武器の使い方の伝承に装飾っていらないと思う
表彰式が済んでイベントが終わり、薄暗さがあたりを包むころには、舞台と観客席はそのまま屋外の宴会場へと変貌していた。食べ物がどんどん外の屋台から運ばれてくる。観客席の椅子は撤去され、テーブルの上に料理が所狭しと並べられていて、僕はそっちの方に目線がくぎ付けになった。あの塊のローストビーフとか超おいしそう……。
僕は仲間のいるテーブルで、たくさんの料理を皿に盛り、満喫しながら祭りの雰囲気を楽しんだ。今日のイベントについてあちこちで自慢し合ったり賞品を見せ合ったり、という光景があちこちで見られ、がやがやととっても騒がしい。でも、不愉快な騒がしさじゃなかった。色が変わり次第に暗くなる空の下で、この場所だけがいつまでも明るい。
しばらくして、僕の隣にさっきの職人の人がやってきた。なんだか真面目な顔をしているので、僕も真剣な顔をして対応する。きりり。
「どうしましたか」
「あ、お食事中でしたか、そのまま、食べながらで結構です」
職人の人は僕の左手を見て、笑いながらそう言った。そうか、手に皿を持ちながら真面目な顔をしても意味がなかった。
「実は今日、賞品としてお渡しした武器。使用方法が分からないものについては、それぞれ伝承がありましてね。あなたのその武器についての昔からの言い伝えをお教えしておきます。これはこの街の初代の長が語り継ぐようにと言い残したものです」
「はい」
「『柄に血塗られし我が手を予見した通り、魂の宿りし器の奇蹟不思議な力が天地万物、地平線を埋め尽くす。全ての終わりを告げる神々の市式漆黒の刻続けた……その戦争の後、遺された遺志を継ぐ者の神々に与えられし真紅の聖なる涙を刃に』という……」
「……なっげぇ!」
「サロナちゃん、言葉遣い」
日本語でおk。今言われたけどもう忘れたわ。この人もよく覚えてられるなと、僕はちょっと尊敬の念を覚えた。職人って記憶力もいるのかな。
「なるほどな……伝承を解けばあるいは使えるようになるかもしれない、ってことか」
何度か聞き返してメモを取り、真面目な顔をして考え込むヴィート。僕はもう言い伝えは、柄をどうにかするのかも、っていう最初の2文字くらいしか理解できなかったから、お任せすることとする。
「これを読み解く鍵が近くの山中にある洞窟に眠っている、という話ですが……今は強大な魔物が巣食っているので、それを確かめる方法は、今はありません……」
どうやらこの人は今日賞品として使用不能な武器を渡した人に伝承を伝えて回っているらしく、会場のあちこちで盛り上がっている声がした。洞窟に行くぞー!という声がそこかしこで聞こえる。
「どうします……?」
「……洞窟、か」
ヴィートが考え込んでいる。なんか嫌な思い出でもあるんだろうか。無限ループと落とし穴の洞窟をさまよって、ようやく出たと思ったら敵の自爆で全滅した、とか。でも他のみんなもなんだか暗い。ナズナが僕の方におずおずと尋ねてくる。
「……サロナちゃんはどうしたい?」
「え、別に急いで行かなくてもいいかなぁって。私、あてがあるんです」
「そう。なら無理に行くことないよね」
「あ、でも行くのは行きましょうよ。ナズナの貰った杖も、使用不能な武器だったんですよね」
「うん、だってサロナちゃんとお揃いがいいなって」
「その判断基準はどうかと思いますけど」
ナズナにも伝承が伝えられていたが、僕は全く覚えられなかった。ちなみにギャレスは賞品として、攻撃力とすばやさに補正のかかる腕輪を貰っていた。使用不能な道具に価値はねぇだろ、とのこと。ごもっともである。
とりあえず、明日、僕が用事を済ませてから、洞窟に出かける、ということで話はついた。うむ、めでたい。用事と言う名の魔王城への報告、何しに帰るのかはさっぱりだけど。それどころかこっちが頼み事しようとしてるからなぁ。
……そして、宴が解散して宿に着いた後も、ヴィートは夜遅くまで机に向かい、伝承のメモを何度も見返しては何かをがりがり書いて解読にいそしんでいた。あ、これ僕のあてがあるってあんまり信用されてない感じ?
