一人でも二人、二人でも一人
※誰得シリアス回
でもこれは入れないとと思ったので
「……これはどうですか。焼けた鉄の靴を履いて死ぬまで踊らされるという拷問、その際に使われた靴の現物です。これはなんとですね、状態異常として常に火傷を負いますがその代わりに魔力が+15%されるという……あれ、どうしました?」
もう何個目になっただろう。ホラーチックな逸話込みで満面の笑みのお兄さんから装備の説明を聞かされてる最中、突然僕の目の前が真っ暗になった。一瞬また気絶かな?と思ったけど、たぶんこれ、目つぶってるだけだ。……説明の内容をシャットアウトしたいのであれば、どちらかといえば耳をふさぐべきじゃないかな。
その心の声が聞こえたのか分からないけど、直後に耳も両手でふさがれる。……まあ、基本的に気持ち悪い話ばっかりだったしね……。とりあえず今日は帰ろうか。
とぼとぼと元気のない足取りで僕は武器庫から戻り、部屋に戻る。……紹介してもらえた装備の中でいくつか使えそうなのは、あった。紹介してもらったのは50個近くだったから、15個に1個は当たりがある計算。悪くない確率だと思う。
使えそうなのは、最初に出てきた毒のナイフとか、ダメージを受けそうなときに一度だけ障壁が自動展開する魔術が仕込んである呪われたローブとか、運が-50される代わりに素早さ+50のブローチとか。-50されるなら運:5の僕はどうなるのかと試してみたら、1になるだけだった。懸念の素早さ問題が解消される割になんだこのデメリットの薄さ。もう何も怖くない。でもそれぞれに悲惨な逸話があった気がする。……なんだっけ、なんかもう詳細忘れたけど全持ち主が変死したってことだけ覚えてる。最初の毒ナイフって逸話がないだけマシだったんじゃないだろうか。
そして全部嫌だと、僕の体はそう言ってすごい拒否反応を示した。まあ気持ちはわかるけど。でも優先順位っていうのがあるから我慢してほしい。ただ、確かにサロナ的には強くなりたいって理由はあんまりないんだよね。
あと、怖くて夜眠れなくなったので、僕の体は深夜に魔王城を徘徊する、という、そっちの方がホラーじゃないの?という行動を繰り返すようになった。正直やめて欲しい。
そしてそんな行動を続けて、3日目。それが、近い将来必ず起こるであろうことが、起こった日。
「おい、欠番じゃないか。なんでここにいるんだよ」
……?振り向くと、小学生くらいの男の子がこっちを見ながら薄く笑っているのが目に入った。誰?知らない人。僕は無視してすたすたと歩いていこうとすると、そいつは焦ったような口調でこっちを呼び止める。
「おい!欠番のくせに僕を無視して行こうって、いい度胸してるな」
なんだこいつ。お前を欠番にしてやろうか。そのついでにセーブデータも真っ白不可避。とりあえず僕は相手を鑑定してみた。
名前:チーロ(№39)
種族:魔族
レベル:65
(鑑定不能)
(鑑定不能)
(鑑定不能)
すばやさ:220
魔力:390
(鑑定不能)
HP:900
(鑑定不能)
あれ、僕より格下だ。なのにこの態度のでかさ。相手の方が格下なのが№しかない、という事実からは目を背けて僕は憤りを覚える。……いかんいかん、子供には優しくしてあげないと。笑って僕は話してあげる。
「なんでしょう?そろそろ寝ないと明日に響きますよ」
「子ども扱いするな!……こっちはお前がやっと追放されて、せいせいしてたんだよ。なのにまたいるからどうしたのかと思ったよ。お前みたいな役立たずがいると、魔王軍の品位が下がるんだ。ここでは力が全てなんだから」
なんか覚えたての言葉使ってる感が出てるし、子供らしくて大変よろしい。僕的には魔王軍の品位が下がろうがどうでもよかったので普通にはいはいと流しながら聞けた。というかイェスペルという歩く迷惑製造機を放置していた時点でこいつの言う品位とかあてにならないし。
ただ、サロナ的にはそれはけっこうダメージのある言葉だったようで、僕の体がプルプル震えている。いいやん別に、下がったって。そもそも誰に対する品位よ。
「それにしてもさあ、アルテア様も見る目がないよな」
あ、それ駄目なやつ。ピクッとそれを聞いて僕の肩が揺れる。
「こんな弱い奴を部下にするなんて。お前のせいであの方の魔王軍での評判もどんどん悪くなってるのにさ、平気な顔して歩いてるし」
下を向いて、肩がぶるぶる震えるのが止まらない。いや、食堂で言われたよね。アルテアさんは皆から評判いいってさ。でも僕もすごく腹が立ってきた。
「それなのに、よく戻って来れたよな、僕なら恥ずかうごぉっ!!」
あ、僕のボディーブローが相手のみぞおちに入った。八つ当たりもいいとこだけど、いいパンチだ、的確で芯に響く。これで魔王軍の幹部にボディーを決めたのは2発目である。弱いという意見に拳で即反論するスタイル、嫌いじゃない。いや、反論したのはそこじゃないだろうけど。でもこれヤバいよね、何とか煙に巻かないと死ぬ!
