分水嶺
お詫び
昨日のを見ていたら1週間でレベルが18→50に上がっているのに気づき、あり得ないだろ、と思って期間をこっそり3週間に変更しました。3週間でもあり得ない気もしますが、ラストダンジョンだからいいじゃないと自分で納得できたのでこれでいきます。もうあんまり戦闘がどうとかいう話じゃなくなってきてますが、お詫び申し上げます。ご了承ください。
「だって弱いから何されても仕方ない、なんて。まるで強いかどうかだけが、大事みたい。確かに私は強くなりたいって思いましたけど、それは誰かに迷惑をかけないだけの強さが欲しいって、そう思ったので……なんだか、違うような気がします」
「……そうですか?…………以前はこういう部分であなたと意見が合わない、ということはありませんでしたが、いつから宗旨替えを?まるで……」
……これまずい感じだ。別にサロナがいい子なのはいいんだけど、この場で出す話じゃなさげ。パスパス。
「まったくその通りですね、理想を語るにはそれに見合う力が必要だと、昔の偉い人も言ってますしね。ああいう台詞を言えるくらいに強くなってみたいものです」
そんなことより、フードさんの武器自慢、もっと聞きたいな。コレクションに数キロ四方が射程範囲の鞭とかないんですか?という顔をして笑ってごまかしてみたけど、あんまり効果はなかった様子。え、これ粛清されちゃう……?その後僕が向こうの出方をうかがっていると、フードはしばらく何かを考えてこちらをじっと見た後、僕に対してちょっぴり意外な提案をしてきた。
「……私、送っていきますから、向こうに帰りますか?」
「いいんですか!?」
すごく嬉しい。めっちゃここにいる気がするし。いい加減帰りたいです。でも、ただでそんなうまい話があるわけなかった。向こうがそれに続けて何かを要求してくる。
「その代わりと言ってはなんですが」
「え……はい、なんでしょう?」
「ちょっと気になることがあるので、報告もかねて、これから週に一度、ここに帰ってきてください。もちろん毎回帰りは私が送っていきます」
「えっ」
すごく嫌。週一でここ?ならアルテアさんの充電を待ちます。ほな、また……。僕は断ろうと口を開いたが、その前にフードが言葉を被せてきた。
「ひょっとして、何か報告できないことをしているんですか?なら断っても結構ですが」
嫌って言えない話の進め方してくる人って、僕苦手だわ……。
アルテアさんに帰ることを伝えると、「そう。……頑張ってきなさい」と送り出してもらった。UFO先輩とアレットさんと給仕長にも挨拶し。僕はフードに連れられて、昔の自分の元の職場から、今の職場に、戻れることになった。ずいぶん長いこと離れていた気がする。
一瞬で周りの景色が変わり、ざわざわ、という雑踏の音が耳に入る。あ、ここ始まりの街の、広場の前かな?きょろきょろした後に、僕は深呼吸をして久しぶりの街の空気を味わう。あたりには僕を送ってくれたフードの姿は既になかった。……そういえば、魔王城はなんでメッセージが送れなかったんだろう。今度行ったらフードに聞いてみよう。覚えてたら。
……そんなことを考えていると、オオオォォォ、と自分のローブのうめき声が聞こえ、周りの人が怪訝な目を僕に向けてきたので、とりあえず走って宿屋の自分の部屋に向かった。このまま鳴き声をあげる服を着てると、変な人扱いされてしまう。たぶんこの子も知らない風景にびっくりしただけなんだと思うんだけど、周りはきっとそれを理解してくれない。戦いそうになったらこっそり着よう。
……まず部屋でいつものエプロン姿に戻って、みんなにメッセージを送る。始まりの街にいますよ、と。うん、これでいいや。その後、合流する前に久しぶりの街を見て回ろうとあちこち歩いていたら、なんだか複数の視線を感じた。なになに?フードがいたずらで僕の背中に「魔」って書いた紙でも貼ってるのかと思ったけど、別に触ってみても何もない。気にせずしばらく歩いていると、突然見知らぬ冒険者らしき人が僕の方に駆け寄ってきて、頭を下げた。
「あの、この間はありがとうございました!洞窟で、命を救ってもらって、本当に感謝してます!」
……え、誰?
