立場が逆だったら確かに笑うかも
翌日。魔法都市に向かう途中だけど、超眠い。歩いていると「ふあ……」とあくびが出るので頑張って口を閉じると、自分が涙目になるのが分かった。それをユウさんにばっちり見られて笑われる。
「眠そうねー。昨日あんまり寝れなかったの?」
はい。結局、どうしたらいいのかわかんなかったしなあ。僕って攻撃力は装備もあっていいんだけど、防御力が紙過ぎる。防御力っていうか、HPか。初期レベル並だもんね。9って。でも考え方を変えると、一桁内だと一番上の数字だ。うむ、悪くない。一桁のHPの奴なんて自分以外存在しないという点にさえ目をつぶれば、むしろプラス材料な気がしてきた。……うーん……駄目かな、やっぱり。今度は急いで、でもちゃんと考えないと。あんまり考えなしに動くのもあれだし。
そうこうしていると、いつの間にか僕たちは魔法都市に着いていた。予言者の館にそのまま向かう。相変わらず尖った塔があるけど、意外に街並みは普通なままだった。ただ、何人か見かけたプレイヤーは、みんな手元に持っている何かを覗き込みながら歩いていたところが違った。なんだろ、ついにこの世界にもスマホ文化が到来したのかな。
……そして、到着して少し待たされ、予言者のところに僕たちは案内される。相変わらず暗い部屋に……あれ、今日は水晶玉が机に乗ってない。なんでだろ。僕がそんなことを考えていると、ヴィートが予言者の女の子に今日の要件を告げる。
「これからどうすればいいか、迷ってるんでアドバイスが欲しいんだ」
「なるほど……。ちなみにあなたたちの旅の目的は何ですか?」
「そうだな、もっと強くなるのと、できたら上級魔族を討伐したいと思ってる。一応攻略したいとは思ってるし」
その言葉が出た瞬間、予言者はちらっちらっとこっちを見てきた。おいやめろ。後ろ後ろ!みたいなその表情。この館を僕の新武器の試し斬りに使うぞ。たぶん今ならできるから。……その僕の内心が伝わったのか、予言者は何も余計なことは言わずに、何か方位磁石的なものを机の上に取り出した。ちょっと大きいな。フリスビーくらいの大きさと薄さ。
「こういうものがあります」
「何だこれ?」
「これはですね、手に持つと、自分から一番近くにいる上位魔族の方向をですね、指し示してくれるんです。旅の手がかりにしていただければ」
「へー!すごいな、ちょっと持ってみてもいいか?」
あっ。あかんこれ。……サロナ先輩、ヤバいっす。幻覚の方フォローお願いします!今からの僕の行動見えない感じで!僕は伝わってるかどうかわからないけど、心の中で思いっきり叫ぶ。こういう時、直接対話できない(?)のが辛いところだった。返事がないもん。
緊張したような表情で、両手で方位磁石の端と端を持ち、覗きこむヴィート。その途端、方位磁石の針がぐるぐると回りだした。そして、しばらく見ているとだんだんその回転速度が遅くなる。その針の先がどこを指すのかをみんなが注目している中、僕は堂々と大剣を振り上げ、方位磁石を真ん中から叩き切った。させるかぁ!
スパーン!と抵抗もなく方位磁石はそのまま真っ二つになる。やったぜ。そして、僕は素知らぬ顔でヴィートを責めた。
「あ、ヴィートが壊した!……ワクワクし過ぎて割っちゃったんですね。力入れすぎじゃないですか?」
「!?真っ二つになってる!?……なんで……これ割ったっていうか、すげー綺麗に切れてんだけど……」
ありがとうサロナ先輩。100点です。これで真っ二つになっても動いてたらどうしようかと思ってたけど、方位磁石は普通にお亡くなりになったみたいだった。ここでヴィートが「まだだ、たかがメインカメラをやられただけだ」とか言い出したら完全に僕の負けなのでよかった。
「これじゃあ探せませんね!でもわざとじゃないなら、しょうがないと思います」
「いや、これ明らかにおかしいだろ!」
「……おかしいですか?よくあることだと思いますけど……」
「その心底不思議そうな表情がちょっと怖いんだが。お前は持ってたものがいきなり真っ二つになることがそんなにあるのか!?どんな生活してるんだよ」
そう言われてみればそうだ。なかなか鋭いこと言うね。
「きっと壊したのを気にしないようにって気遣ってくれてるのよね」
「そうです!!」
「本当に気遣ってる人間はそこで即答しねえよ……」
ヴィートって結構細かいことを気にする奴だよね。そんな話を僕らがしていると、予言者の座ってるあたりから何かコトリという音がして僕は振り返る。ちょうど、予言者が新しい方位磁石を机の上に乗せているところだった。……サロナ先輩!さっきのまたお願いします!
僕はそのまま大剣を振りかぶって予言者の前まで駆け寄り、そのまま振り下ろす。机ごと、方位磁石は真っ二つになった。それと同時に僕は後悔する。持ってたものが真っ二つになる、これはまだいい。……いきなり机とその上のものが真っ二つになる、これ、おかしいね。反射的にも程があった。時間を戻したい……。後ろでみんなが驚いている声がしたので、とりあえず僕は素知らぬ顔でみんなに混じる。
「!次は机ごと真っ二つに……!」
「ひょっとしたら……攻撃を受けているのかもしれません」
僕は腕組みをしながら真剣な顔をし、こうなったら自分で解説を始めた。第一発見者が犯人の法則って、あれ、本当かもしれんね。
「上級魔族にとって、不都合なものを供給するここが狙われても決しておかしくはないと思います」
「今までこんなことは一度もありませんでしたが」
余計なことを言う予言者に目で、おいやめろ。と送ったが相手は涼しい顔をしていた。こいつ絶対いつかシメる。僕は気を取り直して推理を続ける。
「気づいた、ということでしょう。それで勇者に渡す前に、何とか阻止が間に合ったと」
「既に10組を超える勇者に同じものを渡しています」
……今なんか死刑宣告みたいなものが聞こえた気がする。僕は絶望した顔で振り返ってまじまじと予言者を見ると、予言者は方位磁石を何枚も両手で抱えて部屋の隅から持ってくるところだった。ちょっと笑ってる。……そうだ、こいつって、そういう感じの性格だった気がする。なに笑とんねん。




