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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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ふとした瞬間に成長を感じる時っていうのが確かにあると思う

 それにしても、急に考えることが多くて、何だか目が回る。塔に着いて、フロアをみんなの後ろについて歩きながら、僕は考えるべきことを考える。


 まず、ああいう魔族を指す方位磁石みたいなのがあるってことは、追ってくるプレイヤーから逃げないといけない。これに対しては、魔王城引きこもり作戦がやはり一番安全のような気もする。


 ただ、魔王城に引きこもってると、プレイヤー乱獲が止められない。もはやこうなったらプレイヤーは絶滅危惧種並みの保護対象だし。全員がイリオモテヤマネコみたいなもんである。……よく考えてみたら、塔に来るのも止めるべきだったかもしれん。まあ、そこは早めに撤退を進言すればいいか。


 プレイヤーを減らさないため、かあ……。やっぱりプレイヤーにも、戦わず家に引きこもりを推奨するっていうのもありかも。下手したら死ぬぞってのも含めて、ギルドで片っ端から声をかけたり、掲示板で呼びかけしてみたり。問題は、突然そんな提案してくる見ず知らずの人間に乗ってくる相手がどれだけいるか、ってところ?けど一定数は救えそう。少なくとも僕ならこれ幸いと喜んで承諾しちゃう。


「……おい!前!」


 ……ん?なんか呼ばれてる?


 考え事をやめて、僕が顔を上げると、いつの間にか魔法使いっぽい敵が10メートルくらい前にいて。そいつの放った弾っぽい何かが、こっちにすごいスピードで向かってくるところだった。ちょっ、やばい!急すぎ!あかんこれ絶対無理!……避けられない!


 僕が目をつぶって小さくなっていると、いつまでたっても来るはずの衝撃は来ず、恐る恐る目を開ける。目の前に僕を守るように大きな手が伸ばされているのが見えた。その手に弾は受け止められており、そのまま握りつぶされる。その腕に沿って視線を動かすと、いつの間にか隣に立っていたギャレスが僕を攻撃から庇ってくれたみたいだった。


「あ、ありがとうございます」


「別に何回でも守ってやるからいいけどよ。戦闘中はせめて前向いとくんだな」


「……すみません」


 ……駄目だ、切り替えないと。僕は気を取り直してあたりを見回す。……あれ、結構歩いてきた?なんか最初と景色が全然違うけど。


「もうここ3階だぞ」


「!?」


 え、階段上ったっけ?……駄目駄目、しっかりしよう。僕はちゃんと周りを確認する。……あれ、なんかパーティーに人が増えてる……?5人くらい多い気がする。数え間違いかな?僕は3回くらい数えなおして、ナズナの服の裾をくいくいと引っ張り、こっそり尋ねた。


「わっ、え、なに?どうしたのサロナちゃん」


「なんだか人が増えてません?」


「え……あれ?塔の一階で合流した他のパーティーの人だよ。え、もう忘れちゃったの……?」


 そう答えるナズナは、今はもう普段通りの様子に見えた。感じ取れる感情は、少しの困惑のみ。僕もちゃんとせねば。


 ……え、でも合流とか、そんなことあったっけ。考え事に熱中し過ぎだろうか。塔に入って、歩きながら考え事してた、って記憶しかないんだけど。でもそう言われてみれば、確かに、合流がどうのってのを目にしてたような……?ただ、その記憶はプールの中で目を開けた時の景色みたいに、ぼやけてなんだかはっきりしないような気がした。


 





 その後は特に違和感を覚えるようなこともなく、最上階に無事到達する。……大きな扉の前で、僕たちはあらためて回復を行い、中での戦闘に備えた。方位磁石が正しかったら、きっと中には上級魔族がいるはずだから。


 ……そういえば、最悪開幕に特殊攻撃とか仕掛けてくる可能性あるよね。そういう傾向、あった気がする。僕は海鳥シーバードを構える。これで迎撃はできるはず。……たぶん。……なんでも斬れるって言ってたし。



 そして、扉を開くと、中は大きなホールになっていて。中央に5メートルくらいの大きさの灰色の竜が、2足歩行でどーんと鎮座(?)していた。全身が岩みたいにごつごつしてる。既にこっちを向いているそいつは即座に大きな口を開け、そこから人間大のサイズの光の弾が轟音とともに放たれた。ほら来た!魔王軍じゃ開幕初手に何かでかいことをするって軍規でもあるに違いない。


 ……天然記念物(プレイヤー)を守らないと!僕は準備していた海鳥シーバードを手に前に走り、迫るそれを夢中で切り払う。手ごたえもなく光の弾は真っ二つになって別れ、そのまま左右にドォン!と音を立てて着弾した。背後から来る爆風に髪の毛を煽られながら、僕はドキドキしつつ感心する。


 この武器、さすがに魔王軍最強がブレスも魔法も斬れると豪語するだけある。フードってスゴイ、僕はあらためてそう思った。……そして、後ろで布陣を組む気配があった。いや、逃げようよ。


「助かった!ここからは任せろ!」


「天然記念物は私の後ろに隠れて、逃げてください!」


「えっ」


「あいつの言うことは気にしないで、俺たちも戦いましょう!言ってることは変でも、悪い奴じゃないんで!今のは、『みんな大事だから無理しないでほしい』って意味です!」


 なんか褒められてるのかけなされてるのか微妙な評価が聞こえてくる。そして、後半は何かちょっと違うぞ。そんな中、突然横から手を引っ張られ、凄いスピードで後ろの方に連れていかれる。もう半分くらい宙に浮いてるレベルで引きずられた。この覚えのある持って行かれ方は、ナズナ。


「サロナちゃん!HP一桁なのになんで一番前に出てるの!?」


 ……人って事実を言われた時が一番傷つくんだぞ。でも、一理ある。これ、自分を守りつつ、プレイヤーも守る。両方やらなきゃいけないのが辛いところだ。……無理ゲーじゃない?



 そうしてナズナに見張られながら、しばらく後ろで応援する。……いかん、どうも方針が定まってないからか、普段みたいに明確に動けない。どうしよう。……とりあえず、いつも通り攻撃を受けない後ろから認識阻害をかけようとじっと相手を見る。あ、まず、鑑定せねば。そんなことも忘れていた。鑑定!



名前:ペルセトリア(№19)

種族:魔族

レベル:112

攻撃力:660

防御力:1120

すばやさ:320

魔力:550

(鑑定不能)

HP:4520

MP:1250


 !ステータスが!ほとんど見えてる!!じーん。なんか、こんな当たり前のことがすごく嬉しい……。あ、でも、レベルが僕の倍ちょっとなのに、HPが僕の500倍ある。やっぱり僕が個別で狩る、というのは無理か。耐久性が違い過ぎ。僕が2万人いたりしたらまた話は違うかもしれないけど、いないしね。しゃーない。

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