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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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あいつが嫌いと言う割には結構二人で喋ってる

「これとこれとこれ、5個ずつください!」


 翌日、海辺の街へ行く前に寄った店頭で見る限り、魔法を込めた石(魔石というらしい)は、色々な種類があった。一定時間、ステータスを上げる効果のあるものをとりあえず僕は買いあさる。おかげでお金がほとんどなくなってしまった。あとはいくつかおやつが買えるくらいしかない。僕は待たせていたみんなに手を振って戦果を報告する。


「お待たせしましたー。たくさん買えましたよー」


「見てたけど。お前、絶対現実でも、買い物に来たら財布の中身全額使うタイプだろ……」


 ヴィートがあきれ顔でこちらを見てきたけど、一体何を言っているんだろう。財布の中身=予算というのは当たり前だ。持ってる分だけ使っちゃうから、僕は普段は財布にあんまりお金入れてないんだけど、ここだとそうもいかないし。


「あ、そういえば食堂に寄っていっていいですか?何か貰えるらしいので」


 食堂では、また時間のある時でいいから手伝ってくれ!と言われ、制服と、客がこの二日間多く来たからと、ちょっとだけ手当をもらった。


「いいんですかね?制服とか高いと思うんですけど……」


 うーん、と僕が考え込んでると、ナズナがとても真剣な顔で肯定してくれた。


「いいんだよ!いやむしろ必須だよ!……ねえ、その服また着てみない?とっても似合ってたから今すぐ即座にそうするべきだと思うな」


「いや、店でもないのにウェイトレスの格好で道歩いてたらおかしいですよ……」


 そういえば手当の使い道、どうしようかな。ナズナと話をしながら、早くも僕は財布に補充された次の予算の使い道について、考え始めていた。



 




 歩いてお昼前、何事もなく海辺の街についた。そういえばこの世界って移動呪文的な奴がないんだ。歩いて移動するの、すごい面倒。たぶんそのうち習得できるんだと思うけど……今のままだと不便すぎるし。

 でも着いたはいいけどこの街、見た感じ全然魔物に襲われてるって風じゃない。僕らはさっそく疑問を解消すべく副町長のところに向かった。



「実は、新しい素材が海辺の洞窟で取れることが分かり、そこで発掘をしていたところ……巨大な魔物が現れたのです!そこで、このままでは街が危ない、と慌てて依頼を出したのですよ」


「それって街が襲われてるとは言わないような気がしますけど……」


 ただ単に、町はずれの工事現場に野犬が出たってレベルの話だよね。僕の疑問に対し、副町長はいやいや、と首を振ってそれを否定する。相変わらず胡散臭い動きをする奴だった。


「このままでは街の収入が絶たれ、いつ襲ってくるかもわからない魔物の恐怖に町民が怯える日々が続いてしまいます。被害があってからでは遅いのですよ」


 ……ぐぬぬ。逆に諭されてしまった。というか自慢の海の幸はどうした。最近発見されたらしい素材がなかったら街全体が収入0!?不安定すぎるだろ。僕は少しここの未来が心配になった。


「とりあえず、ギルドに行ってみます」


「討伐隊は明日の昼出発です。今夜、ささやかながら壮行会を準備していますのでそちらにも是非」


 この街っていっつも宴会ばっかりしてるなあ。だから財政も不安定なんじゃないかな、と僕は余計なお世話なことを考えながら、みんなとそこを後にした。







「どうする……?とりあえずはギルドに行って、情報収集してからでも遅くはないと思うが」


 ヴィートが提案したその方針に特に異論も出ず、そのまま僕らはギルドに向かった。そこで得た情報を総合すると。


・魔物はクラゲとウツボの2体。

・毒攻撃をしてくるらしいので対策必須。

・海辺の洞窟は入口から20分くらい歩くと広間になっていて、そこが採掘現場。


 ということらしかった。聞いてきたのは主にヴィート。毎度のことながら手際がいい。他のメンバーもそれぞれ聞いて回ってはいたんだけど、あんまりいい情報は得られなかった。何が違うんだろうね。


「なんでも、直接見た奴が鑑定した時に、名前の横に№がついてたらしいから、魔族なんだと思う」


 魔族って動物シリーズ多すぎない……?僕が人型でほんとによかった。さすがに僕もクラゲのままスパイやれとか言われたらその場でごめんなさいするしかない。しかしこの街の作業員は工事の度に毎回行き帰り20分歩くのか。大変そう。


「確かに行き来が面倒だって文句は現場から出たらしくってな。それを聞いた副町長がどうにかして、今は転移の装置?ほら、森にあったあれ。あれみたいなのが広場においてあるらしいから、帰りはそれを使えばいいらしいぜ。すぐこの街の中心に帰ってこれるらしい」


