相手が変な上司からいつの間にか神にまでなっていた件
「でも、助かりました!ありがとうございます!」
「けれど、起こすのに必要な魔力の量には、あなただと3日3晩補充を続けても届かないですね」
「えっ」
それはひょっとして致命的欠陥ではないか。みんな3日は待ってくれないよ、たぶん。それを聞いて、ぽかんと口を開けて呆然とするそんな僕に、救いの手を差し伸べてくれる存在がいた。
「魔力の補充については私がやっておきます。30分で済みますよ。やはり自分の武器が活用されている、というのは嬉しいので。あなたがこの子を装備したとしても絶対私は殺せませんし」
「ありがとうございます!」
あれ、このフードさんひょっとして天使じゃない?善意の塊みたいな人だ。この天の御使いに、続いてナズナの杖も見てもらおう。こっちはできたら、ってところだけど。僕は、お納めください、と杖を両手で掲げてフード様に献上する。
「あと、この杖なんですけど……これも使い方が分からなくて」
「へえ……珍しい型の魔法がかかってますね、これ。あれ、でも一部が欠けてる……?ちょっと術式が非合理かな。普通はこういう組み方は、ああ、そういう考え方か……なるほど、発想は悪くない、でも……。欠けている個所が気になるけど、これたぶん土台の…………あ、すみません。あまり見たことのない方式で作られているので、すぐに起動は難しいかもしれないです」
「あ、わかりました。じゃあ大丈夫です、別の方法を調べますから」
できないならしょうがないね。あんまり無理ばっかり言うのも気が引けるし。僕があっさり諦めて杖を引き取ろうとすると、なぜかフードが杖を離さなかった。むしろぐいぐい引っ張ってくる。え、何?遅れてきた反抗期?
「あの、分からないならそれでいいんです」
「分からなくありません。すぐには難しいと言ってみただけです。私に分からない武器なんてありませんから」
「え、でも」
「できます。なんなら魔力補充の間に片手間でもできるくらいのレベルです」
杖の両端をお互い持って、思いっきり引っ張り合いながら会話するけど、こいつ結構力強い。しばらく綱引き状態になった後、さっと杖をもぎ取られた。いや、そんなに必死にならんでも。できるんだったらそれが一番いいんだし。
「あの、じゃあお願いします。いろいろ、ありがとうございます。お世話になります」
ぺこり、と僕はフードに頭を下げた。
そして、フードは奥で作業してくるので一時間ほど待て、と言い残して席を立った。部屋の奥の方を見ると、確かにそっちへ続く扉があって、フードがそれをバタンと開いて向こう側に姿を消す。結構広いよね、この部屋。
しばらく僕が座って部屋の中をきょろきょろしていると、不意に奥の部屋からガキンドカンと謎の異音が響いてきた。……え、なに?……結局、その音は一時間が過ぎるまで、止むことはなかった。そして一時間後。
「あの、この杖こんな形でしたっけ……?」
「そうですよ」
差し出された杖は、え、なんか全体的に……まず、ちょっと伸びてるし。角みたいなパーツが三つくらい増えてる。あと、色って銀色じゃなかった?なんか先っぽまで真っ黒なんだけど。そして先端に輝く血の色の宝石。あんなのなかった……よね……え、気のせい?目の錯覚??一応確認してみる?
「あの、だって色と形と長さと全部違うじゃないですか」
「ちょっと改良しただけです」
……やっぱり違うやん!危なく騙されるところだった!
「え、だって、起動してくれるんじゃ……」
「……」
「……えっと、壊しちゃった、とかですか……?」
「いえ、違います。起動に専用の部品が必要なことが分かったので、その部分の機構を組み替えただけです」
「機構を組み替えたら宝石がつくんですか?」
きっと関係があるんだろうけど。と思ってフードの方を見ると、なぜかすっと目(?)を逸らされた。あれ、これ関係ない?じーっとそのまま僕が見ていると、フードはふう、とため息をついた後、ちょっと誇らしげに説明を始めてくれた。
「この杖はですね、元々は同時に2つの魔法を操る、というのを目的に作られたようなんです」
「へえー!すごい!」
「その発想は素晴らしい。でもそれ以外、魔力補正、魔法に対する威力と範囲の補正はあってないようなものだったんです。起動さえすればそれでいいと、そういう意見もあるでしょうけど、私にはそれが許せなかった」
「ふむふむ」
「だから色々いじったらこうなりました」
……なるほど。
「これで、2つの魔法を発動できるのに加え、魔法発動速度、威力、範囲の全てにちゃんと補正がかかります。魔力にもね」
「……本当に、ありがとうございました!!助かります!」
と僕が最敬礼でお礼を言うと、フードはちょっとびっくりしたような雰囲気になったあと、勝手にいじってすみません、という返事が返ってきた。その後、大剣も魔力の補充が終わったとかで、手渡される。ほんとに魔力補充と並行してやってくれてたんだ……。天使どころじゃない、これ女神だわ……。間違いなく。
僕が感動とともに、重さにちょっぴりびくびくしながら受け取ると、大剣は以前よりずっと軽くなっていた。体感的には、中身が入ってると思って持ち上げたやかんが空だった時くらいの軽さ。上向きに何か力が働いてるんじゃないの?ってレベル。これなら使えそう!
「この剣は、元々の破壊力も非常に高いですが、使用者のレベルと魔力に比例して更に攻撃力が上がります。だから私が使えばこの世界で最高の攻撃力、となりますね。魔法やブレスも斬れますし」
「あの、そんなに強いのに、なんでこれは二軍落ちしたんですか?」
「最後まで迷ったんですが……私の愛剣が、とても嫉妬深くて。自分以外の剣を私が持っていると機嫌が非常に悪いんです。だから、ですね」
ということはこいつの愛剣はそれ以上にヤバい威力ってことだよね。どんなんやねん。と僕が思っていると、フードはこっちに向き合い、口を開いた。
「と、あなたにここで提案があります」
「なんでしょう?」
「海鳥、アルテアにあげたらどうでしょう?彼女なら、これを装備すれば魔王軍最強にもなり得ます」
「……あなたよりも、ですか?」
「もし戦ったとしたら…………それでも、私が勝ちますね。際どい勝ちにはなる、でしょうけど」
凄い。でも、これをアルテアさんにあげてしまうと魔王軍の勝ちが確定してしまう気がする。だって目の前にいるフードと同等近くになるってことで。そして、このフードの正体は僕が思うに多分……。
「アルテアさんに今すぐ!あげてきます!!」
僕が考え込んでいると、いつの間にかそんな台詞が聞こえた。……ん?僕の手が大剣を大事に抱え込んで、素早く立ち上がり、フードにぺこぺこお辞儀をして、そのまま入口の扉を開けて走り去る。自分がめっちゃいい笑顔になってるのがわかった。そのまま廊下を走ると足が勝手に進路を選び、どんどん景色が見たことのない感じになる。……あれ、こっちだっけ……?
結局僕が体を自由に動かせるようになったのは、明らかに城内の違う場所で、うろうろと自信なさげに同じ道を何度もさまようようになった頃だった。そしてついに途方に暮れたように足が立ち止まる。……ここ、お前のホームちゃうんか。……でもとりあえず、戻る道を探しながら。ゆっくりどうするか考えよう。




