木星とか宇宙とか、スケールが大きい物ってめっちゃ怖い
また2話分くらいありますが、明日も書きます。実質あんまり進んでませんし……なぜでしょう……
「だから、これからはプレイヤーを守るために上級魔族を狩りますよね。ここまではいいですか?」
うんうん、と僕の顔が頷くのを確認して、僕は紙を広げて「上級魔族を狩る」と書く。結局、予言者の子は今日から泊めてという無茶振りを受けてくれ、占いの館の一角に部屋を一つ用意してもらえることとなった。そこでこれからの方針を自分自身とすり合わせする。戦闘中にやっぱやめ!となったら大変まずいので、これは必要。
……ただ、サロナが絶対うんと言わないだろうことが1つ、あるんだよね……。どうしよ。うん、とりあえずそれ以外の部分でまずOKを取ろう。
僕は書いた「上級魔族を狩る」という文字から矢印を引いて、次の項目を書く。……「狩ってるのが魔王軍にバレる」。これも、そうだね、という感じの反応。たぶん結構すぐバレるんじゃないかな。単体で狩るっていうのはリスクがでかいというか。集団に混じっているのとはわけが違う。
さらにそこから矢印をひいて。「刺客が送られてきて、当然魔王軍もクビになる」。そんな奴を所属させておくわけがないのでこれも確定。どひゃー、という感じで僕の両手が上に上がる。……あれ、あんまりショックじゃない感じ?これ、いけるんじゃない?
ただ、ここからが問題で。……こういう場合、刺客に誰が来るか、という部分。フードが来る、というのが僕の中での定説ではあったけど、この前の話だと、あいつは魔王城の外だと他人に危害を与えることは難しい、らしい。なら誰か。……たぶん……上司が始末をつけに来るんじゃないだろうか。多分あの人の性格的にも……。
僕の手が紙の余白に、チーロらしき子供が大剣で串刺しにされている絵をご機嫌で書いているのを見ながら、僕はそれを伝えるのをどうしようか迷った。と、そこで落書きの手が止まり、ん?という風に宙をさまよう。……伝わっちゃった?
すると、手は最初の「上級魔族を狩る」というのを指さして、僕の首が横に倒された。紙にパーティーのみんならしき絵と、それ以外の勇者っぽいのがいくつも書かれ、みんなの方が○で囲まれる。こっちを守るのは分かる、と。でも、それ以外って、なんで守るんだっけ?こいつら何?という雰囲気。
「えーっと、なんていうかですね。……勇者って、この世界を作った神の大事な物なので、たくさん壊すと神が怒って世界自体が無くなってしまうのです。それを止めるために、勇者を壊そうとする上級魔族を倒さないといけません。でもね、魔族は倒しても、眠るだけなのです。死ぬわけじゃないので。……そして、いったん勇者を神のもとに返した後に、もっと平和な感じの世界を作れー、と訴えたりしたら、聞いてもらえたら……いいんですけどねぇ……」
魔族については大元にデータがあるはずだから、眠るで正しいよね。……こういう説明で、いいのかな。意外にも、眠るってなんやねん!みたいな反応は返って来ず、そうだね、という受け入れのみ。さらさらと、その他大勢プレイヤーの絵の横に、まったく読めない、見たことのない文字で単語が書かれた。そして、余白にも。こちらはもっと長い、おそらく文章で。……何これ?
そして、うんうん、と頷いている僕の首がぴたっと止まり、頭が横に傾いた後、余白に次の絵が描かれる。あ、これアルテアさんだ。やけに気合の入った絵である。僕自身の絵も隣に描かれ、二人は笑顔で手をつないでる。その二人が○で何回も囲まれた。……どうなるの?という疑問。……えーっとね。僕は答えに詰まり、しばらく沈黙する。……たぶんね、えらいことになりますよ。
……すると、沈黙の広がるその部屋に、予言者の子がガチャッと扉を開けて入ってきた。ナイスタイミング。さすがは未来が見えるだけある。予言者は、僕の手元の絵を覗き込んで、なんだかとても不思議そうな顔をした。……再び訪れた結構な時間の沈黙ののち、一言だけコメントが来る。
「……抽象画に挑戦中とかですかね?」
「え、結構うまいと思いますけど。ほら、この2人とか」
「えぇー……。まぁ、他よりは……上手だと思います。……辛うじて人だと分かるという点で」
なんか嬉しくない褒められ方である。でもちょうどいいや、この子には頼みたいことがたくさんあった。
「あの、お願いがあります」
「……まあ、新弟子のお願いですから、一つくらいなら聞いてあげましょうか」
「三つあります」
「貪欲だった」
「ありがとうございます」
「えぇー……まだ、いいって言ってないんだけど……まあ聞くだけ聞きます。何ですか?」
「一つ目。私今、方位磁石のせいで勇者にめっちゃ追われやすいんです。枕も高くして眠れません」
「まず、魔族が人間の街で安眠しようとしないでください」
一理ある。ぐぬぬ。でもこれは大きな問題なので、僕は聞こえなかったふりをして続けた。
「前会った時、私の死期が最短2日後とか言ってましたよね。今はどうですか?」
「うーん、最短で……あ、場所変えません?」
そのまま予言者に連れられて、前に占ってもらった小部屋に場所を移した。……なんでだろ?その疑問が顔に出ていたのだろう、予言者は机越しにこちらを見ながら解説をしてくれる。
