言い訳するより開き直った方が案外通る
「違うんだ」
「はい」
「いや、ほら、このゲームってNPCが優秀じゃん。プレイヤーはみんな人族でスタートだろ?だからお前はひょっとして、NPCのサポートキャラの妖精かなんかじゃないのか?、っていう趣旨の質問、そう、そうだったんだよ」
「はい」
「だから変な意味じゃないんだ。お前を本物の妖精と勘違いしたわけではない。現実に妖精はいないからな」
「わかります」
素晴らしい着眼点だといえよう。妖精と呼ばれるのは人生初だったしこれ以降も二回目は間違いなくないという意味ではヤバイ発言ではあるんだけど、ヴィートの質問は種族以外、おおむね合っているのが恐ろしい。でもなんかそれより、ヴィートの剣幕が必死で怖い。いつもよりすごい勢いで喋ってくる。僕も友達に向かって妖精発言なんてしたらその後気まずいことこの上ないしなあ、分からなくもない。ここは優しく接してあげよう。僕は笑顔で相手を安心させるようにして、穏やかに話す。ヴィートの背中をポンポン叩きながら。
「大丈夫、大丈夫です。そうなんですよね、ヴィートは少し勘違いしてしまっただけなんですよね。でもいいんですよ、私はあなたの味方ですから。それに、本物の妖精もひょっとしたらどこかにいるかもしれませんし。……そうだ、でも今日のことは私たち二人だけの内緒にしておきましょうか」
「……」
「?どうしました?」
笑顔、笑顔。と思いながら励ましていると、なんだかヴィートが黙ってしまった。どうした。もう一度妖精がとか言い出したらまた笑っちゃうから、言うなら事前に許可を申請してからにしてほしい。ふふ妖精ふふふファンタジー、あ、やばい、駄目だ駄目。
「なんか、そのすげえ優しい態度が逆に腹立つ!気を遣われてる感が半端ないし!それに!お前!今もちょっと笑いそうになってるだろ!」
「何ですか、逆ギレですか!?面と向かってあんな台詞言われた私の身になってくださいよ!妖精ふふふふ、ごめん止まらないふふふっ無理無理ごめん」
僕はとりあえず壁にガンガンと頭をぶつけて気を落ち着かせる。まだここは塔の上だから壁はそこら中にあった。……痛い。そうだ、人の恥ずかしい部分を笑ってはいけない。OKOK。
「……すみません、失礼しました、ちょっと発作が。決して笑ったわけではないんです」
「お前そう言ったらなんでも済むと思ってるだろ。だいたいその発作って何だよ。やっぱり妖精には現世が辛いのか。お前はどこのおとぎの国から来たんだ?」
ガンガン!と僕はもう一度頭をぶつけてきて、何とか正気を取り戻す。
「ふふっ、ちょっと!なんで開き直ってるんですか!聞いてる方もすごい恥ずかしいですよ、寝る前に思い出して叫びたくなるタイプの思い出ですよこれ。今後のためにも傷を広げるのはやめましょう」
「いいんだよ、もう開き直った方がなんぼかマシだわ。……お前、真面目な顔して澄ましてるけど、おでこすげえ赤くなってるぞ、この暗さでもわかるくらい。大丈夫か。妖精的にも」
「ヴィートも今、大丈夫ですか?ぶっちゃけ正気とは思えない発言ですよ」
「いいんだよ、もう。お前もさっきと全然違う反応じゃん。俺の味方じゃなかったのかよ!」
「……うう、優しくしても駄目、正直でも駄目……私は仲間のためにこれ以上どうしたら……」
「まずはその途方に暮れた演技をやめろ!」
その後もしばらく二人で騒いでいたら、夜景を見に塔に上がってきたカップルに注意され、僕たち二人はその場を退散した。
二人で並んで宿の階段を上がり、部屋に戻る途中で、僕はふと疑問に思ったことを聞いてみる。茶化すとかじゃなく、純粋に気になったから。
「でも、なんでヴィートは私のことを妖精だなんて急に思ったんですか?」
そうすると隣を歩くヴィートは何かを思い出すような顔をした後、途中まで言葉を言いかけて、止まる。
「それはお前が……いや、何でもない」
「いや、隠されると余計気になるんですけど……」
「絶対!言わん!」
まあ、いいけどさ。なんかうやむやになったし。NPC疑惑。
次の日。魔法都市の周りで敵の狩りにいそしむ僕ら。この街の付近に出てくるのはゴーレムとスライムが主らしい。僕は魔法で出した土壁の上に腰かけながら、仲間がスライムと戦っているのを応援する。いや、ゴーレムはいいんだよ。一応攻撃を幻覚で空振らせたりとやることあるし、動きも遅いし。ただ、スライム、お前は駄目だ。物理無効かつ操っても全然意味ない感じ。ここでも足手まといかあ……とため息をつきながら隣に座っているギャレスと適当に話をする。
そう、物理無効だとギャレスも戦力外なんだよね。ちなみにゴーレムの場合は物理もある程度効きはするようで、その場合は僕は完全にぼっちである。
話していると、ギャレスはどうやら戦闘で役立てないことに大変ショックを受けているらしかった。ちょっとナイーブになっている。優しくしてあげないと。
「戦闘で役立たずなのがこんなに歯がゆいなんてな……あいつら、いくらぶん殴ってもこたえやしねえ」
「何でも得意不得意があるのではないですかねー。例えば幽霊をぶん殴って退治できたら世の中のホラー物は半分以下になってしまいますし」
「でもよ……」
「まあそう言っても気になりますよねー。……ここって魔法都市でしたし、魔法のメリケンサックとか、ないんでしょうか?ちょっと後で一緒に探しに行きましょうよ」
「……おう!」
あ、戦闘が終わったみたい。お疲れ様です。僕が最後にまともに戦ったのは果たしていつのことだったか。
「ギャレスのお守り大変だろ、お疲れ。ただ、お前にしかできない仕事だ、胸を張ってくれ」
「どうも。あ、後で買い物行きません?メリケンサックとか買いたいんですけど」
「サロナちゃん、魔法都市に来たのに鈍器ばっかり……」
ナズナの発言を聞いて僕はちょっと疑問に思う。メリケンサックって鈍器なのかな……?まあいいか。ヴィート隊長は僕の提案に対し、軽く応答した後OKをくれた。
「なんだかヴィートさん、ちょっとサロナちゃんとの距離が近くなってない?……何かあったの?」
それはきっとあれだ。恥ずかしい体験を共有した後って、お互いちょっと遠慮が消える、っていうあれ。ただ、それを詳細に説明する羞恥プレイを楽しめるほど、僕はレベルが高くはなかった。結果的に、昨晩のことを内密にするという意味では、僕を共犯者として巻き込んだヴィートの行動は効果的だったと、そう言えるだろう。なかなか侮れない。