 運営様、ちょっと私用に使いすぎじゃないですかね!?そういうのいけるなら、街ごとに移動できるようにしてくださいよ!あと正体バレバレじゃねーか!もうこの際責任とって副町長には魔物に特攻してもらおう。残念だが当然、男らしい最期と言える。







 結局、明日の討伐隊に僕らも参加することにした。せっかく来たから、というのもあるし。そのまま夜の壮行会に参加し、僕達は色んな冒険者の話を聞く。今は二人組の男性から、冒険とは、というありがたいテーマについて講釈を頂いている最中で、僕は神妙な顔をしてこくこくと頷いていた。


「けっこうNPCから受けられるクエストの種類が豊富なんだよ。街の人間には積極的に話しかけた方がいい」


「へえー。なんだか魔王軍関係ないイベントもたくさんあるんですねえ……」


「実はスキルって、特定の行動を何度もとってれば習得できるものも多いぞ。結構手当たり次第に試してみたら二桁以上取れた」


「そうなんですか!?ちなみに、その中で一番すごいと思うスキルって、どんなのですか?」


「うーん、……「死ぬダメージを受けても、一度だけHP1で踏みとどまれる」かな」


 襷やん!僕すぐ死ぬダメージに達するから、それ欲しい!めっちゃ欲しいです!何でもしますから!


「すごい、どうやったらそんなスキル取れるんですか!?何でもしますから、何とか教えてもらえないでしょうか……?」


「え、何でも……?……いや、さすがにそれは教えられないな。掲示板にも投稿してないんだ」


「そんなあ……でも苦労して見つけたならそれもしょうがないですよね……」


 しょんぼり。でも、自分で見つけたのなら、それはきっとその人だけのものだ、しょうがない。また僕もちょっとそれ、探してみようかな。探す価値は、ある。スキル習得は正直サボってたし。なんだっけ、今の僕のスキル。



 そうしていると、宴会場に副町長が現れたので、僕はさっそくそちらに向かった。こいつにはいくつも聞きたいことがあったから。副町長は相変わらず黒目の大きい感情の読めない目でこちらを覗きこんできた。


「どうも、いやあ、あなたにはお世話になりっぱなしですなあ」


「いえいえ。この前の話の続きをしたいと私も思ってましたから」


「それはそれは。それで、私に何か聞きたいことがありそうですな。制限しませんのでいくつでもどうぞ。答えられる範囲で、お答えしましょう」


 とりあえず、今気になっていることを聞いてみよう。駄目元でもいい。


「まず、ゲーム内で死んだまま戻ってこない人がいる、という件はご存知ですか」


「ああ、知っていますよ。それが何か?」


 とりあえず、そういう人がいるというのは確定か。


「その人は、どうなったんですか」


「機械の不具合でログインできなくなってしまったのでね。お休み、していただいています」


 お休み、ね。さすがに死んだとしても(そう決まった訳じゃないけど)、はいそうですとは言わないよね。


「不具合で出られるなら。みんなそうすればいいじゃないですか」


「いえ、それが偶発的なものでして。なかなか思うようにはできません」





「あと、このゲームのNPCってどうなってるんですか?高性能過ぎません?」


「何をもって、高性能と思われたのですかな」


「だって、まるで人格があるみたいだし、過去もあるのが不思議だなって」


「……過去、ですか。それは誰かが言っていましたか?それともあなた自身の話ですか?」


「……」


「ああ、私からの質問にも、答えられる範囲で構いませんよ」


「じゃあ、答えません」


「では私も、高性能なAIを使っているから、という返事にしましょうか。他には?」


 なんだか押され気味。ただ、これは他の誰かの力を借りるわけにはいかなかった。……もう少し、聞き込みを積極的にやって対人スキルを伸ばしておくべきだったか。

 あれ。……そういえば。こいつそもそも、どうしてここにいるんだろう?


「あなたはなぜここにいるんですか?運営としての役割が、何かあるんですか?」


 と聞くと、副町長は初めて考えるそぶりを見せた。そして、しばらくの沈黙の後に、今までより小さく、低い声で話し出した。


「いえ、これは役割というよりも、この世界を私自身の目で、見てみたかったのですよ。それだけです。まあ、見た感想としては、満足とはいきませんでしたが」


 そう言う声に、今までこもっていなかった感情が宿るのが分かった。その声に混じっていたのは、残念さと、僅かな懐かしさ……?なんだろう、気のせい?と思っていると、勝手に僕の口が動いた。


「この世界はあなたの懐かしい場所なんですか?」


 その「サロナ」の質問に、副町長は一瞬目を丸くして、その後、静かに笑った。


「はい」


 囁くように言ったその最後の一言は、今までのどの台詞よりも生の感情がこもっているように、僕達(・・)には聞こえた。

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