魔王軍、ポンコツ集団疑惑
うーん、たぶんここは全部において僧侶のための街なんだろうね。
槍と杖と棒ばかり売っている武器屋に、法衣ばかり並んでいる防具屋。店を回っているうちに僕は、白衣がずらっと並んだ医学部の売店をふと思い出した。むしろあれよりひどいかも。だってあっちはもう少し普通の品も並んでたもん。ここは偏りすぎ。
そして、周辺に出てくる魔物はどれもアンデッド系だった。たぶん浄化呪文みたいなのを効果的に使える相手ってことなんだろうけど。宗教都市の周りでひたすら骨の戦士とかグールとかが沸いてくるのを見ると……まるで街の宗教家に殺された異教徒が捨てられたあとモンスター化してるように見えるなあ。
街の代表が聞いたら埋められても仕方ないようなことを僕が考えてると、戦闘が終わったようだった。うん、なんかね、ここの魔物、認識阻害、かかりにくい。というかかかってもあんまり変わりがない。彼らは、周りがどう変化してもさほど気にならないみたい。たまに認識阻害かかってないのに味方に間違って攻撃したりしてるから、頭があんまりよくないのかな。かわいそう。そんなことを考えながら帰ってきたみんなを迎える。
「おー、終わったぞ」
「お疲れ様です」
「……あれ、なんだかちょっと悲しそうだけど、どうかした?」
と、ユウさんに不思議そうな顔で尋ねられる。どうやら魔物軍団のアホの子っぷりへの同情が顔に出てしまっていたみたい。
「いえ、どうしようもないことなんですが……彼らをちょっと気の毒に思ってしまっていました」
「確かに、もとは人間って感じの姿をしてるものね。でも、あれも魔物よ」
……うん、違う。違うけど面倒だからもうそれでいいや。最近こういうの多い。やはり今日の夜はみんなでお話し会でもして親睦を深めるべきだね。そう考えて僕がうんうんとうなずいていると、ギャレスがちょっと得意げに話しかけてきた。
「その様子だとようやくわかったみてえだな。いいか、ボディーブローはああ打つんだ」
「ありがとうございます。しっかり見させていただきました」
そしてここにも勘違いが一人。しっかり見てたけど、全部の魔物を丁寧にボディー打ちで倒してたね。僕のと打ち方からしてえらい違いだった。……僕が素手で戦うようになったらそれはもう既に負けみたいなもんなんだけど。ただ、親切心で言ってくれてるんだろうから、ありがたくお礼を言っておいた。
「サロナちゃん、見た?新しい魔法!」
「見てました、すごく大きな火球を打てるようになってましたね!」
ナズナはどんどん新しい呪文を覚えているようで、魔物の飛び散り方がどんどん多彩になっているのがすごいけど、ちょっとグロい。ただ、新しい呪文を使った後に、一瞬心配そうな顔でこっちを見たりするのは、僕が自分だけ置いていかれたと思って傷ついていないか、ということを気にかけてくれてるんだと思う。超いい人。たまに怖いけど。心配そうにまたこちらを見たナズナに対して、気にしてないアピールのために僕は笑顔で小さくガッツポーズを送ったら、それは正しく伝わったようで、ナズナは安心したように笑った。めでたい。
なんだか伝わったり伝わらなかったりで難しいなー、と思うけど、おいおい伝わる率は上げていけばいいよね。……そう思いながら、街へ戻り、今日の宿を探しにみんなで歩く。うーん、どこがいいんだろう。さっぱりわからん。そうしてきょろきょろしながら進んでいると、ふと違和感を覚えた。……?これは……あれ?誰かに見られてる?
今度は宿ではなくて、視線の主を探してあたりを見回す。その視界の端で、街の人混みの中、立ち止まってこちらを見る青年が一人いるのに気づいた。……あれだ。でも、……誰?知らない人。とりあえず名前の確認のため鑑定してみる。
〈ステータス〉
名前:イェスペル(№33)
種族:魔族
(鑑定不能)
攻撃力:152
(鑑定不能)
(鑑定不能)
HP:920
MP:210
(鑑定不能)
(鑑定不能)
…………ん?んん!?……というか何こいつ、ステータスも偽装してないのに街中で一人だけ立ち止まって目立って何やってんの?鑑定されたら終わりやん。多分アホの子なんだろうけど。でもこれはひどすぎる。ステータスは高いけど、知能指数は低そう。IQ30くらいしかなさそう。……あれ、でも№的に僕より格上、なんだよね……
僕が納得のいかない思いを抱えたまま立ちすくんでいると、その青年はまっすぐこちらに向かって歩いてきた。え、まさか、まさかとは思うけど。街中で、プレイヤーに混ざって活動中のスパイに接触するなんて、そんな時空を超えたアホが魔王軍にいるわけが……
「久しぶりだね、サロ「わーーーーーーっ!」」
思わず接近して、最後まで言わせず大声を被せながら、そのまま腕を直角に開き、踏み込んだつま先をひねって体を回転させ、流れるようにボディーを決めた。なんかウサギ男に対するのより数段綺麗に決まった気がする。ギャレスの見本のおかげだろうか。「うごっ」とうめき声をあげて、相手の体がくの字に折れる。
そのまま後ろにどんな言い訳をしようか考えながら振り向くと、
「まだ腰のひねりが甘えが、まあまあだな」
「お前、今日はさあ、さっきから何?いきなりみぞおちに拳を入れるのが、お前の故郷での挨拶かなんかなの?」
違う……違うもん。絶対僕、悪くないと思う。




