『人生逆転論』
ーーーあの最悪な1日から一週間。
桃哉とは出来るだけ顔を会わせないように気を付けている。会わせる顔がないのだ。そりゃそうだ、あんなことをいって素でいけるほど神経図ぶどいわけでない。
「神楽木さん、とうとう生徒会長攻略しちゃったよ~!」
「えっ!うそ!副会長が先週告白してたのに!?」
ーそう、亜沙はとうとう昨日学校のトップをおとしたのだ。
だけど、もし、腹黒御曹司 久遠寺君の言う通りならば亜沙はきっと告白を断るはず。私のお陰で。悪く言えば私のせいで。
「神楽木さん」
「…!久遠寺君…」
急に現れるから心臓に悪い。こいつのことだからわざとなんだろうけど。
「何か用」
「亜沙になに言ったの」
「は?なんの話?」
久遠寺はいきなり話しかけてきたかと思うと私を睨み始めた。はあ?なんで出会ってそうそう睨まれなきゃいけないわけ…
「亜沙が生徒会長の告白をOKしたんだ。だから神楽木さんがなにか言ったんじゃないの」
「!?知らない!」
大体言ったところで私の話に耳を傾けるやつなんていないわよ…。でも、あんなことをいってたはずの亜沙がいきなり生徒会長の告白をOKするなんて…
「嘘だ!じゃあ、神楽木さんが言ってないなら亜沙はなんでOKしたわけ!」
「そんなこと言われても私は知らない!」
「…しらばっくれるのも今のうちだよ。絶対何か裏があるんだ」
亜沙は私を理由に告白を断ってきた。ならば生徒会長に何か断る理由がなかった。それはなにか。もしかしたら私は亜沙の本当の姿を見ていないのかもしれない…。
「…別に、亜沙が何をしようが私には関係ない」
ひとりごとのように呟いた。そうだ、私は関係ないんだ。大丈夫。私は現実から目を背けるように移動教室へ駆けていった。
* * * * * * * * * * * * *
今、私の頭の中を埋め尽くしているのは授業の現文ではなく、さっきの久遠寺の言葉だった。
(…どうして亜沙は)
亜沙は生徒会長だけをOKしたのだろうか。イケメンだからか?いや、今まで告白したやつイケメンだしな…。じゃあ、玉の輿?でも、それなら腹黒御曹司でも良かったはず。生徒会長もなかなかの有名グループの次期会長だけど。
(私達は双子なのに全く似ないのね…)
双子は容姿が似てるとかあるけれど、私達は二卵性双生児な上、意志疎通など皆無だ。相手の考えていることなんて分かるわけなかった。今だってわかっていないんだ。
授業のチャイムがなり、お昼休みとなった。私には友達はいない。性格が悪いことは皆知っているし、亜沙の方が皆好きなのだ。
ちょっとまわりくどくなってしまったが、要はぼっちなのだ。ぼっち飯…
私がぼっちで暗くなってると、廊下が騒がしくなった。何事かと見てみるとどうやら亜沙の逆ハーレム集団が亜沙に詰め寄っているようだった。
「亜沙!どう言うことだよ!なんで八代先輩の告白を受け入れたの!?」
「そうだよ!ボクというものありながら!あんな俺様会長の告白をOKしちゃうわけ!」
「お前は黙ってろよ!お前なんか亜沙の眼中にねえんだよ!」
どうやら逆ハー集団の誰一人理由を知らないようだった。すると亜沙は泣き始めた。今までぎゃーぎゃー言っていた逆ハー集団が一気に静かになった。
「ごめんね皆…わたしね、八代会長のこと前々から好きだったんだけど、仍流に『あんただけ幸せになるなんて許せない』って、言われ、て…っ!
でも、八代会長への気持ちは抑えきれな、くてったまらず言っちゃった、の…っ!
本当にごめん、ね…!」
その言葉を聞いた途端、その場に居た全員が私の方へ向いた。
…違う!!そんなこと今まで一度だって言ったことない!!どうして亜沙はそんな嘘をつくの!
「ち、ちがう!私そんなこと言ったことない!」
「じゃあなんで亜沙がこんな嘘ついたことになるんだよっ!!!!!」
そんなこと言われても言ってないものは言ってないのだ。分かるわけがない。
「神楽木さんひどい…」
「サイテー、どんだけ亜佐ちゃんに嫉妬してんの」
「神楽木は前々から態度悪いとは思ってたけどここまで悪いとは思わなかったわ…」
次々とみんな好き勝手言ってくる。違うのに、どうして亜沙ばかりみんな味方するの?
「おい!どうした!」
そこにイケメンの佐藤先生が来た。フレンドリーで生徒から人気の先生だ。きっとこの人なら私の話をちゃんと聞いてくれるはず…!
