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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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取れたてのカニはほどよく海水の塩味が効いている

「……あの副町長、怖かったですね」


「なんか最後の方、機械的な喋り方になってたよね……顔も無表情だったし」


 無表情っていったら怒ってるときのナズナも結構そういうの、多いよね。そういえばなんだか共通する怖さを感じる。無表情と聞いて、僕はナズナの顔をじっと見ながら、絶対にばれてはいけないそんな考えを思い浮かべた。するとナズナは僕の方を見てにっこりと笑い、僕に尋ねる。


「サロナちゃんが今何考えてるか、当ててあげようか?」


「すみません、謝りますのでやめてください」





 でも話し合いの結果、せっかくここまで来たということで、ギルドに依頼について確認には行くことになった。やっぱりカニを退治さえすれば海で遊べる、というのは大きいし。そういえば、リアルでも砂浜で遊んだりしたのもうずっと前だ。いつ以来だったかな。確か城を作った気がする。





 そして、僕たちはそのままギルドに行き、受付のお姉さんに依頼について聞いてみる。


「既に何パーティーも受注していますが、達成条件は魔物を砂浜から追い払うこと。報酬は魚料理と金5万ゴールドです」


 なんかギルドの依頼の説明で報酬が魚料理って出てくると違和感がすごい。5万ゴールドと並ぶ魚料理。さぞかしいいものに違いない。そして、既に依頼を受けているパーティーがいるらしいね。



「他の組に負けないように早く行きましょう、と言いたいところですが、さっきの副町長の反応を見るとなんだか様子を見た方がいい気がしてきました。先行組が達成できたらそれはそれで浜辺で遊べるからよし、彼らが達成できないならその理由を遠くから見極めてはどうでしょう」


「海に向かって走り出すかと思ったら、お前結構冷静だな」


 なんだかひどい言われようである。どうもヴィートは僕のことを衝動的な人間だと勘違いしている節があるので、ここらへんでそれを払しょくしておきたい。


「あのカニってどんな特徴があるんですかね?ちょっと受付の人に聞いてきます」


 更なる自身の知的な面を仲間に見せつけるべく、僕は貪欲に情報収集に走った。それに答えるように、受付のお姉さんは僕の質問ににこやかに対応してくれ、豆知識まで披露してくれる。阿吽の呼吸ってこういうことだね。


「……ああ、あのカニですか?オオスナガニ、と言ってハサミが脅威です。と言っても動きは遅いので攻撃が当たることはあまりありません。この街で取れる海の幸の一つでもあり、お祭りの時は大きな鍋を浜辺に用意して取れたカニを調理し、街のみんなで食べます。茹でて食べると一番おいしいですよ」


 なるほどなるほど。僕は戻ってみんなに戦果を報告する。簡潔に。


「食用だそうです」


「お前はいったい何を聞いてきたんだ」








 砂浜で、先着していたらしき何組かのパーティーがカニの群れと熾烈な戦いを繰り広げているのを、僕たちは少し離れた堤防の上から眺めた。あんまりすぐに決着がつきそうにない。100匹くらいいるし。



 それでも潮風に吹かれながら浜辺でぼーっとするのも悪くなかったので、しばらくみんなでのんびりしたけど、段々それも飽きてくる。戦闘を見るも代り映えしないので、ふと周りを見渡すと、近くの家の壁に、信じがたいくらい大きな鍋がかかっているのが見えた。僕は受付のお姉さんの言葉を思い出す。……浜辺でカニ祭り、いいじゃないか。




 そのままギャレスをつれて堤防を離れ。巨大な鍋を家の住民にお願いして借りてきて、砂浜のあんまりカニがいない場所に半分くらい埋め、そして何度も水を汲んできて、鍋いっぱいになるまで注ぐ(主にギャレスが)。仕上げにナズナのファイアーボールで熱した大きな石を何個も放り込むと、ぐつぐつ煮えたぎる鍋が出来上がり。あとは具が入るだけ。ここからは僕の仕事。



 近くに一匹で徘徊しているカニに目星をつけて幻覚を見せ、うまく鍋の方に誘導する。半分埋まってる鍋のふちを乗り越え、カニが煮えたぎったお湯の中にジャボンと入った。その瞬間、正気に戻ったのかカニがバタバタ暴れる。うわ。飛んでくるかもしれないお湯から退避するために僕は慌ててダッシュで逃げる。距離をおいて振り向くと、カニは何とか鍋から出ようとするもうまくふちを登れず、見守っているとそのまま無事真っ赤に茹でられた。計画通り。




 パーティーのみんなも進まない戦闘の観戦に飽きていたのは一緒だったのか、茹でたカニをみんなでばりばり殻を割り、切り分けてつついた。鍋にちょっと海水を入れたおかげでカニ自身の甘味にほのかな塩味がついていて、おいしい。大きいから食べやすいし。はふはふとみんなでふっくらした白いカニの身を頬張って、途中、誰がハサミを食べるかで取り合いになったりもしたけど、しばらくして無事完食。カニの殻があたりに散らばったので、とりあえずまとめておく。……ここでもごみの分別とかってあるのかなあ。


「そうだ、今日の夜の分も茹でておきますか」


 と言いながら僕が放置していた砂浜に注意を向けると、そこにはカニが一匹もおらず、何組かのプレイヤーがこっちを見ながら佇んでいるだけだった。……あれ、カニは?僕は仲間に視線で尋ねると、ユウさんが笑いながら答えてくれた。


「ずっと一生懸命食べてたから気づかなかったのね。カニなら、なんだか途中からどんどん海に戻っていったわよ。おかげで警戒する必要がなかったんだけど」



 僕はもう一度まとめられた殻を見て、なんだか気持ちはわかるような気がした。確かに、僕がカニでも、仲間が茹でられた後バラバラにして食べられている場所からは逃げたい、かも。…………あれ?茹でられた?僕はそこで違和感に気づく。



 ……魔物って、倒されたら光に変わるんじゃなかったっけ。じゃあこのカニは?魔物、じゃない?そのことに気づいた瞬間、浜辺の真ん中あたりの砂がだんだんと盛り上がっていくのが見え、とっても嫌な予感がした。

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