世界は、いつだって
僕はサロナに上司襲来の可能性を切り出そうとするも、OKを貰える気が全くしないので、現実逃避に「街を滅ぼされた」発言について思い出そうと努力した。もはや自分だけが頼りである。……まあ僕もアルテアさんと戦うルートは回避できるならしたいところだし。
「うーん」
確か、発言者は通行人ではない。かと言ってパーティーメンバーでもない。会話自体は何度かした相手だった、はず。……そんな人、多くないと思うけどなあ。副町長、始まりの街の宿屋のおじいちゃん、アレットさん、くらい……?アレットさんが「魔族に街を滅ぼされた!」とか言い出してたら衝撃で忘れるわけないし。お前どこ所属やねん、みたいな。まぁ僕が言うなってコメントだけど。
他の二人でもない。予言者でもない。……海辺の街が関係してたような……?かと言って、ここから歩いたら半日くらいかかるし、あっちに行ったからといって思い出せるわけでも…………ん?……そういえば、海辺の街から魔法都市に来る途中、誰か一緒にいなかったっけ。その人が、言ってた。うん、確かそうだ。
僕は気分転換にとやってきた食堂でオムライスを食べながら、前にここに来た時のことを思い出す。この食堂で手が足りなそうだからって。僕がなんか、客として来たのにいつの間にか手伝うことになっちゃって。……テーブルに座ってるみんなに、エプロン姿で料理を運んだ。その時の記憶を再生してみよう。台詞は細部が違うかもだけど。
「客が店員として出てくるとかお前おかしくない?」←ヴィート
「手伝って偉いわね」←ユウさん
「ご主人様と呼んで」←ナズナ
「お腹すいた」←ギャレス
「その格好、良く似合ってますよ」←……誰!?
こいつだ。誰か、一緒にいた。パーティーメンバーの誰もが言いそうにない台詞である。みんなに聞いたら思い出してくれると思うんだけど。今帰ったらきっと地下室監禁コース待ったなしなので、それはやめておく。
紅茶を口に運んだ瞬間、ふとそいつの属性を思い出した。……ストーカー。名前……なんだっけ……?とりあえず、駄目元でヴィートにメッセージを送ってみる。その際目に入った、未読の受信メッセージの多さはもう気にしないことにした。
「あの海辺の街にいたストーカーの名前って、何でしたっけ?」
送信、と。するとすぐに返事が来た。
「今どこにいる?」
ふむ。
「教えてくれたら、こちらも教えます」
教える、教えるが今とは言っていない。まだその時と場所の指定まではしていない。つまり10年、20年後でも可能だということ……。僕のその思惑がバレたかどうかは分からないけど、ヴィートからの返事には、僕の知りたいことは記載されていなかった。 大人は質問に答えたりしない。それが基本だ、という返しか。くそう、やるやんけ。
「会って話そう」
これはアカンね。教えてもらえなさそう。……僕はフレンドリストをざっと見る。今まで知り合った人は大概登録したはず。一緒に戦った人も含めて、えーっと……うん、50人もいない。だから、一斉にメッセージを爆撃することにした。質問付きで。目当ての相手にしか答えられないことを書いてきた人間が黒だ。
「お元気ですか。海辺の街から魔法都市に一緒に来た頃が懐かしいですね。突然ですが、私って、魔法都市のアルバイトの時、どんな格好してましたっけ?」
しばらくして、返事が次々にやってくる。1つ目を見ようとすると、そのメッセージは内容がとても長く、読んでると次々に他の人からも返事が来る。2通目以降の返事は短かった。
「ウェイトレスですね。あの時のことは(中略)良くお似合いでした。ぜひまたご一緒させていただきたく!今はどちらに?」「ウェイトレス」「メイド」「カフェ店員だったような……」「ウェイトレスでしょ」「メイド!」「メイドです」「ウサギの掲示板の件では大変申し訳ありませんでした。……あ、正解は喫茶店店員だよね!どう?」
なんだこいつら!?(驚愕)。でも、真っ先に帰ってきたこのメッセージ。これが怪しい。即返ってきたにもかかわらず、文章量がおかしいし。僕の中でのストーカーの定義にもろ、当てはまる。名前は……ユーリー。ここからは、時間との勝負だった。
「すみません、急に呼び出してしまって」
「いえいえ、あなたのご要望とあれば、いつでも、どこにでも参上します。……どうしました?そんなに周りを見渡して」
「実は、追われてまして」
ヴィートに聞いてしまったということは、みんながこいつを張りに来る可能性は高いだろう。だから、早めに切り上げて、とっとと撤収。それがベスト。
「なんと!?私がお守りしますよ!任せてください!」
「いえ、巻き込むわけにはいきません。それよりも、聞きたいことがあるんです」
こんな奴でもプレイヤーなので、守護る対象である。面倒だけど。僕は変に提案を続けられる前に急いで尋ねた。
「以前、街を滅ぼされた人の話、聞いたと思うんですけど。もう少し詳しく、お願いできませんか」
「ええ、いいですよ。……あれは、私が北の大きな港町に行った時のことです。あの時は私もまだ未熟で」
「あの、関係ない部分は手短にお願いできたら」
「ああ、すみません。その街で、魔族に街を滅ぼされた、という人から話を聞いたのです。通常街では魔族は活動できないはずなのに、その魔族は何事もなく魔法を使い、全てを破壊した、と」
「……その魔族、フード被ってたりしませんでした?顔が見えなかったりとか」
「いえ、外見は普通の人間のようだった、という話ですよ」
なるほど。三人目の例外、か。でもどうして、街の結界を無視できるんだろう。僕はまあ、運営の都合ってことでいいし。フードさんは魔王軍最強+ラスボス候補。それに加え、実体がないからできる、っていう可能性もある。それ以外に、原則を無視できるキャラを入れる理由なんて……。そもそも特定の魔族が街に来た時に魔法を使えるよう設定する必要なんて、あるのかなぁ。
僕がため息をつきながら考え込んでいると、ストーカーは、何気なく、最後の一言をこぼした。そうそう、その魔族の外見と言えば、と。
「……とても美人の、金髪で碧眼の女の子だったと、そういう話でした」
そこからどう部屋に帰ったかはよく覚えていないけど。サロナに、アルテアさんと敵対して倒さないといけない可能性めっちゃ高い、と伝えた瞬間、僕の体はベッドから離れなくなった。強い意志を感じる。……絶対嫌、それをするくらいなら死ぬ!、と言わんばかりにシーツをつかんで起き上がらない。……ヤバいって。勇者に退治される!不死だけど!時間制限あるから!……あ。6時間後の死の可能性って、ひょっとしてこれ……。
今日は早めにできました。




