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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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修学旅行の夜に先生が見回りに来た的なあれ

 とりあえず部屋に戻り、待機している二人に、ゲーム内で死んでも現実で即死ってことはなさそうだという報告をした。その話をしたときの、何言ってるのこの子、というユウさんの表情がすべてを物語っていた気がする。くそう、みんなもっとネットの小説読んだらわかるよ、結構な確率でばんばん死ぬから。それを踏まえただけなのに、こんな不当な扱いを受けるなんて。僕はどこにもぶつけようのない怒りを抱えて八つ当たりをすると誓う。僕、このゲームから生きて帰れたら、ネットに非デスゲームのVRMMO小説を山ほど投稿するんだ……。もう既に世の中にはそっちもたくさんあるけどね。




 結局、その日は解散していったんそれぞれ休んで、また明日集合するということになった。今日から気持ちを切り替える、というのはやっぱり難しそうだったし。各自で落ち着いてから、もう一度、ということだと思う。思うんだけど……






「あの、そろそろ帰ってもらえませんか?」


「私、今日ここに泊まっちゃ駄目?」


 ナズナがいつまでたっても帰らない。ベッドの上で腰かけて、まったく動く気配がない。


「ベッドが1つしかないので無理です」


「えー、私は気にしないんだけどなあー」


 いや、ナズナは寝ている僕に何かした疑惑が完全には晴れていないので、執行猶予中だから。一緒に寝てはいけない人物暫定ランキング№2である。これで時間が一晩あったらどうなってしまうのか。それを試してみる勇気は僕にはなかった。ちなみに№1はイェスペル。彼もトップになれて草葉の陰で喜んでいるだろう。今日からお前は富士山だ。





「……あの、ユウさんもそろそろ帰ってもらえませんか?」


「私もここに今日は泊まりたいなー、なんて。……一人になりたくなくて」


 ユウさんは再び部屋の隅で体育座りをするモードに入っていた。一番ログアウト不可に拒否反応を示してたしなあ。不安定なのはわかるので、僕はちょっと考え込む。するとナズナが不満そうに口をとがらせて言った。


「なんで私の時は即却下なのに、ユウさんの時は審議してるの」


 だって君別に特段不安定になってないっていうか、常時安定を欠いてるじゃないですか。ある意味凄いよ。





「あと、ギャレスはいつまで筋トレしてるんですか?人の部屋で。正しいトレーニングは長時間やらなくてもいいっていうのは嘘だったんですか?そろそろやめてください」


「いや、なんか落ち着かねえんだよ」


 視界の端でうろちょろ動くから超目障りなんだけど。真剣に帰ってもらいたい。





「ヴィートはなんで今すぐ帰らないんですか?」


「なんか俺に対してだけ辛辣じゃねぇ!?みんな帰らないから一人で帰りづらいんだよ!」


 だってさっき助け船、出してくれなかったし。僕は結構根に持つタイプだった。というか誰一人として帰らない。この宿の部屋は一人部屋にしてはそこそこ広いけど、さすがに5人は泊まれないんじゃないかなあ。



「では、今日はみんな不安も大きいと思うので、大きな部屋を借りて一緒にいます?ちょっと聞いてきますね」




 そして僕は部屋を出て、一階の宿屋の主人のおじいちゃんに聞いたところ、すぐに5人部屋を用意してくれるという。……友達があんなに増えて良かったな、というおじいちゃんのセリフに僕は困ったような笑顔しか返せなかった。……ちょっとこのおじいちゃん、僕のぼっちをずっと心配しすぎな気がする。







「ほらほら、部屋を借りたので移動しますよ。みんな準備してください」


 とっとと僕の部屋から追い出して、5人部屋にみんなを放り込む。おとなしくぞろぞろ大部屋に入っていくみんな。さっきまで全然動かなかったのはいったいなんだったのか。


 そのまま5人部屋でそれぞれとりとめもないことを話したり、筋トレしたり、ベッドの上でゴロゴロしたりと、思い思いに時を過ごした。なんだか大部屋って修学旅行的な空気を思い出してちょっぴり懐かしくなる。僕はそれまでしていたナズナとの話をいったん打ち切って、ベッドで横になりながら、天井を見上げてぼーっとした。あ、このまま寝てもいい感じかも……ゲームだから服もしわにならないし。でも一応着替えようか。現実に帰った時に習慣が消えてたらやばい人になってしまう。


「ちょっとパジャマに着替えてきますね」





 断って、5人部屋を後にする。扉を開け、廊下に出ると急に静けさがあたりを包み、なんだか急に世界が変わったような感じがした。もうすっかり夜だしね。




 そして僕が廊下を歩いて自分の部屋の扉を開けると、誰もいないはずのそこには、椅子に座って考え事をする金髪の女の子の姿があった。気のせいかな。こんなタイミングで魔王軍の上司がお出ましするわけがない。僕は一度扉を閉め、もう一度開ける。やっぱり上司は椅子に座って、なんだかちょっとさっきより疲れたふうに見えるけど変わらずそこにいた。僕は思わず廊下を振り返り、遠くに見えている5人部屋の扉を確認する。とりあえず、閉まってる。よかった。


「どうしたの?自分の部屋なんだから、普通に入ってこればいいじゃない。なんで開けて一回閉めるのよ。あんたはほんと、相変わらずね」


「アルテア様、お久しぶりです」


「アルテア、さん、ね。様付けは気持ち悪いからやめてって言ってるでしょ。4日前に会ったから久しぶりって程でもないけど。……それで、どう?動きの遅いあんたでも、そろそろウサギ狩り以外のことに着手はできたのかしら」



 まずい、なにがまずいって。アルテアさんも魔族ってことをまったく隠してないから、鑑定されたら即アウトなんだよ。いくら№33のイェスペルを倒せたからといって、№7のアルテアさんとはスライムつむりとバラモスくらいの戦力差があるだろうし。みんなが来る前にお帰りいただかなくては、とってもまずいことになる。具体的には全員広場に送還される。そこだからすぐ帰ってこれるし、デスゲームでなくて良かったけど、やっぱり良くない。ここは穏便に何とかせねば。

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