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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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運営からの説明はたいてい良くない知らせが入る

 そして次の日。

 今までよりもちょっと仲良くなれた気がする僕たちは、朝のうちに始まりの街に戻ってきていた。ゲーム開始時のアナウンスで、1週間後の13時に次の説明をするので集まるように、という説明があった気がするからである。ちなみにヴィート以外は集合時間については全然覚えていなかった。ギャレスは一週間後に説明があるので集まれ、と言われたことすら聞いた記憶がないって。ほんとヴィートがいてよかったよね、僕たち。






 12時半に集合し、それまでは各自自由時間ということになったので、僕は一人で行動することを選んだ。宿を(おそらく魔王軍の予算で)せっかく一年分確保してもらっているんだしと、さっそく自分の部屋へと急ぐ。みんなと一緒にいるのも楽しいんだけど、たまには一人の時間がないと死んでしまう。宿の階段を駆け上がり、自室に飛び込んで、ベッドでごろごろしながら、そのままぼーっとし、とりとめもないことを思い浮かべながらのんびりした。うーん、そういえばお腹がすいたかも。暇だし、久しぶりに現実世界の食堂にでも行ってみますか。ゆとりのある生活に、おいしい食事は不可欠だしね!




 

 ……現実世界の何が問題って、時間が10倍早く過ぎることだと思う。今が9時半だから集合時間まであと3時間でしょ、ゲーム内の3時間って現実だと18分だからね。ちょっとご飯を食べる時間はないから、紅茶でももらってこようかな。早速ゆとりのある生活の計画変更を強いられた僕は、そう考えながらログアウトした。






 戻ってきた現実世界はやっぱり現実味がなくて。机の上の点滅しているデジタル時計は「3:50」を指していた。もうなんかこの時間が現実とゲーム内で2つあるの、全然慣れないね。気分的にはさっき朝起きたばっかりのはずなんだけど。まあ、そんなことより、まずは食堂に行こう。



 僕は重く感じる体を引きずるようにして、廊下を通り、食堂に向かう。真っ白な壁に、いくつもの扉がどこまでも続く、音が何も聞こえない、現実味のない長い廊下を。そして24時間開いているらしい食堂に行って紅茶をもらってきた帰り。その廊下の途中で、突然アナウンスが流れ、この場所にも音がある、という当たり前の事実に僕はびっくりする。なんだろう。





 それは、最初は何て言っているかわからなかったけど、突如理解できた。「ログアウトしている者は、早くゲーム内に戻るように」という意味のことを言っている。僕、なんだか理解力、超落ちてる気がする。何か言ってるのは分かるんだけど、全然頭に入ってこない。





 そうして自分の部屋に向かって早歩きで戻り、VRの装置の前で椅子に座って、せっかくもらってきた紅茶を急ぎ目に飲む。ゆとりのある生活とはいったいなんだったのか。そうして飲み終わった時に、僕の部屋の中に、早くログインしろ、という意味のアナウンスが流れた。ついに個人攻撃に移ってきたか。はいはい。



 VRのメットを被る直前に、机の上のデジタル時計がまたなぜか目についた。これからも、ログアウトの度に見えるんだろうけど、なんか時間が目に入るたびに疲れるから倒しておこうか。そうして手を伸ばし、文字面を下にするようにしてそっと倒す。しばらくこの時計は見たくない。









 その望みは、すぐに叶えられることになったわけだけど。











 ゲームにログインして、時間を確認すると、もう12時28分だった。急いで部屋を飛び出し、みんなと合流する。多分ギリギリで30分に間に合ったと思う。


「もう、心配したんだよサロナちゃん。集合時間になったのに全然来ないから」


 ……多分間に合ったと、思うんだけどなあ……宿から集合場所の、ここ広場は50メートルくらいの場所にあるんだし。ただ、反論するのはやめておいた。昨日ヴィートとギャレスと三人で話している時に、イェスペルに向かって飛んできた「相棒」の正体を聞いてしまったからである。僕、今まで生きてきて双眼鏡を半分に折ったことないし、これからもないと思う。ナズナのことは怒らせないようにしようと、そうその時心に誓った。……でも、相棒って、双眼鏡をこれまでいったい何に使ってたんだろう?まあいいか。





