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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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ホーンラビットが倒せない

 甘かった。目の前の1匹のウサギと睨みあいながら、僕は1時間前の己の無計画さを呪う。 





 いや、草原を進んで敵と遭遇するところまでは良かったんだよ。生えている草の間から一対の耳が出ているのを発見して、接敵。僕の中での通称「動く素材」ことホーンラビットを収穫する、それだけの簡単なお仕事のはずだった。


 しかし、実際向かい合ってみると。このウサギ、想定スピードの3倍くらいの速さで動く。ダガーを当てられる気がしない。



 ……と、また兎が飛び跳ねながらこちらへ向かってくるのが見えた。


 着地を考えず不格好に横っ飛びをしてゴロゴロ転がりながらやり過ごし、すぐに立ち上がって振り返るが、向こうも既にこちらに向かって方向転換をしている最中なのが目に入り、再び睨みあう。この繰り返し。これでもう信じられないことに1時間が経っている。最初の戦闘で1時間て。僕はどうも時間の使い方に難がある。


 しかし、ウサギの動きが速すぎて、認識阻害を発動させようにも狙いが定まらない。相手を見て、意識を集中して、幻覚をかぶせる。たぶんその手順が必要なのに、集中する前に突っ込んでくる。この状態で日が暮れる可能性がリアルに出てきたので、僕はノーダメージで勝つのを早くも諦めた。早くもっていうか、まあ1時間経ってるんだけど。細かいことは気にしない。


 ウサギにはちっちゃな角が生えているのが見えるけど、5センチくらいで短いから、あれならローブで受け止めたらダメージは3もいかないんじゃないかな。たぶん大丈夫。いけるって。やばいかな。ああ、1時間前に戻りたい。




 こちらに向かってきているウサギを死んだ目で見ながらそれでもかわす準備をしていると、ウサギの首が突然スパーンと飛んでいくのが見えた。


 おお……これは、訪れた危機に対し僕に未知なる力が突如目覚めたとかそんな感じ? 敵の首を飛ばす能力。相手は死ぬ。



 ……しかし残念ながらそうではなかったようで、いつの間にかウサギのそばに革鎧を着た、剣士っぽい男性プレイヤーがいるのに初めて気づいた。もうウサギしか見えてなかったからかな、追い詰められすぎだろ。その危機を救ってもらったのは確かなので、とりあえずお礼を言う。


「……いや、途中からずっと見てたんだけどさ、ホーンラビットとあんなに互角に戦ってるプレイヤーがいるっていうのがなかなか信じられなくて。助けるのが遅くなった、ごめん。……遊んでるわけじゃなかったんだよね?」


「いえ、あれが全力です」


「……15分くらい戦ってなかった?」


「実は1時間ほど戦ってたんですが、決着がつかなくて」


「……そうなんだ……頑張って……何かあれば力になるよ」


 男性プレイヤーは凄く可哀想なものを見る目でこちらを見た後、優しい顔をしてフレンド登録してくれた。そして、その後、街の入り口まで僕を送ってくれた。紳士の鑑である。






 そのまま安全地帯である宿に一目散に戻って、ベッドに腰かけて一息ついたあと、最初の戦闘について、反省と検討を行う。あれを戦闘と呼んでいいかは置いておいて。


 まず、考えなしに動きすぎた。うん。あのウサギがエリアボスか何かではないか、というのも考えたんだけど、それはたぶん希望的観測だろう。倒したときにプレイヤーがノーリアクションだったし、一撃だったし。僕はもう一度自分のステータス(偽装済み)を見直す。



〈ステータス〉

名前:サロナ

種族:人族

レベル:1

ジョブ:催眠術師

攻撃力:12(2+10)

防御力:16(2+14)

すばやさ:4

魔力:3

運:1

HP:3

MP:4



 これの何がやばいって、まあ全部やばいんだけど。まずさしあたっての問題は、すばやさだ。


 なんとなく、僕はこのゲームにおけるすばやさの数値について理解する。あれだけのスピードで移動中のウサギの首をピンポイントで刎ねることができたプレイヤー。きっとこれって、相手とのすばやさの数値の差が、そのまま見た目のスピードの差になるんじゃないだろうか。ウサギが10、プレイヤーが10、僕が4として。すばやさが低い分、僕には周りの動きが速く見える。


 だって、ヴィートもウサギのスピードに言及してなかったし。あんなに素早く動けるなら一言あってもよさそうなものなのに。きっと、ヴィートにはウサギは特に素早くは見えなかった、ということだろう。



 そして、それは認識阻害の成功率の低さをそのまま示していた。相手が速いと意識をうまく集中できないから、なんだかうまくいかない。……困った。



 でもまあよく考えたら、スパイが前線で正面切って戦うってまずおかしいしね。戦い方はもう少しうまく工夫する必要がある、ということだろう。相手の攻撃の届かないところに陣取って、認識阻害に集中すれば、たぶん何とかなりそう、いや、なるなる。明日はとりあえずどっかの木にでも登って、そこから攻撃してみよう。まず木に登れるかどうかは、明日の僕に任せる。







 今日はもう出撃するのは諦め、僕はヴィートに聞いた掲示板をチェックしてみる。おお、なんかいろいろスレが建ってる。



 確かに攻略組の進み具合が報告されており、どうやら草原の右の方に見えた森の奥にボスがいるとかいないとか。なんだか早くもはるか遠い距離を感じるが、頑張っていただきたい。



 ……そのまま一覧を見ていくと、プレイヤーの情報交換スレなるものがあった。ヴィートとユウさんについても記載があった。そのうちソロに限界を感じたら助けを求めてみようか。どっちもいい人そうだったし。それに、今日助けてくれたプレイヤーもいい人だったよね。この外見じゃなかったら助けてくれたかは疑問だけど。


 そうして掲示板を読み進めていくと、緑髪に紫の目の女の子について、やたら書き込みがあることに気づく。その外見何か聞いたことある。



「ギルドで異様なくらい周りを見渡してた」

「ギルドからいきなり飛び出して頭から道に滑り込んでるのを見た」

「ホーンラビットと1時間互角に戦って、結局勝ててなかった」


 ……3つ目! お前!! 情報源1人しかいない!!……絶対あいつには連絡しない!



その日はそのままふて寝した。2日目終了。

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