鉄パイプだって言い方を変えたら杖だと思う
「そういえば、あなたはなんでこのゲームに参加したんですか?」
てくてくと歩く道中で、僕は横から離れないストーカーに聞いてみる。こいつ、事あるごとに「体調は大丈夫ですか」「おぶりましょうか」と話しかけてくるのでそろそろげんなりしてきた。もしやこいつ、副町長が放った刺客とかじゃないよね。そういう精神的な嫌がらせを好みそうな顔をあの副町長はしていたし(偏見)。
「勇者となり魔王を倒すなんて、子供のころ憧れた夢そのものだったので!この世界でも、魔族に虐げられている民を思うとやるせなさに胸が痛くなりますね。私が世界を救う、なんとも素晴らしいフレーズです」
お、おう……そうか。なんていうか、将来犯罪を犯した際、ゲームと現実の区別が、とか報道されないように気をつけろよ。僕は知人として宇宙人みたいな声でモザイク越しにインタビューを受けるのはごめんだった。別にリアル知人じゃないけど。あれ、でも、ひとつ疑問。
「魔族に虐げられてる民なんて、いましたっけ?」
僕が知ってる魔王軍って、アホの子か苦労人しかいないんだけど。あとフード被った変人もか。他害的な行動を取ってるところは見たことないけどなあ。でもこう考えると、アルテアさんを除くと僕くらいしかまともな魔族っていないんじゃない?そう思うといっそう責任感に身が引き締まる。
「見たことはありませんが……私が行った街には、魔族に街を滅ぼされたという市民がたくさんいました。そういう話を聞くと、ますます素振りに熱が入ってしまいます」
そういうやる気の出し方は……どうなんだろう。個人的には、強くなる理由に他人を使ってるみたいでなんともよろしくないと思うけどね。
「素振り?そういえば、あなたのジョブって何ですか?」
「聖騎士です。この前やっとクラスチェンジできたんですよ!神官にも、これであなたもふさわしい職に就けた、とお褒めの言葉をいただきました」
なんと、上級職だった。この人のどの辺が聖騎士なのかは分かりかねたけど、きっとプロの神官にしか分からない長所が何かあったんだろう。うーん、ちょっと煽るといくらでもお布施をいっぱいしてくれそうなところ、とかかな?
あと今更ながらヤバいことに気づいた。こいつのジョブは分かったけど、名前、なんだっけ?今から聞きづらいのでもう何とかごまかして後でみんなに聞こう。それまでは適当にほめて場をつなごう。
「神官様に認められるならきっと素質があったんですね!いいなあ、私もあなたみたいに早く上級職になりたいです」
「サロナちゃん、あの人の名前絶対忘れてますよね」
「ああ、途中で、はっとその事実に気づいたような顔もしてたしな。その後助けを求めるみたいにこっちをちらちら見てたし。……それにしても、あいつの表情ってすごく詳しく内心が伝わってくるんだけど、あれ、どうなってるんだ?今まで生きてきてあんなに表に出る奴って見たことねえわ」
「あら、そこも可愛くていいじゃない」
結局宗教都市はいったん素通りし、魔法都市に向かうことになった。海辺で結局フナムシ一匹しか倒してないから、ヴィートのレベルがクラスチェンジにはまだもう少し足りなかったから。
それにしても、魔法都市かあ……なんだかロマンを感じる。大魔法で敵を殲滅とか、すごくいいじゃないか。この時の僕は、土魔法の最下級を習得するのが限界だと以前に宣言されたことも正直すっかり忘れていた。
そしてたどり着いた魔法都市は、遠くからでも一目でわかる大きな壁に囲まれていて。その壁の向こう側に、何本かある高い塔の上の部分だけが見えている状態で、近くまで来た僕たちは壁を見上げる。なんだか壁のところどころに出窓やベランダみたいなのがあるから、敵が攻めて来たらあそこから攻撃したりするのかな。僕たちは凄くきょろきょろしながら入口の門をくぐる。
「中は意外に普通の街ですね。私、空飛ぶじゅうたんとか飛び回ってるのかと思いました」
「やたら尖った塔があちこちにあるけどな、確かに普通だ。俺もなんかこう妖精とかそういうのが徘徊してるのかと思ってたが」
僕たちはみんな魔法都市に凄い妄想を抱いていたらしい。というかヴィートのイメージってエルフの里とかそっち系だと思うんだけど。
「とりあえず、今日の宿を確保して、まずは店を見回った後、ギルドに行ってみる?」
「この街には既に来たことがあるので、私がご案内しましょう」
ストーカー(仮)が率先して歩き出す。ここまでって話だったけど、ガイドとしてならもう少しいてもらってもいいかも。僕たちは特に文句も言わず、素直にその後をぞろぞろ着いて行く。そしてやっぱり、通行人に杖を持ってる人が多かった。
ストーカー御用達の宿に部屋を取った後、店を何軒か見回る。どうせ宗教都市と同じく、ここでは魔術師用の装備しか売ってないんだろうと思ったら、魔法の盾や剣など、結構品ぞろえは多彩だった。一番多いのはやっぱり杖だったけど。この街で一番大きいという店で、購入を前提に品を見て回る。
「そういえばナズナって、杖持ってませんよね。買ったらいいんじゃないですか?」
「どれがいいかわからないから買わなかったんだけど……確かにそろそろ買った方がいいかなあ。これとかどう思う?」
ナズナが指さしたのは1メートルくらいの杖の先に重そうなでかい球がついているやつで、一言でいうと、鈍器だった。そもそも杖って魔法の補助とかに使うもので、直接誰かを殴ってダメージを与えるものではないと思う。いや、杖の良し悪しは分かんないけど、たぶんそうだ。ここは僕が道を正してあげないと。
「そういう鈍器より、杖の方がいいんじゃないですかね。ここって魔法都市ですし、ほら、杖の本場ですよね。あれを買うのは旅行に来た時の昼食をマク○ナルドで済ませるようなものです。やめましょう」
「ええー、使いやすそうなのに……あれで頭を狙ったらだいたい一発だよ」
一発でどうなるんだろう。この子本当に魔術師なのかな。撲殺魔とかじゃなく?いや、そういうジョブがあるかは知らないけどさ。その後、店員さんを呼び止め、何とか魔法を使うときに使用する杖、としておすすめなのを買うことができた。
「そういえば、サロナちゃんは何か買わないの?」
そういえばそうだった。僕は海辺の街でこれから行われるであろう暗黒儀式を粉砕するための神器を購入しなければならないんだったっけ。やはり、ネイルハンマーかな。そういう儀式に立ち向かう武器と言えば僕の中では火かき棒かこれ。僕は店員さんを呼び止めて、笑顔で尋ねる。
「すみません、ここ、ネイルハンマーってありませんか?」
「サロナちゃん!!鈍器は駄目ってさっき自分で言ってたじゃない!どうしたの!?」
……ナズナに怒られるも、結局、この店には売っていなかった。残念。