「佐藤せんせー!神楽木さんが亜沙に幸せになるなんて許せないって言ったんだって」
「…ちがっ!」
「そうなのか亜沙?」
「せんせえ…!仍流を責めないで!私が悪いの!」
「!」
「神楽木。やっていいことと悪いことがあるだろう」
「ちがう!私なにも言ってない!」
「嘘をつくな!!!後で生徒指導室にこい!!」
どうして、先生さえも亜沙の味方をするの。
そうだった、ここに私の味方なんて誰一人居なかったんだ…なら、生きてる意味なんてない。
もういっそ*んでしまおうか。
「誰も私を見てくれない、信じてくれない、愛してくれない…」
「はあ?なにいってんの?キモいんだけど。誰がブスを好きにするわけ?」
「こら、言い過ぎ」
「センパイだって内心笑ってるくせに」
副会長も笑ってる。みんな笑ってる。
「……あはっ」
私が笑った瞬間みんながこっちを見た。今しかない、この時しか。
「ーーー誰も信じてくれないなら死んでやる」
最後に私は微笑みをかまし、近くの窓から飛び降りた。ここは三階だ。さぞかし驚くだろう。
ほら、誰かの悲鳴が聞こえた。
ーそして私の意識はブラックアウトした。
* * * * * * * * * * * *
ふと目が覚めた。真っ白い天井。自分の部屋じゃない…。
「……ここは?」
するとびっくりするほどのがらがら声だった。まるで老婆のようだ。体も動かない。動かないと分かると諦め、目だけを動かし部屋を確認してみた。どうやら病院のようだ。点滴も打たれてる。
ガラッ
「仍流?目覚めたんだ、良かった。今、先生呼んでくるね」
部屋に入ってきたのはあの腹黒御曹司の久遠寺だった。なんでここにいるの?というか何故に下の名前?気持ち悪いほどの微笑みはなに?
起きてそうそう疑問だらけだった。
無事に検査も終わり、一応のために久遠寺に聞いてみると、あの後私は病院に搬送された。運よく下の植木落ち、何とか一命をとりとめた。一週間ほど私は目覚めなかったらしい。
それと同時に亜沙たちにも変化があり、私の最後の言葉と行動を疑問に思って亜沙を調べたそうな。するとびっくり!誰もいないときはびっくりするほど性格が悪く、皆を虜にしては笑っていたそうな。それを証拠にみんな見せたところ次々に離れていき、会長からも振られたらしい。ちなみに会長を選んだ理由は玉の輿だったらしい。あってたんかい……
「で、なんで久遠寺君がいるわけ」
「そりゃ惚れちゃったからね」
「 」
ちょっとなにいってるのかわかりませんね。
開いた口が塞がりませんよ。あそこまで人を悪人呼ばわりしてたくせに。しかも、随分とかるーく乗り換えるんですね。
「最後の微笑みにやられちゃった☆」
「いやいや☆つけても正直いってきもいというか…」
「仍流!」
息を切らせて入ってきたのは桃哉だった。私のもとまで来ると抱き締めてきた。ちょっ!おま!こっちは病人なんですけど!痛い痛い!
「桃哉!痛い!」
「良かった…もう、仍流に会えない、かと思った…」
「とうや…泣いて、るの?」
時折グス、グスと聞こえる。心配してくれてたのかな…
「心配かけてごめんね…」
「仍流がちゃんと生きてるなら、いいよ…」
ちゃんとあのときの話を聞いとけば良かったね。そしたら少しは変わってたのかもしれない。
「ちょっとさあ、勝手に二人の世界に行かないでくれる?」
そうだった。こいつが居たんだった。桃哉から離れる。涙目でぶすくれてた。イケメンがしてもかわいいなんて不平等だ…
仕方なしに久遠寺に向き直した。
「…何か用なの」
「好きだよ、付き合って?」
「お断りします」
「ええ~?なんでー!結構いい物件だと思うんだけどなあ。ちゃんと愛してあげるよ?」
「自分で言うな。あとあんただけはイヤ」
「じゃあ仍流、僕と付き合って」
さらりと入ってくるな。なんだこのモテ期。すっごいいきなりだけど。
「ちょっとー!!勝手に告白しないでよ!!ボクの方が先なんだから!
仍流センパイ!好きです付き合ってください!(はーと)」
「ちょっとそれは僕の台詞なんだけど?仍流さん好きです付き合ってくれるかな?」
入ってきたのは小悪魔美少年と副会長だった。突然入ってきたと思ったら挨拶もなしに告白ですか。というか、
「あの、よくあんなことしてそれ言えますよね。私は貴方たちのこと信用できませんし、だいっきらいです」
この人たちはあのとき私を責め、嘲笑った。あんなことをされて許せるはずなんてない。
それに、
「私は桃哉を信じる。
桃哉にひどいこと言ったけどまだ、私のこと好き…?」
すると桃哉はゆっくり微笑んだ。愛しそうに私を見てくれた。
「ずっと小さい頃から仍流が好きだよ」
「ありがとう、私も好き」
晴れて私達は付き合うことになった。部外者が3人ほど居たけど。気にしない気にしない。
あれから色々あって桃哉の家に引っ越すことになった。どうせあの家にいても亜沙のことしか見ないだろうからって。桃哉のお母さんにはまるで娘のようによくさせてもらってる。この前はリボンとフリルだらけの洋服をもらった。娘が出来たらこんな服着せたかったって…満面の笑みで言われたら断れないけどいつ着るんだこれ…
学校に行くと亜沙のやったことが明るみにでたせいか、私を見る目が変わった。あの後ちゃんと謝りに来る人が来て、よくわからず友達出来た。しかも亜沙の後ろをつけ回っていた逆ハー集団が何故か私に告白してきたり。付き合って人がいるので無理です。って言っても『諦めない!ちょっとでも隙があったらそこにつけこむから!』とよくわからない宣言された。
桃哉とは一緒に登校したりお昼食べたり一緒に寝たりと前より断然楽しいと思えた。
いつだか聞いたことがある。人の幸と不幸のバランスは平等のだと。不幸が先にきて幸が来るのだと。不幸を知ってる分、幸せになれるのと。
そんな日々に初めて感謝し、私は今日も愛されて生きている。
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『人生逆転論』 完
読んでいただきありがとうございました。