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■1、はじまりは突然

 俺の名前は、霧嶋(きりしま)あおい。ごく普通の社会人。

 見た目も普通。性格も普通。一般人をそのまま具現化したような存在。

 今の会社に入ってようやく1年が経過し、会社にも慣れてきた頃である。

 その事件が…いや出来事が起こった。

 



「はぁ~あ…。」


 いつもの見慣れた天井、目を覚ました青年があくびをして起き出す。


「いたっ!うわー、気持ち悪い。」


 飲みすぎたせいか、ものすごく頭が痛い。普段、あまり酒なんて飲まないのに、昨日は浴びるように飲んでしまった。というのも、昨日仕事が終わった後に、彼女と食事に行って、その後、別れを告げられた。


「うっ…ううっ……。」

 

 思い出して、また涙が出てきた。彼女とは5年間付き合っていて、このまま何もなければ最後まで行くはずだった…。少し情緒不安になっていた。そのまま何もかも忘れて傷心のままベッドで寝ていられたら良かったのだが…。自分は社会人。仕事があるのだ。


 気持ちを切り替えて出かける準備を済ませた。


 彼女が別れを告げた理由は自分でも理解していた。5年という長くも短い時間付き合っていて、最初の1、2年は結婚も考えていた。しかし…。

 ずるずると付き合っていく中で、彼女と付き合っていく事に違和感を覚えていた。彼女が嫌いになったわけではない。彼女と自分の価値観が、生活リズムが、食い違っている事に気がついたのだ。そのまま彼女から別れを告げられなければ、いずれこっちから別れ話をする事になっていただろう…。

 それでも、心構えもなしに突然に別れを告げられてしまい。いづれこうなる事だと分かっていた事だとはいえ、一度出来たつながりを切る事は、心を刃物で切り裂かれるような感覚になる。


 物思いにふけっている最中に、無意識で朝いつもしている習慣を一通り終えていた。顔を洗って歯を磨き、コーヒーとトーストを準備。そして、目玉焼きを焼く、それを口にほおばりながらニュースを見る。


[本日の天気予報は晴れ。午後から少し雲が出てきますが平年より暖かくなるでしょう。]


 ニュースでは、今日はいい天気になりそうだ。俺の気分は最悪だが、天気くらいはいい方が気分も晴れる。そうこうしている内に二日酔いもましになっていき、仕事のために家を出た。


・・・・・・・・・・


 朝の満員電車に乗り込み、目的地へ、職場は、少し山奥にある工場で、そこで新製品の開発を行っている。まだ新人なので会社のプロジェクトでは下っ端としてこき使われているだけだが、それなりにやりがいは感じている。


「林道さん、おはようございます。」

「おはよう!今日も早いね。感心感心。…んっ!霧嶋くん今日はなんだか顔色よくないね?大丈夫?」

 

 先に出社していた先輩に、すぐにいつもと違う事に気づかれてしまった。

 そんなに顔色悪かったのか…


 この先輩(林道 学(りんどう まなぶ)さん)は、面倒見のいい人で、よく仕事上で助けられる。


「昨日、飲みすぎてしまいまして。少し二日酔い気味なだけです。ご心配をおかけしてすみません。」


「君が二日酔いなんて珍しいね。まぁ、無理しないように。…あっ、そうそう!来週の事なんだけど、新しく発見された染料の見学のために現地に行くんだけど、今後のために新人の君も一緒にと言われているんだ。ちょっと遠出になるけど、研修は大丈夫かい?」


