相手が誰か、で同じことでもそれって全然違う
とりあえず正座を続ける。こういうのは向こうから「もういいよ」って言ってもらえるまでやめない方がいいのだ。いかにも猛省してますという顔でそのまま座る。とりあえず僕への質問は終わったらしいので、そのまま戦闘後の確認に入る。みんなレベルがすごい上がったみたい。まとめるとこんな感じ。
ヴィート 16→24
ユウさん 17→25
ギャレス 19→27
ナズナ 8→19
サロナ 10→16
あの魔族、どんだけ強かったんだよ。でも、うーん、やっぱり僕だけ上がり方があんまりよくないなー。ナズナについに抜かされてしまった。でも人より遅いけど、上がってるからね。僕の限界レベルがひょっとして10かも、という絶望的な不安を感じていたので、よかった。とりあえず、ステータスを確認!
名前:サロナ
種族:人族
レベル:16
ジョブ:催眠術師
攻撃力:14(4+10)
防御力:17(3+14)
すばやさ:16
魔力:11
運:4
HP:5
MP:12
……運、悪くない?でも運って何に役立つんだろう?回避とか?見せてもらったみんなのステータスは高いのは2桁後半になってたから、もうそっちと比べるのはやめよう。自分は自分、人は人。そして……MPが10を超えた。ということは、帰還呪文で魔王城に帰れるようになったってことなんだけど。イェスペルが僕を認識していたということは、帰ってもいきなり狩られたりする可能性もそんなにないはず。……でもなあ。
一人で動きすぎ、と言われて叱られた直後なだけに、なかなか使いづらい。このタイミングで「私一時離脱していいですか?行先は内緒で」と言っても、みんなにもっと怒られて正座が延長される気しかしないので、しばらくは封印かな。さっきの話聞いてた?ってなっちゃうし。お許しが出そうになったらまたお伺いを立ててみよう。でもそうなると、いつになるか……おいしいものでもみんなに差し入れして、機嫌を良くした後に切り出す、というのはどうだろう?いったん話もひと段落着いたことだし。
「……唐突なんですが、皆さんの好きな食べ物ってなんですか?」
「……サロナちゃん、なんでそれをいきなり今聞こうと思ったの……時々私サロナちゃんのこと分からなくなっちゃうよ。……でも、やっぱり今日のことがショックだったのかな。そうだよね……」
ナズナが悲しそうな顔で僕の方を見てくる。いや、僕の中では辻褄合ってたんだけど。イェスペルが唐突に「好きな男いる?」って僕に聞いてきたのと同じみたいになってしまった。お前も実はちゃんと何か考えてたのかもしれなかったんだな。すまんかった。
「あ、そろそろ正座止めていいと思うぞ。……それはともかく。それで、あいつのドロップ品なんだけど、……これ、サロナ、いるか?装備できなさそうだけど」
と、ヴィートが出してきたのは、レイピアだった。なんか長くて細い剣。自分がこれを持って敵と戦っている姿を思い浮かべてみたけど、振り回される未来しか想像できなかったので、丁重に辞退する。イメージの中ですら扱えないのに現実で何とかできる気がしないし。というか、あいつレイピアが武器だったのか。結局最後まで、それすら持たせてもらえなかったからね。かわいそう。
「俺は武器はいらねえ」
「私は元の持ち主がとても気に食わないので結構です」
みんないらないらしい。後者の理由がちょっと怖いけど、もうあんまり深く突っ込まないようにしよう。というか、ナズナはたぶん僕と一緒でそもそも装備できないと思うよ。
「ヴィートが持てばいいんじゃないですか?」
「あー、……じゃあもらっていいか?俺、元の持ち主とか気にしないタイプだし。人は人、物は物って感じで」
やめて!元の持ち主っていう単語をひっぱらないで!ナズナがまた無表情になってるから!
そのあと、男女でそれぞれの部屋に別れる。ナズナとユウさんと同じ部屋。……他人と一緒の部屋って慣れないよね、なんか気が休まる時間がないっていうか。まあそれは女子部屋に入ってるからっていうのも大きいんだろうけど。部屋にはベッドが3つ。とりあえずそのまま一番近いベッドにぼふっ、と両手を上げて倒れこむ。今日も疲れたー。そのままごろんと仰向けになると、こっちを見ているユウさんとナズナの姿が見えた。あ、しまった、行儀悪い?
「すみません、ついいつもの癖で……。このベッド私が使っていいですか?決める前にごめんなさい」
「いいのよ、今日はゆっくりして、ね?」
「サロナちゃん、情緒がもう……」
なんかすごい気を遣われている……。このままの雰囲気だと正直いづらくてしょうがないので、とりあえずちゃんと話してみよう。
「あの、今日のことは別に辛くはなかったので、逆に気を遣われるとすごい疲れるんですけど……」
「そんなわけないよ。だってあの男と歩いてるときあんなにしんどそうな顔してたじゃない」
ナズナだって自分より頭一つ半くらい大きい女性に無理やり抱きしめられた後、その相手と一緒に歩いてて満面の笑みなんてできないと思う。できる奴がいたらそいつはたぶん仏の生まれ変わりか何かだろう。まあでも大したことない。だっていくら現実っぽいって言ってもゲームだよ、これ。
何か反論しようとして、僕はナズナがすごく悲しそうな顔をしてるのに気づく。
「ねえ、自分一人で何とかしようと思ってたって言ってたけど、置いて行かれる側の気持ちって考えたことあるのかな。体調が悪いのを隠すのだってそうだよ。サロナちゃんにとって自分のことは軽いのかもしれないけど、少なくとも私にとってはそうじゃないんだよ。だから、もう少しだけでいいから自分を大事にしてよ。そういうのを隣で見る辛さって、現実でもそうじゃなくても、どこでも一緒だよ」
そう話すナズナはいつもより一層小さく見えた。そのまま居場所がないような目をして立ちすくむ彼女をそのままにしておけない気がして、僕はナズナの前まで歩いて行った。ちょっと泣いてる。こちらに対し何か言おうとするもやめ、こっちに手を伸ばそうとするもやめるナズナを見て。真正面に立っているのにそのまま彼女がいなくなってしまいそうな気がして、僕は思わずナズナをそっと抱きしめた。ちょうどこっちの僕と同じくらいの体格。
「ごめんなさい、実は結構軽く考えてました。他の人のこともあんまり考えてませんでした。でも、言ってもらったことは、わかったので。これからは、ちゃんと考えます。……心配かけて、ごめんなさい」
「本当だよ、もう……」
ぎゅっと抱き返すナズナとしばらくじっとして、離れる。
隣で立ったまま、ユウさんが顔を真っ赤にして手で顔を隠しているのが見えた。指の間からちょっと目が見えてるけど。……あ、ユウさんのこと、完全に忘れてた。
※(たぶんまだぎりぎり)友情です。




