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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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境界線上

引っ張った割に大したものは出てこない

 嫌な予感は当たるもので、出てきたのは軽自動車くらいある巨大なフナムシだった。岩場をマッハ1で走り回るという説もあるあれ。でも、意外に目がつぶら……あれ?相手を見た瞬間、視界がぐるりと横に回った。僕の体が勝手に180°回転し、そのまま走る。そしてその途中、足がもつれて転び、砂浜に滑り込んだ。おかしい。僕は走ろうと全然思ってないのに、体が動く。というか倒れてるのにまだ僕の足がばたばた動いてる。正直怖い。



 ……よく考えたら僕は今まで幻覚で相手を操ってた側なので、自業自得な気もするけれど。それとともにフナムシ気持ち悪い、という気持ちがどこからか沸いてきて止まらない。


「サロナちゃん、大丈夫!?」


 そのままふっと意識がなくなりそうになって、ナズナに耳の横で大声で呼ばれたことではっと目が覚める。いやいやいやいや、おかしい。そもそも僕ってそういえばフナムシ別に苦手じゃなかった気がするのに。岩場にいるのを脅かしたら、フナムシってびっくりして海に飛び込んだりするんだよ。そのまましばらく泳ぐんだけど、力尽きてそのうち沈んじゃうの。それを眺めて、長く泳げないんだなあって思ったこと、覚えてる。ひょっとして、これって無用な殺生をした僕への、過去のフナムシたちの復讐なのかな……


「しっかりして!!」


 がくんがくんと肩を揺さぶられてはっと目が覚める。そうだ。おかしいって話。だって苦手じゃないもん。そういえばこの街に到着して砂浜を見た時も、いたのがカニでほっとした気がする。……なんで?苦手じゃないはず。それなのに目があの物体を追うのを断固拒否する。「おしまいだぁ……勝てるわけがないよ……」というか細い声の幻聴まで聞こえてきた。そこまで強そうか、あれ?ふてくされてる暇があったら戦え。




 それでも幻覚をかけようと無理やり正面から見たら、一瞬で意識がほぼ飛んで、僕は後ろにいたナズナに抱きかかえられる。状態異常無効とはいったい何だったのか。せめてあいつの弱点(?)を伝えなければ……抱えているナズナが僕が何か言いたいのを察したのだろう、ぎゅっと僕を抱き寄せて口元に自分の耳を寄せる。


「何?私、ちゃんとここにいて、聞いてるよ。いいから、ゆっくり話して」


 いいシーンみたいだけど、魔物を見て気絶しそう、っていうだけなんだよね。フナムシ型魔物が凄いスピードで動いてるのが視界の端でちらっと見えて、それを認識した瞬間に、僕は目の前が真っ暗になり始めたのに気づく。おい、動いてるの見ただけで駄目か。そんなにか。


「あいつはたぶん、泳げません……」


 それだけを告げて、僕は今度こそ意識を失った。こんなことで。










 僕はセピア色の記憶の中で、海に訪れた過去を思い出す。家族と一緒に来た海で、僕は砂の城を頑張って作ろうと躍起になっていた。ただ、波打ち際で作っているので、打ち寄せる波でどんどん砂が削られる。しかし、僕は城をここに作りたい、と思っていて、何度も何度も作り直す。しばらく波が来ない時期があるので、その間に完成させれば問題ない、と思っていた。一人で何度も作り直していると、突然水着が引っ張られて、中に何か動くものを入れられた。僕が振り向くと、兄が笑っていて、もぞもぞする水着の中が気持ち悪い。僕は自分のワンピースの水着の中に手を突っ込み、黒い虫みたいな何かを泣きながら掴みだして――――





 ……僕に兄なんていない。はっと目が覚めてあたりを見回したら、どこかの部屋の窓際にあるベッドに僕は寝かされているようだった。背中に当たるひんやりとしたシーツの感触を感じながら、現状を把握しようと深呼吸する。


波の音が聞こえるということは、海の近くなんだろうけど。周りには誰もいない。……どこまでが夢、だったんだろう。



 さっきのは、夢?たぶん、さっきの夢で僕は女の子だった。……サロナの、記憶?でも、これって、ゲームのキャラじゃないの?そんなに細かく作ってあるものなの?

 そして、僕は唐突にこの前広場で会ったフードの台詞を思い出す。僕を見て「面影がある」と言っていたのではなかったか。「あなたがサロナと違うのか違わないのか判別できない」というようなことも言っていたような気がする。あれは……?





 突然、バタン!と扉が開き、僕は考え事を中断させられると同時に、その音にびくっと体をすくませる。


「ごめん、ちょっとお水とタオルを取りに行ってて!……大丈夫?すごく顔色、悪いけど……やっぱり体調、良くないの……?」


 ナズナだった。そのままベッドの隣の椅子に腰かけて、心配そうにこちらを覗きこんでくる。


「いえ、大丈夫です。ちょっと休めば良くなります」


「……そう。わかった。じゃあ、良くなるまで一緒にいるね」


 誰かに一緒にいてほしいような、一人にしてほしいような、両方の気持ちがごちゃ混ぜになった状態で僕は頷いた。

 ふと、外を見ようと視線を窓の方に移すと、窓に映った女の子がなんだかしんどそうな顔をしてこちらを見返している。



……良くなるには、まだまだ時間がかかりそうだった。

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