悪い予言の方が当たる確率が高い気がする
横になりながらあの後のことについて、ナズナの話を聞く。あの巨大フナムシはギャレスに海に放り込まれた後、みんなで浜辺に上げないよう攻撃してたらそのうち沈んでお亡くなりになったとのことだった。泳げないのは本物と一緒だったか。違ったらどうしようと思ってたのでそれはよかった。
「それで、今晩、副町長が報酬を渡しがてら、宴会にお招きしてくれるって。……どうする、サロナちゃん」
どうしよう。僕今回全く役に立ってないからね。宴会に参加する資格自体ない気がする。
「あんなに魚楽しみにしてたみたいだけど、体調が悪かったら休んでいいと思うよ。私も一緒にいるし」
「……行きます」
気分はあまりすぐれなかったけれど、自分のせいで誰かが参加できないのは、嫌だった。
そうして参加した夜の宴会で、意外にも浜辺の魔物退治に参加した人からは、おおむね僕は歓迎してもらえた。どうやらカニを追っ払った(?)ことと、フナムシの弱点を伝えたのがとてもポイントとして加算されているみたい。カニ鍋がこんな形で評価されるとは……
「持病があるのに前線に出てきて、倒れる前に、読み取った相手の弱点だけは伝えるなんて頭が下がります。見習いたい。もう体調の方は大丈夫なんですか?」
「いえ、そんなたいそうな話ではないと思うんですけど……ごく当たり前の」
「いえ、当たり前の話ではないんです!私たち周りがもっとしっかりしていれば、貴女にそんな無理をさせなくて済んだのに……」
なんだかとても勘違いされている。僕が、違う違うと一生懸命に否定したら、今日戦闘に参加していたプレイヤーの一人と名乗った青年は、とても感動していたようだった。なんで僕の周りって僕の話をそのまま受け取ってくれる人間がいないんだろう。あと、その変な責任感に「私たち」って連帯責任を勝手につけるのはやめろ。
「私は自分の弱さが恥ずかしい。周りを守るためにも、もっと強くなると心に誓いました」
多分この人が恥ずかしく思うべきは相手の話を理解する力の不足についてだと思うんだけど。でもこれまで宴会の参加者から今日の話を聞いた限りでは、この人活躍度で言うと2番目くらいだったらしい。ちなみに1番はフナムシを海に放り込んだギャレス。でも、恥ずかしいのが「私たち」から「私」になっているのはいいところだね。少しは褒めてあげよう。
「あなたの活躍は皆さんから聞いていて知っています。もっと強くなりたいと思う気持ちは凄いと思うんですが、今日は恥ずかしがらずに胸を張ってください。少なくとも、私とあなただとあなたの方がずっと役に立ったと、私は思っていますよ」
いつの間にか相手を励ますように、自分が微笑んでいるのが分かる。ついに表情まで勝手に動くようになったよ。やったね、また誤解が増えるよ。そもそも、最後まで立っていたという時点で僕より活躍度全員上だ。すごい、ハードル超低い。……すると、青年は僕の手を取ってお礼を言った。
「ありがとうございます、私が至らないのにそんな励ましの言葉をかけてもらって」
あ、やばい。これナズナが見たら相棒案件だ。僕はさりげなく手を離す。そうすると相手が申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
「すみません、失礼でしたね……」
いや、お前が悪いわけじゃない。かと言って、正直に説明するのもねえ。もう適当に話してればいいか。病気が移るとかで。結核かよ。あれは接触感染じゃないけど。
「……あの、こちらこそすみません、私の病気が移ってしまうかと思って、つい。だから別にあなたが嫌だったわけではないんです」
「よかった、なら、大丈夫です。ここなら、そんな心配する必要はありませんから」
そう言ってくる相手に、まだ慣れなくて、と適当な言い訳をしながら僕はその場を後にした。これもサロナの影響だと思うんだけど、何がヤバイって、男に手を触られた時の僕の嫌悪感が薄れてるのがヤバイ。別に影響を与えるのはいいけど、いや良くないんだけど、そういうのに僕を巻き込むのは、ダメ、ゼッタイ。もうこの際、一緒にゲーム内ではお互い一生独り身でいようぜ。とサロナにエール(?)を送るも当然返事はなかった。
そして、僕はちょっと高いところの席に座っている副町長のところに行く。どうしても確認したいことがあったから。まずは挨拶をして、本題に入ろうとしたところで、向こうから質問が来た。依頼を受けた時と変わらない無表情で、副町長は尋ねる。なんだか夜の明かりに照らされてもっと怪しく見えるよ。
「まだ魚を召し上がってないようですが、お嫌いでしたか?依頼を受ける前の様子ではそんな風には見えませんでしたが」
お前が怪しいから出されたものは食べたくないんだよ。ちなみにパーティーも見た限り、ギャレス以外は食べていない。いや、あいつにも一応注意はしたんだけどね。もう、何か細工がされてても効かなさそうだからいいや。スキル的には僕が一番効かないはずなんだけど、過信は禁物。
「この質問が終わったらゆっくりいただこうかと」
「ほう、何でしょう?何でもお答えさせていただきますよ」
大きな黒目が目立つ副町長は何を考えているのか分からない声と表情のまま、僕の方を覗きこんできた。何でも。言ったな。
「……ここの浜辺に出る魔物は、最初からあの姿でしたか?」
今日見た夢がサロナの記憶なら、フナムシは苦手だろう。だからあんなに反応を示した。それはいい。ただ、それがピンポイントにすぐ出てくる、というのはいくら何でもたまたまが過ぎる。
それを聞いて、副町長は初めて、面白そうな顔をした。すごい悪だくみしてそう。そんな顔してるといつか部下に役員会議で土下座させられるぞ。偏見かな。
「言っている意味が分かりかねますな。……と言いたいところですが、興が乗ったので特別にお答えしましょう。本来はサンドワームの予定、でした」
「変わったのは、何故ですか?」
「それはあなたが一番よくご存じなのでは?……ただ、正直に言うと、私たちからしても想定外、なのですよ。こんなことになるとは」
面白そうな顔をしたまま、副町長は言う。
「どうなるのか私たちにもわかりませんが、またお会いできることを楽しみにしています。次に会う時のあなたが覚えていれば、またお話ししましょう」
……ここでも、「私たち」、か。
「私、もうできたらこの街には来たくないです」
「ハハハ!これは嫌われたものですな、ただ、あと一度は来ますよ。近いうちに」
嫌な予言だった。行事とやらだろうか。邪神像を砕くために今のうちにネイルハンマーでも調達しておこう、と僕は心に誓い、不穏な会話を交えながら、その宴会は更けていった。




