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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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31/113

する側とされる側が入れ替わるとそれって全然違う

「……あの、違うんです」


「今のはいくら何でも違わないだろ……」


 まずいことになった。これでは僕が通行人に無差別に襲い掛かる危険人物だという間違ったレッテルを貼られてしまう。そしてそんなことよりも。今一番まずいのは。


「いきなり何するんだ、びっくりするじゃないか、サロナ」


 こいつだ。無駄にイケメンなのが腹立つ。普通に今名前を呼ばれちゃったから、もう他人作戦は使えないし。そして、この人、魔族ってことをまったく隠そうとしていない。ということは、僕の種族も普通に喋りかねない。今みんなに、「私、実は魔族ですけどちょっとどっちにつくか迷ってて。でもどっちかというとプレイヤー側がいいかなあって、そう思い始めてます」と正直に話したところで、たぶん信じてはもらえない気がする。そのまま火葬されるかも……いや、みんなならいきなりそんなことはしないかな。でも……。

 そんなことを考えていると、ヴィートが相手に話しかけていた。おいやめろ。


「あ、サロナと知り合いの方だったんですか?」


「ええ、同僚です」


「同僚……?」


 駄目だこいつ。早く何とかしないと……。まずい方向にどんどん話が進む。ゲーム内で出るかどうか知らないけど、冷や汗が止まらない。この流れを止めないと、あと三言くらいでたぶん「魔王軍」って単語が出る。絶対出る。賭けてもいい。


「あの!!ちょっとこの人と私、話があるので、先に行っておいてもらえませんか?宿が見つかれば、場所を連絡していただけたら、後で合流しますから」


「なんだよ、せっかくだから紹介してくれたらいいのに」


 ヴィートのその人脈を広げようとする積極性が今は恨めしい。お前は帰れって言ってるんだからはよ帰れや。


「でもサロナ、なんで人間なんかと一緒にいるん「ちょっと黙ってて!!!!」」


 もうこいつ今すぐ破裂したらいいのに。


「なんだか今までで一番大きな声聞いた気がするわ……どうしたの?」


 心配そうな顔でユウさんがこっちを気遣ってくれるけど……まずい。何がまずいって、今の状態で鑑定されたら即終了。この中の誰かが、この人の名前は何だろう、という疑問を持った瞬間に、いろいろ終わる。そしてそれは今すぐに起こってもおかしくなかった。


「何も聞かずに早く行ってください……お願いします……」


 だって説明したら一緒に退治されること不可避。早く早く。僕の雰囲気がいつもと違うことを感じ取ったのか、みんなはあまり追求もせず、そのまま不審な顔をしながらも、宿探しの旅の続きに戻ってくれた。さて。とりあえず相手と二人で物陰に移動する。






「ところでどうしてサロナは人間なんかと一緒にいるの?魔王軍の集まりにも顔を見せないし、心配してたんだよ」


 おおう、魔王軍、集まってたんか。どう考えても僕、ハブられてる。最大限ポジティブに考えても、集まりにあいつ参加させても意味ないだろ的な。№38だから、いちおうギリギリ中堅的な立ち位置のはずなのに。……こいつはスパイが何かすら絶対理解していないから、そんな奴が出るより僕が集まりに出る方が絶対意義があるのに。


「今ちょっと勇者の情報を集めるために、人間に混じって動いてるんです。なので、私が魔族だということをばらされるのはすごく、すごく困るんです。ここまで分かりますか?」


「……うん、わかるわかる。すごいわかるよ」


 ……ほんとか?ちょっと答えるまで間があったけど。こいつの№の33って実はIQかなにか?


「なので、これ以上声をかけてきたりしないでほしいんです。別にそっちはそっちで自由に動いてもらっていいんですけど」


 好きにすればいいと思う。別にここが滅ぼされようが、あんまり気にならないし。個人的にはこんなに品揃えの悪い街は消えてなくなっても構わないかなあ。……あ、でもヴィートが困るか。


「あのさ、せっかく二人きりになれたんだから、もっと違う話しない?サロナって結構前から気になってたんだけど、いっつも話そらされるから。そろそろ真面目な話とか、したいな」


 僕は男とそういう関係になる趣味はないので、とりあえず今回も話を逸らす。そして元のサロナ、GJ。でも、可能だったらこいつは消そう。今の発言だけでじゅうぶん気持ち悪いから死んでも仕方ないと思う。


「……あの、ここには何しに来たんですか?」


「実はこの街を弱体化させるように言われて来たんだけど、どうしようかと思ってるんだ。いくつかの案で迷っててね」


 あー……確かにこいつには荷が重いかも。大変だね、こいつが思いつくのって壁への落書きとか、停めてある自転車のサドルをブロッコリーに変えるくらいじゃないのかな。大変だと思うけど頑張れ。


「具体的にはどうしようと思ってるんですか?」


「まずは異教徒の格好をしてこの街の上層部を何人か襲撃するだろ。その後でこの街の牧師の格好をして異教徒を何人か殺せば、きっとお互い潰しあって自滅するんじゃないかな」


 ……陰湿やわあ。魔王軍の名に恥じない外道っぷり。うーん、放置しといてもいいんだけど。どうしようかな。個人的にはこいつには大失敗して早く失脚してほしいけど。




 ということを考えていると、突然相手がこっちに向かって距離を詰めてきたので、自然と僕は後ろに下がる。……と、背中に壁が当たった。これ以上後ろに下がれないので、そのまま相手を見上げると、向こうは僕の顔の横に手をついて、そのまま顔を近づけてきた。とりあえず聞いてみる。


「あの……なんですか?」


「そういうところも可愛いよね」


 ……なんか、いろいろ残念。逆の立場で可愛い女の子相手にするんなら全然OKなんだけど。される側で、しかも相手が男とな。OKな要素一つもない。そうだ、こいつを火葬しよう。僕はそう思ったが、具体的な方法が浮かんでこないのが何ともしがたいところだった。

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