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■2、生存確認

「うっ……。痛い…。」


 全身を打ち付けたような痛みの中、目を覚ます。周囲を見回す…。自分以外に動くものはいない。…というか、何が起きたのか全くわからない。


「確か…。飛行機に乗って…、黒い物に巻き込まれて…。はっ!」


 俺は飛行機に乗っていた。…今、なんで地上にいるんだ?体が痛い。飛行機が墜落して、全身を打ち付けながらも助かったのか…?


 周囲には、墜落してきたであろう機体も、同じ飛行機に乗っていた人々も、何も見えない。見えるのは、きれいな砂浜と見た事もない森?その砂浜に自分が横たわっていたのだ…。驚くことに、打ち身以外の外傷が全くなかった。

 暫く動けずにいたが、他の搭乗者の事も心配だったので、痛みを我慢して動き出そうとしていた。


「ここは何処だ?」


 返事をする者がいないが、声を出して疑問を投げかける。


「あの竜巻に巻き込まれて落ちたのだとしたら、日本の何処か、か…。」

「そんな事より、他の生存者を探さないと…。それにしても落ちた機体は何処だろう?」


 まずは、砂浜に沿って小高い丘のような場所に登る。

 見える範囲に、残骸らしき物が発見できない。


「機体がバラバラになった時、俺だけベルトが外れて飛ばされてしまったという事なのだろうか…。」


「誰かーいませんか?」


 大きな声で呼びかけてみる。…しかし、誰も答えてはくれない。

 何度か繰り返したが、結果は同じだった。


 ふと、自分の背中に荷物があるのに気づいた。搭乗の際に、飲み物と少しの食べ物を機内に持ち込んでいたものだ。


「これは一緒にきてくれていたのか、…よかった。」


 早急に、飲み物と食べ物を探す必要はないので、ひとまず人探しを続行した。


 海岸沿いに沿って、何か手がかりはないかと探索する。見た事もない生物は見つけたが、気にもとめずに捜索を続行。何の手がかりも掴めないまま、時間だけが過ぎていく。


 荷物の中にあった手帳に、地形などを簡単にマッピングをしながら移動したが、森の方には入らなかったため、よく地形が掴めなかった。


 砂浜は、100m程の幅があり、その先には樹木が生い茂っていた。


 こういう時、森に入ると野生の動物に遭遇する危険がある。と考えて躊躇した。

 まずは、見晴らしの良い砂浜を探索する事から始める。さんざん探したが、人の痕跡どころか見知った物すら見つからないまま、疲労だけが蓄積する。


「はぁはぁ、…ちょっと休憩。」


 今が何時くらいかわからないが、太陽は、まだ一番高い場所にはないように思う。

 …まだ午前中くらいか。


 手元にあった飲み物を少し口に含み、日陰で休憩しながら考える。


 このまま何も見つからなければ一人でサバイバルか…。などと考える。

 自分が無事だったので、他の人達も生きてるという気はしていたが、不安が大きくなる。


「気づいてもらえるように火を起こした方がいいのか?…それとももう暫く探索するか。」


 後者を選んだ。…もしも傷ついてる人がいたら早めに見つけてあげた方が良いという考えからだ。その日、半日かけて探索を行ったが、同じように漂着している物、人は見つからなかった。



 だんだんと日が沈み始め、1本の木の近くに簡易的な休憩所を作った。


 荷物の中にライターがあった為、火を起こすのは楽だった。しかし、建物を作るための木を切り出してくるのが大変だった。そこら辺に落ちている尖った石を加工して、何とか木を削れるようにしたが、1本の枝を落とすのにも体力が結構いる。建物の骨組みにするために、ある程度の強度が必要だったので、妥協せずに太めの枝を選んだのは失敗だったか…。疲労困憊になりながら、仮設の休憩所を作る。


