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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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何かがまともになると代わりにどこかがへっこむ

 ふと僕の後ろをアレットさんが見て、「あ」と声をあげる。……なんだろ?振り向こうとすると、後ろからふわっと抱きしめられた。でも、突然のそれは不快ではなく、むしろ安心する。


「この子も見てないうちに少しは成長したのかしら……今度は本当よね……?」


「アルテア様!」


 振り返ると、ちょっとやつれ気味の上司の笑顔が見えた。とても嬉しそう。隣にフードもいる。アルテアさんはしみじみと呟いた。


「さん、ね。ちょっと今日はお休みを貰えたから来たの。渡したいものがあるって聞いて……でも、今の言葉を聞けただけで、十分かもしれないわね。……子供が大きくなるって、ひょっとしてこんな感じなのかしら」


「ありがとうございます……」


 じーん、と感動しているらしく、僕の両手がぎゅっと胸の前で握りしめられ、うるうると目が潤むのがわかった。うむ、いい話だ……。僕もちょっと一緒に嬉しくなる。




 ……そして、このまま武器のこと忘れてくれないかなと思ったけど。さすがにそうはいかなかった。


「渡したいものは!これですこれ!すごく強い武器なんです!これでアルテアさんが最強になれるって!」


 サロナが大剣を取り出そうとするのを感じた。……このままではいかん。僕はとりあえず体の操縦権を奪い取り、おやつの山にあった長いフランスパンをとっさに手に取ってアルテアさんに渡す。……その手渡された、自分の手にあるパンをじっと見ながら、アルテアさんの顔がどんどん悲壮になっていくのが僕の目に映った。


「……え……何これ……さっきの成長は……?これで、私が、最強……?…………嘘でしょ……あんなに忙しかったのに、こんなことのために私は休みを貰ったの……?」


 呆然としながらフランスパンを片手に立ち尽くすアルテアさんの姿は、ちょっとあんまり今まで見たことない感じだった。僕のパーティーにいてもおかしくない感じ。言っちゃえば、常識人枠を踏み越えようとしている感じ。ヤバイことをしてしまった。……それを見て、プルプルと僕の体が震え、どすっどすっ、と僕の脇腹に自分の拳が入った。痛い痛い痛い。ごめんだけど、さすがに黙って渡すのまで見守るわけにはいかなかったから……。



 その後は警戒されているのか僕が干渉できないまま、僕の手が大剣を取り出して、結局アルテアさんに渡してしまう。


「これが……?……これ!凄いじゃない!こんな……これ、あんたが見つけてきたの?あと、最初のは一体何だったの……普通に渡せばいいじゃない……」


「はい!使ってください!」


 というサロナのプッシュに対して、うーん、と、剣を手にしたまま首をかしげ、アルテアさんは何かを迷っている。お、ひょっとしてお気に召さない?


「……これ、大剣っていうよりは魔道兵器よね、魔力で扱うって意味では。……くれるって言うけど、あんたは?使えたりはしない訳?」


 そうそう。使える使える。製作者のお墨付きだよ。僕の頭が縦と横に交互に振られる。……気持ち悪い、ちょっと酔いそう。それを見て、アルテアさんは困ったような顔をした。


「え、どっち?」


 ここが頑張りどころだ。ええい、少しでいいから動かさせてって。お願い!ほんと駄目だから!……サロナと体の争奪戦を繰り広げながら僕は思いっきり叫んだ。が、最後に邪魔が入る。


