常識的な性格の方が疲れることが多い気がする
ゲームの世界で6日目。なんだかすっきりしない目覚めだった。すっごく嫌な夢を見たような気がするんだけど、嫌な夢なら覚えてないことを喜ぶべきかな。今日の予定は、パーティーメンバーで午前中に集まって、これからどうするかを話し合う、らしい。そういえば、街の左側は結局断崖が続いてて渡れそうになかったから、森のあった右の方に行くしかないってことだよね。あっちの先には何があるんだろう。
「森に入らず通り過ぎて道なりにその先を行くと、一面に岩山が広がってて、そっちはどうも登れるような様子じゃないらしい」
ヴィートの話によると、森より向こうは何もないみたい。どうやらこの始まりの街はずいぶんと外から隔離されたところにあるようだった。ギアナ高地かなにか?
「てことは、必然的に森の中に何かあるんじゃないの?」
そりゃそうだ。他の場所は駄目なんだし。街の中に実は外界へのワープゾーン的なものが隠されてる、という可能性もあるけど、最初の街なんだからわかりやすいはず。……いつも僕らの代わりに先陣を切ってくれる攻略組はどうしてるんだろう?
「それが、結構いろんなパーティーが森の中を探したらしいんだけど、何もなかった、って言うんだな」
えー、探し方が悪いんじゃないの?(偏見)さすがに左にあった、底の深そうな崖にダイブするのは嫌なので、森を推したいなあ。
「でも、他にありませんよね……あとはあの左の崖を何とかして下りる、とかですか?頑張ったらできたりしないですかね」
そう言ってこちらを、どうかな?という目で見てくるナズナに、(アカン)という顔で返すと、ナズナはすぐにその意見をひっこめた。優しい世界。
「分かんねえなら、森に行こうぜ。これまでで一番つええ熊がいたって場所なら見てみたいしな」
結局、その意見が採用され、僕らは再び森に来ていた。戦友のカマキリとトカゲは元気にしているだろうか。きょろきょろあたりを見回すも、何の気配もなく、ただ葉っぱが風に揺れる音だけがする。
「全然魔物がいないわね……」
「ああ、おかしいな」
そのまま奥まで森の中を道なりに歩いていくと、熊のいた広場まで何とも遭遇しないまま進むことができ。そして、たどり着いたそこには、光る石が中央にはまったいかにも怪しい台座がでーんと鎮座していた。え……普通にあるやん。でも森を探したプレイヤーの全員が目が悪かったとは考えづらいから、きっとこれは今まではここになかったんだろう。ユウさんが身につけている、熊の毛皮を加工した鎧を見ながら僕は考える。熊を倒したプレイヤーがここに来たら、これが出てくる、ということか。
「どうする?怪しいが、多分これで次のところに行けるんだと思う。でも罠の可能性も……」
「俺が最初に行くぜ。やっぱこういうのは一番が気分がいいからな」
「いや、順番の話は別にまだしてないんだが……おい、聞いてる?」
なんだかヴィートとギャレスがあまりかみ合っていない会話をしてる。でも行ってくれるならいいんじゃないかな。どんどんやれ。と思いながら見ていると、ギャレスが急にこっちに向かって話しかけてきた。
「まあ、あんたが一番先に行きたいっていうなら譲るけどな。どうする?」
「ギャレスの強さを信頼しているので、先陣を切っていただけると大変助かります。……その積極性があれば、今よりもっと強くなれると思いますよ」
「任せとけ!」
ギャレスが台座に手を触れると、姿が消えた。やっぱりワープかな。うーん、即死の罠ではなさそう。いや、溶岩の上に転移させられるとかそういう可能性もあるわけだが……。僕が首をかしげながら様子を見ていると、ヴィートがちょっと疲れた声を出す。
「あいつってサロナの言うことだけはよく聞くよな。俺の言うことは全然聞いてくれないんだけど。なあ、どうやったの?」
一対一の勝負で勝てば、きっと認めてくれると思う。負けたことを他人に言って欲しくないだろうから、言わないけど。でもどう答えよう?とりあえず、僕は笑いながらガッツポーズをとり、勢いでごまかしてみた。
「これが催眠術の力です!」
「……え、あいつのこと洗脳してるの!?笑顔でそんなこと言われるとすげえ怖いんだけど!」
「やっぱりサロナちゃんは人望があるなー」
「え、その反応もなんかおかしくない?あいつの反応が悪いのは、俺のカリスマ性に問題があるってこと?」
「まああんまりカリスマって感じはしないかもねぇ……冗談よ、ごめん、そんなに落ち込まないで」
なんだか申し訳ないことになってしまった。というか、ツッコミが大変そう。僕もどちらかといえばツッコミの方なので、これからは手伝った方がいいのかな。
「あのー、罠ではなさそうですし、もう先に一人行っちゃったので、とりあえず追いかけませんか?」
「お前にまともなことを言われるとかえって不安になるのはなんでだろう……」
そんなに普段、言動がおかしいつもりはないんだけど。そして僕らは順に台座に触り、その場から全員が姿を消した。




