表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/113

手錠はされてるだけで拘束感半端ないからやっぱり駄目

 結局いろいろ聞かれたけどいっぱいいっぱいな感じで答えていたら、ナズナが眠そうな様子を見せたので、ベッドに横にならせた。鎖で繋がってる以上、必然的に僕も同じ布団に入ることになるんだけど、意外に女の子に添い寝することにあんまり抵抗がなくなってて。そしてあんまりドキドキもしなくなってることに気づく。これ、現実に戻った後、すごく困るんじゃない……?元に戻るよね、この感覚。お願い戻って。






 さて、これからどうするか。僕は半分横になりながら、隣で僕に抱き着きながら寝てるナズナを見て考える。体温が伝わってきてあったかい。寝息とともに隣で静かに上下する布団を見ながら、今日はこれで仕方ないか、と思う。でも、正直この手錠つきの状態が続くのは嫌だなぁ。……けど今抜け出すと発狂されそう。何とか説得するしかないか。……寝顔はこんなに可愛いのにね。


「悪いな、ナズナもあんまり寝れてないみたいで。安心したんだと思う。……本当はその手錠も、止めてやりたいんだが」


「いいんです。心配かけた分が、このくらいで済むなら。でもしばらくしたら外してほしいですね。脱出のために自分の手をノコギリでぶった切る勇気は私にはないので」


「……」


 ヴィートはなんだかだんまりしてしまった。さっきもそうだったけど、なんか反応悪くない?こいつも眠いのかな。すると、ヴィートは真剣な顔で僕の方を向いて話し出した。なんだか他のみんなも、さっきまでと雰囲気が違う。……真面目な感じ?


「もういいんだ。ちゃんと聞いたら、お前が本当のことを言ってないことも、言わないだけでもっと大変だったんだろうなってことも分かる。たぶんこれまでもそうだったんだよな……分かってやれなくて、すまなかった」


「え」


 ヴィートに頭を下げられたけど、なんかおかしい。僕の話、まったく信用してくれないのはそれはそれでショックなんだけど。確かにあれだよ、これまでも話が通じてないなぁって思うこと結構あったけど。出まかせっていうのとはちょっと違いませんかね。……まあ嘘には変わりないのか。


「無理させてごめんね……ずっと……それで、今度も。本当によく帰ってきてくれたわ」


 ユウさんに涙声で謝られながらぎゅっと抱きしめられる。……アカン、なんか罪悪感が半端ない。ユウさんに抱きしめられたそのままでヴィートにあらためて、聞かれる。


「この一カ月、本当は何があったんだ?」


「うーん……別に大したことは何もなかったですよ?」


 魔王城もサバイバルだったのは意外に最初だけだったし。あれを思い出すとちょっと憂鬱になってしまう。……でも、あのピリピリした雰囲気、変えたいなぁ。もっとほのぼのした面白動物王国にしていきたい。週一で帰るんだからチャレンジしてみてもいいかもね。


「なあ、俺たちはそんなに信用できないか?」


 ……信用は、してるつもりなんだけど。あと何故こんな完璧な嘘がばれるんだ。


「だいたい、なんで私の言ってることが嘘だとわかるんですか?」


「あのさ……お前、なんで、レベルがそんなに上がってるんだ?それだけ、戦ってきたんじゃないのか」


 なるほど。……でも、魔王城から一方的に魔物を倒してたあれを戦いと呼ぶのは失礼だね。なんだろう、キノコ狩りとかそういう表現の方が正しいと思う。でもそうは言えないし。楽をして上げた、ということだけ伝わったらいいよね。


「迷い込んだ街に、一粒食べるごとにレベルの上がる不思議な飴のアイテムがあったんで、一袋全部いきました」


「……食事はどうしてたんだよ」


 いや、食事取らなくても死なないでしょ。体は運営様が面倒見てくれてるんだし。……!!そうだ、副町長の野郎をぶっちめに行かねば。いろいろ聞きたいことがある。……あ、食事だ。食べてない、って言ったら心配されそう……でも、うまいこと考えつかない……。ええい!


「毎日、誰もいない食堂に入ったらですね、さっきまで誰かがそこにいたような感じでテーブルの上に手つかずの食事が用意されてて。まだスープから湯気が立ったりしてたから、たぶんいつも作り立てだったんだと思います。それを毎食おいしくいただきました。ちなみに薄味でした」


「それが本当ならお前度胸ありすぎだろ……まあ、嘘なんだろうが」


 なんか冷たい……。でも、確かに適当過ぎたかもしれん。相手が真面目に話しているのを茶化すのは失礼だった。僕は真剣な顔で姿勢を正し、考えながら、正直なところを話す。


「……確かに、真面目に話すなら、言えてないことはあります。仲間なのに、ごめんなさい……。ただ、だからと言って今全部話せと言われると、ちょっぴりしんどいかもです」


 と話すと、がりがりと頭をかいてヴィートは困ったように答える。


「……言えないなら、言えないで、いい。でも、一人で無理をしないでほしいんだ」


「分かりました。正直に言えるところはこれから言うよう心掛けます、無理しません。……なら早速なんですけど、もし、もしですよ?私が行先は言えないけどどこかに行きたい、すぐ戻ってくる、と言ったら認めてくれますか?」


 これは魔王城への定時連絡を確保するために必要な相談。あのフード、たぶん僕が帰って来なかったら裏切者とみなして、街ごと神聖な光(?)で灼き尽くしに来る気がする。そんな感じだった。だからここはどんな手段をもってしても勝ち取る必要がある。卑怯と言われようがここは絶対。今しか頼むタイミングないと思う。


「それは……」


「……合流するって言って、ちゃんと頑張って戻ってきたのになぁ(他力で)……今も正直に、話してみたのになぁ」


「うっ」


「信じてほしいなぁ」


 僕がじーっとヴィートの方を見ると、彼はしばらく考えて、渋々ながらわかった、と頷いてくれた。最悪幻覚を駆使して無理やり抜け出すつもりだったけど、よかった。それすると戻ってきた後完全に檻とかで飼われるだろうし。完全にやばい絵面である。しかも飼われる側が自分。いや、飼う側でもちょっと、ってなるけど。


「いいだろう。それと、ナズナのその手錠の件も、俺も説得を手伝ってやる」


 ヴィートはふと隣に目をやって、ずっと黙ったまま話を聞いているギャレスに尋ねた。


「そういえば、あんたはサロナに何か言いたいこと、ないのか?」


「俺はいい。あれこれ言うのは苦手だから、行動で示す。見ててくれ」


 こっちをまっすぐ見てそう言ってくるギャレスは同じ男の僕から見ても、大変男らしかった。……その感心が僕の顔に出たのか、ヴィートはちょっとこっちを見て面白くなさそうな顔をした。……なんだよ、器狭いぞ。






 ……結局その後、ナズナに手錠を外してもらうまで、それから2日間、謝り倒した。私は友達に一方的に拘束されるのは嫌だし、手錠をしたままの親友なんておかしい、と繰り返し言ったら何とか分かってくれた、と思う。日常的にはまともな判断もできる子だし。……たぶん。それに、ヴィートも説得に加勢してくれたのも大きかったと思う。



 こうして僕は無事に自由を手にしたけど、2日間で、手錠のある生活に対する慣れというのも身につけた。なんだか習得しなくてもいい感覚をどんどん得ている気がするけど、気のせいかな。気のせいだよね。……そう、信じたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