「ここが一番未来を見やすいんです。専用の魔法陣が敷いてありますから。……えーっと。最短死期、6時間後。……羽化した後のセミより短い……」
「つまり、6時間後近くまでは襲撃がない感じ、と。ふむふむ。不死になったはずなのに死期がそんなに近いとは予想外でしたが、きっと可能性の話ですもんね。これで5時間くらいは安眠できそうです」
「うわ、私の予言をそんな使い方するんだ…………まあ、いいです。二つ目は?」
「私、思い出せないことがあるんです。それに対するヒントが欲しいというか」
「あのー、私のこと、便利グッズか何かと勘違いしてません?」
「いつか誰かに、魔族に街を滅ぼされた、って聞いた気がするんですけど……誰でしたっけ……?」
「発言がもう完全に老後のそれじゃないですか……それに、ざっくり過ぎます。さすがにそういう細かい部分までは無理ですね」
「そうですか……わかりました。三つめです」
「はい」
「前にあなた、お前を殺すための準備をしてきてるんだぜ、みたいなことを食堂でアルバイト中の私に対して言ったと思うんですけど」
「そんな猟奇殺人犯みたいなこと、言いましたっけ……?もう少しオブラートに包んだような記憶が……」
「それって、具体的にどうやるんですか?他の魔族にも効いたりします?」
「えっとですね……私、魔法陣を使うんですけどね。予言もその一種です。……それで、最上級の退魔の魔法陣をうまく敷いて発動させれば、たいていの魔族には痛手を与えられますよ。退魔の魔法陣って、内側にいる邪なものを体の芯まで神聖な光で灼き尽くす、という効果があるので」
「その効果なんかどっかで聞いたことある!」
フードさんご自慢の武器の一つ、なんだっけあの杖、神の光?じゃねーか。
「ただし、威力のある魔法陣を発動させるためには時間がかかりますし、私はその間無防備になっちゃうしで、よっぽど相手が弱くない限り、一対一では難しいですね。威力を上げようとすると範囲も狭くなっちゃいますし」
「……半径1キロ以内の敵を問答無用で灼き尽くす、とかじゃないんですか?」
「あり得ないですね。私でも、4メートル四方がせいぜいです。この範囲でも、史上最高クラスなんですよ。1キロなんて、ふふ、おかしい。まあ素人なので許してあげますか」
どやあ、という顔をしてこちらに自慢げな顔を向けてくる予言者。この子に、半径1キロをおそらくノータイムでぶっぱなす存在がいる、ということを伝えたらなんだか自我が崩壊しそうな気がする。ちょっと見たいような気もするけど、やめておこう。大事な戦力である。
「私と一緒に、魔族を狩る旅に出ませんか!?」
「えぇー……嫌だけど……」
NPCなら今回は巻き込んでも、まだ被害は少ないのではないだろうか。プレイヤーが死ぬのと違って、この世界削除に直結はしないだろうし。
「あとは、この世界の勇者以外の戦力って、どうなってるんですか?協力してもらえそうな軍とか、ないですかね?」
「この前、王が軍隊を出して4000人が全滅した、と聞いてます。しばらくは無理じゃないですか?」
4000人!突然の死。そしてこの世界だか国って王制だったんだ。初耳。でも、それにしてはなんか軽くない?……全然悲壮感がないんだけど。
「ああ、だって。人に限らずこの世界の生き物って、死んだら世界の全てを作った女神の元に戻って。また新しい命に生まれ変わる、って決まってるじゃないですか。魂がある限りって話なので、物はさすがにそうはいきませんけど」
「……?それってゲームっていうか、この世界の設定的な話ですか?」
「あれ、小さい頃に親から聞きませんでした?女神さまは欲張りなんだって。……魔族は違うんですかね?少なくとも人間の間では、街の教会も全てそういう教えのはずです」
小さい頃の記憶。この世界のNPCは異世界の人のコピー、だとあの副町長は言っていた。……これは、異世界のそういう宗教の話、っていうこと?こっちの輪廻の話と似てるけど。それともゲーム設定をそういう風に表現してるのかなぁ。……僕が考え込んでいると、予言者は笑って僕の手元の落書きを指さしながら、言った。
「あ、自分でも書いてるじゃないですか。やっぱり魔族も含めて、そうなんですね。……あれ、でもちょっと違うかな」
……指さしている先には、さっき僕が読めなかった、謎の文字列。
「これ、なんて書いてあるんですか?」
「えぇー、自分で書いたんじゃ……。『神の使いを殺すと、女神が怒って、戻れなくなる。世界の仕組みが変わる』と書いてます。勇者が神の使い、っていうのはまあ、広い意味ならそうなんですかね」
……その文字と、話の内容は。今まで僕が信じてきた世界の、外の話をしているようで。聞いているだけで、なんだかやけに心細くなった。宇宙はどこまで広がっているんだろう、と夜空を見上げた時の、理由のない漠然とした不安のような。自分の知らない何かが確かにそこに存在すると、気づいたときの怖さ。
それはきっと。自分の思っていた世界の大きさよりも、その果ては本当はもっとずっと遠いのだと。それを知る怖さ、なんじゃないかと。そんなまとまりのないことを、ぼんやりと僕は思い浮かべながら、書かれた落書きと、その文字に目を落とした。
あ、こういう言い伝えがあるってだけで、別にこの話に神は出てきません。




