秘密にしたいものを見るのなら周りに人がいないときにするべき
パーティーだと、やっぱり戦闘がすごい楽。後衛のヴィートとナズナよりもさらに一番後ろで、みんなが猿と蝙蝠で構成された魔物の集団に襲い掛かる(?)のを眺めながら僕は再確認する。戦闘っていうか、これもう僕は参加してないっていう方が正しいんだけど。今日これまでもう何度か戦っている、猿と蝙蝠の連合軍はやたらに動きが速いうえに数が多いので認識阻害の大敵だった。僕一人で戦ったら三秒でオタッシャな相手である。
この状態でバックアタックとかあったら死んでしまうため、後ろにだけ気をつけながら、応援する。しばらく立ったまま見ていたけど、指揮しない監督みたいで申し訳なかったので、とりあえず一緒に戦っているつもりになってぴょんぴょん飛びはねたりしてみた。……あ、もう終わった。ナズナの魔法で出た炎の矢に手足をぶすぶす刺されたところにユウさんの大剣でとどめを刺されて、猿の最後の一匹が光に変わる。さらば。
「お疲れさまでした」
「おう、とりあえずやばそうなときは気にせず後ろに隠れとけよ。あと、なんでお前途中ずっとジャンプしてたんだ……?振り返った時、何してるのかわからなくて一瞬固まったんだが」
「サロナちゃんはあれ応援してくれてたんですよ。たぶん、ただ立ってるのが申し訳ないという思考の結果なんじゃないかと」
「あー、ありそうね」
おお、さすが親友(予定)。正確に読み取ってくれている。ただ、その台詞の後ろに「この子アホの子だけど悪気はないんで勘弁してあげてください」という空耳が聞こえた気がする。被害妄想かな。このゲーム、早押しクイズとか唐突に出てきたりしないんだろうか。知的な面を早く発揮したいな。問題文読み上げの途中でポロロッカとか答えたいよね。まあクイズ言うほど得意って程でもないけど。
今日は、街から森と逆のほうに歩いた岩場に狩りに来ている。こっちってそういえば来たことなかった。岩場は全体的に、所々草が生えた地面とその間にごろごろしている大きな岩が入り混じった緩い傾斜になっていて、しばらく下った先は切り立った断崖になっており、地面が完全に途切れている。さっきちょっとこわごわ覗いてみたんだけど、真っ暗でいかにも底が深そうだった。その断崖を挟んだ向こう側にはまた大地が広がっているのが見えたが、断崖は見渡す限り左右に伸びていて橋もかかっていないので、向こう側にはぱっと見行けそうにない。
……断崖の向こう岸(?)までの距離は30メートルくらい?跳ぶのは無理だね。崖を下りたら行けるのかな。……でもたぶん向こう側は、また後で、ということなんじゃないだろうか。この断崖を何らかの手段で越えることができるようになったらここに戻ってくる、みたいな。なんか向こう雰囲気やばそうだし。偏見かな。でも世の中にはスタート地点から丸見えの魔王の城もあるわけだし、そうであってもおかしくないと思う。
そんなことを考えながら断崖沿いにしばらく歩いていると、向こうから大きな亀の魔物がのそのそやってくるのが見えた。軽自動車くらいある。早速戦闘開始。見ていると、魔法に耐性があるらしく、あんまりナズナの魔法は効いていない。甲羅に隠れていない手足や頭もなんだか硬いみたいで、ユウさんが斬りつけても浅く傷が入るだけだった。むしろギャレスの拳の方がなんだか効いてる。やっぱりこいつただもんじゃねーわ。……でも、この相手なら、すぐ終わる。みんなにストップの合図をして、認識阻害をかけると、亀は断崖の方にのんびり歩いていき、そのまま落下して姿を消した。……さらば。
どうやら相手が息絶えたのが遠くでも、その原因を作ったのが自分なら経験値は入るらしい。レベルが上がったという通知が来た。いいね!確認しようとしたら、ヴィートが話しかけてきた。
「やっぱりその催眠術凄いよなー。今の亀も、魔法が効かなさそうだったのに、関係なかったし。そういや、ボスにも効いてたもんな」
「……ボスって普通そういうの、効かねえもんじゃねえのか?」
状態異常完全無効スキル「ボス特性」ってあるくらいだからね。ただ、そうすると、「ボス特性」を持ってる相手には僕はまったくなす術がない、ということになる。認識阻害ってやっぱり状態異常なのかな。たぶんそうだよね。うーん。まあでもそんな相手と当たるのは当分先だろうし、今はいいか。あと、ギャレスの疑問は地味に恐ろしい。どうしよう。とりあえず「そこが催眠術の奥深さなのです」と答えになっていない返事をしたところ、ギャレスは信じがたいことに納得したようだった。ありがとう。僕脳筋大好き。
そしてまた歩きながらのんびり皆で話す。ナズナはこの狩りで既に6レベルになったそうだ。……あれ、僕、成長遅くない?ボスも倒したのに、まだ10レベルなんだけど。でも成長が遅い方がたいてい後で強くなるもんだし、いいか。楽しみは後に取っておこう。その心の余裕もあってか、僕は素直に笑って祝福する。
「おめでとうございます!やっぱりレベル1だとそれだけで不安だったでしょうから、良かったです」
そうすると、ナズナはその反応に少し驚いたような顔をした後何かを考えて、ちょっと声を潜めてこちらに質問をしてきた。なんだ。種族なら言わんぞ。
「……あの、サロナちゃん、気にしてないの?たぶんレベル上げるのすごい大変だったんじゃない?聞いたよ、ステータスが低いのにずっとソロでやってたって。だから私はこんなに簡単に上がっちゃって、ちょっと悪いなって、思ってた」
その情報には間違いがある。だってずっとソロっていうか3日しかやってないし。あと、レベル上げは木登り必勝法を編み出してからはそんなに苦労してない。そして僕はたぶん大器晩成型なので、一時的に先に行かれてもまあいいかと思うくらいの心の余裕はあった。
「別にナズナが早くレベルが上がった分、私が遅くなるわけでもないですし。素直に喜んだらいいと思いますけど。本人がいいって言ってるから間違いないと思いますよ」
それを聞いてまじまじとこちらを見てくるナズナ。別に嘘じゃないので普通に見返すと、ナズナは嬉しそうな顔をして、小さく呟いた。
「……サロナちゃんともっと仲良くなりたいって、ほんとに思うな」
それはよかった。そうして、歩いているうちに、僕はふとレベルが上がったことを思い出す。何が上がったんだろう。そして、ステータスを確認。今は人目があるので偽装中の方だけど。
名前:サロナ
種族:人族
レベル:10
ジョブ:催眠術師
攻撃力:13(3+10)
防御力:16(2+14)
すばやさ:12
魔力:8
運:3
HP:5
MP:9
(スキル)
催眠術……相手1体に幻覚を見せることができる。
兎殺し……兎の姿をした魔物に大ダメージを与える。
初手必殺……最初の一撃が必ずクリティカルになる。
曲芸師……高所での機動性が上がる。
地魔法(下級)……「アースウォール」を使用可能。
帰還呪文……魔王城へ戻ることができる。
スキルの一番下を見た瞬間、認識阻害のステータス改ざんで抹消する。その後、周りをきょろきょろ見渡した。え、見られてないよね。挙動不審にも程があったのだろう、ユウさんが心配そうにこちらに声をかけてきた。
「どうしたの?なんだか様子がおかしいけど」
「いえ、持病の発作がちょっと。大丈夫です」
あんまり、大丈夫じゃなかった。どうしよう。




