同じ言葉でも
広場からちょっと人気のない通りに移り、僕たちは続きを話すことにした。ただ、今回は僕にとってもそれは望むところだった。パーティーのみんなが各々、疑問を口にする。1人を除いて。
「他のプレイヤー、なんでそんなに気にするんだ?一緒に戦ったとはいえ、始まりの街まで付いてくることないだろ。……何か理由があるんだよな?」
そうだね。僕はけっこう薄情な方でもあるので、自分と知り合い以外が心配!というのはあまりない。かと言って、別に世間を呪ってるわけでもないけど。
「あと、その装備は何かしら……?全体的に色合いが、その……個性的と言うか……、ううん、別に駄目って言ってるわけじゃないんだけど!……あとそのローブはさっきから唸ってるんだけど、中に何かいるの?」
完全装備になったのってそういえば塔の最上階が初めてだったしなあ。個性的っていうか、もっと正直に言ってもらっても全然いいんだけど。あと、中に誰もいませんよ。
「なんでその武器、そんなに強いんだ?俺の拳より硬いとかあり得ねえだろ」
その疑問の出発部分はどうかと思うが、疑問自体はもっとも。たぶん製作者の込めた魔力が通常想定されてるより規格外だった、というのが原因じゃないですかね。いや、確かめたわけじゃないけどさ。
「……」
そして、何も聞かれないのが一番怖いです。でもナズナの顔は、無表情というよりも、なんだかはっきりしないことがある、という風だった。何度も首をあっちに傾げたり、こっちに傾げたりしてる。そのままポロっと突然首が取れたりしないかちょっと心配になった。
……どうしよう。とりあえず、一つ目の質問には当然答える。死ぬ可能性あるよ、気をつけよう。たぶんみんなは信じてくれるんじゃないかな。知らない仲じゃないし、僕が根拠もなくそういうことを言い出さないってわかってくれる。
二つ目、三つ目の質問は……どうしよう。魔王城の話とか、魔族の皆さんの話、すべき?それをするなら、僕のこれまでの経緯についても当然しないとなんだけど。これって、する必要、あるのかなぁ。いや、さすがにもう、退治されるんじゃないか、と思ったりはしないけど。……と悩んでいると、いつの間にか僕の首もあっちに傾いたり、こっちに傾いたりしていた。……とりあえず一つ目!
「このゲーム、やばいんです!ゲーム内で死んだら、現実でも死んでしまう可能性があります!」
「……それ、もう二回ほど聞いたぞ」
「あっ」
そうだった!以前、デスゲーム疑惑を僕は懸命に皆に向かって唱えた気がする。根拠はなかったけど、あれは正しかった。僕は過去の自分の先見の明に一瞬感動するが、そんな場合じゃないことに気づく。根拠のないこと言ってるわ……!そしてこれまでの2回って、当然だけど全然信じてもらえなかった気がする。そして、今回。じゃあ信じるよ、っていきなり言われたらかえって怖い。何があったんだお前、って頭をはたきたくなる。
「まあ、お前がそんなに一生懸命に言うなら、そうなのかもな」
「えっ」
僕はさっそく歩いて、ヴィートの前まで行き、頭に手を伸ばしてみたが、届かなかった。僕が手を上に伸ばしてぴょんぴょんしていると、不思議そうな顔をされたので、素直に口に出す。
「かがんで、かがんでください」
「……?ああ」
ようやく降りてきたヴィートの頭。何度もぺしぺし叩いていると、突然その頭が元の高さに戻ってしまった。その下にある顔が、何だかむっとしている。確かに理由を言われないとただの奇行だもんね。説明せねば。
「いえ、何故今回は信じてもらえるのかが不思議だったんです」
「お前、不思議だったら他人の頭叩くの!?自分のほっぺたとかだろ、普通」
「あの。でも、何でですか……?」
「いや、理由があるならそれも聞くけどさ。お前を信頼してるから、かな。まあ、信頼してるのはここにいる全員だけど。……お前繋がりで集まったこのパーティーさ、俺はこのメンバーで良かったって、今はそう思ってる。そしてそう思えるようになったことに、俺は本当に感謝してる。だからだ。理由にはなってないかもしれないが、それで十分だ」
うわ。それとともに、ぎゅっ、と僕の手が胸の前で自動で合わさり、感動を表す。いいのか、この場の魔王軍代表。と素直じゃなく僕はそう思う。……でも、ヴィートのその言葉は、僕にとっても本当に嬉しかった。きっと、そのメンバーの中には、サロナと僕の両方が入ってると、そう感じたから。
「ありがとうございます……。死ぬって思った根拠は、このゲームを作った人に聞いたんです。あの、海辺の副町長がそうだったんですけど」
「ああ、それで入り浸ってたのか……道理で。噂でさ、お前の服を買うためにあいつが部屋に呼びつけてるんだ、って聞いてたからずっとどうしようかと思ってたんだ」
するとそこに抑揚のない、ナズナの平坦な声が割って入る。
「私その話、初耳です。……どうして私には言ってくれなかったんですか?」
どうしてって、そうなるからだと思う。僕はそう思ったが、決して口にはしなかった。強引に話を続きに戻す。
「あの、それで、プレイヤーの人には無理しないでほしくて。でも、どうやったら信じてもらえるかが分からないんです」
「直接呼びかけてみたらどうかしら?」
「それが、私が呼び掛けても信じてもらえそうになくて……いきなり知らない人にこんなこと言われても、困りませんか?それに証明するものは何もないんです」
「いや、お前を知らない人間はそうはいないと思うぞ……掲示板がある限りは」
ああ、そういえば、そんなのあったあった。何だっけ、ウサギの。でもあれって見守るスレとかじゃなかった?別に僕の言うことを一から十まで肯定してくれる集団ではない、と思う。僕が広場かどこかで踏み台の上に登り、拡声器で訴えても、結構スルーされるだろうし。
「私の言葉に裏付けとなる説得力がないので、やはり難しいかと……」
「まあ確かにな。運営が正式にアナウンスした、とかだったらまだしも、個人で呼びかけてもな……」
そうそう、あいつ何もせずにバックレたし。…………ん?……運営……?
「そうか、運営の振りして皆にアナウンスすれば!……あ、駄目か」
「……あ、そうか!お前幻聴も使えるんだっけ!……なんで駄目なんだ?ある程度集めてパパッとかけたらいいんじゃないのか?それを繰り返したら、いつかは」
「私、多数相手の幻覚って、うまく制御できないんです。この前初めて複数相手の幻覚に成功したくらいで、そんな大勢相手だと、とても……うーん、でも頑張ったら……」
サロナなら、頑張って練習したらきっとできるかも。……ただ、サロナは幻聴をアナウンスっぽく伝えるのはきっと無理っぽい。僕が頑張って習得するか、サロナに何とかアナウンスの内容を理解してもらうか。どっちかならいけるかも!……そう思って顔を上げると、その希望が伝わったのか、みんなの顔もちょっと明るくなっていた。その中で、ナズナの首の動きもいつの間にか止まっているのが目に入った。……良かった、取れる前に止まって。