それからしばらく道を歩いているとお腹が減ったので、合流前にどこかでご飯を食べようかと僕が立ち止まって思案していると、冒険者一行らしき男女4人のパーティーがこっちを見ながら僕のそばを通り過ぎた。その後、彼らは何事かを話し合った後、Uターンして、僕の方に向かって走り寄ってくる。
「あ、おい、あんたを探してる人がいるんだ!ちょっといいか?俺たちと一緒に来てほしいんだけど」
「人違いです」
「おい、ちょっと!!」
なんだ、誘拐犯みたいな台詞を言われてしまった。あのままほいほい着いて行くとハ○エースに乗せられて、あれやこれやされてしまう気がする。なんだか貞操の危機を感じる。その後、誘拐犯は結構マジになって集団で追いかけてきたので、僕も本気になって逃げた。やはり呪いのブローチのすばやさ補正効果は素晴らしく、何とか逃げ切ることに成功する。
……とりあえず曲がり角を何度か曲がって相手が見えなくなった後、僕は壁にぺたんと背を預けて、ぜーはーいう呼吸が落ち着くのを待った。すると、向こうの道から歩いてきた別のパーティーがこっちを指さして、何かを言っている気がする。アカン、このままだと狩られる。
走り寄ってくる彼らは、立っている僕をスルーして向こうに走っていく僕の幻影を何か叫びながら追いかけていった。……え、何ここ。ほんとに始まりの街?羽生蛇村とかじゃなくて?そんな中、ナズナから「今どこにいるの?」とメッセージが来たので、僕は現在地を分かる範囲で送信する。結局ご飯も食べられないままその後も何度か隠れ、みんなと合流できたのは、それから30分が経った頃だった。
「なんだか街の人がおかしくなってるんですけど、何かあったんですかね?まさかとは思うんですけど、サイレンとか聞こえませんでした?」
「サロナちゃん、それより前に何か言うことがあるんじゃない?」
おおう、怒ってる。そりゃそうか。何も言わず行方不明であれからもう……あれ、魔王城に結局1か月くらいいたの!?道理でなっげぇ!まずは、謝らないと。心配かけて、ごめんなさい。
「あの、心配かけてすみませんでした……」
「違うわね」
ユウさんが間髪入れず否定する。え、違う?自信あったんだけど。…………えーっと。自信ないけど、ひょっとして。その後も、しばらく僕は考えて、おずおずと、みんなに言った。
「……ただいま、帰りました」
「お帰りなさい!」
ナズナがそれだけ言って、こっちに抱き着いてくる。あ、なんかこういうの久しぶり。やっぱり平和が一番だね。仲間が一番。みんな一番。もうどこにも行かない。……腕の中でぐすぐすと泣いてるナズナを抱きしめて僕が感動で胸をいっぱいにしていると、不意にどこからか、ガシャン、という音が聞こえた。……?なんだろ?
なんだか違和感のある自分の手を持ち上げると、手首にはまった銀色のわっかと、そこから伸びている鎖。鎖の先端にはもう一つわっかがあって、そのわっかはナズナの手首につながっていた。……??理解できなくて、僕は何度も自分の手とナズナの顔を見比べる。他の仲間の顔を見ると、みんな何かを悟ったような顔をしていた。え、なに……手錠……?今の流れのどこにそんな要素が?全然わかんない……。
「あの……なんですか?これ……?」
「さ、いこっか」
「ちょっと!なんですか!これは!ヴィート!こういうの、止めるべきはあなたでしょう!!」
僕が責めると、ヴィートは目をつぶって、すまん、という表情をしてきた。すまんじゃねーだろ、何見守ってんだ。今からでも止めろ。
「ヴィートさんが勧めてくれたんだよ、これ」
僕がにらみつけると、ヴィートはふっと目をそらして、気づかないふりをする。あ、この反応マジで発案者だわ、こいつ。許すまじ。そのまま僕は鎖で引きずられていった。魔王城でもこんな扱いは受けたことなかったのに。