そして翌日の朝、僕はみんなに「詳しくは言えないけど用事がある」と正直に告げ、魔王城へと帰還した。ついでにナズナの杖も一緒に持って。こっちは望み薄だけど、ヒントにでもなればいいしね。
「というわけで帰ってきました!」
「そう、良かったわねー。っていうかそうならまず報告に行ったら?会いに来てくれるのは嬉しいんだけどさ」
アレットさんと食堂でお茶しながらとりあえず帰還を報告する。
「報告すべき人がどこにいるかがちょっとわからなくて……あ、そうだ。給仕長に聞けばいいんだ」
そういえば給仕長はフードのことを知っていそうだったっけ。聞いてみよう。僕は席から立ち上がり、聞きに行く前にアレットさんをお誘いしてみた。これまでお世話になったお礼もしたいし。
「あの、私たくさんお菓子とか食べ物貰って来たんで、後で一緒に食べませんか?中庭とかでゆっくりしたらすごくいいなぁって思うんですけど」
「え、いいけど。ありがとう。でもなんでそんなに物貰ったわけ?」
「ドレスで歩いていたら、道行く街の人がみんなたくさんくれました。両手で持ちきれないほどありますよ」
「……あんたは人間の街に、一体何しに行ってるの!?」
……僕もよく分からないんだよね、それ。
そしてフードがいる場所と言われて、たどり着いたそこは魔王城の一番奥まった突き当たりにある大きな部屋だった。その手前の隣が……なんかやたら大きな扉があるけど、何だろう。たぶん普通のゲームだったらここが玉座とかなんだろうか。僕はとりあえずそっちには用がないので、フードの部屋と言われた扉をノックする。しばらくたって扉が開き、フードが顔をのぞかせる。
「はい、なんでしょう」
「あの、1週間たって戻ってきました」
「ああ、どうぞ。入ってください」
中に入って勧められるまま座り、主に最近どこに行ったか、何が印象に残ったか、という話を世間話っぽく聞かれる。別に街の様子や勇者の動向も全く聞かれないけど、これでいいのかな。でも、世間話ついでに聞いてみよう。
「あの、見て欲しい武器があるんです」
「武器ですか?いいですよ、出してみてください」
そして僕はアイテムボックスから大剣、海鳥とナズナの杖を取り出した。大剣の方は出したらもう自分では持ち上げられないので床に置いたそのままになっちゃうけど。そうするとフードはちょっとびっくりしたような声を出し、大剣の方にかがんで、そっと刀身を撫でた。
「……海鳥じゃないですか!どこでこれを?」
「魔法都市から北に行ったところの街で、貰いました」
「懐かしいなぁ……この子、私が作ったんですよ」
何となく知ってた。武器にそういう名前つけるのってお前以外見たことない。
「でも、これ、何にも切れないらしいんです。重いし」
「……おかしいですね、この子、私の主武器と同格ですよ?それに、重さなんてまるでないはず……」
と言いながらフードが大剣を持ち上げようとして、取り落とす。かすかに「重っ」という呟きが聞こえた。なんだかちょっと親近感。
その後、しばらくフードが剣を調べて、結論を出した。
「この子、冬眠してます」
「なるほど、わかりません。起こすにはどうすればいいんでしょうか」
「見てみたら、所有権が私じゃなくなってるんですよね……えーっと、え、これ、あなたが使うんですか?」
ユウさんにあげようと思ってたんだけど。でも軽くなるなら使いたいかも。できれば、という頷きを返した僕に、フードはしばらく考えたのち、続きを教えてくれた。大剣の柄を指さす。
「まずは柄のここにある石を握ります」
「はい」
「魔力をたくさん込めます」
「はい」
「その後すぐ、自分の血を刃に垂らせば所有権が認められます。終わりです」
「あの伝承!何なん!?……3行で!済む話!!」
やり場のない怒りを感じ、自動的にプルプル体が震える僕を、フードは怪訝な顔(?)で見やってくる。だって……え、だって……。そして、なんとか1つ良かったところを見つけ心を落ち着ける。
……これを知ったのが洞窟を苦労して突破した後じゃなくて、本当によかった。




