手錠のある風景
「いやぁ、それにしてもすぐに会えて良かったです。街の人が私を発見次第叫び声をあげるって、ホラーゲームそのもので怖かったですもん。……いや、どっちかと言えば手配度の上がったGTAと言った方が……ちなみに今は今でホラーみたいな状況で嫌なので、この手錠、外してもらえませんか?」
「絶対、嫌。またすぐにどこか行っちゃうもん。言っても無駄だろうし。もう目を離さないから」
手をつないで引っ張られながら僕は正当な抗議をしたつもりだったけど、なぜか前を行くナズナにぎゅっと手を握りしめられ、却下される。いや、帰ってきてすぐにどこかには行かんでしょ。……ここは他の冷静な人に助けてもらおう。
「あのー、ヴィート、責任とって、助けてください」
「……」
なんだか返事がない。まさかひょっとして、状況を理解できていないのだろうか。
「おーい、ヴィートさんや。あなたの頭のおかしい提案で、今一つの犯罪が生まれようとしているんですけど。胸は痛まないんですか。……あ、ひょっとして予想外過ぎて固まっているんですか?仲間が手錠を持ってるってこと自体がおかしいですもんね、無理ないです」
「いや、俺も一緒に買いに行かされたからそれは知ってた」
!!一緒に買いに行った!……変態だー!よくわかんないけどそういう系のお店で、満面の笑みで手錠を選ぶ彼の姿を僕は思い浮かべて、すすす、とヴィートから距離をとった。普段普通な顔をしている人ほど特殊な性癖を持ってるって、僕聞いたことある。あ、でも、そういう趣味を否定されるのってすごい辛いことなのかも。仲間の間に壁ができてしまう。僕はできるだけ頑張って笑顔を作って、彼に話しかける。
「私、そういうのもいいと思いますよ!大丈夫、大丈夫です。あなたが世間で受け入れられない趣味を持っていても、私は否定したりしませんから」
「俺の趣味では断じてない!あとお前今、すっげえ腰引けてるぞ!既に体が否定してるじゃねぇか!!」
気がついたら体がドン引きしていた。この人、自分で自分に手錠かけたらいいんじゃないだろうか。かけるとかけられる、両方を同時に行えるからいいアイデアだと思うんだけど。自給自足。……まあいいか、こいつは当てにならん。次!
「ユウさんは助けてくれますよね!だって、こんなの絶対おかしいですもんね。ねっ」
「うーん、それが……3日くらいしたら落ち着くと思うから、ちょっとだけ付き合ってあげてくれない?この一カ月、ナズナちゃんね、手錠を触りながらあなたが帰ってきた後のことを話すときが一番楽しそうだったの……それがかなって今すごく幸せそうだから……ちょっと……」
その状況に幸せを感じる人間はその時点で幸せではないと思う。いかん、変にかわいそうフィルターがかかってしまっている。ええい次!
「ギャレス……あの、簡単な手錠の外し方、教えてくれませんか……?」
「ついに説得という手段を諦めやがったこいつ」
「無理やり引っ張ればちぎれるんじゃねぇか?」
多分それでちぎれるのは僕の手の方なので、参考にならない。手首ほっそいし。ユウさんがとりあえず、といった感じでこの後の行動をとりあえず決める。
「とりあえず、宿に移動して、ゆっくり話しましょう」
宿に戻って、それぞれ座り、お話という名の査問会が始まる。
「まずさ、お前今までどこにいたんだよ?メッセージも通じない、どこを探してもいない。……心配したんだぞ。本当に……心配だったんだぞ……」
ヴィートが何度か下を向きながらも、こっちを見て、言葉を投げてきた。さっそくまずい質問その1。魔王城以外ならどこでもいいけど。僕はとりあえずいつものようにえへへと笑ってごまかしながら話す。
「えーっとですね。分かりません。あの後、無人状態の見知らぬ霧の街をずっとさまよっていたんですけど、ふとさっき、気がついたら始まりの街にいて。きっとゲームの不具合だと思うんですけど……実装されていないエリアに飛ばされて、運営が気付いて戻してくれた説を私は提唱します」
言いたくないところは分からないです、で押し通そう。いけるいける。どんな街だったか、は僕が今までやってきたゲーム(主にホラー)からいくらでも引用できるし。きっと特色のある素敵な街になるだろう。……魔族としか会ってません、とは言えないから街には誰もいなかったことにする、完璧。
……ただ、それを聞いたユウさんが悲壮な顔で「ずっと一人で……」と呟いたのが聞こえた。いや、本当は一人じゃなかったんで大丈夫です。言えないだけで。
「霧の街だぁ……?その話もあとでゆっくり聞くからな。次にだ。あの洞窟から、どうやって脱出できたんだ?他にあてがあるって言ってたが、そもそもあれは本当か?」
まずい質問その2。帰還呪文以外なら何でもいいけど。ヴィートの真面目な顔につられて、僕も真面目な顔になり、そのまま人差し指を立てながら説明する。
「私はふと気づいたんです」
「何をだ」
「あの転移装置って、前に立ってたら転送されますよね。それでその転送は、後ろから叩いたら発動する、と」
「ああ」
「別に前に立ったまま叩いたら良かったんじゃないかって。そう思って前面に立って、ひたすら装置を蹴ったら、しばらくして転送されました。それで飛ばされた先がその霧の街だったんです」
「だったら最初からそうやれば良かったんじゃないかしら……?一緒に帰って来れたと思うんだけど」
口を挟んできたユウさんのももっともな意見だ。ちなみに前から衝撃を与えても全然作動しないのは既にあの時確認済みだった。結構色んな角度から蹴ったり叩いたりしてみたし。前面部分はきっとウツボの光線を何度も受け止めたことで完全にお亡くなりになったのだろう。合掌。
「発動するかどうか確信が持てなかったので。あの時って岩とか落ちてきてたし結構急いでたじゃないですか。だから確実に送って、私はゆっくり発案者として実証しようと。そして無事!脱出できたわけですね」
「……確かに転送装置はボッコボコになってたけどな……」
あ、そうなの?やったぜ。落ちてきた岩でも当たったのかな?追い風来てるんじゃないのこれ。
「…………そんなので、あんなに自信満々に『あてがある』って言ったの……?それで、そんな危険な方法しかないのに、黙って一人で残って。……絶対外さないから、これ」
アカン、追い風止まった。そのままナズナにぎゅーっと抱きしめられて、僕は周りに助けを求めて全員の顔を見回したけどそこには一様に、自業自得である、という感情が読み取れた。
とりあえず、呪いのローブが機嫌を損ねた時みたいに、よしよしとナズナの頭を撫でる。ユウさんがそれを見て、うんうん、と頷き、涙を拭いていた。まるで感動的な場面みたいだけど。……何かが、おかしい。僕は手首に光る手錠を見ながらそれがどこから来るのかを解明しようとしたが、途中で考えるのをやめた。とりあえず、帰っては来れたんだから。
すみません、明日もちょっと出かけるため早めに帰れませんので、お休みしますm(__)m




