最終進化、害悪と呼ばれる存在への道
「あやつは一体なんですか」
「どうしました、急に」
「いいえ、何でも」
僕は魔王軍の武器庫で、良さげな装備がないか、そしてその装備に活躍の場を与えるというお手伝いが自分にできないかを模索していた。漁りに来たとも言う。そのさなかで、フードへの疑問が思わず口をつき、それを武器庫の主、白衣のお兄さんに聞きとがめられてしまった。
うーん、まあ考えてもしゃーないね。それよりも今は優先すべきことがたくさんある。……そして、僕には確実にここでやっておきたいことがあった。お兄さんにさりげなく、自分の意図がバレないように注意しながら探りを入れる。
「ここってたくさん、武器がありますよね」
「ええ。世界中から集められた、素晴らしいものばかりです。知っていますか?あなたが持っているその杖も、人間達の中では唯一無二の宝、とあがめられているそうですよ。ここにはそれが何本もありますがね」
え、これが!?この中級魔法が1発撃てるっていうのでも、そうなの?過大評価にも程があるやろ。……でもひょっとして、単にレアって意味かもしれんね。……そうそう、これについても聞きたかったんだよ。
「これって、魔法は1発撃ったらしばらく時間をおかないといけないんですよね」
「ええ、そうですが、それが?」
「杖2本持ってたら、どうなるんですか?杖1本につき1発なのか、何本持ってても1人1発なのか。もし、1本につき1発なら、この武器庫にある分を全部持って振ったら、きっと凄いことになるんじゃないでしょうか」
「……それは試したことがありませんでしたね。中級魔法なら、装備に頼らなくても我々は使えますし。……しかし、発想は面白いと思います!あなた、やっぱりいいですねえ!1本貸しますので、後で試してみては?」
これで成功したらもっと火力が上がっちゃうんだけど。今欲しいのは耐久力なんだよね。そして、脱線してしまった。そもそもここでやりたいことっていうのは。……僕はさりげなく周りを見渡して、独り言のようにつぶやいた。
「ここの武器を人間が見たら、値段なんてつけられないものが多数なんでしょうね。やっぱりお金には変えられないものばかりでしょう」
「いえ、それがですね。あまり性能が良くない物なのに人間の街では高く売れるという、信じがたい物もあるんです。……例えば、あの剣とか。あの程度の攻撃力の武器などいくらでもあるのに、1本10万、という高値で取引されているそうですよ。愚かにも程があります」
お兄さんが指さした先には、やたら宝石や装飾の凝った、どう見ても戦闘に向いてないだろこれ、という剣があった。でも僕が求めていたのはまさにこういうやつだった。これこれ、この子にはもっと輝ける場所があると思うな。思わず顔がほころんでしまうので、下を向いて手で顔を覆って隠す。
「……へええええ。そうなんですかぁ。愚か、愚かですねぇ……でも綺麗ですよね、近くで見てみたいです。……あと、ちょっとあの剣でも試したいことがあるので、持って行けるだけ持って行ってもいいですか?」
「この武器庫から一度に持ち出せるのは、5個までですよ。1種類を5個でも、5種類を1個でもいいですが、合計の上限は5個」
十分だった。僕はその剣をアイテムボックスに5本放り込む。これ全部売って、お守りとやらを大量購入したらいいんじゃないだろうか。ふふふ、魔王軍の物資を減らし、プレイヤーを守る。両方できるのがこの作戦の素晴らしいところである。これ、何度でもやろう。用事の済んだ僕は、意気揚々と席を立ち、武器庫を出ようと歩き出した。さりげなく。
「あ、ちょっと!」
その途中で呼び止められ、僕はびくっと体をすくませ立ち止まり、恐る恐る振り返る。ひょっとしてバレたというのか、この完璧な作戦が。……そんな僕に対し、お兄さんは呆れたような顔で、杖を手に持って指さす。
