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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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羅針盤はその場でくるくる回る

「街のバザー、本当に楽しみですね!何買おうかなぁ。迷いますねー!」


 と僕が笑って話していると、急にナズナがなんだか心配そうな顔をしてこちらを覗きこんできた。


「……サロナちゃん、さっきからちょっと変じゃない?おかしいって言ったらいっつもちょっとおかしいんだけど。なんだか妙に元気過ぎるっていうか。……どうかしたの?また何か隠してるの……?」


 と言いながら肩を揺らされる。その動きに沿ってぐらんぐらんと僕の頭が揺れる。おいやめろ。……でも確かにそろそろ駄目だった。副町長との会話は意識的に考えないようにしてたけど。僕はそのナズナの言葉に甘え、すみませんが疲れがたまっているので昼寝します、と言ってベッドにごそごそ潜り込む。


「ちょっとたくさん走って疲れたんですかねー」


「もうお前さっきのこと隠す気もねーじゃん……」


 最後のヴィートのツッコミに反応を返す元気は僕にはあんまりなかった。……だって、死ぬとかあんなこと言われたらやっぱり気になっちゃうし。別に死にたい訳じゃないし。絶対生き延びたい!って程に何かやり残したことがある訳でもないけど。でもねえ。このまま真っすぐ進むと障害物があるのが見えるのにハンドルを切らないほど積極的に死にたいって訳でもない。……積極的に死にたいって前向きか後ろ向きかよく分かんないけど。



 まあ、30秒後に死ぬって言われた訳でもないからまだマシかな。そして、僕は余命30秒と通告されたらされたですっぱり諦められる自信があった。30秒!?なら何も出来んでしゃーない、ほな、また……みたいな。


 そして今回は回避しようと思ったら回避できる、訳だし。その方法を考えよう。まあ現状を知らないままよりは知った今の方が状態としてはいい。……作戦会議!頭まですっぽりかぶった真っ暗な布団の中で、僕はいくつかの方法を考えた。


(1)とりあえず、死なない方法を見つける。

(2)人間の街に隠れておく。

(3)魔王城にひきこもる。


 対案としては、このくらい?個別検討してみよう。




(1)とりあえず、死なない方法を見つける。


 結構いいんじゃないかな。そんな手段があるかは別にして。詳細について要検討。あんまりデータ取りしてなさそうなゲームのバランス的にも、何か手段はありそう。うーん、希望的観測……。




(2)人間の街に隠れておく。


 これは終盤危険な気がする。偏見かもしれないけど、最後の方は街が安全地帯でないのはほぼ明らか。まとめて掃除される未来が見える。いや~、キツイっす。そしてそうなったらもう詰む。却下。




(3)魔王城にひきこもる。


 これは、うーん、プレイヤーに攻めてこられた時に戦場不可避。ただ、現時点で恐らくクリアを目指しているプレイヤーはそんなにいないんじゃないかな。賞金があるとはいえ、誰が好き好んで痛い思いしながらクリアを目指すか。その意味ではラストダンジョンは安全地帯の第一候補か。攻めて来られたら№39を盾にして逃げよう。……うーん、でもなあ。


 僕はそーっと布団を持ち上げて、隙間からこっそり皆の方を伺った。明るい部屋の中で、楽しそうに喋っているみんなの姿が見える。ナズナがふとこっちを振り向きそうになったので、そっとまた下ろす。


 僕は再び戻ってきた布団の中の暗闇を眺めながら、帰って来た時に喜んでくれたみんなの顔を思い出した。あとその際に、どんなにいじっても外れなかった手錠の感触も思い出してちょっとプルプル体が震え出した。いかん、余計なことまで。


 …………なんか、離脱します、ってとっても言いづらい。なので、とりあえず(1)を目指しつつ、不可能であれば適宜状況に沿って、(3)に移行することとしたい。会議終わり!





 ……そのまま僕は布団から出ていくタイミングを見失い、いつの間にか寝入っていた、らしい。副町長の話していたいろいろな言葉がなんだか細切れになって夢うつつな僕の脳裏に繰り返される。セピア色の景色の中で、どういう流れか僕と副町長は立ったまま向き合い、最後に彼はこちらに向かって何かを言った。それが何か僕には聞き取れないまま、彼は踵を返してどこかへ向かう。どこか次に向かいたい場所のある、その力強い足取りを僕は立ち止まったまま見送った。


 ……僕の目指す先って、いったいどこなんだろう。そうして考え込んでいると、後ろから、この世界に来てからずっと一番近くにいた女の子の声が聞こえた気がした。いつの間にか、自分の背中合わせに誰かが立っているのに気づく。振り返ろうとして、そのまま後ろからきゅっと手を繋がれる。その暖かい感触に少しだけ自分の気持ちが落ち着くのがわかった。




 ……はっと目が覚めたら、いつの間にか真っ暗になった部屋の中で、隣にナズナが寝ていた。もう夜中らしく、周りはみんな眠っている。僕は天井を見上げながら、もう一度、これからについて考えた。……これから、向かう先を。

前話に「……いろいろ考えたいことはあるけど、とりあえずいつも通りに。」という一文を追加しました。


深刻そうな部分からいったん目をそらして他のこと考えよう、というのを書きたかったんですけど、最大限好意的に解釈しても「すごい割り切れる人」、普通に読んだら「超能天気な人」に見えたので。

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