「私、使えますん!!」


「……だからどっちなのよ……」


 ため息をついて、こめかみに手を当て目をつぶるアルテアさん。いかん、困らせている。こっちは真剣なんだけど。するとそこに実況解説のフードさんが口を挟んできた。


「自分が使えなくはないけど、アルテアが持つ方が軍の戦力的にプラスなのではないか、と彼女は言いたいようですよ」


 おいやめろ。それ解説じゃなくて、100%お前の願望やんけ。


「ちなみに、この剣は使用すると時間に比例してMPを消費します。アルテアだと3時間は持ちますが、サロナだと30秒がいいところですね」


「……そうなんですか……」


 制作者によるその解説を聞いて、顎に指を当ててこっちを見てしばらく考えた後、アルテアさんはいつになく真剣な顔をして、僕に向き合った。


「どんなに普段の言動が変でもね。……あんたは世界が広くなったって言った、それは間違いなく成長よ。あんたがこれから自分の進みたい方向に進むためには、きっと力が必要だから。これは自分で使いなさい。人が見つけた武器を貰うほど、私は弱くないから」


「え、でも……」


「あんたから貰うのは武器じゃなくて、この間みたいなお菓子の方がよっぽど嬉しいわね。だから代わりに、私もこの会、混ぜてもらっていい?せっかくだから頂きたいわ。それで、またいろんな話を聞かせてちょうだい」


「もちろんです!」


 ……その後、いつの間にか姿を消していたフード以外で、僕らは中庭で山盛りのおやつを囲みながら、それぞれがたわいのない日常の出来事と、思い思いに話したいことを話し、笑った。そこには必要以上の上下はなく、上級も下級も同じように。……それは、こういう場所なら魔王軍も悪くないな、と後ろで見ている僕に思わせるくらい、ゆっくりで、安らかな時間だった。





 その日、送ってもらう帰り道。フードが僕に対して突然話しかけてきた。


「一応、渡そうとしましたね……本当に、一応ですが」


「……?」


「何もせず、自分で使おうとしていたら、そろそろあなたをどう処分しようか真剣に考えるつもりでした。でも、一応はまだこちら側、と」


「……もちろんです」


 最後にフードが呟いた、『……本当は片方だけ削除できたらいいんですけど』という独り言は聞かなかったことにする。


「でも、本当に残念でした。アルテアがいなかったら、この戦いはきっと、持ちません。本当に……本当に、考えず動く者が多くて……。だからこそ彼女には強い武器を持って欲しかった。……まあでも結構です。こうなったら私が作ります」


 その口ぶりは珍しく愚痴っぽかったけど、後半が分からない。……今までは、作っていなかった?


「……?」


「今までは私が新しく武器を作る、ということも禁じられていたんですけど。今回、あなたの持ってきた武器を改良したのに何故か制止がかからなかった。……ということは改良なら少なくとも認められるということ。上位から順番にふさわしい武器を作っていくつもりですが、1カ月もすれば揃えられるでしょう。そうすれば、この戦いの情勢も変わるはずです」


 ……また。何か違和感。……なんだろ?この戦いが長引くこと。それがやけに引っかかる。そして、これはきっと、すぐに考えなければならないこと。そんな気がした。


 下を向いて考え込んでいると、渡すのを邪魔したのを思い出したのか、僕の脇腹にまた、自分の拳がどすどす入り始める。痛い痛い痛い。……ごめんってば。さすがにあの場面に水を差したのは、僕が完全に悪かった。たぶん同じ場面が来たら同じことしちゃうけど。

(何度目か分からないお詫び)


前話投稿直後、最後にサロナが「この世界は作り物だと分かっているけどそれでも好き」と言う部分がありました。その後たぶん10分単位で消したりつけたりを5回くらい繰り返しました。


書いている最初は、主人公が引っ張られてる分、サロナも引っ張られてないとおかしいよね、っていうのと、読み取るのが能力的に得意なサロナの方が相手からの吸収が早いんじゃないかと思ったんですが……投稿した後読み返したら、誰この子、的な感想になったので……。ほとんど喋ってないけど何も考えていない訳ではない、んですがそれでも違和感がすごい。


結局前話は現在の通り、今いる世界の外にもまた世界が広がっているらしい、と何となく理解しているくらいに落ち着きましたのでご了承ください。すみません。

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