マッドな人も自分の研究のことならよく喋る
「それにしても、昨日といい、服装が変わりましたな。以前はもう少し中性的な格好をされていませんでしたか?」
「……!」
そういえば普通に着てたけど!僕は自分の姿をじっと見下ろして確認する。……うむ、ナース服だ。ちょっと丈が短いけど、ウエスト部分が細くなってないから動きやすい。そういえば結構ノリノリで試着とかしちゃった気がする。もちろんキャップ着用。カルテには僕とサロナが書いた落書きがいくつか。一番上の紙にはカニと動物シリーズが戦ってる感じの絵。……いや、並ぶの暇だったからつい……。
「それで街の人間から、おかしな人を見る目で見られていたようですよ。まあ、そんな恰好で並んでいたら、そうなるに決まっています」
「……!!」
僕の口がぽかんと開いて、両手がそこにあてられる。そうか、周りのあれは犠牲者を見る目じゃなくて、場にそぐわない変なのが並んでる、っていう……。僕が観衆でも見ちゃうなぁ。それで、連れていかれた時の周りの視線の本当の意味は、変な趣味の副町長に付き合う変な趣味の女の子、とかそういう……。そういえば嫌がらせできるってことしか考えてなかったけど、言われてみたらそらそうなるよって感じ。
「以前はもう少し頭が良かったような気がするのですが……なんと言うか、染まりましたな」
……ぐぬぬ。言い訳できない。今日はこの話はこの辺にしといてやろう。
「それで、聞きたいこととは?あなたのその捨て身の行動に敬意を表して、答えようではないですか」
コーヒーを出しながら副町長が来客用のソファに座り、僕にその向かいに座るよう勧めてきた。一応話はしてくれるらしい。こいつ結構心広いなぁ。僕はソファに腰を下ろして、そのふわふわ具合にちょっとテンションが上がった。すごい、これめっちゃ沈む!何度かこっそり弾んでみる。市民の税金でこんなものを買いそろえているとはけしからん。悔い改めてこれを僕にくれたりしないかな。と座りながら僕が考えていると、副町長がこっちを見て、しみじみと呟いた。
「……染まりましたな……」
「真面目な話があるんです!」
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえていますよ。それで、何ですかな?」
「えーっと……」
「もう忘れてしまいましたか?」
「馬鹿にしないでください!……あ、そうそう。魔王城はどうしてメッセージが送れないんですか?それについて私に1つ仮説があるんですけど」
「聞きましょう」
「魔王城はゲームの世界でなく、現実にある!どうですかこれ。私の好きな作品のいくつもにそういう展開があったのでピーンときたんです。当たりですね」
「まったく違います」
一言で切り捨てられた。なんか腹立つ。というか、僕のネット小説知識当たったことないかも。ちょっとだけ偏ってるのかもしれんとそろそろ自分でも考え始めてる。
「あの場所が今現在メッセージを送れないのは、仕様です。魔王城がまだ異界にあるからですな。そのうち現界するでしょう、そうすれば通じます」
「……なるほどねー」
うんうん、とよくわからないけど頷いてみた。なんかとにかく仕様らしいということが分かったからいいか。次!
「あの、結局このゲームで戻ってこない人は今どうしてるんですか?死にましたか?」
「死んではいませんな。何故そう思うのです?」
「え、だって、デスゲームとかそういう……ゲームの死に現実の死が直結するあれです」
「それをして、私たちにメリットがありません」
メリット。……そういえばそもそも、このゲームの会社側のメリットって何だろう?元取れないよね?首をかしげて僕は疑問に思ったことを尋ねてみる。
「何が目的で作られたんですか?このゲーム」
「まあ、一言で言えば私の趣味です」
「お前の趣味なのかよ!」
あ、口に出しちゃった。どんだけ金持ちなの、このおっさん。
「正確には、私の技術と研究に資金を提供してくれる企業があった、ということです。目的が合致するとのことでね。……故郷ではそれが叶わなかったので。私は異端とする扱いを受けて、追放されたようなものです。その際に研究の成果を持って来られたのが嬉しい誤算でした。……このゲームの世界はそれを元に故郷を参考にして私が作ったものですが、やはり本物ではありません。近くで見て、それは実感しています。そこが残念なところですな」
「そういえば、この世界が懐かしいとか言ってましたよね。……何の研究をされていたんですか?」
すると副町長は少し話すのをやめ、コーヒーを口に運んだあと、遠い目をして何かを思い出すような表情をした後、小さな声で囁いた。
「……人の精神、魂についての研究を」
……?つまり、こいつは魂がどうとかいう怪しい研究をしてて故郷を追い出された。それでここに来て、研究の続きをしようとしてたら怪しい企業が協力してくれることになった。で、できたのがこのゲーム。……?やっぱりわかんない……主に結論部分が。まあ、VRMMOって確かに精神の研究っちゃそう……かな?うーん、そう?あと、研究の成果ってなに?
「研究の成果って何を持って来たんですか?」
「街の人間から無断で取った人格のデータの集合体です」
「よくわかんないけどマッド過ぎる!!そりゃ追い出されますよ!!ていうかそんなのどうやって取るの!?イミフなんですけど!」
「失礼な!これだから学術を理解できない下等な人間は……!」
「だってすっごい危険そうじゃないですか!!……そういえば、死んでないって、ログインできなくなった人は?そのデータ取りとやらで脳を吸われて廃人になったとか……」
「ああ、このゲームではデータ取りはそこまでできていません。残念ながら。ここはAIであるとか処理の手段については進んでいるのに、収集の方法はそこまではっきり確立されていないのでね。その点は故郷と真逆です。……ああ、彼らの話でしたか。彼らは……あなたにもわかるよう簡単に言うと、ゲーム内で死んだ際、現実世界の脳へ影響があったようで、昏睡状態になっています。ゲーム内の死を現実のものだと脳が受け止めたという仮説を立てましたが、そのあたりはまだこれからですな」
「やっぱりデスゲームじゃないですか!!」
「いえ、だからなぜか、です。やろうと思っていたわけではありません。なぜ彼らだけが、というのも不明ですし。ただ、面白いことに、彼らがゲーム内で死んだ際に受けた傷の場所に実際に損傷が見られているそうで。精神が肉体に影響を与えているという点で非常に興味深い」
「なんだか今、あなたが故郷を追い出された理由がとてもよくわかりました。……日本にもそろそろ飽きたんじゃありません?あなたを通報したいんでこの際里帰りでもいかが……というか、故郷ってどこにあるんですか?ここみたいな場所って。もしかして、異世界か何かからでもいらっしゃったんですか?」
「……」
「否定しろよ!何?さっきまでめっちゃくちゃ喋ってたじゃないですか!?急にだんまり!?」
え、何。初めて僕の小説知識当たっちゃったの!?逆にびっくりするんだけど。異世界て何よ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから。
私は推理小説を読んでいて、ワクワクしながら謎解き部分を読んでいたら突然タイムマシンが出てきて本をぶん投げたことがあります。その作家さんの他作品が大好きだったので余計衝動に駆られました。そういう世界観だったの!?みたいな。
今回を読んでくれた方がそういうことにならないかちょっぴり心配です。ただ、私の中ではこういう背景な感じでした。ここで謝っておきます。すみません。