 屋根や壁には、大きめの葉っぱを何枚か重ね、ひも状の蔓を見つけてそれで縛った。森の奥に入らなかったが、それでも探していた材料に近いものはすぐに見つける事ができた。


 目覚めてから、1度も人と会話していなかったので、急に寂しさが胸をおそう。


「林道先輩やゆい達は、どうしてるんだろうか…。」


 起こした火を見つめながら、シンミリとする。


「近くに人がいれば、炎の灯りを見つけてくれるはず…。」

「獣がいたとしても、火があれば近くには来ないはずだろう…。」


 暖かな火を見つめる内に、ウトウトし始める…。


「今日はもう寝るか…。」


 太陽が沈みきり、辺りは、月明かりだけが砂浜を照らす…。

 この暗さの中を動くメリットはない。


 遠くに見える山の方からは、時折、獣のような声が響いていたが、離れた場所であった為、警戒の必要はないと判断した。今日は何の成果もないまま、1日が終わった。


 寝る前に焚き火にキャンプファイヤーのような枠組みを作った。火が出来るだけ長時間持つようにしたのだ…。その後、仮設の休憩所にて横になり、そのまま眠りについた。


「明日は、森に入ってみるか。」



 軽くつぶやきながら、夢の中へ。



□□ □□ □□



「…!?」



 鼻先に水滴が落ちてきて、ビックリして目が覚める。


 朝日が差込む。周囲には、かすかに霧がかかっている。空には、雲がほとんどない。今日も晴れていい天気になりそうだ。昨日セットした焚き火は、朝方まで火が点っていたのだろうか、少しだけ煙が立ち上ってはいるが、火は完全に消えていた。


「昨日一晩中、炎が燃えていたにも関わらず、誰一人としてここを見つけてはくれなかった…この近くに人はいないのかもしれないな…。」



 そう結論づけて、砂浜を見渡す…。漂着している人、物は今日もないようだ。

 ここを離れた後で、遅れて漂着してくる人がいるかもしれなかったので、砂浜に大きく日本語でメッセージを残した。


「これで、誰かが来たら見つけてくれる。…今日は、このまま森の中に入って、ここがどういった場所なのか把握しておかなければ。」


 遠くに見える、大きな山に向かって行けば、何かしら発見出来るだろう。何も見つからなかったとしても、この辺りの全域が見えるかもしれない。次の行動の選択肢が増えると。そう考えた。


 森に入る前に、武器になりそうな物を数点作ってから入る事にした。石斧、木の槍、石のナイフと原始的な物ばかりだが、何も無いよりは安心だ。

 昨日の焚き火の灰を、手足に塗って虫除けとしたが、効果があるのかは不明。


「よし準備も出来た。まずは、この地域を見渡せるあの山へ行こう。」


 そして、森に入った。見た事もない生き物が、いろいろ目に入ってくるが、それらは、特にこちらに害を加える気配がなさそうだったから特に気にせず前進した。森なんて今までそんなに入ってこなかった為、そういうものだと思って気にもとめなかった。進んできた道中、木に目印をつけながら進む。こうすれば、引き返す際に迷わないだろうと考えて。



 森の中は相当入り組んでおり、歩きづらい。さっきまで生き物が沢山いた森の中と、今入った森とで、空気の違いを感じていた。…というか、息苦しい感じがしていた。それは、森の奥に入っていくに連れて強くなり、同時に、生き物の気配もしなくなっていた。不気味な感じだったが、特にそれ以外に自分に異常がなかったので気のせいなのだと考え、そのまま先へ進んだ…。


 あまり気にせず、上り坂をどんどんと進んでいく。


「…にしても何だこの森は。…見た事ない種類の木ばかりだけど、本当に日本か?」

「はぁはぁ。…少し息が切れてきた。」


 山登りなんて今までしてこなかったから、体力面に少し不安がある。しかし、明るいうちに見渡せる場所まで到着しておかないと、という気持ちが強かった事もあって休む事なく足を進ませた。

 道中、巨大な食中植物っぽいのやら、動く岩のような生き物を見つけたが、駆け足でそれらを無視して行く。ある程度、登ってきた所で、山の中腹辺りから下の景色を見下ろしてみる。


「うわー!随分、高い所まで来たなぁ…。頂上までは、まだありそうだけど。」


 遠くに見える水平線、海の表面では、時折、何か大きな生き物が跳ねているのを確認できたが、それは人ではなかった。探している飛行機の残骸らしき物は、見えない。眼下に広がる森にも、特に気になる場所は見受けられなかった。その森の上空には、遠方で鳥のような生き物が飛んでいるのが見えた。


 一応、見える範囲の簡単な地図を作成しておく。

 昨日作った浜辺の地図から、そう変化のない物だが、念のため。


 この山に来るまでに、水源や何か食べれそうな物を探しながら来たが、特に何も見つけられずにいた。荷物の中にある食べ物で暫くはもちそうだが、それらが無くなった時のため、早めに食べ物を見つけておきたい気持ちがあった。


