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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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責任を取ったら取ったでなぜか責められる

「誰からも何も聞いてませんよ。双眼鏡が出てきてとっても助かりました、ありがとうございます」


 とりあえず、ナズナに言ってみた。うまい言い訳が浮かばなかったからね、仕方ないね。


「……ヴィートさん、あとでゆっくりお話ししましょうねー」


「お、おう……」


 駄目だった。かわいそう。僕の発言が原因なので、ごめん、というポーズを取ると、ヴィートは今度はこうきたか、という顔をして、笑っているような怒っているような不思議な表情をしていた。僕はなぜか唐突に「マエケン」「エラー」という二つの単語を思い出す。お詫びにあとでおいしいものでもこっそりあげよう。






 それから窓に張り付いてしばらく眺めていたけど、ログアウト不可を宣言されても気にせずすぐ戦闘に行く人間はなかなかいないようで、それらしき人間は現れる様子がなかった。部屋のみんなも結構暇そうにしてる。あ、ギャレスが筋トレしてる、人の部屋で。音があんまりしてないのがまだ救い。止めたいんだけど、なんだか悲壮な顔をしてるので、強く止めるのがはばかられた。







 ユウさんは部屋の隅で体育座りをしてなんだかぶつぶつ言っている。時々顔を赤くしてそのままその顔を手で覆ってる。メンバーの中では少数派だけど、こっちがまともだと思う。他の反応がおかしいんだよ。ちょっと心配なので話しかけに行ってみよう。僕はナズナに見張りを頼んで、部屋の中を横断しユウさんのもとに歩く。


「やっぱり不安ですよね」


「……あ、ごめんね。みんな平気なのに、私だけこんなふうで恥ずかしい……なんだか現実と切り離されたみたいで不安だし、やっぱり恥ずかしいしで」


 むしろ恥ずかしいのはあんまり気にしてないユウさん以外の4名だと思う。ギャレスはなんだか悩みの方向性が違うので、僕たち側にカウントすることとする。ヴィート、お前も今回はこっち側だぞ、ようこそ。


「いや、そうなるのが当たり前だと思います。私たちのメンバーって普通じゃない人の方が多いので、仲間の中にそういう常識的な人がいてくれるのってすごいありがたいですよ」


 率直に言って。そのままよいしょ、と僕もユウさんの隣で体育座りをしてみた。ちょっとだけいつもと違う自分の部屋の景色を見ながら、黙って二人でそのまま座る。しばらくユウさんは黙っていたが、ぽつりとつぶやいた。


「そうよね……みんなが一緒だしね」


「ええ、それがまだ救いかなって」


 正直ログアウトできなくても別にそんなに困らないなー、という僕個人の感想はおいといて。よく危機感ないって言われるし。僕はできるだけ真面目な顔をするように頑張った。それを見て、ユウさんは少しだけ笑う。


「……あなたも無理してるのが顔に出てる。そうよね、みんな気にならない訳がないんだから、私も割り切らないと。ありがとう、心配して聞いてくれて、ちょっとだけ気が楽になったような気がする」


 普通は気になるのが当たり前だという事実を突きつけられて僕はちょっと心にダメージを負ったが、些細な犠牲だと思おう。








「……来たよ!」


 そうして僕がダメージ回復に努めていると、ナズナが小さく叫んだ。窓際に急いだけど、広場には何人か人がいて、どれかさっぱりわからない。……どれ?という顔をしているのがわかったのだろう、ナズナはそのまま部屋を飛び出し、走り出す。僕とヴィートもすぐにその後を追った。




 まだ死に戻りの相手は広場にいてくれたらしく、ナズナは広場で立ったまま何かを話し合っているパーティーをこっそり指さして、ヴィートに知らせる。


「あ、やっぱり俺が聞くのね。サロナ、責任もってお前も隣で聞いといてくれ」


 了解、デスゲーム仮説発案者として見届けなくては。そのままヴィートはリーダーらしき男性に近寄って話しかけた。


「突然すみません、ちょっと教えてほしいんですけど。死んだ後のペナルティって、今までと特に変わりない感じですか?さっきの放送聞いてたらやっぱりちょっと心配でー……」


「はあ……特におかしなところはありません、これまで通りです。あの、でも、なんで急に……何が心配なんですか?」


 あ、これひょっとして恥ずかしいパターンだ。とりあえずこれまで通りってことがわかった。OK。あとはここをどうやって乗り切るか。ヴィート、頑張ってくれ。と思っていたら、なんだかヴィートは、お前がなんとかしろ、という視線をこっちに送ってきた。え……責任ってそういうこと……?






「……えっと、あの、私が聞きたいって言ったんです。……私、まだあまりログインもせず、怖くて戦いにもほとんど出れてないんですけど……ログアウトできないならこれからはそういうわけにもいかないのかなって。なので、いろんな方のお話をお伺いしたかったんです。無理やり呼び止めてすみませんでした」


 目を伏せて適当な言葉を適当に発する。すると相手はちょっと慌てたように、気にしないで、と返事をしてくれた。


「あ!そうなんだ……え、君、ウサギの子だよね。それならやっぱり怖いよね、分かるよ。……大丈夫?頑張れそう?」


「ええ、皆さんのおかげで、お話を聞けてちょっと安心できました。ありがとうございます」


 にこにこ笑顔でお礼を言うと、向こうも嬉しそうな顔をして喜んでくれた。この姿だと、相手がちょろい。やったぜ。そのままお辞儀をして相手を見送ると向こうもみんな去りながら手を振ってくれたので、僕も振り返す。なんだか向こうもそれで大変盛り上がっているので、ちょっと嬉しくなった。……そして、後ろを振り返ると、なんだかジト目でこっちを見るナズナとヴィートがいた。




「お前さ、かよわい雰囲気出しすぎだろ……さっき、何人か見つくろって谷底にダイブさせたいって言ってたやつと同一人物と思えないんだけど……なんつーか、見てると相手が気の毒でしょうがない」


「サロナちゃん、これからああいうの禁止ね。さっき、手を振るときほんとにちょっと嬉しそうだったでしょ。そういうところがいけないんだよ。わかる?絶対わかってないよね。やっぱりこれはちゃんと見てる必要が……」


 とりあえず死なないって分かったんだし、細かいことはいいと思うんだけどなー……ガバガバすぎる相手さんサイドにも問題があるのではないか。

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