たそがれるのってなぜかいつも窓辺
帰ってきたみんなに、とりあえず座ったら?と席を進めて今日も賄いを取りに行く。料理をテーブルに並べて僕も座って今日の戦果を聞こうとしたところで、ヴィートがいきなり立ち上がって僕に頭を下げた。何々?
「色々すまなかった。ナズナに何度も言われたよ、お前はちゃんと現実にいるって。言われてみて、NPCじゃないかって言葉は現実のお前を否定する言葉だったと、確かにそう思った。俺もお前の存在をちゃんと信じたいから、何とか許してもらえないか。これからも一緒にやっていきたいんだ」
「いや別にそこまで謝らなくてもいいと思うんですけど……別にNPC扱いでもいいかと思ってましたし」
その方が都合がいいしなぁ。ということを考えてると、それは駄目だよ、という顔をナズナがこちらに向けてきたのでごめん、と目で謝る。だんだん僕たち言葉なしで意思疎通できるようになってきた気がする。これっていつか何かの役に立たないかなぁ。そしてヴィートの後に、ユウさんもごめんなさい、と続けた。
「あと、予言者の時のことも、ごめんね。あまりにもタイミングが良すぎて、ついまたあなたが何かしたのかと思っちゃって……」
「また……?いえ、あれはむしろスルーされたら逆に気持ちが悪いので、いいんです。ユウさんは気にしないでください。というか、思ってること正直に言ってもらえてよかったですよ」
僕も仲間が占ってもらってる最中に占い師が叫び声を上げて逃亡したら、何か仲間の方に問題があったんじゃないかと思うしね。しかも今回は実際僕に問題があったし。言わないけど。……そういえば、あの予言者的にもあの逃亡は恥ずかしかったのではないだろうか。僕は何となく最初に来店したときのちょっと意地悪な感じを思い出して、一人で納得した。店員と客という立場を利用して復讐に来たのか、けしからん奴だ。
「なんか俺に対してだけ、扱いが違わねぇ……?いやまあ仕方がないことなんだけどさ……」
あ、そういえば。ヴィートって、NPC疑惑の原因を話していなかったよね。隠されると余計気になる。たぶん妖精ポエムが関係してる気もするけど。そんなときは本人に聞いてみるのが吉かな。
「そういえば、許してあげるから言ってみてくださいよー。なんで私をNPCだと思ったのか、そのきっかけ」
……はっ。僕も今、加害者と被害者という立場を利用している気がする!やばい。でもこれは気になるから聞いちゃう。ヴィートはもごもごと口をつぐみながら喋るけど、断片的過ぎて意味が分からなかった。
「それは、おとといの夜のお前がだな……いや、その……違うぞ?」
まあポエム祭りをみんなの前で公開されるのは嫌か。でもそんなに隠すことかなぁ?誰でもそういうノリになるときってあると思うけど。とりあえず、早めに終わらせるために短めに感想を伝えて、これで許してあげよう。僕はにっこり笑ってヴィートに一言だけ告げる。
「意気地なし」
「」
「サロナちゃん、なんだかヴィートさんが窓辺でたそがれてるよ」
「今はそっとしておいてあげましょう。人には一人になりたい時があるんですよ」
ヴィートが僕らに教えてくれたこと。真夜中のテンションでうかつに発言すると後で痛い目を見る。僕も大いに気をつけなければ。
とりあえず、ヴィート以外から今日の戦果を聞いたところ。ギャレスがクラスチェンジ可能なレベル30になったらしい。ただ、モンクのクラスチェンジできる場所に辿りついてないからね。その他はユウさんが28、ヴィートが27でナズナは22。うーん、どこかボス的なのに挑んだらきっとすぐ上がるんだろうけど、そうでもなければもう少しかかりそうな……。
「そういえば、帰りにギルドに寄ったんだけど、依頼が出てたわ。海辺の街から。街が大きな魔物に襲われてるので助けて欲しいんですって。ギルドでも参加する人が多くて、大きなクエストになりそうよ。報酬も段違い、らしいけど……なんでも海辺で最近取れるようになった珍しい素材をもらえるんですって。値がつけられないくらい希少らしいわよ」
「ええー……」
自作自演にも程がある。僕の副町長=運営疑惑が正しければ、お前らはむしろ街を襲う側だろ。
「どうする?気が進まないなら他のところに行きましょう。他にも道はあるんだから」
「別に街が壊されても困らねえしな。ただ、でかい魔物、っていうのには興味がある」
うーん、別にスルーしてもいい気がする。どうしようか。僕たちが考え込んでいると、扉がバタン!と開いて誰かが食堂に飛び込んでくる。……よく見るとその誰かは、海辺の街からここまでついてきてたストーカーだった。そういえば最近見なかったっけ。
「ギルドの依頼を見ましたか!?早くあの街の人を助けに行かねばいけません!私たちを温かく迎えてくれた街が滅びてしまうのをこのままただ見ている訳には!」
「うわぁ……」
そこにいる全員が面倒……という表情を浮かべたけど、言ってる内容的には向こうの方がよっぽど勇者らしい。というか僕らのパーティー、あんまり勇者らしい人いない。……どうしよう。僕が副町長が怪しいから嫌いっていうだけで大きな依頼を受けないっていうのもなあ。なんだかみんなに悪い気がする。レアな素材ももらえるらしいし。
「えーっと……特に異論がないようでしたら、行きます?断る理由もあんまりありませんし、他に行きたいところもないので」
「……いいの?」
「まあ……好き嫌いだけで物事を決めるとよろしくないですしねー」
まあでもゲームのストーリー的には参加しといたほうがいいやつだよね、たぶん。
「あとね、ギルドで聞いたんだけど、この街って魔法を込めた石が売ってるんだって。それを使うと魔法が使えなくても使えるようになるって。使い捨てらしいけど。サロナちゃん、見に行ってみない?やっぱり見てるだけより一緒にやりたいだろうって思うから」
「!……ありがとうございます!」
え、マジで!?これでずっと問題だった、僕の火力と素早さ不足も補えるんじゃない?もう次から戦闘に参加できる!乗るしかない、このビッグウェーブに。思わずナズナの手を取ってお礼を言うと、彼女は大いに動揺した。
「えっ、そんな……まだ心の準備が……。あ、でも今を逃すと」
あ、いかんいかん。思わず興奮しちゃった。僕が手を離すと、ナズナはまるで見逃し三振に倒れた後のバッターみたいなしまった、という表情で天を仰いだあと黙りこんでしまい。しばらくして、窓辺にいるヴィートの隣に移動して、たそがれ始めた。……別にいいけど、あの二人、誰が迎えに行くんだろう。




