羅針盤ってそういえば本来ぐるぐる回すもんじゃないよね
あんまり話が進んでない回
やはりこの館は早めに燃やしておくべき存在だったか……。僕がじとっとした目で予言者の方を眺めても、相手は全く気にした様子がない。初回はすっごい声出して逃げ出された覚えがあるんだけど。
とにかく、ここで全部の方位磁石が壊れると、そろそろ僕の方に疑いの目が向かってきそうな気もしたのでさすがに破壊活動にいそしむことは自重した。解決法は、ある。僕はさりげなく前に進み、方位磁石を手に取った。
「あ、おい!」
「いいじゃないですか、私にも触らせてください。あんなに壊したんですからもうヴィートは駄目です」
「え、あれ壊したって言う……?あと、あんなにってまだ一つしか……」
「……私は駄目ですか……?」
ここは譲ったら即死である。最初に、この装置は僕の係、っていうイメージさえつけておけば問題ない。僕はぎゅっと方位磁石を抱きしめて、みんなの方へ懇願するような顔で訴えた。
昔、両親に捨て犬を飼いたい、と言った時のことをちょっと思い出す。大事にするし、毎日散歩もするよ。……まあその時は結局弟のアレルギーで飼えなかったんだけど。飼い主が見つかって見送った時は、ちょっとの付き合いなのに、やっぱり寂しくて。代わりに鳥を飼うことになって、そっちも超可愛かったからまぁ……結果的には良かったのかも。あれが、僕の最初の何かとのお別れ、だった気がする。
「いいじゃない、そのくらいさせてあげたら」
僕が昔の思い出に浸っていると、いつの間にかお母さんポジションのユウさんが味方になってくれていた。そうだそうだ、っていうか別に誰がやってもいい役割だよね、これ。僕はみんなから異論が出ないのを確認し、方位磁石を掲げると、針がぐるぐると回り始めた。
そう、これは自分から一番近い上級魔族の方向を指してくれるんだから、自分で持てば自分以外のやつの方を指す、はず。違うかな。違ったら床に叩きつけてまた攻撃を受けていると主張するくらいしかないんだけど。僕を操る宇宙からの怪電波を感じた、と言う準備は既にできている。
そう思いながらだんだん回るスピードが遅くなる針を見守っていると、僕が予想した通りの機能だったのか、あるいは方位磁石が床に叩きつけられたくなかったのかはわからないけど。針は手に持った僕の方ではなく、占いの館の壁の方を指し、止まった。……いいね!セーフ!!
「ふふ、ほら、あっちですって!!」
「わかったわかった、よかったな。嬉しそうだな、ほんとに」
「私は壊しませんでしたよ」
「そういう嬉しさかよ!俺も壊してねえよ!勝手に壊れたんだ」
方位磁石を持ったままでいると。しばらく一つの方を指していた針は、10秒ほど経つと再びぐるぐると回り始めた。ずっと指す訳じゃないのか……。持ってるだけでそれこそ方位磁石みたいに自動で指し続けるんだったら僕にとってヤバすぎる機械だったけど。まあ、最悪では、なかった。よかった。ヴィートに濡れ衣を着せているのがちょっと申し訳なくはあるけど、ここはおとなしく汚名を被ってもらおう。
「勝手に壊れたって、パソコンに弱い人もPCがおかしくなったらみんなそう言いますけど、たいてい自分の操作のせいですよ?」
「うわ、自分はできたからってそのドヤ顔ほんと腹立たしい!……貸せ!壊さないこと証明してやるから!」
「絶対!貸しません!」
僕らがわいわい騒いでいると、予言者が呆れたような口調で口を挟んできた。
「……あの、外でやってください」
……ごめんなさい。
「あー、確かに掲示板にこの装置のこと、載ってるわ。見落としてたな。昨日の夜に掲示板に投稿されてる」
「そうですか……」
「なんか急にえらくテンション低いな」
つまり、これから結構な人数があの方位磁石を手にする、ってことか。……どうするべきかな。夜寝てたりしたら宿にプレイヤーが押し掛けてくる、っていうこともあり得るわけで。さすがに言い訳が続くとは思えない。プレイヤー減るのを阻止する、っていうのも、どうしたらいいかさっぱりわからないし。思わずため息が出てしまう。
「体調が悪いなら、今日はもう休むか?」
「……いえ、いけます。大丈夫です。体調は万全です。それはほんとです」
僕の手も自動でぽんぽん、と自分の胸を叩いて元気アピールをするが、あんまり信じてない表情でヴィートは引き下がる。
「そうか、ならいいが……」
「それで、どうします?」
それより、今あんまり立ち止まってるとヤバい気がする。僕は周囲に方位磁石を覗きこんでる集団がいないかどうかを見回しながら急いでヴィートに尋ねた。
「とりあえず、また回すか……」
……ぐるぐる回る針が指した方に何があるのか調べてみたら。そっちにはどうやら、塔があるらしい。掲示板によると、街の外歩いてすぐの所にあり、強大な呪文が手に入る、という。……掲示板も、結構役に立つな。もう少しちゃんと自分で見直した方がいいかも。
とりあえず、僕たちは塔に向かう、ということで合意した。倒せそうな奴なら減らしておくに越したことはない。ただし、危なそうなら撤退を早めに心がけること、というのを僕は再三主張した。もし呪文が手に入るならナズナにもいいしね。……そういえば。
「ナズナって、今日ちょっと口数少なくないですか?顔色も悪いですし。ひょっとして、気分が悪かったり……?」
「……あ、うん。大丈夫。気にしないで。体調は万全だから」
そう答えるナズナはちょっと元気がないように見えた。その台詞、さっきの僕のパクりやんけ。でもそう言われたら何も言えない。
「少しでもしんどかったら早めに言ってくださいね」
「……それ、お前が言う!?」
それ以上いけない。いいから、早く行こう行こう。




