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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ』

「つかれた……」


 曲がり角では左にひたすら曲がる、窓から現在地を確認して方向を把握する、といった古典的な方法を駆使して、二時間ほどさまよい、見覚えのある場所にやっとついた。途中で考え事なんてしてる余裕はもちろんなく。その代わりに魔王城の地理にだいぶ詳しくなった気もするけど、あんまり嬉しくない。


 僕は重い足を引きずって、とぼとぼと歩く。……と、もう一度足が走り始めた。あ、これ、アルテアさんの部屋に向かってる気がする。無駄だと思うけど。絶対明日筋肉痛だよこれ。




 そうして、アルテアさんの部屋には当然ながらアルテアさんは仕事でいなかった。何度、何十度ノックしても誰も出てこない扉の前で、しばし呆然と佇んだ後、僕は大剣を抱えて扉の前の廊下をうろうろする。……たぶん、夜まで帰って来ないからどこかで休むべきだと提唱したい。……あ、そうだよ、中庭でおやつ。中庭でおやつをアレットさんと一緒にって話があった。誘っておいて人を待たせるのはいかんよ。別に時間指定してないけど。



 しばらくして、それが伝わったのだろう。何度もアルテアさんの扉を振り返りながら、僕はその場を後にした。どれだけ心残りなんだ。





「お待たせしました……。一緒に……おやつを食べましょう……」


 疲労困憊な僕の姿を見て、アレットさんは目を丸くする。不思議そうに尋ねられた。


「いいけど、なんでそんなに疲れてるの……?」


「大したことじゃありません。ちょっと帰り道が分からなくなっただけです」


「また!?いっつも迷ってるよね、あなた」




 そして、中庭で芝生に二人で座り、おやつの山を僕は取り出す。祭りの帰りにもまた道行く人から貰ったから、二人では絶対に食べきれないくらいの量があった。実に、大きめの手提げ袋にして12袋分。一気に広げると手に負えなさが視覚化されてちょっとくらくらきちゃう。


「え、これ二人で食べられないでしょ」


「あの、じゃあアレットさんの友達も呼んできてもらえたら」


「いいの?あ、じゃあさ、あなたも友達を……、……ごめん、ほんとごめん。そんな悲しそうな顔しないでよ。悪かったから。私がたくさん呼んでくるから。……あのさ!きっとみんなまだ知りあえてないだけで、すぐ仲良くなれると思うよ」


 そう言って、アレットさんはごめんね、という風に手のひらを合わせながら立ち上がって、友達とやらを招集しに行った。それを見送った後、僕の体が前から狙撃でもされたかのようにどさっと後ろに倒れ、そのまま大の字になる。そうか、そんなにダメージあったか。芝生のちくちくする感触を背中に感じながら、魔王城上空のどんよりとした空を僕がぼーっと見上げていると、ふと、その状態のまま、どこかにサロナがメッセージを飛ばしているのが何となく感じ取れた。……なんだろ?



 その後しばらくして、寝たままで見えないけど遠くから電子的なピロピロ音が聞こえた瞬間に、何をしたかわかった。こやつ、謎の電波でUFO先輩を呼びつけておる。スズメバチか。向こうが上位なのに。いやまあいいけどね。大変お世話になったし。



 音が近づいてきた瞬間に体が飛び起きて正座をすると、UFO先輩はピロピロ(楽にしなさい。あと、髪や背中に芝生がついてますよ)、とありがたいお言葉を発してくれた。相変わらずできた人(?)である。





「お待たせー!あ、アーディティテクトリ様、失礼します」


 30分ほどして、アレットさんはなんと8人の友達を連れてやってきた。その大漁ぶりに嫉妬する訳でもなく、わーい、と両手を上げて笑顔で喜ぶサロナ。別に人嫌いって訳でもないっぽいんだから、普通に友達できそうなのになぁ。……でも、その後の皆の話を聞いていると、できなかった理由がとてもよく分かった。


「……やっぱり、格差が……力がなかったら発言権ないもん。物扱いだし」


「だよねー……しょうがないとはいえ」


「なるほど……」


 魔王軍の世知辛さをここでも聞かされるとは。でも正直組織の在り方としてはありだと思う。特に、目の前に戦う相手がいるなら。……ただ、上が何してもいいっていうのはやりすぎかな。結論としては、一刻も早く、魔王城のんびりふれあい広場化計画をやっぱり目指したいところだよね。ここがピリピリしっぱなしなのは僕も何となく嫌だし。と僕が思っていたら、同じような発言が僕の口から出てきた。


「私は嫌だなぁって、思うんです。仲良くしたいですし、今みたいに皆で集まるのもすごく楽しいので好きです。別に仲間でそこまでする必要なんて……」


「この子発言が上級魔族と思えないんだけど……でも確かに、上級魔族の方とゆっくり話す機会なんてなかったけど、あんまり変わらないなって、思う。せっかくなら仲良くしたいよね」


 たぶん、ピリピリしてるのって戦況が良くないから、っていうのもあると思う。だって勇者は何度死んでも生き返るのに、こっちは一回でお終い。アンフェアにも程がある。稀にしか起こらないらしい昏睡状態を狙うのも現実味がないし。と、僕は他人事ながらひどい感想を心の中で述べる。……その瞬間、ふと何か疑問が頭をよぎったけど、それは形になる前に霧散してしまう。



 その間も話は続いていたが、僕が答える必要はまったくなかった。あれこの自動操縦状態って、ひょっとしてすごい楽かも。


「でも、ずっと欠番扱いされてたらしいじゃない。前は黙ってそれを受け入れてた、って聞くけど、どういう心境の変化?やっぱり人間の街に行ったから?」


「なんでしょう……?」


 と、サロナはしばらく考え込んだあと、笑いながら答えた。


「なんて言ったらいいのか、うまく言えないんですけど……。以前はそういうものなんだって、ただ思ってたんです……でも。なんだか私が考えてたより、この世界って、もっとずっとずっと広いんだなぁって。私一人だったら、わからなかったと思いますけど、今はそうじゃないから」


 ……前にも一度どこかで思い浮かべたあの言葉。相手を見てるっていうことは向こうもこっちを見てる的なあれ。僕は正しい文章を思い出す。……「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」じゃなかったっけ。あれ。……きっと、僕がサロナに影響されてるのと同じように、サロナも僕の影響を受けてる。当然だった。ずっといつも、一緒にいたんだから。僕はそっと自分の胸に手を当てる。……そう。ここに二人とも、ちゃんといる。

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