「これ、持って行かなくていいんですか?実験の結果が知りたいので、こっちは持ち出しにカウントしませんよ」
……実験結果。杖を複数持って振っても、呪文が同時に発動することはなかった。メラゾーマ5発同時発射、みたいなロマンの塊は残念ながら再現できず。その代わり、杖を取り換えて中級呪文を連射する、というのは普通にできた。これはきっと、プレイヤーが手に入れられる杖って通常1本だけだから、ってことかな。使い終わった杖をぽいぽい横に放って次の杖を発動させれば、杖の本数分だけ連射できる。一周撃ち終わったらおしまいだけど。
それを見せたら武器庫のお兄さんはいたく感動し、武器庫の杖12本を全て僕にくれた。なぜくれるのかと尋ねると、それがロマンだと。どんどん火力が高くなる。本来の目的とは別に。
「煮詰まりました」
「何よ急に」
僕はアレットさんと二人でお茶しながら、今の窮状を訴える。だって、無理だし。僕はふう、とため息をついて紅茶を口に運ぶ。
「不死を手に入れるためにはどうすればいいんでしょうねぇ」
「あなたそんな望みがあったの!?壮大過ぎ!無理に決まってるでしょ!?」
そうなんだけど、これは無理か無理じゃないか、じゃない。やるかやらないかだ。……違うか。
「だって、ないんですもん……強制催眠も、時間停止も、空間支配も、運命操作も……」
「うわ、しかも無駄に貪欲。そういう能力があったとしてもね、あなたには無理だと思うわ……」
ですよねー。でも、普通に、身代わりが作れるとか、数ターン何の攻撃も受けなくなるとか、そういうのでもいいんだよ。そういうのを駆使して低レベルクリアとかしてるの見たことあるし。でも……。
「まず、そういう便利スキルがあったとしても。取得の仕方が分からないんですよね……どこかで見たようなスキルばっかりなので、何があってもおかしくはないと思うんですが。特にこの世界のスキルって、無駄に細かいですし。……でも掲示板じゃみんな出し惜しみしてるのか、職業で習得できるのしかほとんど載ってないのが……」
「?……まあ、大変そうだけど。前よりはちょっとはマシにはなったと思うわよ。ほんとひどかったもん、最初見た時。どんだけ衰弱してるのかと思った。まあそれを無理やり食堂に連れてった私も鬼だけど」
「あの時は私、絶好調だったんですけどね」
一撃で落ちるなら、全ての攻撃が当たらないように。回避率を上げるスキルがあるのなら、それを複数回積むことで何とか……ないな。きっとそれまでに落とされる。むむむ。
「だいたい、全部の攻撃を避けるなんて無理に決まってるじゃない。まあでも、あなたはね……耐えられないもんね」
一度だけなら僕でも耐えられるんじゃないかな。スキル込みで。……どこかで、死ぬダメージを受けてもHPが1残る、っていうスキルを聞いた覚えもあるし。どこから見ても襷そのものである。副町長は恥を知るべき。……襷ねぇ……せめて、HP満タンなら1残る、みたいな同型スキルがあれば。がんじょう、みたいなやつ。
……………………あれば?……そして、少しだけでも、攻撃されるたびに回復する手段があるってことは、例えばHPが少ないなら逆にそれだけで元に戻って。……何度でも、……それこそ、永久にでも。対戦で当たったら、間違いなく害悪、と呼ばれる存在。
「どうしたの急に?何か用事でも思い出した?……どこ行くの?」
……いつの間にか立ち上がっていたらしい僕に、アレットさんが不思議そうな顔をして尋ねた。そうか、逆に考えるんだ。当たっちゃってもいいさ、と。HPが0にならなければ、それでいい。
……チャレンジしてみる価値はある。何よりも、取得条件はこの上なくわかりやすかった。そして、今それをもっとも試しやすいのも、きっと僕で。疑問を浮かべるアレットさんに、僕は笑って会釈をした後に、その場を走って後にした。彼女の疑問に対する一言だけの返事を残して。
「……ちょっと、ウサギ狩りに」




