選択と可能性、の話
いつもの2話分くらいあります。いい切り時が分からず……。
あの、その代わり、すみません、明日休みます。戦闘シーンが超苦手なので、明日書き溜めしてリードを持っておきたくて。最後に戦います、ちょっとだけ。デストロイの季節、とまではいきませんが(秋山先生!まだですか?( ;∀;))。
翌日も、眠い目をこすりつつ起きる。いつ宿にプレイヤーの襲撃があってもおかしくないので、自然と眠りも浅くなるので超眠い。その中で、街を滅ぼされた発言について一晩考えてみたんだけど、やっぱり記憶がおぼろげ。でも、きっとこれは大事な話なんだと思う。街が安全地帯でありえないという証拠なわけだし。
……どうも思い出せない。滅ぼされたんだ、って言ってたのを聞いた覚えは確かにあるんだよ。それで、「知り合いにそんなことできそうな人いないけど」って思った覚えが確かにある。……確か、あれは、立ち話的な感じで。僕はけっこう適当な感じであしらってたから、あの副町長ではないはず。……んー?
僕が首を傾げながら一階の食堂に降りていくと、何人かプレイヤーの姿があるのに気づいた。武器を構え、方位磁石を囲んでひそひそと何かを喋っている。……きてる!めっちゃ強襲の準備してるやん!
僕はそーっとカニ歩きで壁沿いまで動き、そのまま自分が見えない、というイメージを頑張って構築してあたりにばらまく。なんか追い詰められてると集中できて、精度が上がる気がする。全然嬉しくないけど。そのまま僕は外に向かってこっそり駆け出した。
……これは、潮時か。魔王城にいったん引き上げ、対多数の幻聴が上手くいくようになったら、戻ってきてアナウンスにチャレンジ。できたらその間に街滅ぼし発言を思い出し、詳細について聞きに行く。うん、これでいこう。今はまだ、プレイヤーに狩られるわけにはいかない。僕は路地に入り、そのまま塀を伝って屋根に上った後、一息ついた。その瞬間、ヴィートからメッセージが届く。
「今どこにいる?」
屋根の上にいます、と。送信。しばらくして迎えに来てくれたヴィートがきょろきょろあたりを見渡しているので、僕はひょっこりと屋根の端から顔を出した。僕が下りていくと、ヴィートは何故か、あきれ顔。なんだ、朝からそんな顔しちゃって。僕は思わず尋ねる。
「どうしました?」
「お前、うろつく時はパジャマで、みたいな信念でも持ってるの?」
「!」
……はっ。
「あの、ちょっと行きたいところがあるんです」
「場所は言えない、か」
「まあ言うなれば、私の職場、と言うか。プレイヤーが一番近くの魔族を追うこの状況だと、あそこが安全地帯なのです。しばらくして、幻聴をマスターしたら帰ってきます」
「そもそもお前どこかに就職してたのか!?このゲーム、職場って概念あるの!?」
「!」
合流したあと、僕の話を聞いてびっくり、というヴィートと、何も言わず少し目を見開くナズナ。理解した人としてない人の差。これで分かった。ナズナは僕の種族について、少なくとも魔族とは言っていない。ふむ。
皆に大きく手を振って、人通りのない路地に入り、僕は帰還呪文で魔王城へと再び帰った。……フードには方位磁石のことを報告に帰ってきました!って言えばいいよね。それで魔王軍の侵攻が少しでも遅くなるのなら、それに越したことはないわけだし。それで、帰りは送ってもらおう。
そして帰ってきた魔王城。僕の報告を聞いて、フードはふむ、という顔(?)をして考え込む。
「確かに……そのアイテムは今までなかったものですね。……まあ、あまり大勢に影響はないでしょう。それで勇者に居場所がバレたところで、返り討ちにすればいいだけの話ですし。それが出来ない者はこの魔王軍の幹部には……、……ええ、あんまりいないと思います」
……なんか今ちょっと間がなかった?あとなんか一瞬言い方選んでなかった?でもそれを追求すると誰も幸せになれない気がしたので、僕は深く考えるのを諦める。報告が終わると、僕はそのまま食堂に向かった。大勢相手の幻聴についての講義を拝聴すべくUFO先輩を探したが、どこにもいなかった。うーん。いったん撤収かな。
……でも確かに、僕って弱いんだよね、耐久力という意味で。スキルに全部を振り分けた結果なんだと思うけど。……でも、弱くてもこれはゲームだから、一概に高ステータスな方が勝つ、という訳でもないような……。ほら、ハメ技的な。そういう仕組みさえ構築すれば、何とかなるのでは。
僕はUFO先輩を探した帰りに立ち寄った、魔王城の中庭で、ぼーっと空を見上げた。ドドメ色の雲がすごい速度で右から左に流れているのが見える。そして、僕は考えの続きに入った。
攻撃されたら一撃で落ちる以上、相手に攻撃をされずこっちばかりが攻撃する、というのが理想。かと言って、上位の上級魔族と戦って土の壁の上から攻撃する、というのはさすがにない。本当に僕の能力が催眠だったら、対戦する全員を眠らせたまま殴り殺す、というのもできたかもなんだけど。僕、攻撃力だけはやたらあるし。……ただ、耐性というものが存在している以上、それは不可能。
「あ、いた。ちょっといいですか?お話ししません?」
考え事をしている最中、声をかけられたので振り向くと、フードが立っていた。……魔王軍に不都合な行動はとってないはずだから、処刑されるいわれはない。……まだ。
「……それで、何ですか?」
「そんなに敵意出されると困るんですけど……。いえ、のんびりお話できたら、ってだけなんです」
「……?さっきすれば良かったんじゃ……?」
「いえ、急に手が空いたもので」
