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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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永久のライバルと決着をつける日

 そのまま僕は走ってフードの部屋に行き、一刻も早い帰宅をお願いする。フードさんは自室でせかせかと何か作業をしている最中だった。


「街に帰りたい……?」


「はい!今すぐにでも!」


「疑問なんですけど、私のこと、便利な乗り物か何かと勘違いしてません……?疲れるんですよ、あれ。それに今忙しいので……まあ、あまり無い経験でしたから、良しとしますか……」


 確かにアルテアさんが力使うからってなかなか送ってもらえなかったもんね。……そうそう、この人にも聞かなきゃ。ストレートに。相手がどういう対策を持っているか、まず把握するのが大事。


「……もし、街に勇者が閉じ籠ったら、どうするんですか?」


 そういえば、魔族は街の中でも攻撃できるんだっけ?ダメージを与えられないのはプレイヤー同士だけ、だった?もうあやふやだけど。


「そうですね……街には結界が張られていて、魔族はその中では魔法が発動できない、勇者にダメージも与えられない、となっています。例外はありますが。あなたや私みたいにね」


 おお、ガチの安全地帯じゃないか。……そういえばフードさんも街中で明らかに魔法を使っていた気がする。それともあれはスキル扱い、なのかな?スキルはOK?


「じゃあ、あなたが出るんですか?街中で消えてましたし……あれがあなたのスキルですか?」


「その場から消える、という動作は魔法以外ではできませんよ。なので、単なる魔法です。でも……私は出られないんですよね、まだ実体がないから。この魔王城内なら何とか力の一部分は出せるんですが、外となると、現状では相手に攻撃することまではなかなか……」


「じゃあどうしようもなくないですか?」


「だから、何事にも例外はある、ということです。そして今回の例外にあたるのはあなたと私だけではない、と。……あなたが街を全部中から壊す、というならそれはそれで解決しますけど、どうでしょう?報酬はそのこっそり持っている5本の宝剣あたりで」


「……前向きに検討させていただきます」







 フードに送ってもらった始まりの街で、僕はみんなと合流し、いくつか準備を整え、街の外の草原に向かう。その途中、僕は作戦を話した。手短に。


「今から私、ひたすらウサギと戦い、HP満タンから1になる、というのを繰り返します」


「サロナちゃん……疲れちゃったの……?」


「言ってる意味が全く分からん」


 あれ、なんだか反応が悪い。聞こえなかったのかな。


「あ、もう一度言いましょうか?声小さかったですかね」


「いや、聞こえてはいた。言ってる内容が分かるからこそ意味が分からないんだが」


「説明が足りませんでしたね。ウサギを選んだのは、一番ダメージが操作しやすいかと思ったからです。私、たぶんウサギと戦った数はけっこう上位でしょうし、動きも読みやすい。何より私のライバルでもあります」


「最後に本音らしきものが聞こえたような……。それに、ダメージって言っても、いつも同じとは限らないだろ。一度でも飛び越したら死ぬんだぞ」


「そのためのお守りです」


「急になにそのドヤ顔!?」


 僕は既に剣5本を売っぱらい、合計13個のお守りを確保していた。財源協力魔王城。全部無くなったらいったん中止で。



「たぶんですね、コツコツダメージ繰り返して満タンから1になっても意味がないと思うので。一発で8ダメージをくらうバランスを見つけたいと思います。ただ、装備品を変えて一番弱いものにしてもウサギから8って難しいと思いますから。その場合は魔法で私の防御力を下げたうえで装備を変えて、色んな場合を試せたら」






 不思議な顔で首をひねるみんなを尻目に、僕は草原で獲物を探す。今日は懐かしの初期装備、布の服装備。草原はあの時と同じように、吹き抜ける風を受け、波のようにさざめいていた。その間から見える長い耳。



 ……いた!ウサギだぁ!ぴょんぴょんと跳ねているその動きは、僕の記憶の中にあるよりも、だいぶゆっくりに見えた。見える、見えるぞ!僕にも敵が見える!進化した僕の剣の錆になるがいい!


 するとウサギは急に想定の1.5倍くらいのスピードでこちらに突進し、僕の体に正面から角が突き刺さった。


「ごふぅ!」


 くの字に折れてそのまま吹っ飛ぶ僕。いったん離れた後こちらに向かって方向転換し、追撃しようとするウサギが痛みで滲んだ目の端に写る。なんと速く重い攻撃だ、昔の僕はこんなやつと戦っていたのか。と思っていると、僕の体がなんだか光に包まれているのがわかった。それとともに、すごく安らかな気分になってくる。


「お前、いきなりHP0になってるぞ!なんだったんだよ、動きが読みやすいって!」


「なるほど……そもそも運が低いからクリティカルを受けやすいって訳か」


「ギャレスさん、冷静に解説しないで!!」


 外野席の応援が非常に気になる。僕はとりあえず向かってくるウサギを毒ナイフの斬撃で真っ二つにした後に振り返る。


「皆さん落ち着いて、まだあわてるような時間じゃ」


「サロナちゃんむしろなんでこの期に及んで慌ててないの!?……あ、そうか、お守り……」





 その後も、ウサギと死闘を繰り広げる僕、見守るみんな。さすがに永久のライバルだけあって、ステータス差の割に、ウサギは思った以上に素の僕と善戦した。そしてしばらくたつと、ギャラリーがなんだか増えているような気がした。街の出口の真ん前だからかな。それに……きっと、そのくらい、時間がいつの間にか経ったということだと思う。途中に、何度ももう痛いからやめようとくじけそうになり、そのたびに休憩を挟み、たまにサロナに代わってもらったり。僕は何度もゴロゴロと草原の間を駆け回った。まるで、最初に戻ったかのように。……あの時と違うのは、きっと、はっきりした目的があるかどうか。



 ……そして、何度目になっただろう。痛みと涙の何時間もが過ぎて。飛び跳ねて離れるウサギを真っ二つにした後、不意に、ピコン!と。……いつもより大きく感じる音とともに、メッセージが通知された。




「スキル『不倒』を取得しました」




 一行だけのそれは、長いようで短かった、この旅の終着点へ。その始まりを告げる、メッセージだった。……逆転へ。安心した僕はぺたんと草原に座って、滲んだ景色の中の空を見上げる。きっと今なら誰にも負けないと、そんな気がした。





「説明しましょう」


「お、おう」


「この『不倒』。思った通り、HPが満タンなら、HP以上のダメージを受けても1だけ残る、というものです」


「うん、それでちょっとは死ににくくなったよね。これをみんなに習得させるの?ちょっと費用対効果が悪いんじゃ……」


「ここに、最上級の回復魔法を込めた石を用意します(協力:ヴィート氏)。これは攻撃されるたびに回復できますが、自動なだけあって下級魔法の半分程度しか回復量がない、という話でしたよね。私がこの二つを組み合わせるとです、攻撃を受ける→HPが1で残る→自動回復で全快→最初に戻る、と、回復の魔力が無くならない限り、死にません。これはHPがここまで低い私しか再現できませんが」


「チートくせぇ……詐欺だろ……」


「単なる無限コイルじゃねぇか……」


 あれ、なんだか反応が悪い。これはゲームだから、ルールに従った結果が常に出力される、ってだけ。現実だと、きっとこうはいかないだろうけど。あと、運営が機能していない現状だからこそ。でも、それで十分だった。そう、今だけで。

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