鍛冶職人って見た目よりだいたい力持ち
もう一度鏡の前で自分の姿を見直す。目の前には、城から抜け出してきたお姫様のような姿の人物が立っていた。いや、そんな人実際に見たことはないけど。
薄化粧して、いつも下ろしてる緑の後ろ髪を上半分だけ編み上げてアップにし、残りはそのまま下へ。銀色のティアラを頭に、薄紫のやたらふわふわした裾の長いドレスを着て、鏡の中からこっちを見ているこの子は、このまま舞踏会に出ると言って馬車に乗り込んでも不思議じゃないように見えた。ドレスと瞳の色が綺麗にお揃い。なんか、高貴な雰囲気がすっごい出てる。どこから出てるんだろ?そのままくるっと一回転してみた。……やばい、謎の高揚を感じる。
「これ、肩出すぎじゃありません……?」
「いいんだよ、肌白いんだし出していかないと!これで一発だよ。……まあそんなの絶対駄目だけど。でもみんなに見せたい、今すぐ全世界に発信したい、どうしよう、今私すごい葛藤してる」
この子どうも一発を狙いたがる節がある気がする。助っ人外国人か何か?一発でどうなるんだろうっていう部分がいっつもわかんないけど。
「薄幸の姫みたいだよな……黙ってれば。さっきまで串焼き食べてたやつと同一人物とは思えん」
なんで幸薄くするんだよ。もう不幸な予言はお腹いっぱいなんですけど。抗議の意を示すとともに一部分の訂正を求めよう。姫はいいけど不幸はいかんよ。……え、ひょっとして最近暗かったから?ヴィートの目の前まで行って、向こうの顔をじっと見上げながらゆっくりと言う。僕今幸せアピールのため、笑顔で。
「せめて、幸せにしてください……」
「うわっ」
ヴィートは一瞬こっちの顔をまっすぐ見た後、頭を振って、「違う違う違う」とぶつぶつ言いだした。なんだこいつ。ついに心労で頭がおかしくなっちゃったのかな。かわいそう。ちょっとは優しくしてあげよう。
「違うぞ」
「ええ、全部、分かってます。そういう時もありますよね」
「……その優しい笑顔がかえって腹立つ!」
「えぇ……、なんで優しくして逆切れされるのか、まったく釈然としないんですけど……」
「今の一応どういう勘違いか分かったけど。え、これ言っていいのかしら」
すっごいにやにやしてるユウさんがなんだか気になったけど、ああいう表情をしてるときはろくなことを企んでいないことを僕は知っていたので、スルーすることとする。……でもこの格好だとたぶん買い食いできないよね。こぼしたら大変だし。もし夕食にカレーうどんなんて選んだりしたらナズナに殺される気がする。……ん、夕食?
「そういえば、イベントって明日じゃありませんでしたっけ……?今からこの格好じゃ」
「あ」
僕は大手を振ってもう一度買い食いの旅に出ることができた。やはり大事なのは追い込まれたときにいかに冷静でいるかだね。そして、この時の僕は、翌日の朝、もう一度ナズナにあらためておもちゃにされることをすっかり忘れていた。
「お嬢さん、よかったらこれどうぞ!」
「あ、ありがとうございます」
翌日、もう一度仮装モードに変わった僕は、街中をその格好で歩いて、舞台の近くまで向かった。その途中、なぜか、いろんな人からいろんなものを貰う。既に僕の両手はいっぱい。途中で、なんでくれるのか聞いてみたら、仮装に出る人は投票の事前にその格好で街を出歩いて、顔(?)を売っておくものらしい。そして観客はその仮装がいいと思ったら、物をあげる。……ハロウィンと混じってない?僕は紙袋を途中で入手し、よろよろしながら両手に物を抱えて仮装大会の会場へと向かった。
……そして、その後の仮装大会で、僕は特別賞を受賞した。仮装の趣旨に合っていないけど、得票数が圧倒的多数だったから、というのがその理由。正直舞台に上がった瞬間に観客の反応がすっごい良かったから、優勝まったなし、と思っていた僕はすごく赤面しながら表彰式に臨んだ。……超恥ずかしい……。ちなみに、ドレスの格好で舞台に上がるのはもはやまったく恥ずかしくなかった。僕もう駄目だと思う。
「では、賞品を選んでもらいましょう!どなたからいきますか?やはり、各種目の優勝の方ですかね」
というアナウンスに、それぞれの種目の優勝者たちは顔を見合わせた。ちなみにギャレスがモグラ叩きで1位に輝いていたほか、ナズナがなぜか輪投げ3位に入賞していた。モグラ叩きはハンマーが人くらいの大きさっていうのだけちらっと見えたんだけど、輪投げはどんなんだったんだろう……見に行きたかったけど、歩くと物が増えるので、あんまり出歩けなかったから。
それからしばらくして、優勝者たちはひそひそ何かを話した後、僕の方にやってきて、話し合いの結果を告げる。
「君が今日一番、みんなから支持されてたのは確かだから……最初に選んでほしい」
いや、それはさすがにちょっと……。と思って僕が断りの文句を探していると、勝手に僕の口が動いて返事をするとともに顔が満面の笑みになったのが分かった。
「ありがとうございます!とっても嬉しいです!!」
そう言って、観客と壇上の全員に何度もお辞儀するサロナの行動は、僕が断ろうとしていたそれよりもきっと良かった選択だったんだと思う。周りの祝福の声の大きさが、それを僕に教えてくれた。……なんか僕がごちゃごちゃ考えすぎなのかも……。何度もお礼をする体に任せて、僕はサロナと一緒に、素直に今、この瞬間を喜んだ。
「どれにしよう……」
ずらっと目の前に並べられた武器の数々。たくさんありすぎてどれがどうなのかさっぱりわからん。僕は武器を並べていた職人とおぼしき人に遠慮がちに尋ねる。
「あの、おすすめとか……ありますか?」
「ここにあるのはどれもずっと昔から伝わる武器なので、私たちも全てを把握できてはいないのです。使い方が不明な物もありますが、基本的にどれも市販の物とは一線を画した性能の一品ばかりですよ」
「使い方が不明な物……」
そういうのってほら、伝説の武器とかなんじゃないかな。今まで誰も扱えなかっただけなんだー、なんて。どれどれ?見たいです!
「こちらの9品、ですかね」
9品!多いし!絶対伝説じゃねーわ。でも一応鑑定して見てみよう。……「アロンダイト(偽)」「エッケザックス(眠)」「ティソーナ(壊)」「海鳥(休)」「ナーゲルリング(破)」……あれ?
順番に見ていくと、一つの大剣に目が留まった。「海鳥(休)」……何が気になるんだろ。こういうの、前にどこかで……。形じゃなくて、えーっと。じっと考え込んでいる僕の傍に、職人の人が寄ってくる。
「おお、それに目をつけられましたか!ただ、この剣は何も斬ることができないのです。紙一枚もね。何か力を有する武器だと言い伝えられてはいるのですが……」
「これにします」
「……いいんですか?」
思い出した。このネーミングセンス。フードが持ってた武器って、確かこういう感じの名前ばっかりじゃなかったっけ。もしあいつと関係なくても、武器好きそうだったし、魔王城に持っていったら何かアドバイスくれるかも。……そうして選んだ大剣を受け取った僕は、その重みに耐えかね、そのままぐしゃっと舞台上で潰れかけた。
「(薄幸の姫は縁起が悪いのでそう表現するなら)幸せ(な姫って表現の方)にしてください」
どん語なみに言葉を省略するとろくなことがない(戒め)