「遠出ですか…。いえ、仕事なんで文句なんて言ってられませんよね。是非、ご一緒させてください。」


 遠出という言葉に嫌な気持ちはあったが、彼女とも別れたし、何の問題もなかったので文句は言ってられまいと了承した。


「では、霧嶋くんは、参加という事で上には通しておくね。」


 そんなやりとりの後、同僚が次々に出社してきて、普段通り雑務をこなして、時間が経過していく。




 昼休みになり、いつもの同期と食堂へ向かう


「やっぱりうちの受付ってレベルたっかいよなぁ?」


 同期の(上野 誠(うえの まこと))がふとピンク色の会話を始める


「なんだよレベルって」


「レベルっていったらお前可愛さのレベルしかないっしょ!?あー!みり先輩って誰かと付き合ってたりすんのかなぁ?ぼん・きゅ・ぼんだぜお前も知ってるだろ?」

「まぁ確かにすごくスタイルはいいし…。性格も清楚で、火の付け所がないってのは、ああいう人を言うんだろうけど…。」

「ああー!そうかそうか…。お前には可愛い彼女がいたよなぁ。そっか、悪い悪い。一途なあおい君は、自分の彼女しか見えてないか。はっはっは!」


「……。」


「ん?どったの…なによ湿気たツラして?」

「……。…別れた(ボソ)」


「えっ?」

「だから別れたんだって!」

「はい?…おいおい、なんでそういう事になるの…? だってあんなに仲良かったじゃん?」


「昨日彼女から別れようって言われたんだよ…。このまま一緒にいてもお互いの為にならないって…。」


 彼女との関係は今回の件がなくてもいづれ終わっていただろう事は伝えずにしまった


「そ…そっか。まさかお前らが別れるなんてなぁ。水臭いぞあおい、なんですぐにいわねえんだよ。」

「悪い…昨日の今日だし、俺自身心の整理がまだ出来てなくてさ。」



「こんにちは。…ここ空いてるかしら?」


聞きなれた女性の声がした。


「み、みり先輩…!?もも、もちろん空いておりますとも、いつでもウェルカムです。ど、どど、どういった御用でございましょうか?」


 明らかに動揺した誠のキョドリ様。


「ふふふっ。用という用事ではないのだけれど…。今日、ちょっとゆいちゃんの様子がおかしかったから少し気になってね。本人に聞いてみたのだけれど要領を得なくて…。霧嶋君なら何か知ってるかと思って。」


 そういって空いた席に座った。


 ゆい(橋田(はしだ) ゆい)とは俺の元彼女(昨日別れた)ゆいもみり先輩(高塚 実里(たかつか みり))も会社重役の秘書や受付を担当しているため仲がいい、俺と分かれて様子がおかしかったゆいが気になり、こっちまできたようだ。


「霧嶋くん…ゆいちゃんと何かあったの?」

「…昨日、振られました。」


「…!? そうだったの。落ち込んだ様子だったから、君と喧嘩でもしたのかとは思ってたのだけど、予想外の答えでびっくりしたわ。」


「原因を聞いても?」

「……。」


「ただの喧嘩のもつれなら、仲裁でもと思ったのだけれど…。君も彼女も考えて出した答えなら私からは何も言えないわよね。無粋な事を言ってごめんなさい。それじゃ」


 そう言って席を立って去ろうとしたみり先輩。


「あの…。みり先輩ご心配をかけてすみませんでした。寄りを戻す事はないと思いますので、ゆいの事お願いします。」


「うん…君もひどい顔だけど、こっちはこっちでなんとかしとくね。」


 みり先輩が、後ろ手に片手を振って別れの挨拶をして立ち去った。

 ゆいも別れを切り出して傷ついていたようだった…


 だが、みり先輩がいれば彼女は大丈夫だろう…。


「みり先輩…、その気遣いもすごく、いい…。」


 誠が放心状態で呟くが、その言葉を無視して仕事に戻った。




 落ち込んではいたが、変わらない日常を淡々とこなしていき、数日が経った。

 暫くすると俺もゆいも平常通りに戻りつつあった。


 そして俺は、林道先輩に伝えられた出張の準備をしていた。


 新製品となる染料を掘り出す鉱山のある地域へ顔出しをするということで外泊用にスーツケースに荷物を詰めていく。仕事に必要な物以外に何がいるのかわからないので、いろいろ準備をしていた。酔い止め、ある程度保存の効く食べ物、緊急時用のセットなど、いろいろ詰め込んでいた。


 出発当日になり、俺は一緒に行くメンバーの中に顔見知りがいる事に気がつく、現地までは飛行機を使っていく事になり、目的地は離れ小島だそうだが、その飛行機の受付時に目が合った。


 本来なら受付業務を行っているはずの、みり先輩と、ゆいの姿があった。

 彼女達は、受付業の他に重役の秘書的な仕事も行っており、今回はそちらで同行する事になっているという。


 目が合って気まずい雰囲気が少し流れたため、飛行機の搭乗まで少し離れた位置で腰を下ろしていた。


「林道先輩、目的地まで飛行機でどのくらいかかるんですかね?」

「えーと、確か離陸してから2、3時間くらいで着くって聞いてるよ。今回は小型の飛行機で向かうから時間はあくまで目安らしいけど…」


 手続きを済ませ、俺の隣に腰掛ける林道先輩が不安そうにそういう。


「今回乗るのは小型機なんですね。俺は初めて乗ります。」


 搭乗アナウンスが放送され、乗り込む準備をした。

 大型の旅客機の場合、手荷物など入念に検査されるのだが、今回は会社で借り切った小型機への搭乗。移動先も国内という事もあり、簡単な荷物検査はあったが飲み物などの持ち込みも問題なく行えた。