よいしょ、と隣に座るフード。また武器自慢に来たのかなぁ。……振っただけで相手がはじけ飛ぶ杖とか持ってたら、貸してくれないかな。相手は死ぬ。そんなことを考えていると、フードが話を切り出した。
「あなたは死について、どう考えますか?」
「え、怖いですけど。何ですか急に」
これってひょっとして、お前を殺すという遠回しな意思表示?いや、遠回しにする意味は分かんないけど。ほら、平安貴族って遠回しなのが良いって言うし。うん、今関係ないな。……これって慎重に答えた方が良さげ?そのままフードさんによる質問タイムは続く。
「怖いって、何故でしょう?」
「何故って……」
なんで。自分がいなくなることを想像したら、ちょっとお腹のあたりが寒くなった。うーん、でも、何故と言われるとなあ。あんまり考えたことなかったけど。別にやりたいことがある訳じゃない……けどさあ。
「これまでの自分が無くなっちゃう、っていうのが怖いんですかね。あと、死んだあとどうなるか分からない、っていうのも……なんだか真っ暗な感じがしますし」
「なるほど。ということは、もし死んでもその後どうなるか分かっていたら怖さは半減する、ということですか?」
「まあそうかもしれないですけど……え、教えてくれるんですか?」
と僕が聞くと、知りません、と首を振って返された。じゃあ何やってん、今の例え。でも良かった。今からあなたで実践して教えてあげましょう、と言われる可能性もあったよね、危ねえ。いかん、慎重に。
「生き続けるっていうのもどうなんでしょうね。例えば私ってこの世界で死んでも、作り物な以上それは大本となる何かがどこかに存在している訳で。本当の意味では死なないじゃないですか」
いや、死ぬぞ。だから今困ってるんだけど。世界ごとなかったことには、なり得るよ。
「例えばこの世界がゲームだとして。セーブできたとしますよね。その場合、いったん私が死んだあと、元の場所からスタートする訳です。それって本来の、行き止まりまで行った私は死んでるんですかね?セーブしていたら、戻っていろんな選択肢を試せるわけですが。それって元の私の続き?それとも新しい私、なんでしょうか」
お前、ゲームのキャラなのにそういう例え話するの!?そして、なんか哲学的な話を始めた。そういう答えが出なさそうなこと聞くのも、やめてくれないかなぁ。でも、なんかそういうこと考えたことがある。ある行動を取るか取らないかで迷っている時に。自分が選ばなかった選択肢を選んだ場合の世界はどんな風に進んでいくのか、って。ここが分岐点だと、実感できる瞬間が確かにこれまで何度もあったと、そう思う。
「でも、そんなことできない訳ですから。考えてもしょうがないとそう思いませんか?」
「でも考えちゃうんですよね。もし、自分が選択を誤ったと、そう思った時に戻れるなら、あらためて違う道を選べるとは思うんですけど。そうすると、それは自分がかつて進んだ方の可能性、ひいては自分自身を殺すことになるのではないか、と。自殺みたいなものですよね」
「……そんなこと考えてたら、ゲームしてて楽しくないことないですか?」
疲れそう。僕ならもうちょっと考えず遊んじゃうけど。そんなの考えながらやってもつまんないだろうし。
ふむ、でも確かに、例えば僕が戻れるとする。このゲームに参加する前、とかに。そんな時にゲーム参加するのを止めたら。こんなことに巻き込まれたりは、しない訳で。……でも、そうすると、その記憶を持ってる僕って、どうなるんだろう。方向が修正されたわけだから、未来が変わって、消えちゃったりするのかなぁ。それで新しい自分がその先を、歩いていく。なんか昔見た映画に、そういうのがあった気がする。
「興味深いですね。そういうことを考えたわけです、私。それで、続きは」
僕が声に出していないのに考えた内容が伝わったようで、フードははよ続き、と急かしてきた。それで……?自分が消えてしまう可能性があるとしたら。それと引き換えに、他の道が選べるなら。
「私はその場合、何もしないですね」
だって、新しい道がどうなるか全部確認できるならいいけどさ。いちいちそんなこと、やってられないでしょ。だったらもう、1度決めた道でいいじゃない。それが歴史だと思うし。何よりも自分が消える可能性が怖いし(本音)。……ただ、変えることで大事な誰かが救えるっていうなら考えるけど。自分にとっていい方向かも、ってレベルじゃねえ。
と言いつつ僕はゲームをする時は当然セーブする派だ。このフードさんと違って、僕はゲームと現実を一緒にはしない、常識的な人なので。……あ、でも彼女にとってはゲームが現実、なのか。ややこしいなぁ。ここはゲームっていうより、もう現実みたいなもんだけどさ。
「なるほど」
座ったまま首を傾げてフードは何かを考える。首があっちに行ったりこっちに行ったり。なんか話がずれまくった気もする。……あんまりそういうこと考えてると、めんどくさい人だと思われるよ。遊ぶなら遊ぶで、何も考えなくていいじゃない。そんなことを思っていると、いつの間にか僕の口が開いていた。
「今度、いつになるかわからないですけど。一緒に何も考えず、遊びませんか。この魔王城のみんなと一緒に。きっと一人だからそういうこと、考えちゃうんですよ。私もそうでしたから。こういうピリピリした世界はもう嫌ですし、何も考えずに」
それは僕とサロナ二人両方の、意見だった。言った後で僕はちょっと心配になる。……え、大丈夫かな?不敬罪とか。ちょっとはらはらしながら僕が見ていると、フードは何かを考えて、ちょっと笑ったようだった。そして立ち上がる。
「きっと、一度負けたら、そう思えるかもしれませんね。その時は、一緒に遊んでください」




