい。」
まぁ・・なくても意味は大体分かるかな?