 今回乗り込む機体は、プロペラ機である。

 大型ジェット機には乗った事はあるが、プロペラ機は初めてだったのですこし興奮する。

 機体に乗り込み、キョロキョロとみまわし、前方をみる。

 後から乗り込んできたみり先輩とゆいが、不安そうに会話をしていたのを遠目に見つけた。今日も天気はいいので、概ね問題なくフライトプランが組まれていた。


「林道先輩…、遺書は残します。何かあったらお願いしますね。」


 そんな冗談を先輩に伝える。


「ば、ばかやろう!縁起でもない事を言うんじゃないよ。」


 軽く小突かれた。先輩は真面目なので冗談が冗談に聞こえなかったようだ。



 緊張の瞬間がまもなく訪れる。


 全員が飛行機に乗り込み、点呼を行う。

 問題がない事を確認した後に操縦席からのアナウンス。


「今回操縦を担当させていただきます。私、大山と申します。短い間ではありますが、快適な空の旅を提供させていただきますのでよろしくお願いします。風が少し強めなので機体が大きく揺れる事があります。シートベルトと機内マニュアルをご確認ください。」


 エンジンがかかり、前方のプロペラが回り出し、機体が少しづつ動き出す。

 滑走路らしき直線の道に入り速度が上がる…。


 [ぶーーーーん]という大きな音が鳴り響く中、機体がふわっと浮かび上がるのを感じる。下へ押し付けられる感覚を味わった後、窓の外には少しづつ小さくなる建物が見えた。ガタガタと小刻みに揺れながら上昇していく、離陸に問題なく成功した。


 まだまだ続く緊張の時、それは一定以上の高度に達した時に急にほぐれた。

 包み込むような浮遊感。目標の高度まで上がったのだろう。ガタガタとうるさかった飛行機が静かになる。プロペラ音は相変わらずうるさいが安定したという事だろう。


 冷や汗を拭いながら緊張をといた。


「初めての乗り物ってなんでこんなにも緊張するんでしょうか。…あ」


 そう言って林道先輩を見ると、林道先輩は目を大きくつぶり歯を食いしばってベルトにしがみついていた。


 彼は、高所恐怖症の気が少しあるようで、こちらの話が聞こえていないようだ・・。その後は先輩をそっとしておいて周囲を見回した。他の人達は女性陣を含め、概ね問題なさそうに軽く会話を始めていた。


 安定飛行に入ってから暫く経った頃、心地よい揺れが続く、あおいはうとうとと夢の中に入りそうになっていた。隣りの先輩が怖がって相手をしてくれないという事もあるが、外の景色にも段々と慣れてきてしまったからだ。


 小一時間過ぎた頃だろうか…隣の先輩は力を入れすぎて失神に近い状態になっていた。


 そんな中、機内アナウンスが入る。


「お客様に申し上げます。強い風の影響で機体が大きく揺れます。荷物など飛びそうなものは前かごなどにしっかりと固定し、十分に気をつけてください。」


 窓の外を確認する。

 さっきまでの穏やかな空とちょっと変わっており、ビュービューと風が唸っていた。

 時折、ガタガタと機体が大きく揺れ、怪しい雰囲気に…。


 こんな急激に状況が変わるのか…空って怖いなぁ…などと感慨に浸っている。

 周囲もだんだんと不安の色に染まっていく。


 そんな中さらに不安を煽るアナウンスが入る。


「前方に大きな竜巻が発生。…回避行動に入ります。大きく揺れますのでみなさん体制を低くしてください。」


 焦ったような、急いだ声でのアナウンス。竜巻だって!?ほんとに大丈夫かよ…。

 隣の先輩は、もう息をしていないかと思われるほど顔が真っ青だ…。


 窓の外は、相変わらずの空、竜巻なんて見えないが、ものすごい風の音が響いている。


 機体が大きく回避行動をとりはじめる。右側にかかる遠心力に耐えながら、小さくまるまる。近づいてきているはずの竜巻はどうなったのか、そんな事を考えて目を閉じる。

 大きく揺れる機体…。何が起きているんだ。


 少しして窓の外を見てみる、先ほど避けたと思われる黒い巨大な竜巻があった。下にある海水を吸い上げ、どす黒くなった一本の柱がその世の物とは思えない程の存在感を示していた。


「あれに巻き込まれていたら機体なんてバラバラにされてしまう…。」

 

 ふと呟いた時、さらに前方に竜巻が発生している事に気づく、急に発生したため機長もアナウンスなんてしてる暇がなかったのだろう。

 なす術なく機体ごと大きな竜巻に飲み込まれてしまう。


「うわぁああああああああ」

「きゃぁあああああ」


 機体の中では叫び声が響く。

 機体がギチギチと大きな金属音を鳴らしながら必死にバラバラになるのを耐えている。

 何かが機体にぶつかる音と共に大きく回転する。

 [バキーン]という巨大な音が鳴った。意識が薄れていく…。


 このまま死んでしまうのだろうか…。


 足元が裂けていくのを最後に目にし、意識がなくなる。

 

 ・・・・・・・・・・・



今回は、まだ異世界要素はゼロです。

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