「できそこないが何するんだよ……!殺すぞ!」
「いいんですか?№が上の私にそんな口を利いて。特に魔王軍の本拠地である、ここで。品位がどうとか、おっしゃってましたが」
「……お前は欠番だからいいんだよ」
「別にまだ欠番『扱い』ですし、今もフードやアルテアさんの部下だそうですよ。……あなたに正式な欠番を言い渡す権限があるとは私、知りませんでした。それに、フードの人から私のことは通達されているのでは?それを無視して勝手に動くのは、感心しません。危害を加えていいと、そう言われてはいないはずですけど?」
「…………ふん!偉そうに……後悔するなよ」
あっさりと子供は悔しげに去っていった。魔王軍ポンコツ集団疑惑が僕の中で再び頭をもたげる。だって、さすがにフードもみぞおちを殴られても反撃するなとは通達してないだろうに。あいつもダメージがあったなら、たぶんもっと怒ってただろうけど。……でもそんなこと関係なく、あいつは近い将来本格的にボコる。方法は分かんないけど。
……現実的な話、きっとサロナが飛ばされた後、アルテアさんがそういう評価になったのは間違いない。アルテアさん本人は絶対言わないだろうけど。そして、サロナ本人はいないからそれをはっきり知らなかったんだろう。処分が下りた後、あんなふうに直接言ってくる相手も少ないだろうし。うすうすサロナも気づいてはいただろうけど。……サボってたのは、サロナが悪いと僕はちょっぴり思う。それでも、悔しい、悲しい、と思う気持ちは一緒で。その、どちらのものかを分からなくなった気持ちを、僕たちは共有しながら、そこにいた。
下を向いていたら、床の上にぽとりと落ちた涙を見て、自分が泣いていることに気づく。僕は、初めてこの子が泣いているところを見た。僕たちは何も言わずに、しばらくその場に静かに立ったまま、深呼吸を繰り返す。ぐしぐしと目をこする中で、確かに僕は声を聞いた気がした。
……もっと、強くなりたい。
次の日、僕は2階からお堀の向こうを歩く魔物の姿を伺う。手にしたぬめっとした感触の毒ナイフをぎゅっと握りしめながら。前回狩りに失敗したオーガが歩いているのを見て、僕は静かにナイフを相手に向かって振り下ろす。刃と同じ色の衝撃波みたいなのが飛んでいき、オーガにちょっとだけダメージを与えた。これであとは待つだけ、かな。
ただ、しばらく待っても、オーガはなかなか倒れなかった。なんでだろう?
……今更鑑定してみると、毒耐性、なるものがついていた。ちょっとずつHPは減ってるけど。このまま待ってると30分くらいかかりそう。……ここからあっちまで50メートルくらい離れてるから認識阻害も届かないし。この堀の水(?)、絶対体に悪そうだからここに沈めたら早めに倒せそうなんだけど。
そう思ってすぐ、僕の体が動いて認識阻害を発動させる感覚があった。いやだから届かないって。そう思っていた僕の前で、オーガは堀の中の液体に自分から入っていき、シュワシュワ音を立てて見えなくなった。あれ、ダメージ受けたら正気に戻るんじゃ……?え、うまくやればひょっとして解けないの?……僕はUFO先輩の「精神操作の講義」を理解できなかったことを、結構真剣に後悔した。
相手を倒したあと、ぐっとこっちに向かってガッツポーズを取る右手を見て、僕はちょっと嬉しくなる。なんだ、やればできるじゃないか。……僕たちはきっとこの時に、初めて一緒の方向に力を合わせて歩き出したんだと思う。二人で目にもの、見せてやろう。
この場合の問題点としては二人は最終目的地が違う