「ごめんなさい、つい……」


「つい、どうしたんだ?」


 なぜかヴィートが突っ込んできた。ギリギリになった原因、かぁ。


「時計をひっくり返してなかったら、多分余裕で間に合ってたと思います」


「……??それ、何かの比喩か?それともお前は時計をひたすらひっくり返して一人で遊ぶ趣味でもあるの?俺は幼稚園でそういうのは卒業したけどな」


 時計をひっくり返すのに現実世界で5,6秒としてもゲーム内だと1分早く着けたからね。……余裕は言い過ぎかもしれん。あと、幼稚園時代でもそういう趣味を持ってた時点で結構ヤバいから。あ、砂時計は別だけど。あれひっくり返すの結構楽しいからね。





 そうしていると、いつの間にか13時になっていたらしく、アナウンスが始まった。


「現在討伐された上級魔族は2体です。2つ目の街からはプレイヤーの皆さまがどこに向かうかの自由度が広がりますので、分かれることで全体の攻略のスピード自体は上がってくるものだと予測されますが、これからの一層のご活躍を期待させていただきます」


 魔族って一体、二体って数えるんだ。


「二つ目の街以降では、それぞれの職に合ったクラスチェンジのための場所が用意されていますので、まずはそちらを目標に動かれるのも一つの手かもしれません」


 魔族のクラスチェンジって、やっぱり魔王城、なのかな。なら一度はそのうち行ってみてもいいかなぁ。ナズナの方をちらっと眺めながら考えると、その視線を感じたのか、ナズナは振り向いて、ちょっと首をかしげながらこっちを見た。


「そして、皆さまに申し訳ないお知らせが1つございます」


 なになに。上級魔族が50体は多すぎるから突然20体にするとかそういうあれ?


「大規模なシステム障害のため、現在ログアウト機能に不全をきたしております。復旧に全力を注いでおりますので、どうかご了承ください。なお、皆様の現実世界での体調管理につきましては弊社の方で、当然責任をもって務めせていただきますので、ご安心ください。ログアウト機能については回復次第、その旨アナウンスさせていただきますから、皆さまはテストプレイにご尽力の方を、よろしくお願いいたします。次回のご説明は1週間後の13時からを予定させていただいていますので、その時刻にはこの始まりの街にお集まりください。それではまた」


 ……最後にさらっとおかしなことを言わなかった?周りもざわざわしている。どういうことだよおい!という声も聞こえた。なんだかその声に聞き覚えがあると思ったらギャレスだった。どうした。


「トレーニングを欠かしたら弱くなるだろうが!」


「……あの、なんでこのバイトに参加したんですか?」


「筋トレは別に長くやらなくてもいいんだけどよ、続けないと駄目なんだ」


 思わず僕の口から出た疑問に対する答えは返ってこなかったけど、聞いてみるとギャレスはログアウトしてはトレーニングに励んでいたらしい。短時間で効果のある鍛錬方法を多数持ち込んでの今回のバイトだった、とのことだけど、絶対力の入れどころを間違えてると思う。


「どういうことよ!」


 今度は女性の叫び声が聞こえた。なんだかその声に聞き覚えがあると思ったら今度はユウさんだった。どうしたんですか。


「体調管理って……その、トイレとかも人に管理されるってこと?そんなの嫌よ!」


 あ、それは嫌かも。僕も他人にそういうのを世話してもらうのは65歳以降と決めている。ちょっと先取りしすぎ。あー、でも入院とかして身動き取れなかったら年齢いってなくてもそうなるよね。ナズナが泣きそうな顔で僕に話しかけてきた。


「サロナちゃん、なんか平気そうだね……私も今凄い嫌なんだけど……」


「入院した時ってそうなること多いな、と考えていました」


「あっ!……その、ごめんなさい……」


 いや、一般論としてだから気にする必要ないんだけど。そういえば僕、入院したことない。





 でも、ログインする前のアナウンスを僕は思い出す。必ずログインするようにと呼びかけていたあれ。そして、全員が入ったであろう後にすぐ起こった大規模障害?ちょっとタイミングが良すぎる。そして、僕はこういう展開に何となく見覚えがあった。……あれ、これってデスゲームの始まりとか、そういうのじゃないの?だとすると、僕、詰みな気がする。……どうしよう。まずはちょっと確認する必要がありそうだ。

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― 新着の感想 ―
【推敲】 たぶんギリギリで多分30分に間に合ったと思う。 ⇩ 多分ギリギリで30分に間に合ったと思う。 【感想】 やっぱり普通のゲームじゃない可能性高いですね……
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