 さらに、山の上を目指して歩みを進める。

 高地独特、というのか高い樹木がなくなって、草原のような場所に出た。高い場所にあるにも関わらず、まっ平らな平原に違和感をおぼえつつ歩みを進めていた。すると…


[バサーッバサーッ]と大きな音を立てて近づいて来る何か。そこであおいは、初めて自分より大きな生き物を目撃する事となった。


「な…なんだこいつ!!」


 それは、鳥というにはあまりに大きくて歪だった。まるで恐竜のような鋭い爪や牙があり、それが肉食の生き物である事は、確認の必要もない程、明らかだった。

 向こうは、まだこちらに気づいていない…。この平原は、奴の巣なのかもしれない。手持ちの武器では、あれに勝てるビジョンが全く浮かばない。見つからないよう慎重に上への道を探す事にした。


「ふぅー。…今の怪物は何だったんだ。突然変異?それにしてもデカすぎだ!!あんなの発見したなんて言ったら、大きなニュースになるんじゃ…。」


 ゆっくりと山を上って行くと、そろそろ頂上だという地点で、半日程が経過していた。山の頂には、特に何もなく、ゴロゴロとしたごつい岩が散乱していた。

 今登ってきた道と反対方面の景色を確認してみる。眼下には、風によって流されて行く雲の海が広がっていた。


「おおー!すごい絶景!!…雲の上に浮かぶとはまさにこの事だな。」


 ベタなセリフを呟きながら、目印になりそうな所を探す。反対側にもやはり同じように森が広がっていた。しかし、遠くに森の切れ目を見つけた。森より先は、崖なのか、ストンと何もなくなっていた。いや、一箇所だけ通れそうな場所があった。見た光景を念入りにマッピングし、そこへ辿り着けるように記した。


 森の中央部分には、湖らしき物があった。


「これで、飲み水の心配はひとまずしなくても良くなるかな?」



 そこ以外の周囲も、ぐるりと見回してみたが、人の痕跡がある物は、何一つ見つける事が出来なかった。今あおいがいる山は、ぐるりと森に囲まれており、その森の周りを渓谷と海岸が挟んでいるような構図になっていた。


 渓谷の先には、また山がそびえ立っており、その先を見る事は出来なかった。

 見える範囲に飛行機が墜落していれば、ひと目でそこだと分かりそうなものだし、この近くには落ちていないという事だろう。


「何にしても、ここまで登ってきた甲斐はあったという事か。」


 漂着した浜辺の方へ戻る理由はなかった。


 そのまま、湖が見えた場所に向かう事に決めて山を下る。先ほどの化物鳥に見つからないように慎重に降りる。山の麓までは、難なくおりてこれた。登りに比べて、下りは軽快で、一気に降りきっていた。


 樹木が生い茂る森に再び入る。すると、また空気が変わったような違和感を感じていた…。山の空気は薄いから、気圧でも変わったのかな?などと考え、特に気にせずに森を進んでいく。


 森の中では、生き物にまったく遭遇する事なく、湖まで着く事が出来た。到着すると、ちょうど太陽が沈み、空が色あせてきていた。湖の水を、手ですくって飲んでみる。本当なら、飲み慣れていない生水は、あまり飲まない方がいいのだが、この際仕方ない。湖の水は、とても澄みきっており、飲むのは特に問題がなさそうだったので、ごくごくと浴びるように飲んだ。


「ごくごく。…はぁーー!うまい!」


 湖の底は、湧水の発生地点だったらしく、透明度が高く、とても綺麗な水だった。この先の事も考えて飲みきって空になっていたボトルに、その湖の水を汲んで荷物へしまった。


「今日は、この場所で野宿でいいか…。特に危なそうな雰囲気はないし。」


 前日のように暗くなる前に仮設の建物を建てている余裕はない。そのまま、焚き火の準備だけをして火をおこした。そして、荷物に入っていた最後の食べ物を食べる。山の向こう側の森と違い、こちら側は獣の声が全くしない。静かすぎるその森が、より不安を掻き立てていた。


「まぁ、獣がいないって事は、寝込みを襲われる事がないという事だろう…。」



 遭難から約2日。

 未だに、何も手がかりが見つかっていない事に苛立ちを覚えつつも、焦りは禁物だと心に言い聞かせていた。


この話は主人公のサバイバル話です。寂しい。

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